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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2012年04月13日

【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―「戦略」以外にも「コア・コンピタンス」「ABC(活動基準原価)」などの先駆けとなった著作


創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

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 「ドラッカー再訪」企画2冊目は『創造する経営者』(原題は"Managing for Results"、1964年出版)。この本は、ドラッカーが初めて「事業戦略」を体系化した本として知られる。ちなみに、「戦略」という言葉を経営学に持ち込んだのはドラッカーとアンゾフのどちらなのか?という議論があり(アンゾフが"Corporate Strategy"という本を発表したのが1965年。まぁ、こんなのはほとんど雑学レベルのどうでもいい話・・・(苦笑))、ドラッカーは本書を「今日、事業戦略と呼ばれているものについての世界で最初の本である」(「はじめに」より)と主張し、後の論文集『マネジメント・フロンティア』に所収されているインタビューでは、
ドラッカー:私が(インタビューが行われた1985年から数えて)30年前に書いた『現代の経営』によって、読者は経営管理の仕方を学んだ。それまでは、とくに才能のある者だけが行なうことができ、他の者には真似のできなかったことを学べるようになった。私がそれを一つの体系にまとめた。今度のあの本(『イノベーションと企業家精神』)は、イノベーションと企業家精神について、同じことをしようとしたものだ。
インタビュアー:しかし、その内容はあなたが考えだしたものではない。
ドラッカー:いや、かなりの部分が私の考えだしたものだ。
インタビュアー:戦略の部分はあなたが考えたものではない。あなたが書く前から、あったことだ。
ドラッカー:いや、違う。
といった具合に、インタビュアーと押し問答(?)を繰り広げている。

 また、多くの書籍でドラッカーの紹介文が「東西冷戦の終結、転換期の到来、社会の高齢化をいち早く知らせるとともに、『分権化』『目標管理』『経営戦略』『民営化』『顧客第一』『情報化』『知識労働者』『ABC会計』『ベンチマーキング』『コア・コンピタンス』など、おもなマネジメントの理念と手法を生み、発展させた」(『企業とは何か―その社会的な使命』より)などとされ、ドラッカーが生み出したマネジメント用語の中には「戦略」が含まれている。

 一方で、アンゾフも「企業戦略の父」と呼ばれており(※1)、結局どっちなのかは私にもよく解らない(汗)。ただ、私の個人的な感触としては、ドラッカーは戦略に限らずマネジメントを幅広く体系化した「現代経営の父」というイメージであり、戦略に限って言えば、アンゾフの「成長マトリクス」のような、解りやすくかつ現在でもよく使われるフレームワークがドラッカーにはなく(ドラッカーはそういうフレームワークを作るのが嫌いだったという側面もあるが)、『創造する経営者』もアンゾフの著書に比べると実は結構込み入った内容になっていることから、やはりアンゾフの方が戦略に特化した先駆者という感じがする。

アンゾフ 戦略経営論 新訳アンゾフ 戦略経営論 新訳
H.イゴール アンゾフ 中村 元一

中央経済社 2007-07

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 余談はそのくらいにしておいて、本書は事業戦略以外にも、後の戦略論や管理会計学で登場するコンセプトの原型が見られ、ドラッカーの先見の明を改めて思い知らされる1冊だ。例えば、「事業とは、市場において、知識という資源を経済価値に転換するプロセスである」という定義は、知的資源を中心に置いた経営という点で、ゲイリー・ハメルとC・K・プラハラードの『コア・コンピタンス経営』を想起させる。

 実際、ドラッカーが事業に必要な知識の要件として指摘していることは、ハメルとプラハラードがコア・コンピタンスの要件として挙げた3つ、すなわち(1)顧客価値があること、(2)競合に模倣されにくいこと、(3)様々な製品に展開できること、とほぼ一致する。
 事業が成功するためには、知識が、顧客の満足と価値において、意味あるものでなければならない。知識のための知識は、事業にとって、あるいは事業以外のものにとっても、無用である。知識は、事業の外部、すなわち顧客、市場、最終用途に貢献して、初めて有効となる。
 ほかの者と同じ能力をもつだけでは、十分ではない。そのような能力では、事業の成否に不可欠な市場におけるリーダーの地位を手に入れることはできない。卓越性だけが、利益をもたらす。純粋の利益は、革新者の利益だけである。経済的な業績は、差別化の結果である。
 企業は、製品や市場や最終用途において多角化し、基礎的な知識において高度に集中化しなければならない。あるいは、知識において多角化し、製品や市場や最終用途において高度に集中しなければならない。この中間では、満足すべき成果はあげられない。

コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略 (日経ビジネス人文庫)コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略 (日経ビジネス人文庫)
ゲイリー ハメル Gary Hamel C.K. プラハラード C.K. Prahalad 一條 和生

日本経済新聞社 2001-01

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 また、ドラッカーは、原材料の調達から最終製品の生産に至る一連のプロセスを「経済連鎖」と捉え、一企業のコストだけでなく、経済連鎖全体のコストを最適化すべきだと述べている。これは、後のSCM(Supply Chain Management:サプライチェーン・マネジメント)につながる原則である。
 コスト分析は、企業を外部から見るマーケティング分析によるチェックがなければ、信頼できる意味あるものとはならない。コスト分析だけでは、部分的な分析でしかない。事実、最も成功している企業のなかには、外部コストの管理を成功の鍵にしているところがある。

