お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。コンサルティングなどの仕事の実際の中身は守秘義務の関係で書くのが難しいため、書評が中心となっている点は何卒ご容赦あれ。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

最新記事

2018年04月18日

DHBR2018年5月号『会社はどうすれば変われるのか』―戦略立案プロセスに組織文化の変革を組み込んで「漸次的改革」を達成する方法(試案)、他


ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2018年 5 月号 [雑誌] (会社はどうすれば変われるのか)

ダイヤモンド社 2018-04-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (1)
 車運転をする世界中の人々が、自動運転の恩恵によって1時間を自由に使えるようになった場合、この膨大な商業的機会を活かすのは、どのような企業だろうか。真っ先に名前が挙がるのは、アルファベットやアップルのようなハブ企業である。
(マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ「グーグル、アップル、アマゾン、アリババ・・・ ハブ・エコノミー:少数のデジタル企業が世界を牛耳る時代」)
 《参考記事》
 「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)
 『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)

製品・サービスの4分類(①大まかな分類)

【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 「ハブ企業」とはプラットフォーム企業と言い換えてよいだろう。上図については《参考記事》を参照していただきたいが、プラットフォーム企業は元々左上の<象限③>で生まれたものである。<象限③>は多産多死のイノベーションの世界である。イノベーターは自分が愛するイノベーションを何とかして世界中に普及させたがっており、そのためなら自分がお金を払ってもよいとさえ思っている。こうしたイノベーターのニーズに目をつけて、多数のイノベーターを束ねてプラットフォームを形成し、世界中の顧客に対してイノベーションの選択肢を提供するようになったのがプラットフォーム企業である。Amazonは書籍や音楽、GoogleとAppleは音楽やスマホアプリの分野でプラットフォームを提供している。スマホアプリの例で言うと、本来GoogleやAppleはスマホアプリの仕入れ側であるから、アプリ開発者に対してお金を払わなければならないはずだ。ところが、両社はアプリ開発者からお金を取ることに成功している。

 このプラットフォームが、近年は<象限①>や<象限②>にも浸透し始めている。というのも、世界的な供給過多により、サプライヤは先のイノベーターと同様に、自社の製品・サービスを購入してもらうためなら自らお金を払ってもよいと考えるようになってきているからだ。こうしたサプライヤのニーズに最もよく対応しているのがAmazonである。Amazonの品揃えは今や書籍、音楽、映像、ゲーム、家電、家庭用品、アパレル、ベビー用品、食料品にまで広がっている。

 <象限②>について言えば、IoTによるプラットフォーム企業が登場するだろう。自動車を例にとると、今までは自動車が故障したら、修理工場は適切な部品を見繕って修理を行っていた。だが、自動車にIoTが搭載されれば、修理やメンテナンスの際にはIoTに対応した部品と交換される。これは、部品メーカーにとっては、IoTのプラットフォームに載っていなければ、大きな商機を失うことを意味する。その商機を逃さないために、部品メーカーはプラットフォーム企業(おそらくは自動車メーカーであるが、Googleもこの座を狙っている)にお金を払ってもよいと考える。

 冒頭の引用文に戻ろう。プラットフォーム企業(ハブ企業)は、自動運転によって手が空いた1時間だけを狙っているとは考えにくい。手が空いた1時間でできることと言えば、アプリでゲームをするか、映画やドラマを観るぐらいのものであろう。それでは大した商機にならない。プラットフォーム企業の真の狙いは次の文に現れていると思う。
 両社(※アルファベットやアップル)はすでに、地図や広告網のようなボトルネック資産を大規模に展開しており、車内にいる人にふさわしいばかりか現在位置にも適した、極めて的を射た広告を表示する準備を整えている。自動運転車に当然のように装備すべきアドオン機能は、表示された広告を見て「この店に行きたい」と思った時に押す、「ここへ行く」ボタンである(カーナビアプリのWazeはすでにこれを実現している)。ボタンを押すと、表示された場所へ向かうよう車に指示が出される。
 「OK Google、この近辺でおいしいお店を教えて?」と尋ねると、自動運転車にインストールされているアプリが、データベースに蓄積された口コミ情報と広告主が支払った広告料を総合して、レストランを一覧表示する。また、自動運転中は、位置情報を参考に、同じく口コミ情報と広告料を総合して、「この近くに○○が安いお店があります。寄りますか?」と提案する。ユーザがどのお店を選択したかによって、GoogleのAIは賢くなり、ユーザに対してより最適な提案ができるようになる。こんな世の中が到来するであろう。飲食店などの企業は、Googleのプラットフォームに載っていればユーザに紹介されるが、載っていなければ完全に無視される。さらに、プラットフォームを通じてユーザに提案される回数を増やすためには、広告料を払う必要がある。

 「Google Home」や「Amazon Echo」が登場した時、個人的には「何だこれは?」と思ったが、スマートスピーカーは来るべき自動運転時代のプラットフォームを握るための壮大な実験と考えれば納得がいく。Googleなどは、スマートスピーカーに対してユーザがどのような質問をするのか、どのような回答をするとユーザの満足度が高いのか、満足度を上げるためにはアルゴリズムをどのように改善すればよいのか、広告料は取れるのか、取れるとしたらいくらぐらいが妥当なのか、といったことを調査しているのではないかと考える。

