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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2018年04月09日

土屋勉男、金山権、原田節雄、高橋義郎『革新的中小企業のグローバル経営―「差別化」と「標準化」の成長戦略』―共著と中小企業研究の悪癖が両方とも出た1冊


革新的中小企業のグローバル経営 ―「差別化」と「標準化」の成長戦略―革新的中小企業のグローバル経営 ―「差別化」と「標準化」の成長戦略―
土屋 勉男 金山 権 原田 節雄 高橋 義郎

同文舘出版 2015-01-22

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 ローカルニッチトップの中小企業の研究に関する共著である。いきなりの悪口で恐縮だが、中小企業の研究書は一体何が言いたいのかよく解らないものが多く(たいていは中小企業の多様性を言い訳にしている)、中小企業診断士でありながら読むのを敬遠してきた。また、共著というのはそれぞれの著者の考え方や文章スタイルを合わせるのが難しく、その調整に失敗したものは、これもまた読んでいて何が言いたいのか解らない代物になってしまう。残念ながら、本書は中小企業研究と共著の悪癖が両方とも露呈してしまった1冊であった。

 タイトルにある「革新的中小企業」とは、次のような企業のことである。
 革新的中小企業の特徴は、世の中にないまったく新しい製品技術を先行投入する事例がみられる。また他社に差別化した市場や技術領域で競争するため、独占に近い「オンリー1」ビジネスを展開する場合が多い。しかも製品技術の先行投入は、1回だけではなく、常に先行開発を持続することが重要である。多くの革新的中小企業は、経営理念や社是の中に研究開発の重要性をうたい、「持続可能な開発」の仕組みを構築している企業である。
 このような経営を実現するために、本書のサブタイトルにあるように、「差別化」と「標準化」を行っているというわけである。だが、本書で紹介されている11社の事例を見ると、確かにニッチ市場で高いシェアを保っているものの、標準化によって高いシェアを実現している企業と、多品種少量生産で高いシェアを獲得するに至った企業が区別されていないように思える。

 例えば、株式会社南武は、自動車用と製鉄用の特殊油圧シリンダで高いシェアを持つ企業だが、特殊シリンダは自動車メーカーなど顧客によってニーズが様々であるから、多品種少量生産を行っていると推測される。また、工作機械用の3ポジションイネーブルスイッチを製造するIDEC株式会社に関しては、工作機械自体が半受注生産型のカスタマイズ製品であるから、イネーブルスイッチもそれに合わせて多種多様になっていると思われる。栄通信工業株式会社(精密ポテンショメータを製造)や西精工株式会社(ナットを中心としたファインパーツを製造)は、本書に掲載されている写真を見るだけで、多品種少量生産型の企業であると解る。

 それに、その市場で「オンリー1」であるならば、競合他社が存在しないわけだから、差別化のしようがない。この点でもサブタイトルは矛盾を抱えている。また、引用文では、革新的中小企業は製品技術を常に先行開発、先行投入するとある。一般に、イノベーションにおいては、市場に一番乗りした企業が勝つとは限らないと言われている。むしろ、一番乗りした企業は市場のニーズを先読みしすぎて失敗することが多い。このことを知っているP&Gは、新製品を必ず2番手で市場に投入するそうだ。ただし、革新的中小企業に限っては、ターゲット市場に競合他社がいないから、新製品を市場に投入すれば、必ず1番手になるということなのだろう。

 新製品を市場に投入する時、「特許」と「標準化」のどちらを選択するかは重要な問題である。特許は「守りながら」市場を拡大する戦略であるのに対し、標準化は「攻めながら」市場を拡大する戦略であると言える。この点については、『一橋ビジネスレビュー』2017年WIN.65巻3号の「日本発の国際標準化 戦いの現場から(第1回) 大成プラス『ナノモールディング技術』」(江藤 学、鷲田祐一)が詳しい。大成プラス株式会社は、金属と樹脂の直接接合を可能にしたナノモールディングという技術を市場に展開するにあたって、より多くの企業にこの技術を使ってもらうことが、結果的に自社の利益に跳ね返ってくると判断し、特許でクローズにするのではなく、標準化によって敢えてオープンにするという選択を下した。

