2012年12月10日
麻生太郎『とてつもない日本』―国民もソフト・パワーの担い手として政治力を発揮できる
とてつもない日本 (新潮新書) 麻生 太郎 新潮社 2007-06-06 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
自民党・安倍総裁の『美しい国へ』に続いて、麻生太郎氏の『とてつもない日本』も読んでみた。麻生氏が総理になる前の2007年に出版されたものであり、それまで長らく外交に携わっていたことから、本書の半分ぐらいは外交、特にアジア外交に焦点が当てられている。
今振り返ってみると、ここ20年ほどの総理大臣の中で、米政治学者ジョセフ・ナイが提唱した「ソフト・パワー」の有用性を最もよく理解していたのは、麻生氏だったのかもしれない。麻生氏の外交目的は極めて明確である。それは、「日米同盟の下に、民主主義、自由、人権、市場原理といった、米国と共有する『普遍的価値』を、アジアに広めていくこと」に尽きる。この目的を達成するために、一般的な外交で用いられる軍事力や経済援助(または制裁)というハードな有形手段だけでなく、例えば社会インフラを建設する日本の優れた「技術力」や、麻生氏が大好きなマンガに代表される日本の「文化」といった、ソフトな無形資源も活用したのである。
ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力 ジョセフ・S・ナイ 山岡 洋一 日本経済新聞社 2004-09-14 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
麻生氏の志は、残念ながらわずか1年足らずで閉ざされてしまった。それ以降、民主党政権の下で日米関係は不安定となり、中国、韓国、さらにはロシアも公然と日本の領海・領土を脅かすようになり、日本に「ハード・パワー」を突きつけている。
特に韓国との関係は複雑だ。麻生氏は本書の中で、韓国を日本と同じ民主主義の価値観を共有する重要なパートナーとみなしている。ところが、日本のマンガやJ-POP、ファッションは韓国で受け入れられているのに、領土問題となると、竹島の実効支配が韓国には通用しない。これは韓国の立場から見ても同じで、(電通のおかげで、特にフジテレビ相手に)韓国のドラマや音楽を輸出することに成功したにもかかわらず、大統領が独島を訪れれば、日本は黙ってはいない。つまり、ハード・パワーとソフト・パワーのねじれ現象が起きていると言える。そして、このねじれに対する最適解を持った政治家は今のところいなさそうだ。
先ほど挙げたナイは、外交にはハード・パワーとソフト・パワーの両方が必要であるとし、両者を合わせて「スマート・パワー」と呼んでいる。そして今後の世界では、スマート・パワーを行使するリーダー、すなわち「スマート・リーダー」がますます重要になると説く。私は自民党からスマート・リーダーが登場することを多少は期待しているし、我々国民もまた、スマート・リーダーの一部を担う責務がある。なぜならば、技術や文化は国家が意図的に発信するというよりも、民間が市場原理を通じて外国市場へと広めていくのが自然な形だからである。
スマート・パワー―21世紀を支配する新しい力 ジョセフ・S・ナイ 山岡 洋一 日本経済新聞出版社 2011-07-21 Amazonで詳しく見る by G-Tools |