この月の記事
【補助金の現実(5)】補助金の経済効果はどのくらいか?
『CSV経営(DHBR2015年1月号)』―日本人は「経済的価値」と「社会的価値」を区別しない、他
【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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2015年01月30日

【補助金の現実(5)】補助金の経済効果はどのくらいか?


 《前回までの記事》
 【補助金の現実(1)】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない
 【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい
 【補助金の現実(3)】補助金=益金であり、法人税の課税対象となる
 【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある

 平成26年度補正予算で「地域商品券」が発行されるらしく、これが1998年度の「地域振興券」(小渕内閣)、2009年度の「定額給付金」(麻生内閣)を想起させるようで、各方面からは様々な声が上がっている。地域振興券は、約6,200億円を費やして、一定の条件を満たした国民に1人あたり2万円分が支給された。これに対して、定額給付金の予算は2兆円とはるかに巨額であった。支給額は原則として1人12,000円であるが、基準日において65歳以上の者および18歳以下の者については8,000円加算され、20,000円とされた。

 その後の各種調査によると、地域振興券はGDPを0.04%程度、定額給付金はGDPを0.1%程度押し上げる効果があったとされる。ただし、定額給付金では、地域振興券よりも限界消費性向(新たに増加した1単位の所得のうち消費にまわる部分の割合)が過大に見積もられているため、効果も大きめに算出されていると指摘されている。

 こうした給付金とはかなり毛色が違うが、経済産業省関連の補助金はどのくらいの経済効果があるのだろうか?経産省の補助金に詳しいある方は、「だいたい予算の3倍ぐらいの経済効果がある」とおっしゃっていた。平成24年度補正予算、平成25年度補正予算で実施されている「ものづくり補助金」に関しては、次のような記事が出ていた。
 中小企業の設備投資を促す「ものづくり補助金」が、国が予算措置した金額の約2.2倍の経済効果を生み出していることが分かった。

 事業の実施団体である全国中小企業団体中央会の調査によると、補助金交付企業が事業に要する経費の試算合計額は4978億円で、国がこの事業のために2012年度および13年度の補正予算で措置した約2400億円の2.2倍の規模となっている。

 補助金を"呼び水"として"自腹"でも追加投資に踏み切る動きが活発で、新たな事業に挑む姿を裏づけている。

 同支援策はこれまでに全国で延べ6万1000社の申請があり、約2万5000社を採択。「平均的な申請内容では採択されない」(関係者)高倍率の人気施策となっている。同支援策は過去2年、補正予算で実施された経緯がある。経済対策を盛り込む14年度補正予算案編成が検討されるなか、引き続き実施される可能性が高まってきた。
 (J-Net21「「ものづくり補助金」、2.2倍の経済効果―全国中小企業団体中央会が調査」〔2014年11月17日〕より)
 これだと、先ほどの方がおっしゃっていた3倍に届かない。補助金の経済効果について、マクロ経済の分析手法を用いて論じたレポートもいくつかあったが、いかんせん私の知識がついて行かないので(涙)、もっと簡単に考えてみることにした。

 採択企業が5,000億円を新たに支出したということは、採択企業の「取引先」は新たに5,000億円の売上高が上がったことになる。ただし、そのお金がまるまる「取引先」のものになるわけではなく、売上高が増えた分だけ、それに連動して変動費が発生する。TKCの経営指標(2009年度版)によると、黒字の製造業の変動費率(平均)は55.5%だそうだ。よって、採択企業の「取引先」は、5,000億円×55.5%=2,775億円を新たに支出したことになる。

 この2,775億円は、「取引先の取引先」の売上高となる。先ほどと同じように、売上増に伴って新たに変動費が発生し、その額は2,775億円×55.5%=1,540億円となる。この1,540億円は、さらに「取引先の取引先の取引先」の売上高となり、1,540億円×55.5%=855億円の追加支出が発生する。これを繰り返していくと、日本全体で新たに増えた支出は、

