お問い合わせ
お問い合わせ
アンケート
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
所属組織など
◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

中小企業診断士の安い通信講座なら「資格スクエア」資格スクエア
(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

最新記事

2017年03月15日

補助金にふさわしいと思う中小企業の3条件

このエントリーをはてなブックマークに追加
地震計測器

 中小企業診断士という仕事柄か、補助金・助成金(以下、単に補助金とする)を受けたことがある中小企業を見学させていただく機会が増えた。もう何年も前のことだが、訪問企業の中にこんな中小企業があった。この中小企業は、地殻のひずみを測定する「ひずみ計」という機器を製造している。ひずみ計は微細な地殻変動をとらえ、地震を予知するのに使われる。精度が高いひずみ計になると、1億分の1~10億分の1ミリというひずみを測定することができる。

 一般的なひずみ計の原理はシンプルである。円筒状の金属にオイルを満たし、地中深くに埋める。地殻が変動すると、金属が押されることによってオイル面が上昇する。その上昇幅でひずみの大きさを測定するというわけである。ところが、この形態のひずみ計を設置するためには地下1,000mほどの穴を掘る必要があり、ボーリングだけで1億円以上かかる。また、オイル面の上昇幅しか測定しないため、円筒がどの方向から押されたのか解らないという問題もあった。

 そこでこの企業は、地下500mほどでも測定可能なひずみ計の開発を行った。また、地殻変動の方向を把握するために、円筒状の金属の中にオイルを入れるのではなく、小型のひずみ感知器を十字型に配置することとした。これで4方向の地殻変動を測定できるようになる。この企業は、新型のひずみ計の開発のために補助金を活用していた。

 東日本大震災以降、地震予知の研究は活発になっているのかと思いきや、全くの逆方向に動いているそうだ。気象庁は毎年、全国に設置されているひずみ計のリプレースのために概算要求を出しているのだが、財務省との予算折衝の過程で削られてしまうらしい。大学の地震研究の予算も同じように減少傾向にある。そのため、地震学科を廃止する大学が増えている。削られた予算はどこに向かっているのかというと、被災地の復興や原発の安全対策、津波防止などに振り向けられている。地震予知のような基礎研究には、予算がつきにくいのが現状である。

 補助金は資金調達の一手段である。ただし、以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」でも書いたように、補助金は書類作成が非常に大変であり、使途も厳しく限定される。よって、金融機関から借り入れることができるなら、はっきり言ってそれに越したことはない。借入が難しいということは、金融機関からその企業はリスクが高すぎると判断されたことを意味する。そういう企業に対して、補助金という公的資金を投入するのは、公的資金を投じてでもその企業を存続させたいそれなりの理由があるからである。

 それなりの理由とは、私なりに考えると3つある。第一に、事業化のハードルは高いが、事業化に成功すれば一定の市場規模が確保できるような、イノベーティブなアイデアを持っていることである。別の表現をすると、現時点では潜在顧客が対価を支払うほど市場が成熟していないものの、製品・サービスのよさが認められれば、市場が一気に開ける可能性がある、ということだ。要するに、製品ライフサイクルの極めて初期段階にあるアイデアのことを指す。

 上記のひずみ計の例で言えば、今は地震研究に対する逆風で市場が冷えている。しかし、地震予知の必要性は多くの人が認めるところであり、政治的な風向きが変われば再び市場が広がるかもしれない。こういう事業はいわばイノベーションの卵であり、金融機関はリスクが高いと判断して融資に消極的になる。その代わりに、補助金がリスクマネーを提供する役割を担う。

 公的資金を投じてでも保護したい中小企業とは、優れた技術・ノウハウなどの蓄積がある企業であろう。これが補助金の要件の2つ目だ。企業が公器であるとすれば、企業が持つ技術などは社会的な資産である。せっかく価値ある資産を持っているのに、企業の倒産によってそれが消えてしまえば、社会にとっても大きな損失となる。したがって、補助金がそれを阻止する。

 前述のひずみ計製造の中小企業は、1億分の1~10億分の1ミリというひずみに反応する感知器を製造する技術や、地中深くで取得したデータを地上まで転送し解析する技術などを持っている。このような技術は、単に難易度が高いだけでなく、地殻変動の測定以外の分野にも応用できる可能性があると思う。だから、仮にこの企業が経営不振に陥ってその組織能力が失われるとしたら、非常にもったいないことであるに違いない。

