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プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2017年08月08日

【中小企業診断士】企業経営理論 解答・解説(1/2)【平成29年度1次試験】

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経営分析

 中小企業診断士1次試験(企業経営理論)問題
 中小企業診断士1次試験(企業経営理論)解答
 (※)(一社)中小企業診断協会HPより。

 【問1:オ】
 ア:「事業ドメイン」とは、それぞれの事業が戦うフィールドを指し、「企業ドメイン」とは、複数の事業を束ねて全社的にどのフィールドで戦うのかを示す。「企業の基本的性格を決めてアイデンティティを確立する」のは事業ドメインではなく、企業ドメインである。
 イ:「現在の活動領域や製品分野との関連性を示し、将来の企業のあるべき姿や方向性を明示」するのは事業ドメインではなく、企業ドメインである。
 ウ:「個別事業の競争力」を決めるのは企業ドメインではなく、事業ドメインである。
 エ:「全社戦略の策定と企業アイデンティティ確立のための指針として、外部の多様な利害関係者との間のさまざまな相互作用を規定する」のは事業ドメインではなく、企業ドメインである。
 オ:正しい。範囲の経済とは、共通の生産能力や顧客に基づいて製品の種類を増やすことによって収益を増大させることを言う。

 【問2:イ】
 ア:「金のなる木」は市場成長率が低く(=キャッシュアウトが小さく)、相対的市場シェアが大きい(=キャッシュインが大きい)ため「Cash Cow」であり、撤退するべきではない。
 イ:「問題児」は市場成長率が高いにもかかわらず相対的市場シェアが小さい領域であり、「金のなる木」から資金を回せば競争優位を実現できる可能性がある。一方、「負け犬」は市場成長率も相対的シェアも低い領域であり、撤退が最善策である。
 ウ:資金の流入は相対的市場シェア、資金の流出は市場の成長率で決まる。
 エ:PPMは事業間のマーケティングや技術に関するシナジーを考慮せず、あくまでも財務面のシナジーのみを追求している。
 オ:PPMは事業の選択と集中が目的であり、範囲の経済の実現が目的ではない。

 【問3:オ】
 ア:業界内で希少な経営資源が企業の競争優位の源泉となる。
 イ:他の企業がその経営資源を別の経営資源で代替するコストが大きい場合、持続的な競争優位を確立することができる。
 ウ:業界内で希少な経営資源が企業の競争優位の源泉となる。
 エ:業界内で希少な経営資源が企業の競争優位の源泉となる。また、資源を活かす組織の方針や体制が整わなければ、競争優位性を発揮できない。
 オ:希少で(Rarity)価値があり(Value)模倣が難しい(Imitability)経営資源は競争優位の源泉となる。なお、VRIOのOはOrganization(組織)であり、企業の経営資源を有効に活用できる組織体制になっているかどうかを指す。

 【問4:エ】
 ア:デューデリジェンスは統合段階で実施するのではなく、統合の前に実施する。
 イ:異業種のM&Aでも業績不振の立て直しはできる。一方、異業種のM&Aの場合は、自社の事業と関連性の薄い経営資源を取り込んでしまうリスクがある。
 ウ:相手企業を裏切ることでその企業の評判に悪影響が起こる可能性があることは、戦略的提携における裏切りのインセンティブを抑制する。
 エ:戦略的提携はM&Aに比べて統合の深度が低いため競争優位性の確立が難しいが、低コストで新規分野に参入できるというメリットがある。
 オ:同業種のM&Aの場合は、範囲の経済ではなく規模の経済が期待できる。また、統合後も生産体制や販売チャネルの調整など一定のコストがかかる。

 【問5:ア】
 ア:同一業界で複数のカンパニーを設立すると、カニバリゼーション(共食い)が発生する。
 イ:ブランドマネジャーの説明になっている。
 ウ:「不確実性の高い新事業を切り離して法人格を持つ別会社として制度的に独立させ、本業や既存事業におよぼすリスクを軽減する」やり方は、イノベーションを立ち上げる時に採用される方法である。
 エ:純粋持ち株会社では、傘下の企業の経営戦略を標準化して集中的に管理するようなことはせず、傘下の企業の自主性が尊重される。
 オ:純粋持ち株会社では、雇用形態や労働条件を傘下の企業ごとに個別に設定する。

 【問6:エ】
 ア:MBOは「経営陣による買収」である。役員を刷新して経営を引き継がせることではない。
 イ:「役員ではない企画部長と営業課長に株式を売却」することではない。
 ウ:「役員ではない従業員に経営を引き継がせる」ではない。
 エ:正しい。
 オ:「役員ではない企画部長と営業課長」が株式を取得することではない。