一橋ビジネスレビュー 2017年WIN.65巻3号―コーポレートガバナンス――「形式」から「実質」へ変われるか一橋ビジネスレビュー 2017年WIN.65巻3号―コーポレートガバナンス――「形式」から「実質」へ変われるか
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-12-08

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 この「特許か、標準化か」という問題について書かれたのが本書の第5章であり、極めて重要な章なのだが、内容がひどくてがっかりした。
 生き残る中小企業は、円(※この円については省略)上部の左上のビジネス―技術競争に特化している。消える中小企業は、円上部の右上のビジネス―価格競争に特化している。この事実は、同じく大企業にもいえる。
 国際ビジネスに限っていえば、商品販売に向いているのが欧米人(白人)である。それにくらべて、技術開発は国を選ばない。頭脳を選ぶ。だから、その担当はベトナムでも、日本でも、中国でも、もちろん欧米でも構わない。発展途上国の企業でも、技術が特段に優れていれば、それだけで技術開発から商品販売まで、通しのビジネスが可能である。
 製造販売業では、商売の強みを労賃という量(価格の価値)に置くか、技術という質(商品の価値)に置くか、という選択も必要になる。価格で勝負する企業の生命は1年、品質で勝負する企業の生命は10年、技術で勝負する企業の生命は100年、それが妥当なところであろう。
 価格競争が長続きしないという点には賛同するが、それにしても恐ろしく技術偏重の文章が続くのがこの5章である。技術が優れていても市場で勝てるとは限らないことは、ここ数十年の間に日本企業が嫌というほど経験したことではなかったか?顧客は技術の中身など評価しない。スマートスピーカーや電気自動車にどんな技術が使われているのかは、顧客の知ったことではない。顧客にとって大事なのは、「その製品・サービスがどのような価値を提供してくれるのか?」である。破壊的イノベーションで知られるクレイトン・クリステンセンの言葉を借りれば、「どんなジョブを解決してくれるのか?」である。そのためには、技術が優れているか劣っているか、進んでいるか遅れているかは関係ない。高い顧客価値を提供できるのであれば、劣った時代遅れの技術を使っていても構わないのである。アップルの初期のiPodはまさにそうであった。

 第5章には、「デファクト標準」、「デジュール標準」、「デファクト知財」、「デジュール知財」という言葉が登場する。「デファクト知財」、「デジュール知財」とは耳慣れない言葉であるが、「デジュール=公的機関が定めた」という意味合いであることを踏まえると、「デジュール知財」とは特許権をはじめとする産業財産権のことである。これに対して、「デファクト知財」は「デジュール知財」の反対であるから、ノウハウ、アイデアなどを秘匿しておくことを指す。第5章の著者は、事業の成長に応じて、標準と知財の戦略が変化すると述べている。誕生期には「デファクト標準/デファクト知財」、成長期には「デファクト標準/デジュール知財」、成熟期には「デジュール標準/デジュール知財」へと変化していく。言い換えれば、誕生期はクローズであるが、成長期、成熟期とステージを経ていくとオープンに移行するというわけである。

 第5章は本書の中で最も読みにくかったが、私なりに下図のような整理もできるのではと仮説を立ててみた。「市場の成長スピードが速いか緩やかか?」という軸と、「競合他社との関係が協調的か敵対的か?」という2軸でマトリクスを作る。市場の成長スピードが緩やかで競合他社との関係が協調的な場合、競合他社と協力しながら市場を成長させることが重要となるから、公的機関のお墨つきを得た「デジュール標準」が選択される。一方、競合他社との関係が協調的だが市場の成長スピードが速い場合は、協調的な企業が提供する一連の製品・サービスが市場の標準となり、「デファクト標準」が成立する。例として、ウィンテル連合が挙げられる。

 市場の成長スピードが速く競合他社との関係が敵対的な場合は、競合他社による模倣で損害を受けないように特許権などを取得する必要がある。よって、「デジュール知財」となる。製薬業界においては、新薬が完成すると市場が爆発的に広がるため、特許戦略をいかに展開するかが経営に大きな影響を与える。これに対して、競合他社との関係が敵対的であるが市場の成長スピードが緩やかな場合は、反対に敢えて特許権などを取得せずに秘匿するという選択肢もあり得る。つまり「デファクト知財」である。例えば、お菓子業界を見てみると、江崎グリコはポッキーに関して、製造方法や製造設備の特許を一切取得していない。