 金融機関は、理由がどうであれ財務状況が悪化した企業にはなかなか融資しない。それをカバーするのも補助金の役割である。だが、慢性的に財務状況が悪い企業に補助金を投入するのは、単なる延命措置にすぎない。補助金が有効なのは、一時的な経営悪化によって一時的に資金繰りが苦しくなっている企業である。さらに言えば、経営悪化の原因を適切に把握していることが必要だ。業績不振の原因を外部環境のせいにせず、内部環境の面から自己分析している企業であれば、補助金を使って経営を立て直せるかもしれない。これが3つ目の要件となる。

 ご紹介した中小企業の経営者は、気象庁に予算がつかない影響で経営が苦しいとこぼしていた。ただ、財務諸表を見せてもらうと、実はかなりの内部留保がある。だから、本当は補助金に頼らなくてもやっていけた可能性がある。優れた技術・ノウハウの蓄積がありながら、一時的な経営不振で資金難に陥っており、イノベーティブなアイデアで巻き返しを図ろうとする別の中小企業に補助金を回した方が効果的だったかもしれない。

 中小企業向けの補助金については、審査ポイントが公募要領などで全て公開されている。いくつかの公募要領を見てみると、1つ目の要件であるイノベーティブなアイデアの有無に関しては、たいてい審査対象となっている。ところが、2つ目の要件である優れた技術・ノウハウなどの蓄積については、どこまで突っ込んだ審査が行われているのかやや不明である。

 補助金に限らず中小企業の経営者とお話をさせていただく中で私が感じるのは、中小企業は意外と自社の競合他社がどこなのか知らない、ということである。優れた技術・ノウハウとは、一言で言えば強みである。だが、企業経営における強みとは、競合他社との比較で相対的に判定される。「我が社はこれが強い」といくら声高に言っても、自社が勝手にそう評価しているだけでは意味がない。補助金の審査においては、申込企業が競合他社を特定できているか?競合他社と自社の組織能力を定量的/定性的に比較できているか?その上で、自社の強みを明確にしているか?といった点を見るべきだと思うが、果たして十分に審査されているだろうか?

 3つ目の要件、すなわち、一時的な経営不振で一時的に資金繰りが逼迫しているが、経営不振の原因を適切に自己分析できているという点については、私が知る限り審査の対象になっていない。むしろ、以前の記事「とある中小企業向け補助金の書面審査員をやってみて感じた3つのこと(国に対して)」で書いたように、資金繰りが安定していることの方が高く評価される。

 もちろん、慢性的に資金難の企業は、補助金を受け取ってもその後の事業が続かないリスクがあるため、資金繰りを重視したくなる理由も解る。しかし、資金繰りが安定しているのであれば、何も面倒な補助金に頼らず、金融機関から借入をすればよい。私は、慢性的に資金難の企業に補助金を与えよと言いたいわけではない。繰り返しになるが、それでは中小企業の延命策になってしまう。あくまでも、一時的に資金難に陥っている企業を対象にした方がよいと考える。

 かつ、経営不振の原因を他責的ではなく自責的に分析できていることが望ましい。他責的な企業は、同じような環境変化が起きると再び経営不振に陥る。こういう企業に補助金を与えると、経営が苦しくなったら補助金に頼ればよいという依存症に陥る。そうではなく、経営不振の原因を自責的にとらえ、前向きに組織学習できている企業の方が、補助金にふさわしい。「今回だけは補助金を利用するが、今後は経営不振の教訓を生かして、補助金に頼らず安定的・持続的な経営を目指す」という企業こそ、補助金を最も有効に活用してくれるだろう。
2017年03月13日

補助金の適正利用をチェックするよりも、補助金の投資対効果をモニタリングすることに注力すべきでは?

このエントリーをはてなブックマークに追加
積み上げられた書類

 中小企業診断士として独立してから、経済産業省や中小企業庁の補助金を受けている中小企業を支援させていただく機会が増えた。経済産業省関連の補助金の多くは事後精算であり、中小企業が購入した物品に関連する伝票類などの書類を揃えて事務局(たいていは、公的機関が経済産業省などから補助金事業の業務遂行を受託している)に提出することとなる。だが、事務局の要求はとにかく厳しい。例えば、機械装置を購入した場合には、

 -見積仕様書
 -見積書
 -注文書
 -注文請書(注文書と注文請書の代わりに契約書でもよい)
 -納品書
 -請求書
 -金融機関への振込依頼
 -会社の預金通帳のコピー

を用意しなければならない。これらの証憑類を、原材料や機械装置などを購入するたびに、また外注先や大学・公的研究機関などの委託先を使うたびに用意する必要がある。これに加えて、現物の写真や、委託先から納品された報告書なども提出を求められる。

