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ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」
「ASEAN情報マップ」最新版(国際機関日本アセアンセンター作)の説明会に行ってきた
佐藤秀夫、山本武利編著『日本の近・現代史と歴史教育』―高橋是清とアベノミクス

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長、および国際部員を務めています)

NPOビジネスサポート特定非営利活動法人NPOビジネスサポート
(監事を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

Experian海外企業信用調査 海外企業信用調査(Experian)
(一緒にお仕事をさせていただいている「コンサルビューション株式会社」は、世界最大の信用調査会社Experianの正規代理店です)

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(以下の資格の講師をしています。
 ―ITパスポート
 ―情報セキュリティマネジメント
 ―経営学検定(初級・中級)
 ―中小企業診断士(企業経営理論、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策)
 谷藤友彦と株式会社サイトビジット代表取締役・鬼頭政人氏の対談動画(1)(2)(3)
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2014年12月24日

ウィル・シュッツ『自己と組織の創造学』―「モチベーションを上げるにはどうすればよいか?」そして「そもそも、なぜモチベーションを上げる必要があるのか?」

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自己と組織の創造学―ヒューマン・エレメント・アプローチ自己と組織の創造学―ヒューマン・エレメント・アプローチ
ウィル シュッツ Will Schutz

春秋社 1995-12

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 非常に読みにくい本で苦労した(苦笑)。本書では、社員がモチベーションを上げ、チームの創造性と生産性を高めるための要素として、以下の3つを挙げている。

 (1)仲間性(インクルージョン)
 集団(チーム)形成プロセスの初期段階において重要な要素であり、私が集団の中にいたいのか、外にいたいのかを意思決定することである。仲間性が高い人は「私は集団の他のメンバーにとって重要である」という感情を持つことができ、生き生きすることができる。反対に、仲間性が低い人は、自分が他のメンバーから重要と思われず、無視されていると感じる。

 (2)統制(コントロール)
 統制の問題は、集団が形成され、人間関係が発展し始めた後に起こる。適度な統制は、私の人生をある程度私自身で統制したいと思わせる。その結果、私は有能感という感情を入手できる。しかし、統制が行き過ぎると、他人にも干渉するようになり、独裁者のように振る舞うことになる。独裁者がしばしば他人を統制したがるのは、自分の無能を他人に気づかれたくないからである。他人に命令している限り、独裁者は自分が有能であると他人に信じさせることができる。

 (3)開放性(オープンネス)
 長い期間一緒に働くチームは、第3の課題に直面する。それがこの開放性である。開放性が高い組織では、オープンなコミュニケーションが取られ、秘密や隠しごとがなく、相手から正直なフィードバックを得ることができる。逆に、開放性が低い組織では、各メンバーのプライバシーが過度に尊重され、最低限の情報しか伝えない慎重なコミュニケーションとなり、相手の感情を傷つけないように非常に気を遣うことになる。

 この3つの要素は、モチベーションや組織の生産性に関する他の研究と整合性が取れていると感じた。例えば、デビッド・シロタ他『熱狂する社員』は、モチベーションを刺激する要因は人それぞれだと前置きした上で、あらゆる人に共通する動機づけ要因として、(1)公平感、(2)達成感、(3)連帯感の3つを指摘している。3番目の連帯感が、上記の仲間性と共通する(旧ブログの記事「《メモ書き》モチベーションと業績の関係モデル―『熱狂する社員』より」を参照)。

熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)
デビッド・シロタ スカイライトコンサルティング

英治出版 2006-02-02

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 また、自己統制がモチベーションに影響するという点は、ミハイ・チクセントミハイの「フロー体験」を想起させる。フローとは、「集中が焦点を結び、散漫さは消失し、時の経過と自我の感覚を失う。行動をコントロールできているという感覚を得、世界に全面的に一体化していると感じる」状態で、「よどみなく自然に流れる水」に例えて名づけられた。チクセントミハイはフロー体験の構成要素を8つ指摘しているが、その6番目に「自分を統制しているという感覚」がある。

フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
M. チクセントミハイ Mihaly Csikszentmihalyi