 【問7:ア】
 ア:製品市場における規模の経済を実現していても、代替品の脅威は競争優位性を脅かす。
 イ:経路依存性は、「あらゆる状況において、人や組織がとる決断は、(過去の状況と現在の状況は全く無関係であったとしても)過去のにその人や組織が選択した決断によって制約を受ける」という理論である。別の言い方をすれば、「経路依存性のある経営資源」とは、その企業に固有の歴史によって蓄積された特別な経営資源であり、競合他社による模倣は難しい。
 ウ:明確な差別化がされていれば、独自のポジショニングを確立することが可能であり、競合他社との競争を回避できる。
 エ:通常、差別化された製品は特定の顧客セグメントを対象としているのに対し、標準化された製品は幅広い顧客セグメントを対象とするため、矛盾をきたす。
 オ:スイッチング・コストとは、ある企業の製品から別の企業の製品に乗り換える際に発生する費用のことである。スイッチング・コストが高い場合、顧客は製品の乗り換えに後ろ向きになる。

 【問8:エ】
 ア:規模の経済では、同一の製品を大量に生産する。
 イ:規模の経済とは生産体制の拡大のことで、マーケティング組織の規模の維持ではない。
 ウ:VA/VEの説明になっている。
 エ:正しい。
 オ:経験曲線の説明になっている。

 【問9:イ】
 イ:投資事業有限責任組合では、組合の業務を執行する者は無限責任組合員である。
 ア、ウ、エ、オの記述は正しい。

 【問10:ウ】
 ア:基礎研究を応用研究につなぐ際の課題は「魔の川」である。応用研究を事業化する際の課題が「死の谷」、事業化した製品が収益を上げるまでの課題が「ダーウィンの海」である。
 イ:「技術や市場が新規の製品」の場合、「現場で培った経験や知識」は革新的な製品を生み出す上で足かせとなることがある。
 ウ:正しい。製品開発の早い段階で顧客を巻き込むことで、問題が小さいうちにその問題を発見することができ、手戻りが発生したとしても、全体で見れば開発リードタイムを短縮できる。
 エ:ステージゲート管理では、移行可否の判断基準の設定や移行可否の権限が各段階に与えられる。各ステージゲートでGOサインが出なければ、次のフェーズに移ることができない。
 オ:コンカレントエンジニアリングの説明であるが、コンカレントエンジニアリングによって開発リードタイムを短縮することが可能である。

 【問11:ア】
 ア:アーキテクチャの構成要素を改善する場合には、他の構成要素にも影響を及ぶすので、システムの複雑性に対処するための専門横断的に共有される知識が必要となる。
 イ:アーキテクチャの構成要素の組み合わせやつながり方を変える場合には、専門領域に固有な知識だけでなく、専門横断的に共有される知識が必要となる。
 ウ:ユーザーの価値の変化に適応した製品コンセプトを生み出す場合には、知識ドリブンではなく、アイデアドリブンの開発が重要となる。
 エ:モジュラー・イノベーションでは、その構成要素をめぐって培われた学習や経験などの暗黙知的な知識ではなく、技術的・専門的な形式知が重要である。
 オ:製品コンセプトを変えるようなラディカルなイノベーションでは、既存の知識が役に立たないことから、専門的な技術知識を持たないユーザーからの製品価値評価を用いるべきである。

 【問12:エ】
 ア:カフェテリア・プランは自然災害や大事故などの突発的な不測の事態とは無関係である。
 イ:クライシス・マネジメントは、クライシス=自然災害や大事故などが発生した後に危機への対応を図るマネジメントのことである。
 ウ:「事業インパクト分析」とは、事業の中断が事業に与える影響を明らかにすることにより「事業継続のために必要なものは何か」を特定する分析手法のことであり、コンティンジェンシー・プランではなく、事業継続計画(BCP)で用いられる。
 エ:正しい。
 オ:事業継続計画において、「災害時のロジスティクスの確保を重視した企業間ネットワークの構築」は一部にすぎない。BCPの目的は、災害時に必要最低限の稼働を確保することにある。

 【問13:ウ】
 ア:規模の経済が作用し、現地市場への適応の必要性が低い製品を提供する企業では、本社主導の下、グローバルで標準的な製品を生産・販売する。
 イ:グローバルな統合の必要性は低く、現地市場への適応の必要性は高い製品を提供する企業では、現地子会社に対する分権化、権限移譲が行われる。
 ウ:正しい。
 エ:各国の認可と文化的理解の必要性が高い製品の場合は個別対応が必要であるため、全社方針の下、集中的に生産拠点と販売拠点を整備することはできない。
 オ:製品開発の固定費が大きく、現地の習慣や文化への配慮の必要性が低い製品を取り扱う企業では、本社主導の下、グローバルで標準的な製品を生産・販売する。