 (2)
 お仕着せの企業戦略のほとんどが、社風として根付いた慣習や姿勢と相容れない。経営幹部は、社風との相性次第で戦略の効果がどれほど違ってくるかを、甘く見積もっているのだろう。戦略よりも社風のほうが、常に大きな力を発揮するのだ。
(ジョン・R・カッツェンバック、イローナ・シュテフェン、キャロライン・クロンリー「組織文化こそ競争力の源泉 社風を活かして変革する企業」)
 《参考記事》
 【戦略的思考】SWOT分析のやり方についての私見(戦略立案の外部環境アプローチ)
 DHBR2017年12月号『GE:変革を続ける経営』―戦略立案の内部環境アプローチ(試案)

 戦略を立案する際には、企業文化をそれと整合させることが必要だということである。新しい戦略は、既存の企業文化とぴったり整合性が取れているのが最も望ましい。しかし、そのようなケースは稀であり、多くの場合は新しい戦略が企業文化に対して変革を求める。この点を考慮しないと、せっかくの新しい戦略が企業文化によって足を引っ張られることになる。上記の《参考記事》で、戦略立案の外部環境/内部環境アプローチについて整理してみたが、企業文化の観点がすっぽりと抜け落ちていることに気づき、反省した。そこで、手始めに外部環境アプローチの中に企業文化の変革を組み込んでみたいと思う。

 外部環境アプローチは、以下の8ステップで構成される。
 ①事業機会の抽出と選択
 ②ターゲット顧客・差別化要因の決定
 ③戦略目標の設定
 ④CSFの特定
 ⑤ビジネスモデルの設計
 ⑥ビジネスプロセスの設計
 ⑦施策の投資対効果試算と優先順位づけ
 ⑧将来の損益計算書の作成

 企業文化について問う必要があるのは、⑥のビジネスプロセスの設計が終わった段階である。⑤のビジネスモデル、⑥のビジネスプロセスを見て、これらの実現に必要な企業文化とは何かと問う。この問いが抽象的であると感じるならば、「このビジネスを実現するために、我が社の社員が重視すべき価値観・行動規範は何か?」と問うとよい。協働が盛んである、革新性が高い、能力主義が徹底している、リスクを取る、品質を重視するなど、様々な答えが出るだろう。その上で、現在の企業文化についても振り返る。すると、望ましい企業文化と現在の企業文化のギャップが見えてくる。このギャップが大きいほど、新しい戦略の実行は困難になる。

 企業文化は定性的で多義的であるため、実際にはギャップを見つけようとしてもなかなか難しい。そこで、ギャップを発見する1つの手助けとなり得るのが、ボリス・グロイスバーグ、ジェレミア・リー、ジェシー・プライス、J・ヨー=ジュド・チェン「社風を変えるうえで知っておくべき8つの特性 変革は企業文化に従う」で紹介されている企業文化の8類型である。同論文では、「柔軟性―安定性」、「独立性―相互依存性」という2軸でマトリクスを作り、企業文化を8つのタイプに分けている。この8つは、お互いに距離が近いほど変革が容易であることを示している。例えば、「目的意識」が強い企業が「学習」重視の企業文化に変化するのは簡単である。一方で、「楽しさ」を重視する企業が「秩序」を重視する企業に変化するのは非常に困難を伴う。

企業文化の8類型

 企業文化のギャップが大きいことが判明した時、取り得る選択肢は2つある。1つは、企業文化のギャップが大きいと解っていても新しい戦略を遂行する場合である。自社が競合他社からの激しい攻撃にさらされていたり、技術革新によって業界全体が大きく様変わりしようとしていたりして、その戦略を実行しなければ生き残りが難しくなるようなケースがこれにあたる。ただし、その場合でも、いきなり企業文化の大変革を目指すのではなく、段階を踏む必要がある。例えば、「楽しさ」を重視する企業を「秩序」を重視する企業へと変革する場合には、いきなり「秩序」を目指すのではなく、まずは「権力」を目指す。その上で、「秩序」を目指すといった具合だ。

 そして、「楽しさ」を重視する企業が「権力」を重視する企業へと生まれ変わるには、経営陣や社員がどのような行動を取るべきかと問う。バーゲニングパワーを行使して取引先に対する交渉力を強化する、マネジャーの権限を拡大する、トップ主導で営業方針を現場に浸透させる、などといったものが出てくるだろう(ちょうど、現場の裁量に任せて自由に仕事をさせていたベンチャー企業が、企業の成長に伴って組織の仕組みづくりをしなければならない場面を思い浮かべていただくとよい)。そうしたら、⑤ビジネスモデルの設計、⑥ビジネスプロセスの設計に立ち戻って、これらの行動を意図的にビジネスモデルとビジネスプロセスに反映し、修正する。

 企業文化のギャップが大きい場合にとり得るもう1つの選択肢は、①に戻って事業機会の選択をやり直すことである。自社の既存の文化との親和性がより高いと思われる事業機会へと切り換えるわけだ。本当は、①事業機会の抽出と選択の段階で、企業文化とのギャップの大きさが解るとよいのだが(前述のリンク先の記事ではPEST分析を簡略化したPET分析を用いている)、事業機会だけを見て、その事業を支える企業文化とは何かを見極めるのは至難の業である。ビジネスモデルやビジネスプロセスを具体的に描いてみて初めて、必要な企業文化が明らかになるものである。よって、大幅な作業のやり直しとなるが、この方法が最善であると考える。

 ただし、あまりに既存の企業文化との整合性を重視すると、結局のところ既存文化との親和性が高いのは既存事業であるということになって、何も変化が生まれなくなる。既存文化を尊重しつつも、新しい戦略の実行にはある程度企業文化の変革が伴うと腹をくくる必要がある。この場合でも、⑥ビジネスプロセスの設計が終わった段階で、前述のように新しいビジネスモデルやビジネスプロセスを下支えする企業文化は何かと問い、既存文化とのギャップを分析して、ギャップを埋めるための新しい行動をビジネスモデルとビジネスプロセスに組み込んでいく。