 5,000億円+5,000億円×(0.555)+5,000億円×(0.555)2+5,000億円×(0.555)3+・・・5,000億円×(0.555)n・・・

となる。つまり、初項5,000億円、公比0.555の無限等比級数の和であるから、その和は「初項/(1-公比)」で求められる。実際に計算すると、約1兆1,236億円となり、名目GDPの約0.2%に相当する。過去の地域振興券や定額給付金に比べると、投資対効果が大きかったと言えるかもしれない。もちろん、上記の5,000億円の中には、既に雇用している社員にかかる直接人件費などのように、補助金がなくても発生したであろう経費が含まれているから、約1兆1,236億円というのは過大評価になっている可能性は否定できない。

 仮に、5,000億円のうち、直接人件費など補助金がなくても発生していた経費の割合を2割と仮定すると、企業が新たに支出した経費は4,000億円となり、日本全体で増えた支出の額は、4,000億円÷(1-0.555)=8,989億円となる。これであれば、前半で紹介した、「だいたい予算の3倍ぐらいの経済効果がある」という言葉にかなり近くなる。

 ただ、別の角度から考えれば、前回の記事「【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある」で述べたように、補助金は国による投資である。よって、補助金によって採択企業の税引き前当期純利益がどれだけ増えたのか?また、それに伴い税収はいくら増えたのか?という観点で投資対効果を判断するべきだろう。もっとも、これを真面目に計算するためには、採択企業の業績を中長期に渡ってモニタリングする必要がある。どちらかと言うと短期的な視点で動く政治家は、こういう作業を嫌がるに違いない。

 仮に、国による投資=約2,400億円を法人税によって回収しようとしたら、新製品・サービスを通じてどのくらいの売上高・利益を上げる必要があるのだろうか?一般に、企業の実効税率は約40%と言われているが、中小企業の場合は様々な優遇策があり、大企業に比べて実効税率が低い。課税対象の所得が400万円以下の場合には、実効税率は約26%となる(「中小企業の実効税率って!?|蛭田昭史税理士事務所」を参照)。計算を簡単にするために、実効税率が最も低いこのケースで考えてみる。

 前述の2,400億円をこの実効税率26%で回収するためには、2,400億円÷26%=9,231億円の累積利益(ここでは便宜上、課税対象の所得=税引き前当期純利益とする)の増加が必要になる。ただし、ものづくり補助金で採択された全2万4,000社が万遍なく利益を上げられるわけではない。新製品・サービスの開発は、むしろ失敗の方が多い。経済産業省が公表している「中小企業・ベンチャー挑戦支援事業のうち実用化研究開発事業(制度)事後評価報告書」というレポートでは別の補助金の分析がなされているが、これによると事業化率は29.4%にすぎない。

 ということは、2万4,000社の約3割に相当する7,200社で、9,231億円の累積利益を上積みしなければ、投資は回収できない。ただし、ここでも先ほどと同様に波及効果を考える必要がある。すなわち、事業化に成功した企業から新たに仕事を受注した企業も利益が増え、さらにその企業から新たに仕事を受注した企業も利益が増える、という連鎖が発生する。よって、先ほどの7,200社とその取引先が上積みした利益の総計が9,231億円となればよい。

 事業化に成功した企業が新たに上積みした売上高の累積額をX億円とする。特別利益や特別損失がないと仮定すると、売上高経常利益率=売上高税引き前当期純利益である。やや古いデータになるが、中小製造業の売上高経常利益率は平均1.7%らしい(「売上高経常利益率|新・経営力向上TOKYOプロジェクト」を参照)。したがって、事業化に成功した企業が新たに獲得する利益の累積額は、0.017X億円となる。

 事業化に成功した企業は、取引先に新たな仕事を発注する。その金額は、前述した変動率の数値を使えば、X億円×55.5%である。よって、取引先が新たに得る利益の累積額は、0.017X億円×55.5%となる。さらに、その取引先から新たに仕事を受注した企業の利益の累積額は、0.017X億円×55.5%×55.5%ということになる。これを繰り返していくと、事業化に成功した企業とその取引先が新たに獲得する利益の累積額は、

 0.017X億円+0.017X億円×(0.555)+0.017X億円×(0.555)2+0.017X億円×(0.555)3・・・+0.017X億円×(0.555)n・・・