「標準化」と「知財」の使い分け

 本書を読んでも解らないことは山ほどある。五月雨式にここに書いておく。
 ・本書で紹介されている革新的中小企業は、そのニッチ市場をどうやって発見したのか?(事例を読むと「たまたま」という印象が拭えない)他の市場は検討しなかったのか?
 ・大手企業などの他社が開発を諦めるほどの高難度の技術をどのように開発したのか?
 ・毎年の研究開発費の予算をどのように捻出しているのか?
 ・毎年の研究開発のテーマはどのようにして決められるのか?
 ・自社の技術はポートフォリオ管理しているのか?
 ・高難度の技術を開発する人材をどのように育成しているのか?
 ・革新的中小企業の特徴に「規模を追わない」というものがあるが、規模を追わない経営の中で、役職やポスト以外の手段をどのように用いて社員のモチベーションを上げているのか?
 ・特許と標準化はどのように使い分けるべきなのか?あるいは、両者を組み合わせる場合にはどのような点に注意をすればよいのか?
 ・ISOによる標準化を競争力強化のためにどのように活用しているのか?(ISOはプロセスの標準化、デファクト標準は製品の標準化であり、両者はどのように関連するのか?)
 ・技術開発にあたって、地域産業クラスターの力をどのように活用しているのか?
 ・技術開発にあたって、産学連携にはどのように取り組んでいるのか?
 ・革新的中小企業はグローバル市場でも高いシェアを獲得しているが、どの国・地域に進出するかはどうやって決めたのか?(単に展示会があったからという理由ではなく)
 ・輸出の場合、社内でどう準備を進めたのか?社内体制はどうやって整備したのか?
 ・輸出の場合、最終顧客の声をどのように拾い上げ、製品改善に活かしているのか?
 ・技術重視の中小企業の場合、往々にして営業が受け身になりがちだが、その営業をどのようにして能動的な集団へと変えたのか?
 ・営業と開発の調整・連携・協調はどのようにして達成されているのか?
 ・革新的中小企業における経営者の役割は何か?一般の中小企業と何が違うのか?
 ・経営者の思いはマネジャーなどを通してどのように一般社員に届けられるのか?逆に、一般社員の声をボトムアップ的に経営者に上げるようなことはやっているのか?

 本書は学術書である。学術書の一般的な構成は次の通りである。
 ①同書で取り上げるテーマに関する先行研究のレビュー。
 ②①を踏まえた上での著者による仮設の設定。
 ③②の仮説を検証するために実施した調査の内容とその結果。
 ④同書の学術的な価値・成果と今後に残された課題。

 この流れに沿ってきれいに書かれている本として、ブログでは取り上げたことがなかったが、川上智子『顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス』(有斐閣、2005年)がある。同書は内容もさることながら、学術書としてのまとめ方も非常に参考になる。

顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス顧客志向の新製品開発―マーケティングと技術のインタフェイス
川上 智子

有斐閣 2005-08-01

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 これに比べると、本書は中小企業に関する先行研究のレビューもないし、特許と標準、クローズとオープンに関する仮説もない。11社の事例は視点がバラバラであり、結局何を主張したかったのかが最後まで解らない。学者ならば、少なくとも検証したい仮説をまずは設定し、それを踏まえて定量調査や定性調査(事例研究を含む)を行ってほしかった。

 個人的に検証してほしかった仮説は、前述のマトリクスもそうであるが、もう1つある。下図はグローバル経営の発展の段階を簡単に示したものである。まず、生産面(縦軸)では、国内生産⇒生産委託⇒現地生産(現地に自社工場を保有する)⇒水平分業体制(例えば、タイで部品を製造し、ベトナムでその部品を組み立てる、など)と発展していく。次に、販売面(横軸)では、国内販売⇒輸出・代理店⇒現地販社⇒販社ネットワーク(例えば、タイとフィリピンに販社があるとして、タイの在庫が足りない場合にフィリピンの在庫を補充するなど、グローバルレベルで各地の販社の在庫を調整する、など)と発展していく。そして、グローバル化は、概ね矢印の方向に向かって進展していく(現実的な話をすれば、多くのグローバル企業はまず代理店や販社を通じて海外市場にアクセスし、海外でも自社製品が売れると手ごたえを感じてから現地工場を作る場合が多いため、下図のようなきれいな矢印にはならない)。