世界思想社 1996-08

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 開放性が組織の生産性を向上させるという点は、「組織IQ」の研究と関連する。組織IQでは、組織を内外の情報をインプットし、意思決定というアウトプットを行う情報処理システムとみなす。そして、外部から情報を受け取る仕組み、組織内に蓄積された情報や知識を共有・再利用する仕組み、情報を処理して迅速かつ適切な意思決定に転換できる仕組みが整っているかを数値化する。具体的には5つの組織特性を調査するのだが(詳細は「情報システム用語事典:組織IQ|ITmedia エンタープライズ」を参照)、3番目の「内部知識流通」が上記の開放性と類似する。

経営スピードを加速する 組織IQ戦略経営スピードを加速する 組織IQ戦略
鈴木 勘一郎

野村総合研究所広報部 2001-02

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 私自身の考えを述べておこう。私も『熱狂する社員』と同様に、動機づけ要因は人によって様々だという考え方を支持するが(以前の記事「エニアグラムのタイプ別に見たモチベーションの上げ方(私案)」、「『一流に学ぶハードワーク(DHBR2014年9月号)』―単純化するアメリカ人、複雑なまま理解する日本人(モチベーション理論を題材に)」を参照)、それでも人のモチベーションを上げる仕事にはいくつかの共通点があると思う。それは、

 (1)顧客からのフィードバックがあること
 (2)一定の裁量を与えられていること
 (3)複数の能力を使わなければならないこと
 (4)能力のストレッチが要求されること
 (5)周囲の社員との協業が必要であること


である。自分がやった仕事に対して顧客から生の声が返ってくると、たとえそれが厳しいものであっても、モチベーションアップにつながりやすいものである。規模が大きくなって顧客と直接接する社員の割合が少なくなった組織は、顧客の声が組織全体に浸透するような仕組み作りを心がけた方がよい(旧ブログの記事「お客様からの褒め言葉は、時に上司の激励よりも効果的―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』」を参照)。

 (2)は上記の統制の問題と同じである。(3)を入れたのは、同じ能力ばかり要求される仕事では単調作業になってしまい、飽きてしまうからである。しかし、いくら複数の能力が要求される仕事であっても、自分の能力が伸びなければ、自己成長感を味わうことができず面白みがない。それを回避するために、(4)が重要となる。最後の(5)は、人は孤独では生きていけないという単純な理由に起因している。本書の仲間性や、『熱狂する社員』の連帯感とも共通する要素である。

 このような仕事を社員に与えてモチベーションを上げることは、企業側の目的にも適っている。言わずもがなだが、企業は顧客の声に耳を傾けなければならない。その顧客の声を、具体的な製品・サービスに落とし込んでいくのだが、経営陣がいちいち社員に命令するのは非効率である。だから、社員には自分の頭で考えてもらう必要がある。また、企業としては、できるだけ資本効率性を高めたい。人的資本の効率を上げるには、1人の社員に様々な仕事を任せるのが得策である。そして、企業が社員に協業を求めるのは、組織の性質からして当然である。


 《2016年4月9日追記》
 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2016年5月号の「4つのバイアスが行動を型にはめる なぜ「学習する組織」に変われないのか」(フランチェスカ・ジーノ、ブラッドレイ・スターツ)という論文では、多様性のある仕事、チームワークが必要とされる仕事の方が、モチベーションや生産性が高いという研究が紹介されている。
 我々は日本の銀行で実施した研究において、データ入力の担当者が同じ作業を繰り返し行った場合(「特化した経験」)と、異なる作業に切り替えて行った場合(「多様な経験」)とでは、成果に違いが出るかを考察した。1日だけだと、特化して作業を行った者が最も速かった。しかし長期的には、日によって別種の作業を担当したほうが従業員はより多くを学び、やる気も保たれた。
 ソフトウェア開発会社、コンサルティング会社、医療機関、研究所などさまざまな組織で研究を行った結果、同じ人々と繰り返し働くことで協調性が高まり、グループ内の貴重な専門知識を最大限に活用し、新たな状況により迅速に対応し、自分たちの知識をうまく組み合わせて問題を効果的に解決できるようになることがわかった。
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2016年5月号 [雑誌]
ダイヤモンド社 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部