 見積依頼書とは、「こういう仕様の製品を貴社に発注したいので、見積書を作成してください」とメーカーなどにお願いをする書類のことである。しかし、中小企業の商習慣上、見積依頼書を作成することはほとんどない。そのため、見積依頼書が抜けてしまうことが多いのだが、それでも事務局は許してくれず、事後的にでも作成してほしいと言われる。そこまで言うのだから、しっかりした書類でなければいけないのかと思いきや、「『見積書をください』というメールのコピーに責任者の印鑑を押したものでよい」と言うのだから、何とも形式的だという印象がぬぐえない。

 納品書も、単にメーカーから送られる納品書を保管するだけでは不十分とされる。余白に「検収済み」と書いて、検収した担当者の印鑑と検収日を添えなければならない。それが抜けていると、事務局から書類を突き返される。メーカーの中には、独自の検収書を用意してくれる親切なところがある。検収書は中小企業が必要事項を記入してメーカーに返却するため、中小企業の手元に残らない。ところが、そういう場合でも、事務局は「メーカーに返した検収書のコピーをメーカーから取り寄せよ」と注文をつけてくる。

 金融機関への振込依頼と会社の預金通帳のコピーを両方用意しなければならないのも厄介だ。なぜこの2つが必要なのかというと、前者は「金融機関に対して『○○社に△△円の振込をお願いします』と依頼した証拠」になり、後者は「その依頼に基づいて、実際に口座から△△円を引き落とし○○社に振り込んだことの証拠」になるのだという。確かにお金を支払ったという証拠なら通帳のコピーで足りると思うのだが、通帳の摘要欄には支払先の名前が印刷されないことがあるため、金融機関への振込依頼で確認する必要がある、というのが事務局の言い分である。

 補助金の財源は国民の税金であるから、そのお金が不正に使われていないかどうかをチェックしたいというのが事務局の思惑なのだろう。個人的には、確かに物品を買ってお金を支払ったことを証明するためであれば、せいぜい見積書、注文書、請求書、通帳のコピーと現物の写真があれば十分であるような気もする。ところが、事務局はそれ以外の書類をあれもこれも提出するよう要求してくる上に、書類に1か所でも不備があると受理してくれない。

 例えば、見積書の有効期限内に注文書を発行していないと、見積書を再度メーカーから取得するように指導が入る。商習慣上は、見積書の有効期限が切れていても大して問題にならないが、事務局は許してくれない。納品書に「検収済み」と書かれていないだけでも、書類の修正を強いられる。「検収済み」と書かれているかどうかと、補助金が適正に使われているかどうかはあまり関係ないと思うのだが、事務局にそういう話は通用しない。複数の物品を購入した場合、消費税の計算がメーカー側と中小企業側で若干異なるために、請求書の金額と中小企業が実際に支払った金額が1円違うことがたまにある。この場合でも、1円の誤差を是正せよと言われる。

 中小企業向けの補助金は、儲かる見込みがある優れたアイデアがあるのに、資金不足が理由で尻込みしている企業を支援して、補助金を上回る税収をリターンとして獲得するのが目的であろう。それならば国は、(1)補助金を交付しようとしている事業は収益化の見込みがあるか?という点と、(2)補助金支払い後に実際に事業が軌道に乗ったか?という点を厳しく見るべきではないかと思う。ところが、(1)(2)のチェックに割かれている工数は、補助金の事務局員が書類のチェックに費やしている工数よりもはるかに少ないと推測される。

 補助金を希望する企業は、補助金を使ってどういう新規事業をしたいのかという事業計画書を提出する。中小企業向けの補助金は、だいたい数百万円~1,000万円程度であることが多い。中小企業は、補助金によって数千万円~億単位の売上増を狙い、その実現シナリオを事業計画書の中に落とし込んで応募してくる。これを国側から見ると、数多くある1,000万円前後の投資案件の中から、有望なものを選択することに等しい。よって、国は中小企業に対して綿密な事業計画書を要求し、それを入念に審査しなければならないはずだ。

 ところが、補助金の審査に関与した知り合いの中小企業診断士によると、1件あたりの審査時間はわずか20分~30分であるという。国からの委託報酬を考えれば、1件1件をじっくり見ている時間はないらしい。しかも、近年は経産省の方針で、補助金に応募するハードルを下げるために、事業計画書のフォーマットが簡素化され、2~3枚で済むようになっている。もちろん、事業計画書の枚数が多ければよいというわけではないのだが、審査の効率化ばかりに気を取られ、事業の収益性を適正に評価するという肝心の目的がおざなりになっている気がしてならない。