 そのよい例として、流通において成功を収めているイギリスのマークス&スペンサーと、アメリカのシアーズ・ローバックがある。いずれも、その成功は、優れたメーカーを見つけ、それらメーカーのために製品と生産工程を開発し、かつ製品のコストを指定したことである。いずれも、その法的な枠組みの範囲を超え、コスト、製品、工程について、積極的な責任を負っている。
 管理会計に関しては、従来のコスト会計を否定し、後のABC(Activity Based Costing:活動基準原価)分析につながる考え方を示している。
 コスト会計では、1セントの支出も記帳しなければならない。したがって、あるコストがどの製品の生産のために支出されたかを明らかにできないとき、それらのコストは全製品に配分して計算される。しかし、そのような配分計算は、間接費はすべて直接費あるいは売上高に比例して発生するという前提があって初めて行いうる。そして配分される額が、総コストのわずか1、2割であるかぎりは、問題はない。50年前がそうだった。

 しかし今日、総コストの極めて多くの部分が、直接費ではない。(中略)いわゆる直接労務費でさえ、今日では、生産高に比例して変動はしない。工場で何を生産しようと、直接労務費はほとんど変化しない。ほとんどの製造業、およびすべてのサービス業において、労務費は、生産高ではなく、時間にかかわるコストである。つまるところ、今日では、生産高とともに変動する直接費として扱えるものは、原材料費を除けば、総コストの4分の1以下である。
 つまり、多くの企業でコストの大半を占めているのは人件費であり、さらにこれを製品別売上高などに応じて配分するのは間違いであるというわけだ。代わりに、「コストは作業量に比例し、そのほとんどは、ごくわずかの利益しか生まないおそらく90%という膨大な作業量から生じる」という前提から出発すべきだという。

 非常に単純化した例で言うと、ここに10万円の案件と1,000万円の案件があり、請求書の処理にかかる事務作業量はそれほど変わらないとする。この2案件の請求処理のために、月給20万円の事務員を雇っているケースを想定してみる(もちろん、実際にはこんなことはあり得ないが)。コスト会計に従って、案件の売上高に応じて人件費を配賦する方法をとると、10万円の案件に配賦されるコストは、20万円×10万円÷(10万円+1,000万円)=約1,980円であり、この案件からもたらされる利益は約9万8,020円となる(ひとまず、原材料費やその他のコストは無視する)。かたや、1,000万円の案件に配賦されるコストは、残りの人件費の約19万8,020円であり、この案件からもたらされる利益は約980万1,980円となる。

 ところが、ABC分析の場合、作業量に応じてコストが配賦されるので、10万円の案件と1,000万円の案件にかかる事務作業量が同じならば、コストも同じとなる。従って、両案件とも人件費を半分ずつ負担する。すると、10万円の案件は、人件費だけで10万円のコストがかかってしまい、実は利益がゼロになる。

 また、この事務員が、5万円、5万円、1,000万円という3つの案件の請求書処理を行っているとする。従来のコスト会計に従って利益を計算すると、それぞれ約4万9,010円、約4万9,010円、約980万1,980円となる。しかし、ABC分析では、3つの案件にかかるコストは同じとみなされ、いずれの案件も20万円の人件費を3等分した金額を負担することになる。すると、2つの5万円の案件は赤字になってしまうのである。

 これは非常に極端な例であるものの、作業量に応じてコストを配賦する方法で利益を計算してみると、それほど手間をかけずに利益を上げられている製品・サービスと、手間の割に実は儲からない製品・サービスとが明らかになる。これは、従来のコスト会計では見えないことである。その例をドラッカーが本書の中でいくつか挙げているけれども、マッキンゼーの調査結果として紹介しているものが一番解りやすい気がするので、それを引用しておく。
 食品店は、他の小売店と同じように、利益幅からコストの平均値を差し引いて利益を計算している。したがって、利益幅の最も大きな商品が最も利益をあげていると考える。しかし、マッキンゼーの分析は、コストが、それぞれの商品に要する作業量によって異なり、品目ごとのコスト負担には大きな差のあることを明らかにした。

 例えば、シリアル一箱の利益幅と缶入りスープ一箱の利益幅とは、1.26ドルと1.21ドルでほとんど同じだった。したがって食品店は、これら2つの食品がほとんど同じ利益をあげていると考えていた。しかし、作業量による分析の結果、シリアル一箱の純利益は25セント、缶入りスープは71セントであることがわかった。さらに、ベビーフードの利益についても作業量による分析を行ったところ、利幅が大きく、回転率が高かったにもかかわらず、あまりにも手間がかかるため、実際には赤字になっていることがわかった。
 今回の記事は教科書的な紹介のみで終わってしまったが、次回からはもう少し踏み込んだ内容を書いてみたいと思う。

 (続く)

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(※1)「イゴール・アンゾフ 企業戦略の父」(DIAMONDオンライン、2008年9月3日)
(※2)ちなみに、最近この本を読んだのだが、この本のベースになっているのは『創造する経営者』だと思われる。この本で紹介されているドラッカーのマーケティングの原則などは、『創造する経営者』の中でドラッカーが提起したものと大体同じだった。

ドラッカーが教えてくれた経営戦略作成シートドラッカーが教えてくれた経営戦略作成シート
浅沼 宏和

中経出版 2011-08-05

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