ダイヤモンド社 2016-04-09

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 しばしば、金銭的な報酬だけで動機づけるのは難しいから、非金銭的な報酬も与える必要がある、と言われる。非金銭的な報酬には、上記のようないわゆる「やりがいのある仕事」も含まれる。ただ、忘れてはならないのは、社員のモチベーションを上げるにあたって、金銭的な報酬を過小評価してはならない、ということだ。試しに、自社の社員に「明日から皆さんは無給となります。それでも会社に来て仕事をしてください」と言ってみるとよい。おそらく、9割9分の社員は仕事に来なくなるだろう。そのくらい、お金の持つ力は絶大なのである。

 非金銭的な報酬を重視しようという主張は耳障りがよいので、安易にそちらに流れたくなる。しかし、動機づけの基本はやはり金銭的な報酬であって、社員の仕事の成果を適正に評価した上で、正当な金額を支払う必要がある。だが、社員の成果を完璧に算定する人事制度の構築には、未だかつて誰も成功したことがない。だから、金銭的な報酬を完璧に配分することは不可能であり、どうやっても何かしらの不満やしこりが残る。金銭的報酬の不十分な部分を、非金銭的な報酬で調整して、できるだけ100%の公平感を目指す、というのが私の考え方である。

 ここまでは、「どうすれば部下のモチベーションを上げられるか?」について見てきたが、ここでもう1つ、こんな問いを考えてみよう。「なぜ、上司は部下のモチベーションを上げる必要があるのだろうか?」 上司と部下の関係というのは、上司が仕事のオーダーを出し、部下がそれに応えて成果を納品する、という関係である。そして、その成果に対して上司がお金(給料)を払い、部下がそれを受け取る。端的に言えば、顧客と供給業者の関係である。

 ここで考えるべきなのは、一般の商習慣として、顧客が供給業者のモチベーションを上げる必要があるか?ということである。例えば、トヨタの車がほしい人は、ディーラーの営業担当者のモチベーションを上げなければならないのだろうか?この問いに対しては、圧倒的多数の人がNoと答えるだろう。ところが、こと上司と部下の関係になると、上司(=顧客)が部下(=供給業者)のモチベーションを上げるべきだ、などという話が出てくる。挙句の果てには、社員満足度調査の中で「上司が自分のモチベーションを上げてくれない」などと不満を言う社員まで出てくる。

 ディーラーの営業担当者が自らモチベーションを高めて、顧客に車を買ってもらうのと同様に、部下のモチベーションを上げるのは、第一義的には部下自身の責任であると私は考える。本書の話題からもう随分と長いこと脱線してしまったが、本書の内容に話を戻すと、本書では仲間性や統制、開放制の問題を解決すべきなのはマネジャーだとは書かれていない。あくまでも、チームを構成する各メンバーの問題として捉えられている。この点は非常に重要である。

 それでも上司が部下のモチベーションを上げなければならない理由を探すとすれば、それは上司と部下の特異な関係に求めることができるだろう。一般の商取引では、顧客は供給業者を自由に選択できる。供給業者が気に入らなければ、別の供給業者に乗り換えればよい。他社の製品・サービスの品質や機能に関する情報を入手することはそれほど難しくない。

 ところが、上司と部下の関係においては、上司が部下のことを気に入らなくても、簡単に部下をすげ替えることができない。労働者の権利が法律で保護されていることもあるが、仮に解雇要件がアメリカ並みに緩和されたとしても、部下を自由に入れ替えるのは困難である。部下を解雇したら、新しい部下を探すために何人もの候補者と時間をかけて面接を行う必要がある。なぜなら、人間の能力は目に見えないからだ。しかも、往々にして、いい人材だと思って採用した人でも、企業が要求する能力水準とは多かれ少なかれギャップがある。だから、採用後も研修やOJTなどを通じて根気強く育成をしなければならない。これは非常に手間とコストがかかる。

 だから、上司は部下を簡単に解雇するのではなく、今いる部下を最大限活用し、関係を維持することが最善である。そのために、部下のモチベーションに特別の配慮をしなければならない。


《2015年1月18日追記》
 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2015年2月号に収録されていたLINE代表取締役CEO・森川亮氏のインタビュー記事に印象的な箇所があったので引用する。
 企業はプロフェッショナルを採用しているわけですから、会社にモチベーションを上げてもらわなければならないような人はプロとして失格です。(中略)