 補助金事業が終了した後のフォローも不十分である。経産省関連の補助金では、補助金事業終了後3~5年間は、毎年事業の収支実績を国に報告する義務がある。ところが、肝心の事務局は補助金事業が終了すると解散してしまい、収支報告書を中小企業から回収する部隊はいないという。さすがに国が定める義務だから、誰かはトレースを行っているのだろうが、補助金事業中の事務局の手厚い(?)対応に比べると、比較にならないほど軽い扱いである。

 前述の通り、補助金は将来的に税金という形でリターンを得ることが目的である。よって、単に収支実績を報告させるだけでなく、補助金事業終了後も中小企業に密着して、事業が軌道に乗るようにアドバイスを送り、収益化の道筋を立てるぐらいのことはやってもいいのではないかと思う。事務局が補助金の期間中だけ書類チェックのために相当の人員を抱えるよりも、いっそのこと書類チェックは簡素化し、補助金終了後のフォローアップを手厚くしてはどうだろうか?そういう経営支援の分野にこそ、中小企業診断士の活躍の場があるように思える。


 《補記1》
 ここからは余談。補助金と言うと返済不要であるかのように思われがちだが、経産省関連の補助金の多くは「収益納付」の義務を定めている。これは、補助金を受けて行った事業がその後収益を上げた場合には、補助金支払い額を限度として、利益の一部を国に返還しなければならない、というものである。法的には、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に根拠がある(第7条2項)(簡易なケースについては、以前の記事「【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある」を参照)。

 ところが、現実問題として、この収益納付が行われるケースは非常に少ないようである。過去に補助金事務局員を経験されたことがある方から聞いた話によると、その補助金事業で収益納付が行われたのは、全体の約0.5%だったという。新規事業の成功率が0.5%ということはいくら何でも考えにくい。収益が上がっているのに、収益納付を行っていない企業が相当数あると考えられる。収益納付の詰めが甘いのも、補助金事業終了後に事務局が解散してしまい、各企業の収益を継続的にウォッチする人がいないためであろう。

 《補記2》
 こういう話を周りの診断士にすると非常に驚かれる。ある診断士は、「大企業向けの億単位の補助金であれば厳しくする理由も理解できる。だが、中小企業向けの数百万円~1,000万円程度の補助金でそこまでするのはやりすぎだ。経済産業省は、大企業向けの補助金と同じ運用レベルを中小企業向けの補助金にも適用しているのではないか?」と分析していた。一方で、別の診断士は、東京都中小企業振興公社の補助金は、私が書いた話以上に厳しいと教えてくれた。どうやら、振興公社の補助金には収益納付の規定がないらしい。誤解を恐れずに言えば、「あげっぱなし」のお金になるため、あげるための要件を厳しくしているのかもしれない。

 「あげっぱなし」という点に関連してもう1つ書くと、補助金の中には「前払いであげっぱなし」というものもあるそうだ(冒頭で書いたように、一般的な補助金は事後精算である)。つまり、最初に一定の額を支払ってしまい、仮にお金が余っても返却を求めないのだという。何というズブズブな補助金なのだろう。補助金は奥が深いと言うべきか、闇が深いと言うべきか・・・。
2017年03月10日

守屋武昌『日本防衛秘録―自衛隊は日本を守れるか』―基地の必要性を国民に納得させることはできない

このエントリーをはてなブックマークに追加
日本防衛秘録: 自衛隊は日本を守れるか (新潮文庫)日本防衛秘録: 自衛隊は日本を守れるか (新潮文庫)
守屋 武昌

新潮社 2016-03-27

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 以前の記事「『理念なき東京オリンピック(『世界』2016年2月号)』―同性婚はなぜ法的に認められないか、他」では、沖縄に基地が集中すると集中攻撃を受けるリスクがあるから、望ましい軍事戦略の下で基地の分散化も検討してはどうかと軍事音痴っぷりを発揮してしまったが(汗)、そもそも現在の自衛隊の構成が日本の有事に対応できるのかどうかという点が私としては気がかりであった。その疑問を解くために手に取ったのが本書である。結論から言うと、日本の基本的な軍事戦略や具体的な自衛隊の展開についてはよく解らなかった。ただし、こういうのは国民には解らないのは当然であって、その理由は後述する。