グローバル経営の発展と「クローズ―オープン」の変化

 私の仮説は、「グローバル化の進展によって、クローズからオープンへと移行する割合が高くなるのではないか?」というものである。この仮説に従って、中小企業に質問票を配布し、その企業がグローバル化のどの段階にあるのか、その企業の戦略がクローズなのかオープンなのかを回答してもらって、その結果を定量分析する。そして、必要に応じ事例研究で調査を補完する。本書でも、せめてこれぐらいのことはやってほしかったというのが正直なところである。
2018年04月06日

元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま


目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用
元井 弘

生産性出版 2007-08-01

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 本書の著者からは、人事制度をめぐる様々な言葉の定義を明確にしようという姿勢がよく伝わってきた。「期待基準主義と実績主義」、「基準主義と審議主義」、「要点主義と範囲主義」、「絶対考課と相対考課」、「加点主義と減点主義」、「期待値主義と時価主義」、「画一主義と複線主義」、「仕事ベースと人ベース」、「役割と職務」、「役割等級と職能等級」、「目標と計画」といった言葉の違いが丁寧に記述されている。本書の帯には「『評価』と『考課』の違いは?」とあったのだが、恥ずかしいことに私は答えられなかった。著者によれば、「評価」とはある期間の勤務実績について、特定の基準に基づいて判断することであるのに対し、「考課」とは個々の事実の評価を総合して、ある期間の勤務実績を集団内における成績として判定することである。

 通常、評価はまずは対象者の上司が行い(1次評価)、さらに上司の上司が行う(2次評価)。評価とは、期初に設定した目標が達成できたか否かという評価であるから、自ずと「絶対評価」になる。一方、2次評価が終わると、全社員の評価結果を持ち寄って、経営陣と人事部との間で最終的な判定が下される。この場合、例えばSは全社員の10%、Aは25%、Bは40%、Cは20%、Dは5%程度を目安にしていれば、各社員の判定はこの範囲内に収まるように調整される。絶対評価で同じAを得た甲と乙という2人の社員について、経営陣と人事部による議論の結果、甲の方がより優れていると判断されれば、甲の評価がSに変わることがある。このように、最終段階では社員間の比較によって結果が変わるため、「相対考課」であると言える。

 ただし、本書を読んで色々な疑問も出てきた。以下、突っ込んだ話になるが列記していく。

 ①本書のサブタイトルには「役割業績主義人事システム」とある。職能資格制度における給与が職能給であるのと同様に、役割業績主義人事システムにおける給与は「役割業績給」(p60)ということになる。ところが、この役割業績給というのが一体何なのか、実は明らかにされていない。役割給や業績給と何が違うのかという素朴な疑問が生じる。

 ここで、給与の性質について整理しておきたい(旧ブログの記事「功ある者には禄を、徳ある者には地位を-『人事と出世の方程式』」を参照)。給与は、大きく分けると基本給と賞与から構成される。基本給とは、「このぐらいの仕事をする人にはこのぐらいの給与を支払おう」という企業側の意志の表れであり、社員に対する投資である。経営陣は、事業計画の中で売上高や利益の目標を設定し、その目標を達成するためには社員にいくら投資すればよいのかを考えて、人件費を予算化する。あるいは逆に、現在の社員の人件費(投資)を踏まえると、このぐらいのリターンを獲得する必要があると考えて、事業計画を作成する場合もあるだろう。

 「このぐらいの仕事」の中身を詳細な職務分析を通じて明らかにし、職務の内容や難易度に応じて給与を支払うとすれば役割給、職務給となる。一方、そこまで詳細な分析は行わず、「このぐらいの能力を持っている人は、このぐらいの仕事が期待できるから、このぐらいの給与を支払おう」というのが職能給、能力給である。欧米企業は前者を、日本企業は後者を採用することが多い。いずれにしても、基本給のポイントは、「投資型」であるということである。

