2014年09月30日
山本七平、加瀬英明『イスラムの読み方』―日本はアラブ世界全体に武器を輸出した方がよい?他
イスラムの読み方―なぜ、欧米・日本と折りあえないのか (Non select) 山本 七平 加瀬 英明 祥伝社 2005-09 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
(前回の続き)
(3)日本はイスラエルとパレスチナの紛争を見ると、どちらか一方に肩入れをして、もう一方とは関係を絶ちたがる傾向がある。例えば、イスラエルには日本の飛行機が飛んでいない(本書執筆時点)。これに対してヨーロッパやアメリカは、イスラエルとパレスチナの双方と上手くつき合う術を心得ている。ヒルトンホテルはイスラエルにもパレスチナにもあるそうだ。
以前の記事「イザヤ・ベンダサン(山本七平)『日本人と中国人』―「南京を総攻撃するも中国に土下座するも同じ」、他」、「山本七平『存亡の条件』―日本に「対立概念」を持ち込むと日本が崩壊するかもしれない」で述べたように、対立する関係者のごく一部に過度に味方して、そのために自らの身を滅ぼすというのが日本の伝統のようである。だから、それを防ぐために、関係者全体にできるだけ広くリスクヘッジをしなければならない。「内部で対立しているアラブ世界全体に武器を売った方がよい」といった加瀬氏の主張も、その一環なのだろう。
加瀬 かりに中東で、イスラエル、アラブの対立がなくなったとしても、今度はアラブ内の対立が激しくなりますから、やはり彼らにとって武器の必要性というのは大きいですね。(最近、要件が緩和されたが、)日本は武器輸出を禁じているではないか?という反論もあるだろう。しかし、山本によれば、武器を輸出しなくても、原材料を輸出するだけで、アラブ世界の武装化に加担(貢献?)することになるのだという。
山本 大きいでしょうね。
加瀬 だからアメリカやフランスみたいに、全部に売っちゃえばいいわけです。
山本 できれば、ですか。平等に。
加瀬 ええ、平等にやればよい。
山本 しかし、そのバランスを読み違えないほど正確に中東を知っているでしょうか。それがわからないかぎり、平等の算出はむずかしいでしょう。
たとえば、特殊鋼ですが、これは素材ですからいろんな国に輸出され再輸出もされているわけで、これを止めることは不可能です。それが何に使われるか。民需か、軍需か、兵器か、砲身か、銃身か、これは不明ですが、特殊鋼さえ輸入すれば、たいていの国は兵器をつくれるんです。小銃などは中東は家内工業でつくってますから。ですから、なにも日本から野銃を輸入する必要はないんで、この鋼だけで十分なわけです。(4)加瀬氏によれば、20世紀初頭から70年代に至るまで、イスラム諸国は概してイスラム教条主義を排し、穏健現実主義路線を歩んできたという。先日の記事で、アラブ世界は西欧のような近代化を経なかったと書いたが、20世紀の大部分はアラブ世界の西欧化・世俗化が試みられた期間であった。しかし、どの国も西欧のように資本主義化するのではなく、社会主義化した点が興味深い。イラク、シリア、エジプトで政権を握ったのは社会主義者であった。
1960年代にシリアとイラクにおいて、バース党が政権を握った。バース党は、1930年代にパリに留学していた、ダマスカス出身の2人のシリア人教師によって、1947年、社会主義と汎アラブ主義を掲げて結党された。バース主義は政教分離をはっきりと謳って、イスラム教を社会の近代化を妨げるものとして排斥した。「バース」はアラビア語で、「ルネッサンス」を意味する。
エジプトで1952年にナセル大佐が率いる自由将校団が、クーデターによって政権を握った。エジプトではサラマ・ムーサが1913年に著書『社会主義』を発表し、1920年にエジプト社会党を結党している。ナセルは1970年に生涯を閉じるまで、”アラブ社会主義”を標榜して、一党独裁を行なった。ナセルの政党は、「アラブ社会主義連合」と呼ばれた。ナセルはエジプトだけではなく、アラブ世界で大衆に人気が高く、時代の寵児となった。以前の記事「内田樹、中田考『一神教と国家』―こんなに違うキリスト教とイスラーム・ユダヤ教」で述べたように、西欧が私有財産の文化であるのに対し、アラブ世界は共有財産の文化である。この文化が社会主義と結びついたのかもしれない。ただ、アラブ世界は合議制の文化でもあったはずのに、なぜ権力者の暴政が導かれてしまったのかが次の論点となるだろう。
※遅い夏休みを1ヶ月ほどいただきます(気が向いたらちょこっと更新するかもしれませんが)。11月にまたお会いしましょう。