 【問14:エ】
 ア:機能部門化とは、マーケティング、設計、生産、購買、営業、アフターサービスなどのように、機能特化した組織を作ることである。
 イ:情報ネットワーク技術の発展が発達しても、指揮命令系統は依然として組織デザインの要素としては重要である。むしろ、コミュニケーションが複雑化しているからこそ、指揮命令系統をはっきりさせなければならない。
 ウ:仕事を細かく分割された作業ルーティンとしてではなく、トータルなプロセスとして任せるように割り当てることは、「職務拡大」である。
 エ:正しい。業務に関する細かいマニュアルが整備されると、社員の自由裁量の余地が少なくなるのがその例である。
 オ:集権化と分権化の説明が逆である。集権化すると迅速な組織的な行動が可能となり、分権化すると環境変化への対応力を高めることができる。

 【問15:イ】
 ア:「フィードフォワード」とはフィードバックの逆。サプライヤーから原材料や設備を入手する際に、様々な性能やスペックを事前にテストしても、最終的なアウトプットの性能をあらかじめ保証できるとは限らない。
 イ:「オープンループ・システム」とは、制御理論において、現在の状態と制御システムのモデルのみを使って入力に対して計算を行う制御を指す。フィードバックを使わずに、入力が所定の目標値に達したかを判断することを特徴とする。つまり、オープンループ・システムは制御しているプロセスの出力を観測しない。したがって、管理者は組織構造のプログラム化された側面を評価しなければならない。
 ウ:イで述べたように、「オープンループ・システム」では活動プロセスの成果を評価しない。
 エ、オ:「フィードバック・システム」は、下流にある活動の制御にも有効である。

 【問16:エ】
 ア:マズローの欲求5段階説では、下位の欲求が満たされないと上位の欲求に移行しない。
 イ:マグレガーのX理論とY理論は、端的に言えばX理論が性悪説、Y理論が性善説に立脚しており、Y理論に基づいて動機づけを行うべきだというものである。状況に応じてモチベーションを刺激する組み合わせを変化させる必要性があることを説いた理論ではない。
 ウ:マクレランドは、人間には「達成欲求」、「親和欲求」、「権力欲求」の3つの欲求があることを発見した。達成欲求が強い人は必ずしも親和欲求が高いとは限らない。
 エ:ハーズバーグの言う「衛生要因」とは不満足をもたらす要因、「動機づけ要因」とは満足をもたらす要因である。ハーズバーグは、「衛生要因」を改善しても不満足は減るが満足度は上がらないことを発見した。満足度を上げるには「動機づけ要因」の改善が効果的である。
 オ:ブルームの期待理論によれば、モチベーションは期待できる成果とその成果が実現できる可能性の積によって表される。

 【問17:イ】
 イ:「自分の専門分野や職業に対して強い心理的愛着を持っている」人は、必ずしも組織に対して愛着(ロイヤルティ)を抱いているとは限らない。自分の能力や経験がより活かせる職場が見つかると容易に転職する傾向が見られる。

 【問18:イ】
 イ:職業的自己概念は、私生活の満足やパーソナリティと密接に関連している。キャリアはパーソナリティ(性格、価値観)を軸として、職業生活だけでなく私生活をもスコープとしながら、トータルでデザインする必要がある。

 【問19:イ】
 ア:官僚制組織を思い浮かべると解りやすい。
 イ:クラン文化の場合、経営理念を組織内部に浸透させ、従業員に共有された強い価値観を作り出すことが重要であるが、リーダーは社員の自発的活動の促進者、メンター的温かい支援者、チームワークの開発者に徹する。
 ウ:「マーケット文化」は結果主義の組織文化である。リーダーは厳しい要求で社員を鼓舞し、生産的で競争を好む傾向がある。
 エ:「アドホクラシー」とはアドホック(ad hoc)=特にこのための、この問題に限るといった意味を持つラテン語の名詞形である。日常的なものに対して、臨時的・専門的なものに用いる。1つ1つのプロジェクトがいわば企業のようなものであり、企業家的なリーダーシップが要求される。

 【問20:イ】
 ア:「社会化(Socialization)」とは、ある人の暗黙知を別の人と共有することを指す。新入社員の研修活動を通じて組織文化に適応させることではない。
 イ:表出化(Externalization)とは、暗黙知を形式知に転換することである。
 ウ:内面化(Internalization)とは、共有された形式知を組織のそれぞれのメンバーが自分の暗黙知に落とし込むことである。
 エ:連結化(Combination)とは、形式知を別の形式知と結合して知識を創造することである。

 【問21:エ】
 ア:利害関係者とのコンフリクトが生じる場合、我々の組織は何者なのかという組織アイデンティティを明確にしなければ、交渉の席で自己の主張をはっきりと表現することができない。
 イ:組織アイデンティティとは、トップマネジメントが経営理念や組織文化に反映していく自社のイメージを意味すると同時に、自社が周囲からどう見られているかというイメージも意味する。
 ウ:組織アイデンティティは、外部環境からの影響を受けて変化することがある。具体的には、顧客ニーズの変化に対応すると、我が社にできることは何かというイメージも変わる。
 エ:正しい。組織アイデンティティには、自己認識と他者からの認識という両側面がある。
 オ:複数の組織アイデンティティを持つと、外部環境の複雑性に適応できる可能性が高まる(過剰適応ではない)。