 以上が、戦略立案の外部環境アプローチに企業文化の変革を埋め込む方法の素案である。重要なのは、一足飛びに新しい企業文化を構築しようとしないことである。慣れ親しんだ行動を変えるのは簡単ではない。行動は少しずつ変えていく。上記のアプローチで言えば、まずAという文化を築きaという行動を習得するために、こういうビジネスモデルやビジネスプロセスにする。次にBという文化を築きbという行動を習得するために、こういうビジネスモデル、ビジネスプロセスにする・・・こうした漸次的変化を繰り返すことで、本来実現したかった戦略を最終的に達成する。これを「漸次的変革」と呼ぶことにしよう。少しずつ変化を繰り返した結果、後から振り返ると、以前とは全然違う姿に生まれ変わっていたという状態である。私も一介のコンサルタントとして、お仕着せの戦略ではなく、こういう粘り腰の戦略を作らなければならないと覚悟した。
2018年04月16日

『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)


一橋ビジネスレビュー 2018年SPR.65巻4号: 次世代産業としての航空機産業一橋ビジネスレビュー 2018年SPR.65巻4号: 次世代産業としての航空機産業
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2018-03-19

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 以前の記事「土屋勉男、金山権、原田節雄、高橋義郎『革新的中小企業のグローバル経営―「差別化」と「標準化」の成長戦略』―共著と中小企業研究の悪癖が両方とも出た1冊」で、技術的に突っ込んだ話がなかったことに不満を表明したが、今月号の『一橋ビジネスレビュー』は東京大学航空イノベーション研究会とタッグを組んで、これでもかと技術的な話をつぎ込んできたため、技術音痴の私の頭には論文の内容があまり入ってこなかった(わがまま)。それでも、従来の私のアイデアを修正するヒントが得られたので、今回はそれを記事にしてみたい。

 前々から、「必需品か否か?」、「製品・サービスの欠陥が顧客の生命(BtoCの場合)・事業(BtoBの場合)に与えるリスクが大きいか否か?」(別の言い方をすれば、「製品・サービスに高い品質基準が要求されるか否か?」)という2軸でマトリクスを作って、世の中の製品・サービスを4つのカテゴリに分類できないかと考えてきた。これまでの最新版は、以前の記事「「製品・サービスの4分類」に関するさらなる修正案(大分完成に近づいたと思う)」で示した図①であったが、本号を読んで図②のように修正することとした。

○図①
製品・サービスの4分類(②各象限の具体例)

○図②
【修正版】製品・サービスの4分類(各象限の具体例)

 <象限④>について、2つの修正を行った。1つ目は<象限②>に位置づけていた「航空」を<象限④>に移動させたことである。@niftyニュース「飛行機についてのアンケート・ランキング」によると、2013年4月~2014年3月の間に1回も飛行機に乗ったことがない人の割合が61%であったため、航空は必需品とは言いがたい。2つ目として、「テーマパーク・遊園地」を<象限④>に追加した。これは今まで全く欠落していたのだが、テーマパーク・遊園地というのは必需品ではないものの、設備トラブルがあれば顧客の生命を脅かすため、<象限④>に入れた。ディズニーランドが重視する4つの価値観のうち、最上位に位置しているのは実は「安全」である。

 (※)この修正に伴い、以前の記事「『顧客は何にお金を払うのか(DHBR2017年3月号)』―USJ、Supership(nanapi)、ユニリーバの戦略比較」でUSJを<象限③>としていたが、今後は<象限④>に位置づけることとする。

 まず、<象限①><象限②>と<象限③><象限④>の違いについて、改めて説明したいと思う。<象限①><象限②>は多神教的世界、<象限③><象限④>は一神教的世界であり、<象限①>は新興国が、<象限②>は日本が、<象限③><象限④>はアメリカが強い。<象限③><象限④>は必需品ではなく、ニーズを一から掘り起こす必要があるイノベーションの世界である。ニーズが存在していないないから、伝統的な市場調査は役に立たない。そこで、リーダーは自分自身を最初の顧客に見立てて、「自分はこういう製品・サービスがほしい」と構想する。そして、「自分がこれだけほしがっているのだから、世界中の人も同じようにほしがるはずだ」と考えて、その製品・サービスを世界中に普及させることを唯一絶対の神と契約する。リーダーがエバンジェリスト(伝道者)となって世界中に布教すると言ってもよい。

 以前の記事「『正論』2018年2月号『本誌に突きつけられた朝日新聞”抗議書”に言論で答える/ワシントンを火の海にする狂気』―「朝日新聞に社是はない」で笑ってしまった」で書いたように、イノベーションとはリーダーがこれだと思うルールを世界に適用する演繹的な取り組みである。リーダーはトップダウンでイノベーションを推進する。イノベーションは必需品ではないため、購入・利用しない人は全く見向きもしないが、熱狂的なファンはその製品・サービスを必要以上に購入・利用する。そのため、市場規模が読みづらい。後者の顧客の存在を前提として、リーダーは野心的な目標を設定する。ただし、契約が正しいかを知っているのは神だけである。契約が正しければイノベーションは全世界で成功し、リーダーは巨万の富を得る。契約が間違っていればイノベーションは静かに死を迎える。そして、間違っている契約の方が圧倒的に多い。