 大企業の人から、マネジャー・クラスの人が疲れているという話を耳にします。部下の教育や評価もしなければならなしい、決算もしなければならないし、リポートも書かなければならない。しかも一日中会議らだけで、家に持ち帰って仕事をしなければとても追いつかないというのです。これは優秀な人の使い方を誤っていると思います。

 企業の主力となるマネジャー・クラスの人に、人が面倒を見なければいけない部下をつけるのが生産的かと。そもそも、そういう社員を抱えていることに問題の本質があるのではないでしょうか。
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-01-10

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2014年12月22日

「ASEAN情報マップ」最新版(国際機関日本アセアンセンター作)の説明会に行ってきた

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 国際機関日本アセアンセンターは、ASEANの加盟10か国(ブルネイ、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオス)の各種データを横串で比較できる「ASEAN情報マップ」というものを公表している。

 「『国際機関』とは何ぞや?」と思っていたのだが、ASEAN加盟国政府と日本国政府の協定によって、1981年に設立された組織だそうだ。ASEAN諸国から日本への輸出の促進や、日本とASEAN諸国間の直接投資、観光および人物交流を促進するために、ASEAN商品の展示会、各種セミナーの開催、ミッションの派遣・招聘、人材育成、文化紹介イベント、出版物の発行および情報提供など、多岐にわたる事業を実施している(HPより)。その日本アセアンセンターが、最新のASEAN情報マップの公開に伴い、説明会を実施したので、参加してきた。

 (1)ASEANの人口は2030年に7億人になると予想されている。ただし、シンガポール、タイ、ベトナムは少子化が進む。人口ピラミッドがきれいなピラミッドの形をしているのはフィリピンのみ。

1_ASEANの人口推移と2030年予測

2_ASEAN各国他の人口推移

 (2)ASEANのGDPは、2019年の予測では日本の半分だが、PPP(購買力平価)ベースで見るとほぼ同じになる。購買力平価とは、ある国である価格で買える製品が、他国ならいくらで買えるかを示す交換レートである。例えば、ある商製品が日本では200円、アメリカでは2ドルで買えるとすると、1ドル=100円が購買力平価である。GDPのデータに基づけば、2019年のASEANの物価は日本の約半分ということになる。

3_ASEANのGDP・PPP推移と予測

 (3)日本の貿易相手国の割合を見ると、ここ30年ぐらいずっと15%前後で推移している。これに対し、ASEANの貿易相手国を見ると、日本のプレゼンスが低下している。代わりに、ASEAN域内の貿易と、対中貿易が増加している。

4_ASEAN・日本の主要貿易相手国・地域

 (4)ASEANの域内貿易をさらに分析すると、2000年はシンガポール、マレーシア、タイへの輸出が目立つが、2013年になるとインドネシア、ベトナムへの輸出が増加している。東アジアと世界の貿易を分析すると、2000年にはASEANと中国には中間財が多く流れ込んでおり、ASEANと中国が生産拠点となっていた。これに対し、2013年には、ASEAN、中国とも、流入する中間財の割合が減っている。これは、ASEANや中国の消費市場が成長したことを意味する。

5_ASEAN域内の部品貿易

6_東アジアと世界の主要地域との貿易のフロー

 (5)ASEANに最も多くの直接投資を行っているのは日本である。ASEANへの累積投資額は、対中投資のそれを上回る。日本からASEAN各国への直接投資額を見ると、直近では、タイ、シンガポール、ベトナムの順番となる。直接投資の累積額では、タイとシンガポールが拮抗している。タイは自動車関連企業が多数進出していること、シンガポールにはアジアの統括拠点が設置されていることがその理由である。累積額ベースではベトナムはまだまだ少ないが、これは、チャイナ・プラスワン戦略の候補としてベトナムが注目され始めたのが最近であるためだろう。

7_日本からASEANと中国への直接投資額

 (6)原材料の現地調達率をみると、裾野産業が育っていない国では日本からの輸入の割合が高くなる。海外に生産拠点を設置すると、安価な労働力と原材料がすぐに手に入ると思われがちだが、原材料はなかなか現地調達できないと思った方がよい。ネジ1本にしても、現地のよく解らない企業のものを、自社の大事な製品に組み込むのは勇気がいる。よって、当初は日本から原材料を調達しながら、徐々に地場企業を探していくことが必要である。