で計算される。この式は、初項0.017X億円、公比0.555の無限等比級数の和であるから、その和は「初項/(1-公比)」すなわち、0.017X億円/(1-0.555)である。この和が9,231億円に等しくなるようなXを求めると、24兆1,635億円となる。この金額が、事業化に成功した7,200社が上積みすべき累積売上高の合計である。1社あたりに換算すると、約33.5億円だ。事業化に成功した企業は、補助金で開発した製品・サービスにより約33.5億円の売上高を上げなければ、補助金という投資を法人税で回収することができない。そう考えると、結構ハードルが高い。

 ものづくり補助金の申請書には、今後5年間の事業計画を記入する欄があり、公開されている採点基準の中にも「事業を通じて補助金の金額に見合った効果が得られるかどうか?」という項目が入っている。しかし、審査員はこういう具体的な数字を踏まえて採点しているだろうか?


2015年01月28日

『CSV経営(DHBR2015年1月号)』―日本人は「経済的価値」と「社会的価値」を区別しない、他


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 01月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 01月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2014-12-10

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 (1)CSV(共通価値の創造:Creating Shared Value)とは、競争戦略の父であるマイケル・ポーターが近年になって提唱した新しい概念である。DHBRでも何度か取り上げられているが、CSVだけで特集が組まれたのは今回が初めてだと思う。

 《参考:旧ブログの記事》
 社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』(1)(2)
 「社会的価値」はどうやって測定すればいいのだろう?―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
 ポーターの「共通価値」の理解が深まるBOPビジネス事例集―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』(1)(2)
 【論点】コカ・コーラは、工場を置く新興国の「水道事業」に参入するだろうか?―『リーダーの役割と使命(DHBR2011年12月号)』
 経済的⇔社会的価値という二項対立を克服するグレート・カンパニー―『「チェンジ・ザ・ワールド」の経営論(DHBR2012年3月号)』

 CSVの理論的な枠組みとその限界については、岡田正大「新たな企業観の行方 CSVは企業の競争優位につながるか」で詳しく整理されている。著者によると、ポーターのCSVには3つの側面(理論の揺らぎ?)があるという。

 ①「社会的価値」の追求は、「経済的価値」をもたらす原因の1つである。
 ②「社会的価値」の実現は、「経済的価値」が満たすべき条件である。
 ③共通価値とは、「経済的価値」と「社会的価値」の総合計を拡大することである。

 ②はCSVというよりCSRの範疇かもしれない。例えば、自社製品を製造する際に、環境負荷の低減に取り組むといったことが②に該当する。また、私が旧ブログで書いてきたことは、だいたい①に該当すると解った。コカ・コーラが新興国で水道事業に参入すれば、現地住民の死亡リスクが下がると同時に生活レベルが上がり(社会的価値の創出)、めぐりめぐってコカ・コーラの製品を購入できるようになるだろう(経済的価値の創出)。

 ただ、経済的価値と社会的価値をわざわざ区別して議論をややこしくしているのは欧米人だけなのではないか?という気もする。本号にはユニクロ・柳井正社長と日本GE・熊谷昭彦社長のインタビュー記事が載っていたのだが、2人とも経済的価値と社会的価値を区別していないと感じた。簡単に言えば、「社会に役立つことをすることが企業の役割である」と認識している。
 海外に進出すると、常に問われることがあります。あなたはどこから来ましたか。この国に対して、そして世界に対して、あなたはどんなよいことをしてくれますか。これらの質問に答えられなければ、グローバル展開はできません。(中略)

 世界と共存していくためには、世界で通用する価値を提供できなければいけない。それはまさに、CSVだといえます。普遍的な価値とは何かを集約したものがビジネスになる。その国の人々の生活をよくするという覚悟がなければ、グローバルな展開はできないのです。
(柳井正「収益性と成長性ある長期戦略を実現するために 世界一の企業を目指すならCSVは当然である」)
 一般的には、経済価値を追求したほうが株主価値は高くなると考えられます。社会的価値を追求するということは、企業価値、株主価値の伸び率を犠牲にする選択をしたと思われるかもしれません。しかし、けっしてそういうことではありません。