 これに対して、賞与とは、過去半年間ないし1年間の利益の一部を社員の貢献度合いに応じて還元しようとするものであり、「精算型」である。最初から賞与も予算化している企業もあるが、多くの企業は利益の見通しが立ってから、賞与をいくらにするか決めている。賞与の額は、社員の貢献度合いに左右される業績連動型である。実力で高い成果を上げた社員も、たまたま運がよかっただけの社員も関係ない。あくまでもその社員がその期間内に上げた成果に応じて利益が配分される。ただし、このルールを厳密に適用すると、中長期的な取り組みを行った社員や、難易度の高い仕事にチャレンジして失敗した社員が報われないため、ルールが多少調整されることはある。とはいえ、賞与の性質は「精算型」であるという点には変わりがない。

 以上を踏まえて「役割業績給」という言葉を考えてみると、p60の図を見る限り、賞与とは別立てになっていることから、基本給に相当すると著者は位置づけているのだろう。だが、役割業績給という言葉からは、役割給と業績給の混合型が想起される。しかし、既に述べたように役割給は投資型、業績給は精算型であり、性質の異なる2つの給与が混同されていることに違和感を感じる。役割業績給の定義がなされていないため、当然のことながら役割業績給をどのように決定し、給与制度をどうやって運用するのかについては一切触れられていない。

 ②p67以降では、「ダブルラダー人事制度」というのが提案されている。職能等級と役割等級の2本立てで運用する人事制度らしい。職能等級の場合、能力は線形的に成長するものとされているため、通常は時間の経過とともに等級が上がっていく。他方、役割等級については、p61で野球の投手の例が挙げられている。その例では、投手に4つの等級を設けている。
 P4等級=勝敗に直結する役割。
 P3等級=試合の流れを維持し勝敗に間接的に貢献する役割。
 P2等級=勝敗にあまり関係なく主要ピッチャーの戦力消耗を回避する役割。
 P1等級=試合には登場しない練習時における役割。
 P4は先発ローテーションの投手や勝利の方程式を担うリリーフ陣、P3は大量リード時に登板する中継ぎ陣、P2は敗戦処理の中継ぎ陣、P1はバッティングピッチャーといったところであろう。監督は各投手の能力や適性を見極めて、どの投手がどの等級に属するかを決定する。職能等級との違いは、降格があるという点である。例えば、先発投手(P4)として長く結果が出ない場合は、一時的に負担の軽い中継ぎ(P2)として起用するといったケースである。

 だが、このダブルラダー制度も、どのように運用していけばよいのかが述べられていない。人事考課の結果がどのように職能等級と役割等級に反映され、翌期の職能等級と役割が決まるのかが不明である。仮に、職能等級は上がっていくが役割等級が上がらないことがあるとすれば、結局は現在の多くの日本企業が運用している職能資格制度と変わらないように思える。日本企業は、ポスト不足という問題を解消するために、例えば役職は課長のままで昇進できないが、職能等級は部長相当にまで上げて昇給だけは実現させていることが多い。

 ③目標管理制度(MBO:Management by Objects)と言うと、すぐに人事考課と紐づけて考えてしまうのだが、著者は次のように述べて注意を喚起している。
 目標管理の狙いは、社員個々人が経営目標を分担し、各人が自己の目標に対してオーナーシップを持ち、各人の目標を達成することによって経営全体の目標を達成することである。(中略)目標管理は業績考課のため、賞与のためのものではないのである。ただし、目標達成度や業績貢献度には個人差が出ることから、人事考課(業績考課)に評価結果を反映させる。(p80)
 確かに、経営学者のピーター・ドラッカーが初めて目標管理を提唱した時、"management by objects and self-control"という表現を使っていた。現代の経営で重要な地位を占める知識労働者に対して、自らの成果と目標を明確に設定し、仕事を自ら適切にマネジメントせよというのがドラッカーのメッセージであった。私はこの点をすっかり忘れていたことを反省した。

