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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2017年05月01日

【ドラッカー書評(再)】『明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命』―非営利組織のマネジメントは本当に難しい

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明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命
P.F. ドラッカー Peter F. Drucker

ダイヤモンド社 1999-03

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 動機づけ、とくに知識労働者の動機づけは、ボランティアの動機づけと同じである。周知のように、ボランティアは、まさに報酬を手にしないがゆえに、仕事そのものから満足を得なければならない。何にもまして、挑戦の機会を与えられなければならない。組織の使命を知り、それを最高のものと信じられなければならない。よりよい仕事のための訓練を受けられなければならない。成果を理解できなければならない。
 ドラッカーによると、アメリカは日本よりも非営利組織の数が多い。そして、企業に勤める人の大半は、1週間のうち一定の時間を、非営利組織での仕事に費やしている。ドラッカーは、非営利組織にも企業と同じくマネジメントが必要であると説いた。特に非営利組織の場合は、メンバーの大部分が無報酬のボランティアであるため、組織の明確な使命によって彼らを惹きつけ、やりがいのある仕事によって動機づけなければならないと述べた。

 ただし、ドラッカーの主張には1つの前提があると思う。それは、非営利活動に参加する人々は、本業の仕事において、ある程度の金銭的報酬を得ているということである。その上で彼らは非営利組織に参加し、自分が勤めている企業ではなかなか得られないようなやりがい、満足度、達成感を期待している。だから、非営利組織での仕事がたとえ無報酬であっても、進んで非営利組織やその顧客のために働くことができる。

 ここからは中小企業診断士の話をしたい。診断士の世界にも様々な非営利組織が存在する。中には会員の親睦が目的の組織もあるが、そういう組織はドラッカー風に言えば「成果が組織の内部にある組織」であるから、勝手に運営してくれればよい。問題は、「成果が外部にある非営利組織」である。具体的には、普段は一匹狼で動くことが多い診断士が集まり、組織としての力を発揮して、顧客企業から大きな仕事を獲得することを目的とする非営利組織のことである。

 こういう組織は、ドラッカーの言うボランティアのような動機づけが通用しないと感じる。具体的なコンサルティングの仕事を受注するという時点で、普通の株式会社とほぼ同じである。株式会社との違いは、非営利組織には出資者がおらず、また利益をメンバーに還元することが許されず、利益の全額を新しい投資に回さなければならないという点である。さらに、診断士から構成される非営利組織のメンバーは、ドラッカーが想定する非営利組織とは異なり、非営利組織からの金銭的報酬に生活の一部を依存している。非営利組織から満足な報酬が得られなければ、株式会社とは違って雇用契約で結ばれた関係ではないため、メンバーは組織から離れていく。

 ブログ別館の記事「諸富祥彦『あなたのその苦しみには意味がある』―他者貢献から得られる「承認」は日本人にとって重要な比較不可能な報酬」で、非金銭的報酬としての「承認」を強調したため、私は金銭的報酬を軽視しているのではないかと感じている方がいらっしゃるかもしれないので、ここで少し補足しておきたい。私は決して、金銭的報酬を否定しているわけではない。むしろ必須である。考えてもみてほしい。皆さんがお勤めの企業から「明日から皆さんの給与はゼロです。ただし、魅力的な仕事はあります。だから出勤してください」と言われて、どれほどの人が素直に出勤するだろうか?金銭的報酬の持つ動機づけの力は強力である。ただし、金銭的報酬は評価システムをどのように設計しても不公平感が残る(※)。そこで、承認という非金銭的な報酬によって、その不公平感を無害化しようというのが私の主張である。

 診断士の非営利組織は、会員に相応の報酬を支払わなければならない。報酬を支払うためには、実際にコンサルティングの仕事を取ってこなければならない。ここからは私が知っているある非営利組織の話になるが、コンサルティングの仕事を受注しなければならないことが解っていながら、そもそも組織としての使命がはっきりしていないことが問題になっている。使命がはっきりしていないため、具体的に誰をターゲットとし、どのような価値を提供するのかも決まっていない。提供価値があやふやであるから、実際に提供可能なコンサルティングのメニューも決まっていない。メニューがないのだから、ソリューションの開発計画も存在しない。