 (続く)
2017年08月04日

エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』―アジア人の部下を日本方式で叱ってはならない

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異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
エリン・メイヤー 田岡恵

英治出版 2015-08-22

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 以前、ブログ別館の記事「エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』」で取り上げたが、改めて本ブログでも紹介したいと思う。

  《参考記事》
 (メモ書き)人間の根源的な価値観に関する整理(1)―『異文化トレーニング』(2)
 人間の根源的な価値観とマネジメントの関係をまとめてみた―『異文化トレーニング』(以上は旧ブログ)
 トロンペナールス&ターナーによる「文化の基礎次元」の補足

 各国の文化の特徴を研究したものとしては、上記の参考記事でも挙げたように、トロンペナールス&ターナー、クラックホルン&ストロッドベック、ヘールト・ホフステードなどが有名である。本書は「カルチャーマップ」という形で、文化に関する新しい視点を提供してくれる。

カルチャーマップ

 カルチャーマップでは、各国の文化を8つの視点で分析する。①コミュニケーションは、「ローコンテクスト」か「ハイコンテクスト」かという軸でとらえられる。コンテクストとは「文脈」という意味で、ローコンテクストとは、文脈を共有していないことを表す。別の言い方をすると、価値観、規範、文化、経験などを共有していないということである。一般に、西洋はローコンテクストの文化である。多様な価値観を持つ人々が集まる地域であるから、何でもかんでも言葉で表現しないとコミュニケーションが成立しない。これに対して、ハイコンテクストとは、文脈を共有している、つまり価値観、規範、文化、経験などを共有していることを指す。日本は典型的なハイコンテクストの国であり、いわゆる阿吽の呼吸で意味が通じてしまう。

 ②評価は、「直接的なネガティブ・フィードバック」か「間接的なネガティブ・フィードバック」かという軸でとらえられる。面白いのは、ローコンテクストの西洋の国々は否定的な評価を直接的に伝えるかというと、必ずしもそうではないという点である。西洋の中でも、アメリカやイギリスは、否定的な評価を間接的に伝える傾向がある。言葉の上ではそれほど怒っていないようでも、心の中でははらわたが煮えくり返るような思いをしていることがある。これを知らない他の西洋の国々の人々は、アメリカ人やイギリス人の言葉を額面通りに受け止めてしまい、彼らの本音をつかみ損ねる。例えば、イギリス人が「もう少し考えてみてください」と言う時、心の底では「悪いアイデアです。やめてください」と思っている。ところが、これをオランダ人が聞くと、「いいアイデアなんだな。もう少し掘り下げてみよう」と受け止めてしまう。

 ③説得は、「原理優先」か「応用優先」かという軸でとらえられる。原理優先とは、演繹的な思考と言い換えることができる。原理優先の国の人々は、「まず、一般的な原理としては○○である。この原理を今回のケースに当てはめると○○となる。したがって、結論は○○である」というロジックの組み立て方をする。結論が最後に出てくるため、応用優先の国の人からすると非常にまどろっこしく聞こえる。その応用優先の国では、結論が最初に述べられる。「今回の結論は○○である。なぜならば、A、B、Cという事実があるからである」というのが彼らの論理構成である。

 ④リードは、「平等主義」か「階層主義」かという軸でとらえられる。平等主義の国では、フラットな組織が好まれる。これに対して、階層主義の国では、ヒエラルキー型の組織が採用される。⑤決断は、「合意重視」か「トップダウン式」かという軸でとらえられる。通常、平等主義の国では合意重視、階層主義の国ではトップダウン式になるのだが、いくつかの例外がある。例えば、ドイツや日本は階層主義の国であるのに、意思決定は合意重視で行われる。一方、アメリカは平等主義の国であるのに、意思決定はトップダウン式で行われる。

 ⑥信頼は、「タスクベース」か「関係ベース」かという軸でとらえられる。タスクベースとは、仕事上の人間関係を通じて信頼を醸成することである。逆に言えば、仕事上の関係が全てであるという非常にドライな関係である。他方、「関係ベース」の国においては、仕事上の関係だけではなく、プライベートでの関係も重視される。会社での人間関係がプライベートにも介入してくるような、非常にウェットな関係である。⑦見解の相違は、「対立型」か「対立回避型」かという軸でとらえられる。意見が異なる時に、敢えて対立を扇動するのが対立型である。私はドイツ人と一緒に働いたことがある何人かの人から話を聞いたことがあるが、皆一様に「ドイツ人はずけずけ物を言うし、頑固で絶対に自分の意見を曲げない」と言っていた。対立回避型はその名の通り、対立をできるだけ避けようとするタイプであり、日本人はまさにこれにあたる。