 イメルトは、世のなかにあるニーズにいち早く、より効果的にソリューションを提供することこそが企業価値だという考え方をしています。そのソリューションが他社よりも優れていれば差別化が図れることになり、最終的にはそれが利益還元につながると考えているのです。
(熊谷昭彦「創業者エジソンの精神への原点回帰 GEは事業で社会的課題を解決する」)
 以前の記事「「横浜型地域貢献企業」(ノジマなどが認定)―横浜市がCSRに積極的な企業を認定する制度」で書いたこととも関連するが、企業は次の2つの問いを追究すれば、自然と経済的価値と社会的価値を両立できるように思える。

 1つ目は、「顧客のニーズは社会的に見て善と言えるか?」という問いである。企業は顧客の全ての要望に応える必要はない。顧客のニーズが、道徳的・倫理的な視点や環境保全の観点から見て合理的と言えるかどうか、ふるいにかける必要がある。健康で文化的な最低限の生活を送るために必要な衣・食・住へのニーズは、間違いなく社会的な善に適う。一方で、宿題代行業などというのは、こうしたニーズの選別を厳密に行っていれば現れなかったに違いない。

 2つ目は、「製品・サービスの製造・提供プロセスは社会的に見て善と言えるか?」である。仮に社会的に正当なニーズであっても、その実現方法が先ほどと同じく、道徳的・倫理的な視点や環境保全の観点から見て合理的でなければ意味がない。例えば、靴そのものは社会的に善と言える製品だが、その靴を3人で毎月1万個製造せよというのは無茶な注文である。これは極端な例だが、いわゆるブラック企業は社員の扱いが善ではない。社員だけでなく、取引先や地球資源を搾取するのも同じである。そういう行為が前提となっているビジネスモデルは、早晩破綻する。

 アメリカ企業は、将来のある一時点において明確なビジョンを掲げ、いざその時が来てビジョンが実現されれば事業を売却するか、後は衰退を見据えて撤退戦略を描くかのどちらかである。つまり、アメリカ企業には初めから「終わり」がある。よって、社員や取引先、地球資源を多少搾取したとしても、自らが設定したゴールまで逃げ切ることができれば責任は回避されてしまう。しかし、日本企業は基本的に終わりを設定しない。事業は半永久的に続くものととらえている。よって、近視眼に陥って社員などを搾取すれば、将来的に必ずしっぺ返しを食らう。

 やや話が逸れるが、先日の記事「山本七平『「常識」の研究』―2000年継続する王朝があるのに、「歴史」という概念がない日本」で紹介した書籍では、日本人が経済と道徳を区別しないこと、とりわけ、道徳的問題が解決できなければ経済的問題に着手しないことを「徳川化現象」と呼んで、江戸時代からの日本人の行動様式だとしている。
 論争なき社会において、議論の主導権を握る方法は、徳川時代以来一貫して1つの法則があるということである。この原則は、いわゆる「お家騒動」にしばしば出現するが、簡単にいえば経済的合理性の問題を、道義もしくは倫理の問題にすりかえる方法である。言うまでもなく社会倫理に違犯する行為は、それ自体糾弾さるべき問題、あるいは是正すべき問題でこれに反証することは何者もできない。しかしこれは経済的合理性の追求とははっきりと別の問題なのだが、この2つをすりかえて、これが是正されない限り、経済的合理性を追求してはならないとする主張である。(中略)

 論争の国なら、この2つは、はっきり峻別されて、それぞれに別の論争が成立しても、これがすりかえ議論となって、一方が他に影響をするということは起こらない。
 (2)グラミン銀行(バングラデシュ)の創業者であるムハマド・ユヌスは、「社会的課題を解決する持続可能な仕組み ソーシャル・ビジネスというもう一つの選択肢」というインタビュー記事で、社会的課題を解決するために、株式会社ともNPOとも異なる組織形態を提唱している。
 私たちが提案するのがソーシャル・ビジネスです。これは飢餓、病気、教育などといった人類を悩ます社会問題、経済問題、環境問題を解決するために、ビジネスの仕組みを組み込んだ組織形態です。社会問題の解決という意味ではNPOと変わらず、そのためにビジネスを行うという点ではCSVと変わりません。