 海外の航空機産業では、国がリーダーとなり、トップダウンで事業を進めているという。
 アメリカにおいては、大統領の決定による、省庁横断の政策文書「国家航空研究開発政策」により、航空研究開発におけるアメリカ政府の役割を明確に定義し、NASA(アメリカ航空宇宙局)は研究開発を実施している。また、欧州においては、「Flightpath 2050」という航空ビジョンに基づいて、戦略研究イノベーション計画が制定され、これにのっとり、DLR(ドイツ航空宇宙センター)、ONERA(フランス国立航空宇宙研究所)ともにトップダウン形式での研究開発を行っている。
(岩宮敏幸、大貫武、白水正男「日本の航空技術と国際競争力」)
 さらに言えば、たとえ成功したとしても、多くのイノベーションは短命である。中には世界中の人々の必需品となって<象限①>や<象限②>に移動するものもあるが、多くは流行が過ぎ去れば急激に市場がしぼんでいく。そうなる前に、リーダーは自社株買いによって株主に利益を還元しながら事業を縮小したり、自社を他の企業に売却してエグジットを図ったりする。いずれにしても、その過程でリーダーは大きな富を手中にし、後は悠々自適な生活を送る(ただし、航空機産業は国家の安全保障とも関連しているから、航空機メーカーが勝手に店じまいすることは国が許さない。航空機メーカーは数十年単位のサイクルで新型機を投入し続ける)。

 イノベーションのプロモーションは、世界中の人々に「この製品・サービスを使え」と迫るような、半ば脅迫的なものである。そしてリーダーは、そのプロモーションに対する市場の反応を数字で追っている。リーダーは、全世界に配置したプロモーション担当から、各種プロモーションに関する情報を報告してもらう。リーダーはそれを分析し、A地域でイノベーションを受け入れてもらうためにはどうすればよいか、B地域で受け入れてもらうにはどうすればよいか、などと考える。つまり、リーダーはインテリジェンスを重視する。A地域やB地域の顧客ニーズの違いを考慮して製品・サービスをカスタマイズしようとはしない。カスタマイズするのはプロモーションの内容の方であり、A地域やB地域の人々の心理的特性に応じて、発信するメッセージを変える。

 リーダーのモチベーションの源泉は、「自分が考案したイノベーションを全世界に広めたい」という「自己実現」の欲求である。そのために自らに高い目標を課す。そして、その目標を達成するのに必要な要件をCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)として演繹的に特定し、KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を紐づける。つまり、成功の条件をごく限られた数の指標に帰結させる(その中には前述のプロモーションに関する指標も含まれる)。イノベーティブな組織の業績管理や人事考課は全て、このCSFやKPIと結びつけられている。

 リーダーは、そのKPIの達成に向けて、世界中から優秀な人材をかき集める。ただし、前述のようにイノベーションは短命であり、リスクが高いので、あまり多くの正社員を抱え込もうとはしない。たいていは外部の優秀なクリエーターたちを集めてプロジェクトを結成する。正社員に関しても、プロジェクトの特性に応じて最高の人員配置を追求するため、上を下への人事異動が頻発する。プロジェクトが終われば外部のクリエーターはその企業を離れて別の企業を探し、正社員はまた乱高下の激しい人事異動を経て別のプロジェクトへと移っていく(航空機に関しては、優秀な開発者は開発が終わるとメーカーを渡り歩くが、メーカーの中には囲い込みのためにそのような渡り歩きを禁止しているところもあるそうだ)。

 競合他社との関係について言えば、最初は市場を創造するという必要性から、協調的であることが多い。普及を妨げる旧来の規制を破壊したり、市場の確立に必要な標準や規格を一緒に構築したりする。ところが、ある程度市場が成長すると、競合他社との関係は敵対的になる。プロモーションでは競合他社のことを公然と攻撃する(日本やEUでは敵対的CMが規制されているため、目にする機会はない)。あるいは、標準や規格に組み込んでもらった自社の標準必須特許をめぐって、法外な使用料を請求したり、差止請求を起こしたりする。

 とはいえ、競合他社がいるからこそ自社が差別化できることを踏まえれば、競合他社は自社のアイデンティティ確立のために必要不可欠な存在だと言える。よって、競合他社を完膚なきまでに叩きのめそうとはしない。その点では、常に敵チームを必要とするスポーツに近い。そう言えば、スポーツもエンタメの一種として<象限③>に位置づけられるものであった。

 <象限①>や<象限②>は、既に市場ニーズが存在している世界であり、マーケティングやマネジメントが武器となる。過去の経験上、こうすれば成功できるという法則がある程度解っているため、一見すると演繹的に事業を行えばよいように見える。しかし、顧客のニーズは時間の経過とともに微妙に、時には急激に変化するから、顧客に密着したニーズの調査が欠かせない。そして、顧客の直接的な観察を通じて得られた知見から、今回はこうすれば上手くいきそうだという仮説を立てる。よって、<象限①>や<象限②>は帰納的であると言える。ただし、帰納的に導かれたルールが全世界で通用するというわけではなく、あくまでもその企業が活動するフィールドや文脈においてのみ有効であるという点に注意しなければならない。

 <象限①>や<象限②>は多神教的な世界であると書いた。この2つの象限は、<象限③>や<象限④>が全世界をターゲットとするのに対し、市場を細かくセグメンテーションする。<象限①>の場合、「○○地域に住んでおり、年収は○○万円ぐらいで、○○という価値観を重視している、○○歳~○○歳ぐらいの女性」に対して日用品を販売する、といった具合だ。そして、この日用品メーカーは、同じ顧客をターゲットとする他の企業、例えば、アパレルや食品スーパー、飲食店などと連携する。特定の顧客に対してあたかも多角化をしているかのように事業を展開するのが<象限①>であり、これが多神教的であることの意味である。この形態はショッピングセンターや商店街に見られる。新興国の場合は、財閥が力を持っており、同じ財閥が日用品メーカー、アパレル、食品スーパー、飲食店などを傘下に収めていることが多い。