 ⑧スケジューリングは、「直線的な時間」か「柔軟な時間」かという軸でとらえられる。直線的な時間とは、別の言い方をすれば時間厳守である。一方、柔軟な時間とは、乱暴な言い方をすると時間にルーズということである。例えば、今ある人と商談をしているとしよう。30分後には別の商談があり、そろそろ移動しないと時間に間に合わなないとする。この場合、日本のように時間を直線的にとらえる国の人々は、次のアポに間に合うよう、今の商談を何とか上手く切り上げようとするだろう。だが、時間を柔軟にとらえる国の人々(中東に多い)は、次の商談の時間を気にしない。今目の前にいる人との関係が重要であり、話が終わるまでは絶対に席を立たない。仮に商談が長引いて次の商談に遅れても、悪びれる様子はないし、相手も遅刻を咎めない。

 上記のカルチャーマップを見ると、フランスとドイツ、日本と中国は比較的近い文化であるように思える。ところが、両国の間には大きな違いがいくつかある。フランスとドイツに関しては、ドイツよりフランスの方がハイコンテクスト寄りであり、意思決定がトップダウン式であり、人間関係がウェットであり、時間に対する意識が柔軟である。日本と中国に関して言うと、中国の意思決定がトップダウン式であるのに対し、日本の意思決定は合意重視であるという決定的な違いがある。また、時間に対する意識も、中国は柔軟であるが、日本人は時間厳守の意識が強い。西洋人だから、東洋人だから皆同じだと一括りに考えるのは、ミスコミュニケーションの元となる。

 同じアジアでも、日本と他のアジアの国で決定的に違うのが、「部下の叱り方」ではないかと思う。先ほどのカルチャーマップを見ると、②評価のところで、日本は「間接的なネガティブ・フィードバック」に寄っていることが解る。この点については少し補足が必要であろう。つまり、日本人が否定的な評価を間接的に伝えるのは、会議などの場に限られるということである。日本人は、会議では波風を立てたくないと考えるため、反対意見をあまりはっきりと言わない(⑦見解の相違とも関連)。ところが、部下と1対1になると、突然高圧的な態度に出ることがある。「お前、ちっとも仕事ができていないじゃないか!」、「このバカヤロー!」など、他の社員が見ている前で、特定の部下を名指しして大声で怒鳴ることがある。

 この日本式の部下指導を、他のアジアの国に持ち込むと危険である。特に、中国、フィリピン、タイ、インドネシアでは気をつけた方がよい。これらの国の人々は面子やプライドを非常に重視する。そのため、人前で叱られると面子やプライドを傷つけられたと感じる。部下はその場で会社を辞めてしまうかもしれない。会社を辞められるだけならまだましな方で、最悪の場合、その社員の家族や親族から復讐(物理的な攻撃)を受けることがある。こういう国々の人に対して否定的な評価を伝えるコツとして、本書では5つのポイントが挙げられている。

 ①グループの前でフィードバックしない。
 ②メッセージをぼかす。
 ③フィードバックをゆっくりと、長い時間をかけて行い、徐々に浸透するようにする。
 ④好ましくないメッセージをぼかすために、一緒に食事などをしながら話す。
 ⑤よいことを言い、悪いことは言わない。

 最後の「⑤よいことを言い、悪いことは言わない」とは、次のようにフィードバックすることである。例えば、部下に3つのドキュメント作成を依頼し、2つのドキュメントはよくできていたが、残りの1つのドキュメントの出来がひどかったとする。この場合、日本人なら「お前、この最後のドキュメントは何だ!?全然できていないじゃないか!」と怒り出すところだが、アジアにおいては出来がよかった2つのドキュメントに着目しなければならない。そして、「最初の2つのドキュメントはよくできていたよ」とだけ言う。すると、部下は「最後のドキュメントについては何も言ってくれなかったから、ひょっとしたら上司の期待水準を満たしていなかったのではないだろうか?」と思ってくれるかもしれない。その可能性に賭けるしかないのである。

 部下に対して否定的な評価を伝えなければならないのが人事考課面談である。こんな状況を考えてみよう。皆さんは、ある情報システム会社のインドネシア支社で部長を務めているとする。部下であるプロジェクトマネジャーに対して、人事評価の結果を伝える面談を行うことになった。事前に手元に用意した紙には次のように書かれている。

 <よかった点>
 (ⅰ)顧客企業の中でシステム導入に反対していたA課長を粘り強く説得したこと。
 <悪かった点>
 (ⅱ)自社で開発できない機能まで安易に引き受けて、部長である自分に承諾を取らないまま外注先を使った結果、プロジェクトのコストがかさんだこと。
 (ⅲ)前任の部長がプログラムの品質管理に厳しかったためか、必要以上に細かいプログラムテストにこだわりすぎて、バグが一向に減らなかったこと。
 (ⅳ)マネジャーなのに部下の仕事を手伝いすぎている。そのせいで、顧客とシステムの仕様を擦り合わせたり、プロジェクトの進捗を報告したりする時間が十分に確保できていない。
 ⇒総合評価はA(よい)~E(悪い)の5段階のうち、「D」。