 引用文にあるように、著者は目標管理を人事考課の全部ではなく一部だととらえている。まず、目標管理の結果は「実績考課」で見る。その際の注意点を次のように述べている。
 業績としての目標達成度の評価は、目標を担当する個人および組織を単位とした「目標の達成度の評価」と、個人が所属する組織および組織が所属する上位組織の業績に対する「組織業績への貢献度」の両面から把握する必要がある。(p146)
 だが、「組織業績への貢献度」を敢えて評価する必要性がいまいち理解できない。例えば営業部門において、Aさんは「売上目標4,000万円、実績6,000万円」、Bさんは「売上目標2億円、実績1億5,000万円」だったとしよう。Aさんは目標は達成しているがBさんに比べると営業部門への貢献度が低い。一方、Bさんは目標未達だが営業部門への貢献度は大きい。ここで著者は「目標の達成度の評価」と「組織業績への貢献度」の両方を考慮せよと言うわけだが、AさんとBさんで目標にこれだけの違いがあるということは、AさんとBさんの職能や役割がそもそも大きく異なっているわけである。期初に設定される目標は、職能や役割の違いに応じて、組織に対してどの程度貢献してほしいかという上司の意図を反映している。よって、「目標の達成度の評価」のみを評価すれば十分であり、「組織業績への貢献度」まで見る必然性を感じない。

 目標管理に基づく実績考課は人事考課の一部であるとして、著者はそれ以外に、「役割行動考課(業務推進考課)」、「意欲行動考課」、「マネジメント考課」、「部門業績貢献度考課」を行うべきだと書いている(p233)。しかし、なぜこの4つなのかが不明であるし、それぞれの考課も耳慣れたものではなく、具体的にどんな考課を行えばよいのか解説がない。さらに、人事考課には昇給、給与更改、賞与、昇格、昇進、異動配置、指導育成・能力開発、業績向上対策といった目的があるとした上で、それぞれの考課が各目的とどの程度強く関連しているのかをまとめた表がp217にある。これを見ると、実績考課は確かに多くの目的と強い関連を示しているものの、意欲行動考課や役割行動考課(業務推進考課)も全ての目的と一定の関連を持つとされている。これほど重要な考課の具体的な中身にほとんど触れられていないのが残念である。

 ④最後にもう1つだけ、細かい点に触れておく。
 例えば、組織業績として前年対比で110%であった場合において、本人の業績が年対比で110%であった場合の考課成績は「B:普通」となる。

 また、組織業績を目標達成度の観点で見た場合、組織の目標達成度が残念ながら90%であった場合において、本人の目標達成度が90%であった場合の考課成績も「B:普通」となる(本人の目標の達成度からすれば、「不十分」なのであるが、組織全体の中では「普通」となる)。(p259)
 前半は納得である。問題は後半である。業績連動で考課を行っているから、賞与の決定場面だと考えられる。①で述べたように、賞与は企業の利益を精算する性質を持っている。組織の目標達成度が90%であった場合、原資となる利益もその分減る。よって、本人の目標達成度が90%(つまり目標未達)であれば、「B:普通」ではなく、「C:不十分」としなければならない。これを「B:普通」としてしまうと、個人目標が未達なのに考課結果が釣り上がる社員が増え、減少した賞与の原資では賄えない恐れがある。単純な例として、社員全員の個人目標達成度が90%の場合を考えると解りやすい。企業の利益は減少し、賞与の原資も減っているのに、社員全員の評価を「B:普通」としてしまうと、賞与が足りなくなるだろう。
2018年04月04日

グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論


ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術ビジネスリーダーへの キャリアを考える技術・つくる技術
グロービス・マネジメント・インスティテュート

東洋経済新報社 2001-05-18

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 キャリア開発や組織文化の研究で知られるエドガー・シャインは、キャリア開発のステップを大きく3つに分けている。まずは自分の価値観を知ることである。シャインは個人の中核的な価値観のことを「キャリア・アンカー(※アンカー=碇)」と呼ぶ。次に、自分が所属する部門や企業、業界の変化をとらえ、外部環境からどのような役割を期待されているのか、あるいは今後期待されることになりそうかを認識する。そして最後に、自分の価値観を活かしながら周囲からの期待に応える自分とはどのような存在なのかを想像し、キャリアビジョンを描く、というものである。