 <象限②>の場合、製品・サービス面での多様な広がりではなく、顧客面での多様な広がりが見られる。<象限②>の企業は細かくセグメンテーションしたその全てに対し、各セグメントの特性に応じて異なる製品・サービスを提供しようとする。古い話になるが、トヨタが「いつかはクラウン」というキャッチコピーで若者からシニアに至るまで異なる車種を展開したのが解りやすい例である。つまり、<象限②>では、特定のジャンルの製品・サービスを全ての顧客に合わせて提供するという意味で多神教的である。<象限③>や<象限④>も同じように全ての顧客をターゲットとするが、前述の通り、この2つの象限に属する企業は、顧客ニーズに合わせて製品・サービスをカスタマイズしようとは考えない。この点で<象限②>とは大きな違いがある。

 顧客志向が強いマネジャーのモチベーションの源泉は、「他者貢献」の欲求である。プロモーションも、<象限③>や<象限④>に比べると抑制的である。<象限③>や<象限④>のプロモーションが強烈なプッシュ型であるのに対し、<象限①>や<象限②>はプル型重視へと移行している。利他に徹することで、自分の目の前にいる顧客に何としてでも満足してもらいたいというのがマネジャーの願いである。「自分が考えたイノベーションを全世界に普及(布教)させたい」と「自己実現」を狙っているイノベーターとは対称的である。

 マネジャーは顧客から「こんな製品・サービスを作ってくれて本当にありがとう」と言われるとモチベーションが上がる。同時に、「こんな製品・サービスを作りやがって」とネガティブなフィードバックを受けても、かえって燃え上がるというマゾヒスティックな一面もある。

 <象限①>や<象限②>のマネジャーは現場を重視する。顧客と直接会って話をする、顧客を観察する、工場に足を運ぶ、といった具合だ。こうして得られた情報に基づき、ボトムアップ的に目標を設定する。ここからが<象限①>や<象限②>の不思議なところだが、ボトムアップでトップに上げた目標をトップから再び現場に展開する際、上位階層と下位階層の目標の因果関係が複雑になるという特徴がある。別の言い方をすると、上位階層の目標の達成に必要な目標以上の目標が下位階層には課される。具体的には5Sや挨拶の重視や能力開発の実践といった細かい目標である。一見すると、上位階層の目標の達成には無関係に見える目標でも、重要な目標とされる。<象限①>や<象限②>の目標管理は往々にして総花的である。

 市場ニーズが読めずリスクが高い<象限③>や<象限④>では、フラットなプロジェクト型組織が見られるのに対し、<象限①>や<象限②>では、市場の成長がある程度計算できることから、伝統的な階層型組織が採用されるのが一般的である。<象限③>や<象限④>では上を下への人事異動が頻発すると書いたが、<象限①>や<象限②>ではそのような人事はレアケースである。多くの場合は、段階的に出世の階段を上がっていくことになる(ただし、市場が成熟している場合は、永遠に階層型組織を拡大することができず、全員を昇進させることは不可能になることは、以前の記事「平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵」で書いた)。

 競合他社との関係を見ると、表向きはもちろん激しく競争するが、裏では協調的な行動を取り、共存共栄を図っている。日本は業界団体の数が多く、競合他社の戦略がある程度共有されている。だから、どの企業も似たような新製品・サービスを同時に発表するし、必要とあれば競合他社と組んで新製品・サービスを開発することもある(自動車業界はメーカー間の協業関係が非常に複雑である)。ただし、共存共栄が行き過ぎると建設業界のような談合が起きるし、斬新なアイデアで市場に切り込もうとする新規参入企業をのけ者扱いするという悪癖が出る。

 <象限①>と<象限②>、<象限③>と<象限④>はいずれも競合他者の存在を必要としているが、どれくらい本気で必要としているかは、競合他社が経営不振に陥った時に見えてくる。<象限①>や<象限②>では、その競合他社がいなくなるとその企業から製品・サービスを買っていた顧客が困るから、あるいは業界の輪が乱れて困るから救済に乗り出すことが多い。これに対し、<象限③>や<象限④>では、競合他社の不振につけ込んで、その企業が持っている技術やノウハウを獲得しようという利己的な動機で救済に乗り出す。

 ここからはそれぞれの象限の違いを述べてみたいと思う。まずは、産業のバリューチェーンについてである。<象限①>は、製造の階層が少なく、流通・サービスの階層が多い。例えば、家電には自動車ほどの多重下請け構造はない。一方、流通に関しては、食料品や日用品において多重流通構造が存在する。<象限②>は、製造の階層も流通・サービスの階層も多い。自動車や建設、IT(BtoB)業界は多重下請け構造となっている。工作機械、機械器具の流通は多段階である。<象限③>は、製造の階層も流通・サービスの階層も少ない。映画には主に制作会社、配給会社、映画館という3種類のプレイヤーが存在するだけである。<象限④>は、製造の階層が多く、流通・サービスの階層が少ない。航空機は100万点の部品を必要とする、裾野が非常に広い製品である。一方、フライトに関しては、航空会社という1レイヤーしか存在しない。