 にもかかわらず、この組織のトップは、とにかく「仕事を取ってこい」と発破をかけるばかりである。営業活動の原資は、所属する会員から徴収する年会費であるが、そんなものは所詮微々たるものである。組織の方向性が曖昧な状態で、かつ営業活動はほとんどボランティアに近いとなれば、メンバーのモチベーションも上がるわけがない。当然、仕事も満足に受注できないので、それに焦りを感じた組織のトップは、営業活動の原資を増やすために、会員から徴収する年会費を数倍に一気に引き上げることを検討している。メンバーは、金だけをいいようにこの組織にむしり取られるのではないかと恐れている。さらに、まだ仕事が取れていないというのに、プロジェクトを受注した営業担当者とプロジェクトに関わったメンバーに対して、受注金額の何割を配賦し、組織にいくら残すかという内部の仕組みの話ばかりに議論が集中している。

 一言で言えば、この組織は外部に目を向けていない。本来ならば、組織としてのミッションを固め、どこにコンサルティングの機会がありそうかをまずは探索するべきである。そして、その領域に既に参加している競合他社の能力やサービスを研究するとともに、この組織のメンバーの強みを分析して、この組織が競合他社とどのように差別化を図るのかを決めていく。そして、そのポジショニングを実現するための各種ソリューションをメニュー化して、それぞれのソリューションを形にし、販売するための開発計画と販売計画を立案する。さらに、これらの計画に基づいて収支シミュレーションを行い、持続的な成長が可能な計画になっているかを検証する。同時に、資金繰りについてもシミュレーションをし、当面必要な運転資金を算出する。その運転資金は、メンバーの年会費をあてにするのではなく、金融機関からの借入金でまかなうべきである。

 私が知っている診断士の非営利組織の中には、仕事を受注しているところもある。だが、その仕事の中身を見て愕然とするケースがある。ある非営利組織は、行政から中小企業の経営実態調査を受託した。ある市区町村内の中小企業を診断士が1社ずつ巡回し、20問ぐらいからなるアンケートに答えてもらい、経営者が何か相談したいと言えば診断士がその場で相談に乗り、帰宅後にアンケート結果と相談内容を所定のフォームに入力するという仕事である。まともにやると1社あたり1時間以上は時間がかかる。それなのに、1社あたりのフィーは1,000円程度である。移動時間などを考慮に入れたら、間違いなく最低賃金を下回るはずである。私が最初この話を聞いた時、報酬額は桁が1桁間違っているのではないかと耳を疑った。

 行政は、一般の調査会社に依頼したら、予算を大幅にオーバーすることが解っていたのだろう。その点、診断士の非営利組織に依頼すれば、非営利組織と診断士の間の契約は雇用契約ではなく業務委託契約であるから、最低賃金を下回っていようと問題がないことを見抜いていたに違いない。近年、ブラック企業が社会的問題になっているが、私はこれを「行政によるブラック委託」と名づけたい。この手の問題には、「公契約条例」の導入が1つの解になると考える。

 アメリカには、生活賃金(リビング・ウェイジ)条例という取り組みがある。日本においても、例えば東京都が発注する大量の公共事業について、それを請け負う労働者の最低賃金を公契約条例によって時給1500円と定める、といったことが考えられる。時給1500円ならば、月150時間の労働で22万5000円になる。行政には、「行政が発注する仕事だから安い金額で我慢してほしい」と安易な言い逃れをしないでいただきたい。行政は、自分が発注しようとしている業務がどれくらいの仕事量を必要とするのか?その仕事量に適正な時間単価をかけると、人件費としていくら支払うべきなのか?といった観点から、発注額の適正化をお願いしたいところである。

 以上、診断士の世界の生々しい話をしてしまったが、メンバーに対して報酬を支払うことになっており、その報酬がメンバーの生活費においてある程度重要なウェイトを占めているような非営利組織の場合は、大義や達成感といったあやふやなもので乗り切れると考えてはいけない。一定の金銭的報酬を必要条件とし、その金銭的報酬だけでは満たされない満足感を、仕事自体のやりがいや周囲からの承認によって補うようなマネジメントを行う必要がある。

 (※)金銭的報酬を厳密に計算しようとすると、個人のパフォーマンスが企業の成果とどのように結びついているか、新規事業開発やイノベーションに果敢にも挑戦したが失敗した人に対してどのように報いるべきか、短期的には成果が上がったものの、中長期的には企業の業績を蝕む結果になった場合に、既に支払った報酬をどうすべきか、といった様々な問題が生じる。これらの論点に1つ1つ真面目に答えていくと、報酬制度は複雑怪奇なものにならざるを得ない。