 (※私がIT業界出身で、コンサルティングでもIT業界のクライアントが多いため、すぐに作成できるケースがIT業界のものになってしまう点はご容赦いただきたい)

 部下が日本人であれば、上記で書かれている内容をそのまま伝えるだろう。よかった点はよかったと言い、悪かった点は悪かったとはっきり言ってあげるのが部下のためと考えられている。しかし、相手がアジア人(このケースではインドネシア人)の場合は一工夫必要である。ネガティブなことをそのまま伝えると、相手のプライドを傷つける恐れがある。よって、ネガティブな事実の中からできるだけポジティブな要素を見出し、それを伝えるように努めなければならない。

 例えば、(ⅱ)の「自社で開発できない機能まで安易に引き受けて・・・」という箇所は、肯定的にとらえれば「顧客のニーズをきめ細かく吸い上げて対応した」ということになる。よって、まずはその点を強調する。その上で、「顧客のニーズに追加対応する際には、自社で本当にできるのか、コストはどのくらいかかるのかをもう少し慎重に検討した方がよい」と、やんわり改善点を伝える。(ⅲ)に関しては、「前任の部長のやり方に引きずられなくてもいい。君がいいと思う方法でやってみなさい」と言うのも1つの手であろう。(ⅳ)にある「マネジャーなのに部下の仕事を手伝いすぎている」という箇所は、肯定的にとらえれば「マネジャーとして部下の支援を十分に行っている」ということになる。それを強調した上で、「部下を支援する時間と同じくらいの時間を、顧客とのコミュニケーションにも費やしてほしい」と提案する。

 ただし、これだけ肯定的な点を見出して部下にフィードバックしても、総合評価の「D」は変更できない。上記のようにできるだけ肯定的にフィードバックした結果、部下から「なぜ自分はDなのですか?」と聞かれたら、こう答えるとよい。「今期は他のプロジェクトマネジャーが君以上にすごく頑張ったから、相対評価でDなんだ」。おそらく、これでは部下は十分に納得しないかもしれない。また、上司の側も、本当はプロジェクトマネジャーとしてもっとこうしてほしいと思うところがたくさんあるだろう。その場合は、前述した「否定的な評価を伝えるコツ」の「④好ましくないメッセージをぼかすために、一緒に食事などをしながら話す」に従うとよい。部下を何度か食事に誘い、食事をしながらプロジェクトマネジャーのあるべき姿を何回かに分けてゆっくりと伝えていく。

 アジアで事業展開をしている企業から話を聞くと、どの企業も人事労務管理で非常に苦労されている。現地の法制度や行政とのやり取りの仕方が日本とは全く異なるのも理由の1つであろうが、日本式の部下指導・部下育成のやり方がアジアでは通用しないという点が非常に大きいのではないかと思われる。決めつけはよくないが、アジアの人々は必ずしも日本人と同等の能力を持っている人ばかりとは限らない。彼らに対して、日本人は、恐らく自分が昔日本国内で上司からされたように、厳しく指導をしたくなる。だが、アジアではそれを我慢して、可能な限り部下のプラスの面を見出し、部下が自然と育っていくのをじっくりと見守る懐の深さが求められる(ただし、不正は別問題である。不正に対しては毅然とした態度をとらなければならない)。
2017年08月02日

近藤隆雄『サービスマネジメント入門―ものづくりから価値づくりの視点へ』―「おもてなし」は顧客の心を読んでいるようで実は日本人のおしつけ、他

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サービスマネジメント入門―ものづくりから価値づくりの視点へサービスマネジメント入門―ものづくりから価値づくりの視点へ
近藤 隆雄

生産性出版 2007-12-01

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 旧ブログの記事「サービス・デザインでは「組織の価値観」を中核に据える―『サービスマネジメント入門』」で取り上げた本書をもう一度読み返してみた。