 自衛隊は軍隊なのか否かという議論がある。しかし、世界で第7位に相当する約5兆円の防衛費を使い、アメリカから最新鋭の武器を購入している部隊が軍隊ではないというのはあまりにも苦しい言い逃れであるし、海外では一般的に陸上自衛隊のことをArmy、海上自衛隊のことをNavyなどと紹介される点も踏まえて、本記事では自衛隊を軍隊と位置づけて話を進める。

 軍隊の基本的なミッションは、まず第一に①自国の領土や国民を外国・テロ集団などの武力攻撃から守ることだ。その次が②集団安全保障である。現在、世界秩序を保つための基本的な考え方となっているのが集団安全保障である。ある国が武力攻撃を行ったら、直接攻撃を受けていない他の国も含めて集合的に強制措置を行うことで、侵略を阻止する。そして最後に、③国内で大規模な災害などが発生した際に、復旧を支援するのも軍隊の役割である。優先順位としては①>②>③であり、この順番で必要な法整備を行うのが理想であると言える。

 だが、日本の場合は③>②>①の順番で法整備が進んできたという歪な歴史がある。1995年の阪神・淡路大震災では、警察・消防に加えて自衛隊も現場に投入されたにもかかわらず、法律の制約で実施できないことが多数あった。例えば医官を派遣しても、医師法により自衛隊員以外への野外での診療行為はできなかった。著者は厚生省に「緊急事態なのだから、自衛隊の医官にも治療を認めるべきだ」と意見したという。また、自衛隊には野外入浴のための装備が揃っているのに、被災者のために風呂を用意しようとしても、公衆衛生法で認められなかった。

 著者は現場の要望を何とか実現しようと奔走したものの、返ってきたのは次のような答えだった。「内局の長官官房長から『自衛隊の本来任務は国の防衛だが、そのために必要な有事法制がまだ整備されていないのが現状だ。それなのに本来任務ではない災害派遣時の権限を充実させるのはおかしい』と指摘され、『部隊要望として上げさせないように』と陸上幕僚監部に要請がありました」。災害対策基本法が改正されたのは1995年12月である。これにより、自衛官には災害対策基本法に定められている警察・消防と同じ権限が付与された。災害に対処する上で、警察・消防だけでなく、自衛隊の能力が必要とされることを国会が認めた大きな一歩となった。

 1992年、イラクのクウェート侵攻を受けて国会ではPKO法が審議されたが、①停戦監視、②緩衝地帯の駐留・巡回、③武器の搬入・搬出の検査、④放棄武器の収集・保管、⑤停戦線設定の援助、⑥紛争当事者間の捕虜交換の援助、⑦これらに類する政令で定める業務の7つは、野党の反対に遭い凍結された。その後、カンボジア、ルワンダなどに自衛隊が派遣され、地道なPKO活動によって国内外の理解を徐々に獲得し、2001年12月、ようやくPKO法の本体業務の凍結が解除され、また武器使用で守るべき対象者の範囲が自衛官以外にも拡大された。

 有事法制の整備が加速したのは2002年に入ってからである。当時の小泉首相が施政演説で、9.11テロ事件を踏まえ、有事法制の重要性を訴えた。有事法制の研究は従来から防衛庁内で続けられてきたが、それには必ずしもとらわれることなく、将来にわたって日本の国の安全を確保できる法制を作るという方向性で一致した。この時著者は「大きな山が動いたという感慨があった」と述懐している。2002年12月、自衛隊法の一部改正、安全保障会議設置法の一部改正、武力攻撃事態対処法の制定が実現した。この3つを合わせて「有事法制関連三法」と呼ぶ。

 本書の内容はここまでとなっているが、周知の通り2015年に安保法制が成立した。ただ、私が心配しているのは、以上の記述からも解る通り、法律はいつも後追いで成立してきたということである。日本人は、将来生じる可能性のある事態を想定して、それを未然に防ぐために動くのがどうも苦手らしい。だから、私は今回の安保法制もまだまだ穴があると思っている(以前の記事「『天皇陛下「譲位の御意向」に思う/憲法改正の秋、他(『正論』2016年9月号)』―日本の安保法制は穴だらけ、他」を参照)。非常に不謹慎な話だけれども、北朝鮮がノドンを誤って日本の領海に撃ち込むぐらいのことがないと、日本人は本気で防衛について議論をしないだろう。