 タイでは日系企業の52.7%が現地調達を行っているが、その内訳を見ると、現地に進出している日系企業から調達している割合が55.7%と高い。それだけ、タイには日系企業の産業集積ができ上がっているということである。

8_原材料・部品調達率

 (7)失業率を見ると、タイは完全雇用に近く、若年労働者の雇用が困難である。日本アセアンセンターの担当者によれば、ここ数年で製造業が進出しやすくなったのがフィリピンであるという。人件費はベトナムの2倍ぐらいするものの、失業率が高く仕事がないこともあり、一度採用すれば簡単には離職しない。インドネシアは人口の多さに仕事の方が追いついていない。ジャカルタ以外の地方では、かなり人が余っているらしい。

9_失業率

 (8)都市化率(都市部に人口の何割が住んでいるか)を見ると、タイとベトナムはわずか3割である。都市部と地方では物価が全く異なるため、販売する製品・サービスを変えなければならない。日本において、東京の給与を100とすると、鳥取は70だから(あくまでも例です)、タイの地方では都市部の7割ぐらいの価格で販売すればいいだろうという感覚で臨むと失敗する。地方では10分の1の価格でないと売れないこともある。エースコックは、都市部を捨てて、地方に特化することで成功している。即席めんの売上高は、海外と日本でほぼ肩を並べるまでになっている。

 逆に都市部の富裕層は、可処分所得が多い上に、物価が日本より安いことから、自由になるお金の割合が日本人より多い。マレーシアではメイドを3人雇ってもお釣りがくる。日本人のライフスタイルをASEANの都市部の富裕層に当てはめて考えるのは間違いである。

10_都市人口率

11_平均世帯可処分所得の格差

 (9)ジニ係数は、0.4を超えると暴動が起きると言われているが、ASEAN諸国はほとんどが0.4を超えている。それでも暴動が起きないのは、「富裕層は5倍豊かになったが、一般庶民も2倍豊かになったから、ここは我慢しようや」という心理が働いているためではないかと思われる。ちなみに、日本のジニ係数は、所得再分配前が約0.5で、暴動が起きるレベルである。様々な社会保障による所得再配分のメカニズムが機能しているため、現実のジニ係数は0.3まで下っている。ASEAN諸国は、社会保障制度を整備することが今後の課題である。

12_GINI係数

 (10)ベトナムは親日国である。ASEAN各国に「ASEANにとって現在の重要なパートナーはどこですか?」という質問をすると、大部分のベトナム人は「日本」と答える。親日派が多い理由の1つは、ベトナムの歴史教科書に求めることができるだろう。ベトナムは社会主義国なので、歴史教科書は国定である。中国や韓国の歴史教科書が日本のことを徹底的に批判しているのに対し、ベトナムの歴史教科書は日本に肯定的である。

 ベトナムの歴史教科書は中ソとの戦争のことが大部分を占めるが、日本のことも3回登場する。ⅰ)明治維新、ⅱ)太平洋戦争、ⅲ)戦後の復興、の3回である。ⅱについては日本に否定的であるものの、ⅰとⅲに関しては「日本に学べ」というメッセージが打ち出されている。すなわち、ⅰに関しては、フランス領だったベトナムは、明治維新を通じて自力で近代化に成功した日本に学ばなければならないとしている。また、ⅲに関しては、アメリカに大敗し、しかも資源に乏しかった日本がどうやって経済発展を遂げたのか、成功要因を学ぶべきだとしている。

2014年12月19日

佐藤秀夫、山本武利編著『日本の近・現代史と歴史教育』―高橋是清とアベノミクス

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日本の近・現代史と歴史教育日本の近・現代史と歴史教育
佐藤 秀夫 松本 三之介 李 鍾元 北岡 伸一 山本 武利 区 建英 シオドル・F. クック

築地書館 1996-02

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 本書には、高橋是清と井上準之助を対比させた論文が収録されていたのだが、高橋是清の政策はアベノミクスそのものだと今さらながらに認識した。以下、かなり長いが引用する。
 金輸出再禁止の後、つまり井上準之助の政策が失敗したのちに高橋が乗り出したときの財政家としての高橋第二の時期にお話を移したいと思います。このときは最初に高橋は井上財政と金解禁への相当強烈な批判をしましたうえで、新しい方法を取ります。まず通貨を増大させるのが大事である。そのためには財政支出を増やさなければいけない。ところが不景気で財源がありませんから公債を発行する。公債を発行するとしても、それを引き受けてくれるところがありませんので、まず日本銀行に公債を引き受けさせる。