 だが、日本のキャリア開発の本を読むと、往々にしてこの3つのステップがバラバラになっている。ブログ別館の記事「沼波正太郎『40歳からのキャリア戦略―図解 あなたの「不安」を展望に変える!』―「転職は危険」と言っておきながら転職を勧めている」で紹介した書籍もそうであった。本書も、まずは市場ニーズ(人材ニーズ)を分析し、次に現在のスキルや価値観を棚卸しするところまではよいのだが、キャリアビジョンを描く段階になると、それまで検討した内容が一切無視されて、「自分がやりたいこと」が優先されている。そして、自分が達成したい中長期的な目標(10~20年後)を明確に掲げ、そこから逆算してキャリア目標を段階的に設定している。

 この方法は、マーケティングの言葉を借りればプロダクトアウト的な発想であり、マーケットインの視点が欠けている。本書には次のような記述があり、営業がこれまでの「売り込み」から「CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)」重視へと変化しているとある。それなのに、キャリア開発の方は相変わらず自分優先の売り込み型でよいのだろうか?
 筆者自身が最近トライした例を挙げると、いわゆる営業で「売り込む」方法から「顧客が必要としている情報を顧客の目の前に置く」「サービス内容で満足してもらいリピートを狙う」という方法に変えたことがあった。(中略)この時の業績はと言えば、その1年間の売上は前年度に対して20%以上伸びている。
 それから、中長期的な目標からバックキャスティング的に短期の目標を導くというのも、一般的なキャリア開発の流れとは異なっている。これだけ環境変化が激しい時代であるから、中長期的な目標を明確に定めても、すぐに無意味になることが多い。それなのに、当初の明確な目標を持ち続けると、キャリアが硬直的になり、かえって健全なキャリア開発が阻害されるというのが現在の通説である。中長期のキャリアビジョンは大まかなレベルで持っていれば十分であり、後は環境変化に合わせて柔軟にビジョンの内容を変えていくのがよいとされている。

 本書が出版されたのは2001年である。2001年には私はまだ大学生であったが、当時はコンサルティングファームブームのようなものがあって、今で言う「意識高い系」の学生は皆コンサルティングファームへの就職を目指していた。学生を対象としたロジカルシンキングのセミナーも多かったし、そこで学んだ内容を活かして、論理的思考力を高めるための勉強会を開いたりもしていた。そういう時代背景もあってか、本書に登場する若手ビジネスパーソンはほぼ全員と言ってよいほど、コンサルティングファームへの転職を検討している。

 そして、コンサルティングファームで要求される能力を、①思考力、②コミュニケーション力、③企業という仕組みを理解していること、④フットワークの4つと定義し、転職希望者がこれらの能力をどの程度身につけているかを分析する事例が登場する(ただ、別の箇所では、①理解力・洞察力、②論理思考能力、③創造的思考力、④感受性、成熟さ、謙虚さ、⑤ロジカルコミュニケーション力という5つが挙げられており、内容に矛盾を感じた)。問題は、この4つの能力がコンサルティング業界の枠を超えて、あたかもどの業界にも通用するものであるかのように扱われていること、さらには経営者に求められる能力と共通のものであるかのように書かれていることである。言うまでもなく、業界によって求められる能力は違うし、仮に経営コンサルタントとして優れていたとしても企業経営が上手であるとは限らない(私は前職のベンチャー企業でそのことを嫌というほど体感した。詳しくは「【シリーズ】ベンチャー失敗の教訓」を参照)。

 ただ、本書が目指した能力の汎用化は1つのヒントになった。企業における仕事は、大きく分けるとタスク志向と人間関係志向の2種類になる。「タスク志向―人間関係志向」という軸を一方に取り、もう1つの軸として「マクロ視点―ミクロ視点」という軸を加えてマトリクスを作ると、①構想力、②問題解決力、③組織を動かす力、④コミュニケーション力という4つの力が導かれる。この4つに「業界特有の知識」を加えた5つの能力・知識は、どの業界でもほぼ共通であろう。

企業に共通して求められる4つの能力

等級別の能力レベル(例)