 そこで私は、そもそも金銭的報酬が仕事に対する対価であるという考え方を捨てている。金銭的報酬の第一義的な意味合いは、社員の生活費をカバーすることである。社員が安心して生活し、次の世代を再生産する(=子どもを産み育てる)とともに、前の世代の恩に報いる(=親を介護する)ための資金を供給することである。生活費は年齢とともに上昇する。よって、最善ではないが最も公平に近い賃金制度は年功制であると私は考える(以前の記事「坂本光司『日本でいちばん大切にしたい会社2』―給与・採用に関する2つの提言案(後半)」を参照)。
2017年04月15日

『絶望の朝鮮半島・・・/言論の自由/世界を動かすスパイ戦(『正論』2017年5月号)』―緊迫する朝鮮半島で起こりそうなあれこれ、他

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正論2017年5月号正論2017年5月号

日本工業新聞社 2017-04-01

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 『正論』2017年5月号の記事は5月にアップしようと思ったが、朝鮮半島の情勢が想像以上に緊迫してきたため、急遽4月にアップすることとした。

 (1)以前の記事「『トランプ大統領/進まぬ憲法改正/「生前退位」でいいのか/「死刑廃止」宣言(『正論』2017年1月号)』―朴槿恵問題は一歩間違えば朝鮮半島の”革命”を引き起こしていた、他」で、朝鮮半島で起こり得るシナリオのうち、最も可能性が高く、かつ日本にとって最悪なのは、今度の韓国の大統領選挙で文在寅氏などが当選して親北左派政権が誕生し、中国の支援を受けて北朝鮮あるいは韓国主導で、朝鮮半島に核兵器を持った単一の共産主義国家が誕生することだと書いた。だが、ここに来て事態は急変している。

 ①まず、アメリカは本当に北朝鮮を先制攻撃するのかという問題がある。シリアが化学兵器を使用したという理由でアメリカがシリアを空爆し、ロシアの軍事拠点を破壊したことで、親ロ路線を進んでいたトランプ政権は完全に方針転換を余儀なくされた。プーチン大統領は、現在の米ロ関係は史上最悪だとまで述べている。このタイミングで北朝鮮を攻撃すれば、次は中国をも敵に回すことになる。ロシアと中国に同時に対処できる力が今のアメリカにあるだろうか?

 ②仮にアメリカが北朝鮮を攻撃するとして、何を大義名分に掲げるのかも問題である。シリアの場合は、化学兵器禁止条約違反を理由に空爆を行った。北朝鮮の場合、核心は核兵器にあるわけだが、現在のところ、核兵器を完全に禁止する条約は存在しない。核拡散防止条約(NPT)はあるものの、北朝鮮は同条約から脱退している。よって、核兵器を保有しているという理由で攻撃するという論理は成り立たない。もっとも、北朝鮮がマレーシアで金正男氏をVXで殺害しており、化学兵器を大量に保有しているという報道もある。アメリカなら、それを口実に攻撃をして、ついでに核関連施設を破壊するということも考えそうだが、理屈としては苦しい。

 ③アメリカが攻撃をする場合は、アメリカに核兵器が飛んでくることを防ぐのはもちろんのこと、同盟国である日本や韓国に被害が及ばないようにするために、ICBM(大陸間弾道ミサイル)と短距離ミサイルの基地を集中的かつピンポイントで一斉に攻撃すると思われる。また、同時に、北朝鮮のミサイルシステムに対して、大量のサイバー攻撃を仕掛けるであろう。さらに、核のボタンを握っている金正恩氏の斬首計画も進行するはずである。これらの作戦は短期決戦で行われ、かつミスなく遂行することが要求される。

 ④トランプ大統領は、中国が北朝鮮問題のカギを握っていると述べている。先の米中首脳会談でトランプ氏は習近平氏との昵懇をアピールし、中国が北朝鮮にさらなる強力な圧力をかけてくれることを期待している。その裏では、トランプ氏が対中貿易赤字の面で中国に大幅に譲歩したと推測される。だが、中国がどのようにして協力するのかは、どの報道を見てもいまいちピンとこない。1つ言えるのは、アメリカが北朝鮮を攻撃するのを中国は黙って見ていろという約束ではないのは確かである。北朝鮮をアメリカに取られることは、中国にとってアメリカの脅威が北上することを意味するから、中国としては望ましい事態ではない。