 ただ、この産業のバリューチェーンについての記述は、まだ粗い仮説であることをご了承いただきたい。<象限②>の流通・サービスの階層は、実は短い方が多いのではないかと考えている。自動車や金融は販売チャネルが多段階になっていないと思う。「<象限②>は製造の階層も流通・サービスの階層も多い」と言うことができれば、4象限それぞれの違いがはっきりとするのだが、現時点でそのように断言できないのが私の中でもどかしいところである。

 規制に関しては、<象限①>では雇用を守る規制が多い。参入障壁が比較的低く、雇用の受け皿となっているためである。よって、大規模資本の参入は規制されやすい。日本で言えば、かつての大店法(大規模小売店舗法)がそうであった。新興国は、経済発展のために海外からの直接投資を積極的に受け入れているが、小売業に関しては自国民の雇用を守る目的で参入を規制しているケースが多々見られる(例えば、インドは外資の小売業を受け入れる意向がないことを明言している)。<象限②>は、欠陥が顧客の生命・事業に及ぼすリスクが大きいので、顧客を守る規制が多く策定されている。<象限①>や<象限②>ではこうした規制を前提として事業を行う必要があるが、<象限③>のプレイヤーは規制を破壊する。googleは著作権のルールを変えてしまったし、Airbnbも宿泊業の規制に真っ向から対立した。<象限④>は<象限③>のように敵対的ではなく、規制や規格を官民共同で策定しようとする傾向が強い。

 航空機産業では、この規格作りに参加できるかどうかがカギとなる。
 FARでは、安全上重要な要素に関しては10の9乗時間(約11万年)に1回の故障しか認めていない。これを実際の試験で証明するのは不可能に近いため、高度な解析が要求される。実際には、民間の非営利団体(アメリカのSAEやRTCA)において、業界関係者、研究者などがガイドラインを制定し、それをFAAなどの規制当局が引用する傾向にある。さらに、複雑な大規模システムの認証や、ソフトウェアの認証には、その開発プロセスや検証プロセス自体を規定するガイドラインも策定されている。こうしたガイドライン作りに参加しなければ認証方法を理解することが困難委であり、そのためには、その業界の一員でなければならない。
(鈴木真二「航空機産業を俯瞰する」)
 三菱重工業はMRJを開発するにあたって、このようなルールを策定する会議に参加していなかったため、頻繁な設計変更を余儀なくされたと述べられている。
 どういうデザインが許容されるか、あるいはされないのか、どこにも情報は公開されていないが、後述するように、航空局を含む世界の専門家が集まって、基準のドラフト作成、解釈や運用変更を協議する規則制定(ルールメーキング)の場が分野ごとに多数存在する。継続する旅客機開発からの経験の蓄積に加え、これらの会合に出席していれば、背景にある課題認識や適用範囲などに関する専門家の意見や合意事項を的確に理解し、こうした設計変更を最小限に抑えることも可能だっただろう。しかし、こうした協議の場の重要性は、MRJ開発までは明確には認識されていなかった。
(伊藤一彦、佐倉潔、小林真一、田浦伸一郎「MRJの取り組み 課題と展望」)
 最後に、異業種との関係であるが、これは<象限①>と<象限③>、<象限②>と<象限④>で違いが見られる。<象限①>と<象限③>は異業種に対して比較的開かれている。<象限①>が異業種に対して開かれているのは、前述の通り、特定セグメントの顧客に対し、様々な業種と連携して製品・サービスを提供するからである。日常品や食料品のメーカーは、協力しながら小売店を育てていく。<象限③>については、そもそもイノベーションというものが異質の組み合わせによって生じることが関係している。<象限③>では、異業種連携は大歓迎である。それが如実に表れているのが、昨今のオープン・イノベーションブームである。

 これに対して、<象限②>と<象限④>は異業種に対して閉鎖的である。要求される品質基準が高く、特定のジャンルの製品・サービスに高度に特化しなければならないことがその理由の1つだと考えられる。ただし、<象限②>に関して言えば、例えば自動車×IT(自動運転)、金融×IT(Fintech)、医療×ITといった具合に、IT業界が旗振り役となって異業種連携を推進する動きが現れている。<象限②>と<象限④>における新製品開発は、どちらも製造段階の多重下請け構造を特徴とすることから、垂直方向の擦り合わせによってなされる場合が多い。
2018年04月13日

平井謙一『これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視』―「7割は課長になれない」ことを示す残酷な1枚の絵


これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視これからの人事評価と基準―絶対評価・業績成果の重視
平井 謙一

生産性出版 1998-03

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 副題に「絶対評価・業績成果の重視」とある割には、本書の大半は「職能資格制度」の解説になっている。まず、職能等級基準書の例が示され、それをそれぞれの職種に展開した職能等級基準説明書の例が数多く掲載されている(営業、生産、サービス、企画、事務など)。

 人事考課は成績、情意、能力の3本柱で構成され、それぞれの評価基準が示されると同時に、等級が下位の場合は情意が、中位の場合は能力が重視され、上位になると成績の割合が高くなることが示されている。情意項目の例としては、規律性、積極性、協調性、責任性の4つが、能力項目の例としては、知識(・技能)力、判断力、企画力、折衝力、指導力の5つが一般的だとされているが、なぜこれらの項目で十分であると言えるのかは本書では触れられていなかった(必要な能力の導出をフレームワークを用いて試みた例として、以前の記事「グロービス・マネジメント・インスティテュート『ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術』―若者が猫も杓子もコンサルタントを目指していた時代のキャリア開発論」を参照)。

 業績成果を重視するためには目標管理(MBO)制度を導入しなければならないが、MBOが登場するのはようやくp201になってからである。しかも、本書では「従来の職能資格制度を修正して目標管理制度を導入する(同時に、職能給から年俸制へと移行する)」と書かれているのに、職能資格制度における人事考課と目標管理をどのように融合させるのかについては論じられておらず、両者が併存したままになっている。