 そして、5つの能力・知識に関して、等級ごとに要求レベルを定義する。その等級と役職を結びつければ、職能資格制度ができ上がる。以前の記事「DHBR2018年2月号『課題設定の力』―「それは本当の課題なのか?」、「それは解決するに値する課題なのか?」、他」では、一般社員とマネジャーでは求められる能力の種類が違っており、一般社員として優れていてもマネジャーとして優れているかどうかは解らないから、マネジャーとしての潜在能力を一般社員のうちに測定してはどうかと複雑なことを考えていた。だが、上記のフレームワークを使えば、一般職もマネジャー職も同じ能力で評価され、両者の間の能力に一定の連続性が保たれる。また、一般の職能資格制度によく見られるような、企画力、実行力、折衝力、現状認識力、判断力などといった抽象的な能力に比べると、前述の5つの能力・知識は導出の根拠も明確である。

 人事考課においては、まず期初の目標設定の面談で、当期の業績目標と、5つの能力・知識と紐づいた行動目標を設定する。期末になると、業績目標と行動目標がどの程度達成できたかを上司が評価する。その際、5つの知識・能力に収まらないが特筆すべき能力や成果については、所見として記録に残しておく。1次評価、2次評価を経て、経営陣と人事部による最終評価では、それぞれの社員の業績と能力・知識の評価が確定し、等級も定まる。

 この等級は、後継者育成計画を作成する際の重要な基礎情報となる。例えば、ある部門の部長の後継者を育成しなければならないとしよう。その部門の部長は等級8以上だとする。すると、人事部は人事データベースから等級8以上の社員をすぐに引っ張り出すことができる。彼らが次期部長候補の人材プールを形成する。この点で、5つの能力・知識は「管理するための能力」と言える。その人材プールの中で、誰をその部門の部長にするかは、人事部と経営陣が議論して決める。5つの能力・知識レベルでは皆同じレベルであるから、最終的に適性を判断する材料となるのは、上司が評価のたびに蓄積してきた所見になろう。そういう意味では、初見に係れた能力は「議論のための能力」と呼ぶことができる。所見に書かれた情報と、その部長職をめぐる特有の事情を考慮して、最終的に誰を新しい部長にするかを決定する。

 ここで、キャリアコンサルティングについても触れなければならない。改正職業能力開発促進法により、企業は社員に対して、キャリアコンサルティングの場を与えることが義務づけられた。キャリアコンサルティングにおいては、まさに本書に書かれているような面談が展開されるわけだが、本書の内容に反して、そして、人事部が「管理するための能力」で社員を管理するのに反して、社員の能力を型にはめないことが大切だと思う。企業は画一的な管理を望むのに対し、社員個人は自分らしいキャリア、他人とは違う人生を望むものである。キャリアコンサルティングでは、社員の多様な能力を棚卸しすることがポイントとなる。現在はキャリアコンサルティングと人事評価は別の制度として運用されている企業がほとんどだが、もし将来的に両者を連携させるならば、キャリアコンサルティングで判明した多様な能力は人事評価シートの所見の欄にある「議論のための能力」の内容を膨らまし、後継者育成計画にも影響を与えるだろう。

 キャリアコンサルティングで社員から寄せられる要望は、大きく分けて3つだと思う。1つ目は、「自分のキャリアパスを知りたい」というものである。社員からこう聞かれたキャリアコンサルタントは、人事部と連携して後継者育成計画を参照し、当該社員をどのポストに向けてどんなプランで育成しようとしているのかを伝えるとよい。2つ目は、「自分はあの部門で(こういう役職に就いて)こういう仕事をしたい」と願い出るケースである。この場合は、キャリアコンサルタントから人事部に対して情報をフィードバックし、前述の人材プールに当該社員を加えることを検討する。その際は、「管理のための能力」と「議論のための能力」の両方を考慮する。

 3つ目は「自分の能力や知見を活かして全く新しい仕事をやりたい」というものである。こういう声が多くの社員から同時に聞かれる場合というのは、経営陣が認識していない市場ニーズや組織能力に社員の方が気づいているのかもしれない。したがって、社員の創発的な学習を通じた新しい戦略を構築するチャンスであると言える。キャリアコンサルティングを通じて情報が充実した人事データベースの「議論のための能力」をつぶさに分析すれば、思わぬ強みや機会の発見につながる可能性がある(以前の記事「DHBR2017年11月号『「出る杭」を伸ばす組織』―社員の能力・価値観を出発点とする戦略立案アプローチの必要性」、「DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)」を参照)。

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