 (1)
 ノーマンは、サービスの革新は社会革新(ソーシャル・イノベーション)だと主張している。この場合の「社会」とは、多人数が作る全体社会ではなく、複数人の人が作り出す一定の社会関係のことである。サービスの生産場面で、新しい役割と役割関係を創造して、新しい人的能力とエネルギーを活用すること、これがサービスのイノベーションなのだ。
 サービスが純粋な製造業と異なるのは、サービスの提供プロセスに顧客が参画する点である。そして、顧客の態度や能力がサービスの品質を決める。さらに、他の顧客の態度や能力が、別の人にとってのサービスの品質に影響を与えることがある。上記の引用文は穏当な表現になっているが、別の箇所ではもっと踏み込んだ記述がなされている。
 レストランやホテルでは、どんな客層の人々が利用しているかで、雰囲気や「格」といったものが決まってくる。また、人々のその場での振る舞いもまた、サービス提供場面の雰囲気やイメージの形成に影響を及ぼす。サービスの提供者にとっては、いわば「場違い」の顧客や、静かな室内で声高に話をするお客、その他ルール違反のお客などの逸脱行為をどのように処理するかが、重要な課題となることがある。企業は良質のサービス提供に責任を負っているから、サービス提供場面での「状況」のコントロールは、サービス提供の重要な役割の一部なのだ。
 要するに、自社のサービスにとって不適切な顧客は、企業側が責任を持って排除しなければならないということである。私は仕事柄、隙間時間に電源のあるカフェで仕事をすることが多いのだが、電話で大きな声で部下や顧客と長々と話をしながらパソコンを操作している人を見かけることが多い。個人的には、「でかい独り言」で非常に迷惑だから、店側には電話を禁止してもらいたいと思っている。ただ、この理由だと、カフェでの電話は不快なのに、オフィスでの電話は不快に感じないことの違いを説明できない。それに、この点に関しては色々な意見があるようで、街中や電車の中では電話ができないから、カフェで電話しているのだという声も聞く。

 しかしながら、私が思うに、オフィスを離れた場所で、長電話をしながら仕事をするというのは、仕事のやり方に問題がある。そんなにたくさん部下と電話をしなければならないのは、部下への指示や、日頃の部下の育成が不十分であったということである。顧客と長電話をしなければならないということは、商談や打合せで顧客と十分な擦り合わせができていなかったことを意味している。つまり、カフェで長電話をする人は、「私は仕事ができる人です」ではなく、「私の仕事は非効率、下手くそです」と周りに告知しているようなものなのである。カフェの中には、「他のお客様の迷惑になる」という理由で電話を禁止しているところがあるが、私は、顧客が自身の生産性を低下させるような行為をカフェが阻止するべきだと思う。

 ついでにもう1点。先日、土曜日の夜9時過ぎぐらいに、あるファーストフードチェーン店で仕事をしていたら、幼稚園か小学校低学年の子どもを連れた家族が複数組入ってきて、大声でバカ騒ぎをしていた。こういう家庭が社会の底辺の家庭なのだろうと思ってしまった。まず、幼稚園か小学校低学年の子どもならば、夜9時は風呂に入って寝る時間であるはずだ。それに、週末の夕食がファーストフードというのはあまりにも寂しい(せいぜい昼ご飯にとどめておくべきだろう)。ゲームセンターやカラオケボックスは、一定の時刻を過ぎると子どもの入店を禁止しているが、それと同様に、道徳的・倫理的観点から、ファーストフード店も顧客を制限するべきだと感じた。

 この話を私の友人にしたら、彼はファミリーレストランでの体験を話してくれた。彼が夜10時過ぎにご飯を食べていたところ、やはり同じように小さい子どもを連れた家族連れが入ってきて、子どもは店中を走り回り、大声でニンテンドーDSをし、親はスマートフォンに夢中になっていたという。彼は、「こんな家族がいるような環境がいるところで子育てができるか」と思って、その土地から引っ越してしまった。ファミリーレストランとしては、不適切な顧客のせいで、顧客を1人失ったことになる。ファミレスに限らず、最近はどの企業も売上の確保に必死であるから、どんな顧客でもなりふり構わず受け入れようとしているように見える。つまり、経済的な観点のみでビジネスをしている。しかし、企業は社会的責任を果たさなければならない。自社のサービスの特性をよく考えて、社会的な観点から適切な顧客を選別することが重要になるのではないだろうか?

 (2)旧ブログの記事「「ES向上⇒CS向上⇒利益向上」の自己強化システムについての考察-『バリュー・プロフィット・チェーン』」では、社員満足度(ES)の向上が顧客満足度(CS)の向上につながると安直な考えを書いてしまったが、その後現行ブログの記事「【議論】人材マネジメントをめぐる10の論点」でこの考えに疑問を呈するようになった。

 ESはあくまでも過去に対する評価であり、現状に満足してしまうと、今後顧客に対してよりよい製品・サービスを提供しようとするモチベーションが上がらない、という事態が想定される。よって、ESと社員のモチベーションは区別しなければならない。
 従業員の動機付けの強さと顧客満足の間には正の相関が見られるのだが、一方厳密な心理学的考察によれば、「従業員の満足度」が直接従業員の強い「動機付け」を生むとは考えられていない。(中略)研究の結果明らかなのは、動機付けが強く高い業績を上げている従業員は、仕事への満足度が高いという逆方向の関係である。
 「社員のモチベーション向上⇒CS」という因果関係は存在する可能性がある。一方、モチベーションが高い社員はESが高いが、ESが高いからといってモチベーションが高いとは限らない、ということである。私自身は、現在の仕事に多少不満を持っている社員の方が、モチベーションが高いという仮説を持っている。ただし、ここで言う不満とは、給与などの待遇が悪い、作業環境に問題がある、職場での人間関係が上手くいっていないといった、企業の内部環境に起因する不満ではない。「このままでは顧客を満足させる品質水準に達しない」、「競合他社に追い抜かれる」、「代替品の登場によって市場が消滅する恐れがある」といった、外部環境の視点から見た不満である。このような不満(というか危機感)がモチベーション向上につながると推測する。