 つまり政府は公債を刷って日本銀行に渡すと日本銀行から日銀券が政府に来る。その日銀券を政府は予算を使って全国にばらまく。そしてばらまくとそのお金がめぐりめぐって、いろいろな工場に行き、銀行に戻ってくる。そこでその銀行が日銀が持っている公債を買い取って消化してくれればよいという、赤字国債の日銀引き受け発行という方式を取りまして、まず政府がお金を出して景気をよくしようと財政支出を増やす政策を1ついたします。

 もう1つの措置は金利を安くする、どんどん低金利にする。不景気なときにはなるべく金利を安くして資本の負担を軽くして事業のやりやすいように努めるべきであるという政策です。国債の利率を5分から4分半、4分というように下げ、預金協定利率も4分7厘から3分7厘に下げる。公定歩合もどんどん下げて、1932年(昭和7)の8月が日歩1銭2厘、これは1910年(明治43)以来の低い利率であります。33年7月には日歩1銭というところまで下げます。低金利にしてなるべく景気をよくしよう、これが国内の金融面での政策です。

 対外面では、金輸出を再禁止しますから、当然為替相場が下落いたします。為替相場の下落をそのまま放任しておく、実力に応ずるところまで下がるに任せる、当然国内では物価が上がりますが、海外から見ますと為替相場が下がった分だけ日本の製品の価格は低く見えますから、だんだんと輸出が延びてくる。こういう3つの方法を使って景気の回復に努めました。(中略)

 これらの政策が成功いたしまして、日本は世界で一番早く不景気から脱却してまいりました。高橋は31年の12月から、こういう政策を取りまして、じつはこれはケインズよりも早い。
 通常、不景気の時期に政府が実行できる経済政策は、財政出動か金融政策のどちらかであって、両方を一気にやろうとするアベノミクスは無理があるという批判もあった(だから、”アベノミックス”などと揶揄されていた)。ところが、今から約80年前の日本では、高橋是清が両者の組み合わせによる政策の効果を実証していたわけだ。

 高橋是清はその後、積極的な財政出動がもたらした国家予算の膨張に対する批判を受けて、軍縮に乗り出した。特に、陸軍に対する圧力は相当なものだったらしい。これに反発した陸軍の皇道派は1936年2月26日、高橋是清を暗殺した。いわゆる二・二六事件である。

 高橋財政とアベノミクスの違いは、アベノミクスが第3の矢として掲げている「成長戦略」である。成長戦略は、第1の矢(異次元の金融緩和)と第2の矢(積極的な財政出動)によって市中に大量にもたらされた資金が、新たな産業に投資されることを狙っている。先日の記事「野村総合研究所2015年プロジェクトチーム『2015年の日本』を2015年の到来を前に読み返してみた」でも書いたように、それぞれの地域が「地域版成長戦略」を策定し、重点産業を定めている。

 ただ問題なのは、産業の育成には何十年という長い時間がかかる、ということだ。産業を確立するためには、競争ルールを策定し、人材を育成し、技術開発に投資し、大学などの研究機関と連携し、裾野産業・関連産業を誘致するなどして、産業集積を形成しなければならない。これは、第1の矢、第2の矢のようにすぐに効果が表れるものではない。第3の矢の具体策としては、法人減税やGPIF改革、日本版ステュアートシップ・コードの導入などが議論されている。もちろんそれはそれで必要なのだが、産業振興という本来の目的からすると短期的であり傍論にすぎない。

 2014年7-9月期の実質GDPが民間の予想を裏切ってマイナス成長になった要因は色々あるだろうが、個人的には、第1の矢・第2の矢という短期的な施策と、第3の矢という非常に長期的な施策との間がすっぽりと抜け落ちており、アベノミクスが息切れを起こしてしまったのではないか?と思う。時間軸を埋め合わせる施策、具体的には地域版成長戦略で定めた各産業の中長期的なロードマップを、国と地方が一体となって描くことが急務であると感じる。


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