 ここからはかなり大胆な予想であるが、アメリカは中国に対し、中国が庇護していた金正男氏を暗殺された報復として、中国が金正恩氏を斬首することを要求したのではないかと考えている。そして、中国共産党が新たに正統性を付与した政権を打ち立てる。そうすれば、中国としても、北朝鮮を従来通りアメリカとの間の緩衝地帯として活用することができる。ただし、中国と北朝鮮が今まで構築してきた深い関係は、アメリカとの貿易という金銭的な価値と天秤にかけられるような簡単なものではない。中国が約束を履行しない可能性は十分にある(そもそも、先の米中首脳会談では、共同声明すら発表されていない)。

 ⑤アメリカによる攻撃のタイミングはいつなのかも不透明である。①で述べたように、シリア問題が深刻化しているため、アメリカが今すぐに北朝鮮を攻撃する可能性は低いと見ている(と書いたそばからアメリカが攻撃するかもしれないが)。シリア問題はヨーロッパの難民問題と関係しており、世界的な問題であるという意識が共有されている。一方、北朝鮮の核問題に関しては、残念ながらそこまで至っていない。ヨーロッパ諸国は、極東の小国が好き勝手に暴れているというぐらいの認識しか持っていない。つまり、北朝鮮問題は世界的に見て優先順位が低い。それに、アメリカが北朝鮮を攻撃する場合、韓国の軍隊が投入されることになるが、韓国軍の最高指揮官である大統領は現在不在である。だから、大統領選の結果を待つ必要がある。

 ⑥北朝鮮は、アメリカが先制攻撃をしてきたら、在日米軍基地をミサイルで攻撃すると公言している。仮に日本にミサイルが飛んできた場合、日本の自衛隊はこれを迎撃できるのであろうか?これについては、私も日本の軍事情勢に詳しいわけではないため、よく解らない。ただ、本号によると、海上自衛隊は日本海に常時イージス艦を1隻警戒配置しているが、日本の迎撃技術では一度に2発しか撃てない。一方で、北朝鮮は4発以上のミサイルを同時に発射する技術を確立している。したがって、北朝鮮のミサイルのうち、一部は日本本土を直撃するリスクがある(加藤達也、古田博司「私を弾圧した朴政権の最期」より)。

 ⑦⑤で述べたように、韓国は現在大統領が不在であるから、5月の大統領選が終わって政権が落ち着いた頃でなければ、現実的には北朝鮮を攻撃できないと思われる。ただし、ここで問題なのは、冒頭でも書いたように次の政権が親北左派になった場合である。アメリカの北朝鮮攻撃に対し、韓国が寝返るかもしれない。つまり、米韓同盟を破棄し、北朝鮮とともにアメリカと戦うというシナリオである。さらに、ここに加えて、中国までもが裏切り、北朝鮮を支援するようになれば、アメリカは南北から挟撃され、非常に苦しくなる。朝鮮戦争は長期化する恐れがある。

 (2)以前の記事「山本七平『人間集団における人望の研究』―「先憂後楽」の日本、「先楽後憂」のアメリカ」などでも書いたが、日本人は基本的に利他的な人種である。他者から何かを得たければ、自分からまずは何かを他者に与える。他者から何かをしてほしくなければ、自分がまずはそれを放棄する。日本人には謙虚な姿勢で自己を犠牲にする精神が身についている。確かにこれは日本人の美徳であり、私も日本が世界に誇るべきことの1つであると思う。

 この利他的な精神、別の言い方をすればお人好しの精神は、国内だけでなく国際政治の舞台でも発揮される。以前の記事「守屋武昌『日本防衛秘録―自衛隊は日本を守れるか』―基地の必要性を国民に納得させることはできない」でも書いたように、通常は自国をどう防衛するかという議論が先にあって、その議論が成熟したのちに国際貢献を検討するものであるが、日本の場合はこの議論が逆になっている。PKO法が20世紀に成立したのに対し、安保法制はようやく2年前に成立したにすぎない。駆けつけ警護は可能であるのに、海外における邦人救出については依然としてハードルが高い(だから、北朝鮮の拉致問題が一向に解決しない)。日本の経済はもう20年ぐらいずっと横ばいで苦しい状態なのに、海外支援には熱心に資金を供給する。