 本書では、年功制について次のように述べられている箇所がある。
 年功序列制度は、チームワークの優劣が組織の業績を左右する企業であれば、現在でも有用である。(中略)ある企業では、現在でも、年功序列型の人事制度を固守し、成功している。この場合、賃金処遇ではほとんど差がつかないが、仕事の内容で光の当たる部分と、やや光の当たりにくい、地味な部分があるだけなのである。この職場の雰囲気は、足の引っ張り合いがなく、チームワークは良い。また、ノウハウを共有できる特徴がある。
 欧米企業も最近はチームワークの重要性を認識するようになっている。ということは、むやみやたらと業績主義や成果主義に走るのではなく、むしろ年功制の方が有効なのではないかとさえ思えてくる。ちなみに私は、業績給・成果給においては、どんな計算をしても企業の業績を個人の業績に還元することができず不平不満が残るため、不平等をもたらすかもしれないが最も簡便な人事制度として年功制を支持していることは本ブログでも何度か書いた。

 また、副題にある「絶対評価」をめぐっては、次のような記述がある。
 これからの人事評価の正しいあり方として、第1に、第1次評価、第2次評価は絶対評価を行なう。第2に、調整段階または最終段階で必要に応じ相対評価を行なう。調整段階、最終段階でも、賃金原資や定員枠に余裕のある限り、絶対評価を尊重する姿勢を堅持する。これを原則とするのが好ましい。
 ただ、残念ながら現在の多くの日本企業では、賃金原資はともかく、定員枠には余裕がない。よって、調整段階や最終段階では相対評価となるだろう。いや、以前の記事「元井弘『目標管理と人事考課―役割業績主義人事システムの運用』―言葉の定義にこだわる割には「役割業績給」とは何かが不明なまま」に従えば、相対評価ではなく「相対考課」が正しい。

○図1
企業の人員構成の変化

 現在の日本企業に定員枠がないことを、図1を使って説明したいと思う。図1はかなり荒っぽいモデルであることをあらかじめご了承いただきたい。図1は、社長が3人の部下を引き連れて創業するケースを想定している(便宜的に、社長を係長の枠に入れている)。上司:部下の割合は1:3とし、今後も原則としてはこの比率を保持する。この企業は労働集約型企業であるとして、社長の売上高は2,000万円、部下である一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計4人で売上高5,000万円となる。10年後には、3人の部下は昇進し、それぞれ3人ずつ新しい部下を持つ(便宜的に、社長を課長の枠に、社長の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は3,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計13人で売上高1億5,000万円となる。

 さらに20年後には、社長の部下と一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が27人入ってくる(便宜的に社長を部長の枠に、社長の部下を課長の枠に、社長の部下の部下を係長の枠に入れている)。社長の売上高は4,000万円、社長の部下の売上高は1人あたり3,000万円、社長の部下の部下の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計40人で売上高5億8,000万円となる。

 30年後には、社長の部下、社長の部下の部下、一般社員がそれぞれ昇進し、新しい一般社員が81人入ってくる。社長の部下は部長、社長の部下の部下は課長、一般社員は係長となる。社長の売上高は5,000万円、部長の売上高は1人あたり4,000万円、課長の売上高は1人あたり3,000万円、係長の売上高は1人あたり2,000万円、一般社員の売上高は1人あたり1,000万円とする。すると、合計121人で売上高17億9,000万円となる。

 ここまでは、入社した社員が皆昇進することができるので問題ない。問題はここからである。40年後に、9人の課長を部長に、27人の係長を部長に、81人の一般社員を係長に昇進させ、81×3=243人の一般社員を入社させたとしよう。1人あたり売上高は、社長が5,000万円、部長が4,000万円、課長が3,000万円、係長が2,000万円、一般社員が1,000万円であるから、合計360人で売上高52億7,000万円となる。30年後の売上高が17億9,000万円であることを踏まえると、10年で売上高を約3倍にしなければならない。売上高は、創業直後5,000万円⇒10年後:1億5,000万円⇒20年後:5億8,000万円⇒30年後:17億9,000万円と推移しており、だいたい10年間で3倍になっている。売上高を10年間で3倍にするためには、毎年約12%の成長が必要となる。創業後30年ほどは高成長が続くから、このぐらいの成長率でも問題ないだろう。しかしながら、創業後40年ともなれば、成長率が落ちてくるのが普通である。

 もはや全員を昇進させることはできない。だが、できるだけ多くの社員に昇進の機会を与えたい。そこで、今まで上司:部下=1:3となっていたのを、1:4にする。すると、40年後には部長4人、課長16人、係長64人、一般社員256人となる。合計341人で売上高は45億3,000万円である。これは、30年後の売上高17億9,000万円の約2.5倍である。50年後も同様である。16人の課長を部長に、64人の係長を部長に、256人の一般社員を係長に昇進させることはできない。代わりに、上司:部下=1:4となっていたのを、1:5にする。すると、50年後には部長5人、課長25人、係長125人、一般社員625人となる。合計781人で売上高は97億5,000万円である。