 CSも同様であって、一般にはCSが上昇すると再購入率が高くなるとされるが、CSが過去に対する評価であるのに対し、再購入率は将来の購買意欲である。業種によっては顧客満足度と再購入率の間には相関関係がないことが知られている(例えば、自動車など)。CSと再購入率をつなぐには、何か新しい因子を間に挟む必要があるように思える。ただし、残念ながら、それが何であるのかは今のところ解らない。本書ではその因子の候補として「顧客ロイヤリティ」が挙げられていたものの、CSとの違いがあまり判然としない印象であった。以上をまとめると、「社員の不満(危機感)⇒社員のモチベーション向上⇒CS向上⇒(何か新しい因子)⇒再購入率向上」という関係が成り立つのではないかと考える。

 (3)
 わが国でホスピタリティという場合、「おもてなし」という日本的な価値観を反映した姿勢や態度が想定されているのではないだろうか。それは極端な場合には、顧客のことを大切にはするのだが、思い込みによる提供側の一方的な好意の押しつけがその内容となる危険性がある。
 東京五輪の誘致活動を通じて、「おもてなし」という言葉が日本人の美徳として世界に広まった。しかし、本書の著者は、おもてなしが、顧客のニーズを汲み取っているようで、実は提供者側が「こうすれば顧客が喜ぶはずだ」と思い込んでいるサービスを顧客に押しつけている可能性があると指摘する。これを読んで私が思い出したのが、次の事例である。

 北京で日本料理店を経営している日本人のA氏のお店では、日本流のおもてなし精神をサービスに反映させている。和服の中国人女性が料理を運び、日本と同じように座って皿を並べ、片づける。ところが最近、この給仕の仕方が、中国人の間で話題となった。地元の新聞は、次のような読者の声を紹介した。「服務員を低い地位に置いている。旧中国でもこんな醜い現象はなかった。国家の尊厳を損ね、服務員を侮辱している」、「自分の親にもひざまづいたことがないのに、どうして客にひざまずく必要があるのか?」 この背景には、中国も日本と同じ儒教社会、権威主義社会であるものの、自らへりくだってまで上の者に仕えるという考え方がないということがある(八代京子他『異文化トレーニング―ボーダレス社会を生きる』〔三修社、1998年〕より)。

異文化トレーニング―ボーダレス社会を生きる異文化トレーニング―ボーダレス社会を生きる
八代 京子 小池 浩子 町 恵理子 磯貝 友子

三修社 1998-02

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 個人的な見解だが、日本人というのは元々、個々の顧客に密着してその言動をつぶさに観察し、顧客のニーズを丁寧に汲み取って、1人1人の顧客に合った製品・サービスを製造・提供するのが上手な国民であったと思う。だから、大量生産が常識となっていた自動車業界であっても、トヨタは独自の生産方式を開発して多品種少量生産を実現した。それが、いつの時代からか、企業側が「これだ」と思い込む製品・サービスを顧客に押しつけるようになった。

 これは、アメリカのイノベーション経営の影響が大きいと思う。以前の記事「【シリーズ】現代アメリカ企業戦略論」などでも書いたが、アメリカのイノベーターは、「これから全世界の人々は、我が社のこの製品・サービスを使用するべきだ」と、ベンチャーキャピタルから調達した多額の資金を使って大々的にプロモーションする。それが可能なのは、イノベーターが「顧客にとって、あってもなくてもよい製品・サービス」の分野で勝負しているからである。世界中の顧客のニーズは白紙であるから、その白紙をイノベーターが自由自在に塗りつぶすことができる(ブログ別館の記事「秦充洋『プロ直伝!成功する事業計画書のつくり方』―2段階ターゲティングは興味深いがアメリカのイノベーターは最初から世界を目指す、他」を参照)。

 ところが、日本企業はこういうイノベーションが不得意である。日本企業が強いのは顧客のニーズが比較的はっきりしている「必需品」の分野である。この分野では、昔ながらの泥臭いマーケティングで戦わなければならない。それなのに、無理にアメリカの真似をした結果が、おもてなしの押しつけなのではないかと思う。もちろん、本ブログで何度か書いているように、企業は顧客のニーズに従順に従うだけでなく、顧客に対して「下剋上」(山本七平の言葉を借用)を行うことがある。これも日本企業の強みであると考える。つまり、「お客様のことを考えると、こういう製品・サービスにした方がもっと価値がある」と提案するわけである。ただし、下剋上の前提となるのは、やはり日頃から顧客をじっくりと観察・洞察することであって、それを離れて企業が勝手に顧客に何でも提案してよいというわけではない。この点は誤解してはならない。

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