 ただ、(1)でも見たように、国際政治の舞台では、日本の利他的精神が全く通用しない相手がいるという事実から目を背けることはできない。左派であれば、戦争が起きるのは各国が武器を持っているせいだから、武器を全廃しよう、日本の憲法のように平和主義を採用しようと言うだろう。だが、「日本人は相手を攻撃しないから、海外の人も同じように考えるべきだ」という主張は、利他的であるように見えて、実は自分の都合を相手に押しつけるエゴイスティックな論法である。国内の人間関係と、国家間の関係は性質が違うことを左派の人々は理解していない。

 国家間の関係は、不信、緊張が基本である。国家の主たる役割は、主権、領土、国民を守ることである。これら3要素が、いつ何時、諸外国から侵害されるか解らないという不信感を国家は抱いている。よって、国家は自ずと利己的、自己保存的にならざるを得ない。そのために、軍隊という暴力を持つ。その軍隊によって外国からの脅威を低減させることができているから、国内の人間は安心して利他的に振る舞うことができる。相手を信頼して取引をすることができる。

 ここで左派は次のように言うだろう。国家という機構があるから、軍隊という暴力が発生する。世界同時革命によって世界政府を作り、世界中の人々が平等になれば、世界中で信頼が醸成され、戦争はなくなるのではないかと言うわけである。ただし、世界中で完全なる平等を実現するには、世界中どの地域に行っても同じように作物が収穫できて食べるのに困らず、世界中どの地域に行っても同じように天然資源が入手できて産業に困らないといった状態が前提となる。ところが、現実の世界はそうはなっていない。世界各地は非常にバラエティに富んでいる。ということは、どうしても土地や資源の奪い合いが避けられない。つまり、国家が発生する。

 国家とは、領土内の資源(国民を含む)を最大限に活用して、国力を増強するためのルールを定める機構である。世界の地理は不釣り合いであるから、国家が生じる。そして、各国のルールが異なるから、国家には多様性が生まれる。世界政府を提唱したカントは、そういうルールには普遍的なルールがあると主張した。だが、実際にはそれぞれの国家が抱える資源の量や質が異なるので、各国の事情に応じたルールが策定される。さらに、それぞれの国家は、隙あらば他国との格差を埋めようと狙っている。相互不信を出発点として徐々に信頼関係を構築し、条約などを締結する。それが無理ならば暴力的な手段に出る。日本国内と同じやり方で、最初から相手を信頼して下手に出ることは命取りになりかねない。これが国際政治の現実なのである。

 (3)本号の本筋からは外れるのだが、「日本虚人列伝」という連載で内田樹氏のことが取り上げられていた。人生相談では非常に的確な助言をするのに、こと問題が政治となると、まるで頓珍漢な回答をしてしまうことを批判している記事であったが、その中にこんな記述があった。
 広告代理店に就職してみたいという学生が就職活動の準備として「何やっとけばいいんですか?」という質問をしている。(中略)

 しかし、内田氏の回答は見事だ。問題に対する「正解」を求ているこの学生は「クリエイター」に向かないから、広告代理店に就職するのは止めた方がいいというのだ。そして、「最低限これだけはやっておけばいい」という最低限の水準を求める行為そのものを「そんなことをやっていても何にもなりませんよ」と一蹴する。さらに、最低レベルだけをこなすような人間は「いくらでも換えが利く」人間であり、「ある日いなくなっても誰も困らないし、誰も気がつかない」とまで断じている。
(岩田温「日本虚人列伝 第8回「内田樹」 売れっ子思想家先生が、見当外れの政治談議をつづける理由」)
 この内容には私も同感である。以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第25回)】「顧客から100を要求されたら101を提供すればよい」というマインド」で、顧客からの要求を少し上回る成果物を出せばよいと考えているマネジャーの話をしたが、目標を立てても往々にして結果はそれを下回ることをこのマネジャーは理解していない。顧客から100を要求されたら、130ぐらいを目指さなければならない。実際には8割程度の出来にしかならないから、130×0.8で104となり、ギリギリ顧客の要求を上回ることができる。元中日監督の落合博満氏は、3割バッターは3割を目標とするのではなく、3割3分ぐらいを目標とするから3割を達成できると語っていた。