 現在、普天間基地の辺野古移転をめぐって、沖縄では大規模な反対運動が起きている。沖縄の人たちは、納得できる説明を国に求めているが、残念ながらこれは叶わぬ願いである。例えば、新たにダムを建設する場合、ある地域で将来的に見込まれる人口増加や産業進展を前提として、どの程度の水の需要が発生するのか、その水量を確保するにはどの河川がふさわしいのかを論理的にストーリー立ててダムの建設候補地を選定する。そして、建設候補地に住む住民に対しては、国側が設定したストーリーを何度も何度も解りやすく、粘り強く説明することで、ダム建設への合意を得るというプロセスを経るものである。

 ところが、軍事基地となるとこうはいかない。国側は、仮想敵国がどの程度の軍事力を持ち、どこに基地を持っているから、このようなシナリオで日本を攻撃してくるだろうとシミュレーションを行っている。そのようなシナリオはいくつでも考えられるわけであって、シナリオの実現可能性や、シナリオが実現した際の日本の被害の大きさなどの観点から、優先的に対処すべきシナリオを特定する。そして、シナリオに対処するための軍事基地をどこに建設するかを決める。だが、ダム建設の場合と違って、基地建設予定地の住民には国側が考えるストーリーが伝えられることは絶対にない。なぜなら、それは重要な軍事機密であるからだ。それを懇切丁寧に住民に説明してしまったら、せっかくの軍事戦略が諸外国に筒抜けになってしまう。

 日本が軍事基地を建設すれば、今度はその情報が仮想敵国にとって重要なインプットとなり、仮想敵国も軍事戦略を練り直す。だから、日本としては仮想敵国を攪乱させるために、ダミーの軍事基地を建設する。現在の在日米軍基地の中には、実はダミーも含まれるのではないかと思う(逆に、国民には公にされていないが、国有地に何らかの軍事関連施設を持っている可能性もある)。こういう戦略構築を繰り返して、軍事基地は建設されていく。「なぜここに軍事基地が必要なのか?」と問われれば、「国が必要だと考えるから必要なのだ」と答えるしかない。

 社会契約説によれば、人間は自然状態のままではお互いの自然権を侵害する可能性があるため、互いに契約を結んで国家を建設した。国家の役割は国民の自然権を擁護し、国民による自然権の侵害に介入すること、それから、他国からの攻撃から国民の自然権を守ることである。そのために、国家は対内的には警察を、対外的には軍隊を必要とする。よって、軍隊を信頼しないということは国家を信頼しないことに等しい。在日米軍基地や自衛隊に反対する人たちは、この点を十分に理解していないように見えてならない。

 首都圏に住んでいる私は沖縄のことを対岸の火事のように見ているのではと思われるのも嫌であるから、仮に私が住んでいる地域に軍事基地ができたらどうするか答えておこうと思う。それは「いの一番に引っ越す」である。なぜなら、そこは国家を守るために戦略的に重要な地域であり、基本的人権がどうだとか私情を挟む余地がないからである。基本的人権は国境を越えた普遍的価値のように見られているが、実際には国家がなければ基本的人権などあり得ない。

 以上より、我々国民は、自衛隊(軍隊)に関しては、国を全面的に信頼するしかない。ただ、本書を読んでいると、本当に国を信頼して大丈夫かと不安になる部分がある。著者は1990年代後半に在日米軍基地の実態調査を命じられた。その時に判明したのは驚愕の事実だった。すなわち、アメリカがどのような安全保障戦略を考え、その中で在日米軍基地がどのような機能・役割を果たすことが求められているのか?そのために配備される陸海空・海兵隊部隊の任務は何か?兵力数、装備数はどれほどか?そうした事柄について、日本は同盟国でありながらアメリカに情報を求めることがなく、またアメリカから知らされることもなかったというのである。

 これは約20年前の話なので、さすがに現在は改善されていると期待したい。2015年には新しい「日米防衛協力のための指針」(いわゆる「ガイドライン」)もできたから、日米でどのように防衛機能を分担するのか、両国間で議論も進んでいると信じたい。東アジアの秩序が不安定になっている現在、日米が共同で防衛戦略を深化させることが必要である。さらに言えば、アメリカでトランプ大統領が誕生し、いつ日本がはしごを外されるか解らないというリスクもある。安倍首相と笑顔で会談をしておきながら、突然中国と手を握るかもしれない。自衛隊はいつまでもアメリカ(しかも、つい20年前までは実態もよく解っていなかった在日米軍)におんぶにだっこの状態を続けるのではなく、いざという時には単独で国防を担えるような備えをしておくべきだと考える。

  • ライブドアブログ
©2009 free to write WHATEVER I like