 以降同様に、60年後は上司:部下=1:6とし、部長6人、課長36人、係長216人、一般社員1,296人とする。合計1,555人で売上高は186億5,000万円である。70年後は上司:部下=1:7とし、部長7人、課長49人、係長343人、一般社員2,401人とする。合計2,801人で売上高は326億7,000万円である。80年後は上司:部下=1:8とし、部長8人、課長64人、係長512人、一般社員4,096人とする。合計4,681人で売上高は534億9,000万円である。90年後は上司:部下=1:9とし、部長9人、課長81人、係長729人、一般社員6,561人とする。合計7,381人で売上高は830億3,000万円である。100年後は上司:部下=1:10とし、部長10人、課長100人、係長1,000人、一般社員10,000人とする。合計11,111人で売上高は1,234億5,000万円である。

 この間、売上高の伸び率は、
 ・40年後:45億3,000万円⇒50年後:97億5,000万円(約2.2倍)
 ・50年後:97億5,000万円⇒60年後:186億5,000万円(約1.9倍)
 ・60年後:186億5,000万円⇒70年後:326億7,000万円(約1.8倍)
 ・70年後:326億7,000万円⇒80年後:534億9,000万円(約1.6倍)
 ・80年後:534億9,000万円⇒90年後:830億3,000万円(約1.6倍)
 ・90年後:830億3,000万円⇒100年後:1,234億5,000万円(約1.5倍)
と、徐々に伸び率が鈍化していく。それでも、仮に10年間で売上高を1.5倍にしようとすれば、毎年4%の成長が求められる。10年間で売上高2倍なら、毎年7~8%の成長が必要である。

 110年後以降であるが、一般的にスパン・オブ・コントロール(管理の範囲)は部下10人と言われているから、これ以上1人の上司に対する部下の数を増やすことは困難になると思われる。よって、組織は100年後と同じ人員構成を維持しようとすることになるだろう。

 注目してほしいのは、矢印で示した「昇進率」である。前述の通り、創業から30年後までは全員を昇進させることができた。ところが、40年後以降はポストが不足する。そして、図1をご覧の通り、上の階層に行くほど、そして創業からの年数が経過するほど、昇進率が下がる。

 日本企業の多くは戦後の高度経済成長期に設立されたと推測され、図1の40年後~50年後がちょうど20世紀末にあたる。この時期には、各企業は子会社を作って余剰人員を転籍させることができた。連結決算についてもそれほどうるさくなかったから、小さな子会社を乱立させていた時期である。ところが、2001年に連結決算が本格的に施行されると、その手が使えなくなる。図1の60年後~70年後がまさに2000年代~2010年代を表している。連結決算が適用されるので、下手に赤字子会社を作るわけにはいかない。子会社を作って新規事業に算入するならば、本業の規模に見合ったものにしなければならない。図1でお解りのように、この時期には日本企業はそれなりの規模になっていたため、新規事業の種探しも困難を極めるようになった。

 バブル期は図1で言うと40年後に該当する。この時期に入社した社員が10年後に係長に昇進する割合は49%にすぎない。10年後に係長に昇進しても、さらにその10年後に課長に昇進する割合は29%であるから、課長に昇進する割合は49%×29%=約14%である。『7割は課長にさえなれません』というのは決して誇張ではない(旧ブログの記事「日本型雇用制度は半世紀持ったんだから十分だろ-『7割は課長にさえなれません』(補足)」を参照)。

 私は前述の通り年功制を支持する一方で、終身雇用については支持していない。図1でも明らかな通り、全員にポストを用意することは不可能である。かといって、既存社員の雇用を守るために若者を排除するのは愚策である。若者が雇用不安に陥ると、社会全体が動揺することは、フランスやドイツを見れば明らかである。よって、企業は若者を積極的に採用する反面、一定の年齢に達した社員のうち、一定の割合を外部に転出させなければならない。転出した社員は自ら起業するか、転出した社員が興した企業に転職することになる。

 現在、バブル期に入社したミドル社員がポストをふさいでいることが多くの企業で問題になっているようだが、私は遅かれ早かれ、解雇の要件が緩和されると思う。代わりに、産業界は、円滑な起業・転職を推し進めるために、助成金を給付する基金を共同で構成したり、起業・転職希望者を対象とした能力開発を行う組織をサポートしたりする必要が出てくるだろう。

○図2<年齢5階級別人口(平成42年)>
年齢5階級別人口(平成42年)

 以前の記事「『未来をつくるU-40経営者(DHBR2016年11月号)』―U-40の起業家は歳が近くて悔しくなるので、Over50の起業について考えてみた」では図②のようなグラフを用いた(初出は旧ブログの記事「高齢社会のビジネス生態系に関する一考(1)―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』(2)(3)」)。平成42年とは12年後の2030年のことであるが、この頃には、20代を底辺とし、70代ぐらいを頂点とする従来型の組織と、40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織が出現すると書いた。仮に21世紀に入ってから企業がミドル社員の転出・起業を既に促していたとすると、30年後の2030年には図2のような2つのタイプのピラミッド組織が併存しているに違いない。

○図3
人口ピラミッド

 さらに時間が進んで2040年になるとどうであろうか?40代後半~50代前半を底辺とし、80歳近くを頂点とする新しい組織も創業40年を迎え、全員が昇進できなくなる。ということは、この新しい組織においてもまた、一定の年齢に達した社員の一定割合が転出を促される。その転出は、40代後半で入社して10~15年後ぐらいから始まると仮定すると、今度は50代後半を底辺とし、80歳近くを頂点とする第3の組織も誕生すると予想れる(図3左側)。その結果、60~64歳の約7割、65~69歳の約4割、70~74歳の約2割、75~79歳の約1割が働き続けることになる。2065年になると、図3の右側のように変化する。60~64歳の約8割、65~69歳の約5割、70~74歳の約3割、75~79歳の約2割が働き続けると推測される。

  • ライブドアブログ
©2009 free to write WHATEVER I like