采配采配
落合博満

ダイヤモンド社 2011-11-17

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 偏差値の高い学生の中には、試験で合格点ギリギリを狙うような勉強法をする人が少なからず存在する。確かに、試験に合格するためであれば、それでよいのかもしれない。しかし、それと同じ態度を人生全般に当てはめるのはよくないと私は思う。こういう人たちは、合格するのに必要最低限の知識を効率よく学習しようとする。しかし、新しいアイデアやイノベーションは、効率的な学習からは生まれない。むしろ、非効率な学習からこそイノベーションは生まれる。

 「こんなことを覚えて何の役に立つのか?」と思えるような知識でも、とにかく貪欲に吸収する。大量に知識を覚えると、既存の知識との間で齟齬が生じるようになる。自分の記憶の中で矛盾点が存在するのは非常に気持ちが悪い。そこで、脳はその非合理性を何とか論理的に説明しようと努力する。すると、そこから新たなアイデアが生まれることがある。また、しばしば言われるように、イノベーションというのは全くの無から生まれるのではなく、既存の知識の組み合わせによって生じるものである。ということは、脳に保管されている知識の量が多いほど、知識の組み合わせのパターンは多くなり、イノベーションの源泉が豊かになる。逆に、最低限の知識で済まそうとする人の脳内は、知識がスカスカであり、良質な知識のネットワークが形成されない。
2017年03月31日

『イノベーション研究 これからの20年(『一橋ビジネスレビュー』2017年SPR.64巻4号)』―ビジネスプロセスのデザインに社会的要請を反映させる法

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一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号一橋ビジネスレビュー 2017年SPR.64巻4号
一橋大学イノベーション研究センター

東洋経済新報社 2017-03-10

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 私がコンサルティングを行う場合には、BPR(Business Process Re-engineering)的な発想をすることが多い。BPRとは、元々は1990年代にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーが生み出したコンセプトで、日本では『リエンジニアリング革命』という書籍で紹介されている。BPRの目的は、「社内のビジネスプロセス(業務プロセス)を部門横断的に再構築(Re-engineering)して全体最適化し、顧客価値を最も効果的・効率的に実現すること」である。

 ただ、当時のアメリカ企業は、株主から短期的に業績を改善させて株価を上昇させるよう、強いプレッシャーを受けていた。経営陣は、手っ取り早くコストカットやリストラを行う手段としてBPRに飛びついた。その結果、短期的には確かに業績が回復したが、過剰なBPRによって必要な組織能力までが削がれたため、長い目で見ると再び経営不振に陥ってしまった。マイケル・ハマーは、自分の提唱したコンセプトがこのような形で利用されたことを後年になって反省している。

BPRの考え方

 繰り返しになるが、BPRの本来の目的は、全社のビジネスプロセスの最適化によって高い顧客価値を実現することにある。BPRの考え方をまとめたのが上図である。まず、自社の経営ビジョンや事業戦略をインプットとして、自社がどの方向に向かおうとしているのかを明らかにする。それを受けて、その方向を実現するためのあるべきビジネスプロセス(別の表現をすれば、社員の行動の流れ)をデザインする。その上で、ビジネスプロセスに対して人、モノ、カネ、情報といった経営資源を効果的・効率的に投入するための仕組みを構築する。

 失敗する全社改革は、ビジネスプロセスの議論をせずに、いきなり経営資源を投入するための仕組みを変えようとしていることが多い。もう随分昔の話になるが、富士通が成果主義を導入して失敗したのは典型例である。富士通として目指すべきビジネスがまだ明らかになっていないのに、成果主義という人事制度だけをいじったために、現場が混乱してしまった。また、なかなか業績が安定しないソニーも、EVA会計を導入したことがイノベーションの芽を摘んでいると言われる。EVA会計は、投資案件の将来価値をかなり正確に計算できる反面、芽が出るかどうか解らない中長期のハイリスク案件が排除されてしまうというデメリットがある。ITについて言えば、競合他社に遅れまいと流行のシステムを導入して失敗したという話は数え上げればきりがない。

 BPRで重要なのは、ビジネスプロセスのあるべき姿を最初にしっかりと固めることである。その手順を簡単に下図に示した。まず、自社の事業環境(客観的な情報)と経営ビジョン(主観的な情報)を分析し、主要な経営課題を抽出する。そして、それらの経営課題を達成するためのビジネスプロセスのあるべき姿の方向性を固める。あるべき姿の方向性は、この後の作業で具体的にビジネスプロセスをデザインする際の基軸となる極めて重要な考え方である。

 下図は自動車メーカーの例であるが、まずSWOT分析によって、「多様な顧客に対し、個々に適切に訴求」、「本社のノウハウを販社にも共有」という経営課題を導いている。また、経営ビジョンの解釈を通じて、「顧客の把握、顧客に合わせた接点」、「全社情報・ノウハウの集約化」という経営課題を抽出している。これら4つの経営課題から、あるべき姿の方向性を定義する。あるべき姿の方向性は、ビジネスプロセスの基軸となる考え方であるから、プロセス志向で記述する必要がある。下図では、①顧客理解深化と「個」客応対型セールス、②本社によるサポート強化と営業プロセス標準化、③マルチチャネルの活用、という3つの方向性を打ち出している。

あるべき姿のデザイン~作業イメージ

 あるべき姿の方向性が定まったら、それに基づいて具体的なビジネスプロセスへと落とし込んでいく。まず、縦軸にあるべき姿の方向性を、横軸にビジネスプロセスを並べる(下図では顧客の消費プロセスとなっているが、どちらでもよい)。そして、それぞれの方向性を受けて、ビジネスプロセスの各フェーズにおいて具体的にどのような業務を行うのかを記述する。例えば、「①顧客理解深化と「個」客応対型セールス」という方向性を受けて、「情報収集」フェーズでは、「個客ごとに最適化された質の高い情報の作成」という業務を行う、といった具合である。さらに細かくビジネスプロセスを定義する場合には、今度は縦軸に部門・担当者を並べて、各部門・担当者がそれぞれのビジネスプロセスのフェーズで具体的にどのような業務を行うのかを書いていく。

あるべき姿のデザイン~あるべき姿の詳細化

 以上がオーソドックスな方法であるが、最近はCSRもしくはCSVの観点から、社会的要請を反映させたあるべき姿をデザインする方法を考えなければならないと感じている。本号では、循環型経済を実現するために企業が着手すべきこととして、次のような提案がなされている。
 特に、生産プロセスは最終製品そのものと生産に使用されるすべての原料が、分別・再収集可能で、再利用されるか安全に自然に返されるよう、必ず再デザインされなければならない。
(ジョエル・ベーカー・マレン「循環型経済のためのイノベーション」)
 ビジネスのためのイノベーションが直面する最大の課題は、生物学的な投入物(※綿や羊毛のように、製品寿命が終わった際に安全に自然に返すことができる原料のこと)と技術的な投入物(※金属や石油化学製品のような原料で、生産過程で意図的に価値を持つように意図的に加工を施されたもの。安全に自然循環に返すことができない)を製品使用後に効率的に収集・分離し、これらを直線的システムではなく循環型経済システムのなかで機能するような製品と生産プロセスにデザインしていくことである。(同上)
 前述の自動車メーカーの例で言えば、安直な発想だが、4つ目のあるべき姿の方向性として、「④自動車部品や下取り車のリサイクルを推進する」が加わり、「カーライフ期」において、販売店は「部品メーカーと連携して交換部品のリサイクルを行う」、部品メーカーは「交換部品を生物学的な投入物と技術的な投入物に分解する」、「技術的な投入物が新品と同等の品質を有するよう再加工する」、「技術的な投入物を部品製造ラインに再投入する」必要が出てくるだろう。

 また、あるべき姿の方向性のインプットとして重要になるのが、以前の記事「「SDGs(持続可能な開発目標)」を活用した企業支援【城北支部青年部勉強会より】」で触れた17の目標である。これらの目標のうち、自社のビジネスに関連するものを取り入れていくことも重要である。ここでポイントとなるのは、社会的要請やSDGsを自社のビジネスの制約要因ととらえないことである。社会的要請やSDGsを自社ビジネスの成長・発展につなげる視点が必要である。この辺りはまだフレームワークにまで落とし込むことができていないため、今後の私の課題である。

 ※4月は1か月間ブログをお休みとさせていただきます。5月にまたお会いしましょう!

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