 決定的に異なるのは、資金の還流です。ソーシャル・ビジネスは、ビジネスと名乗る一上、株式会社と同じように利益を追求します。しかし、出資者は一定期間経過後に元本を回収できる可能性はあるものの、ビジネスで得た利益を手にする可能性はありません。つまり、ソーシャル・ビジネスはNPOがチャリティとしてやろうとしている目的はそのままで、利益を追求することなくビジネスの仕組みを組み合わせたものなのです。
 個人的には、社会的課題の解決のために、わざわざ新しい組織形態を作る必要があるのか、やや疑問である。ソーシャル・ビジネスは途上国の貧困や病気などを解決することが目的とされているが、例えば終戦直後の日本はそれらの国と(程度の差はあれ)似たような状態だったのではないだろうか?その日本を現在のように豊かにしたのは、主に株式会社であったはずだ。だから、社会的課題は、伝統的な資本主義のやり方で解決できる余地がまだあるように思える。

 それとも、現在の途上国が社会的課題を抱えているのは、資本主義の負の遺産なのだろうか?資本主義がやり残した課題であるからこそ、伝統的な株式会社などとは異なる仕組みが求められているのだろうか?この辺りの議論がもっと必要であるように思えた。

 (3)以前の記事「『投資家は敵か、味方か(DHBR2014年12月号)』―機関投資家に「長期的視点を持て」といくら言っても無駄だと思う、他」で、成熟したアメリカ企業は、自社の事業の終焉に向けて自社株買いをし、株主に報いる傾向があると書いた。本号には、そのような自社株買いの動きを批判する論文が収録されており興味深かった(ウィリアム・ラゾニック「3つの大義名分で覆い隠された真実 欺瞞だらけの自社株買い」)。
 (S&Pを構成する)449社は、この期間(2003年~2012年)に稼いだ金額の54%(合計で2.4兆ドル)を自社株買いに使った。そのほとんどは公開市場を通じて行われており、さらに稼ぎの37%は配当に使われている。それによって、生産能力を高める投資や社員の収入アップに充てるための資金はほとんど残らなかった。
 著者は、経営者は企業の持続的な存続と成長を目指して積極投資するべきであり、それができないようでは無責任だと手厳しい。
 長い時間をかけて生産能力を築き上げてきた企業は、隣接業界に参入しようと思えば、通常、組織面でも財政面でも巨大な優位性を持っているものだ。最高幹部の主要な役割の1つは、そうした自社の能力を活かす新しいチャンスを見つけることにある。それをせずに、最高幹部みずからが公開市場での自社株買いを選択する時、はたしてその幹部は、自分に課された仕事を行っているのかという疑問が生じる。
 著者は、経営者の責任放棄によって、イノベーションや研究開発など、生産性向上のための取り組みに回されるはずの資金が自社株買いに使われており、アメリカ経済全体にとっても大きなマイナスになっていると指摘する。日本企業も、著者のこうした警告には注意を払うべきだろう。


2015年01月26日

【補助金の現実(4)】《収益納付》補助金を使って利益が出たら、補助金を返納する必要がある


 《前回までの記事》
 【補助金の現実(1)】補助金は事後精算であって、採択後すぐにお金がもらえるわけではない
 【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい
 【補助金の現実(3)】補助金=益金であり、法人税の課税対象となる

 《2016年11月28日追記》
 この記事が比較的よく読まれているようなので、平成28年度補正ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金)に関連する記事へのリンクを貼っておく。

 「新ものづくり補助金(平成25年度補正)」申請書の書き方(例)
 【シリーズ】「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)
 【平成28年度補正ものづくり補助金】賃上げに伴う補助上限額の増額について

 おそらく補助金について最も知られていないことの1つが、この「収益納付」である(恥ずかしながら、私も知らなかった)。簡単に言うと、補助金を受けて事業を行った結果利益が出たら、補助金の額を上限として利益の一部を国庫に返納せよ、ということである。「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に次のような規定がある。ほとんどの補助金では、この条文を根拠に、補助金ごとに定められる補助金交付規定の中で収益納付について明記している。
第7条(補助金等の交付の条件)
 ②各省各庁の長は、補助事業等の完了により当該補助事業者等に相当の収益が生ずると認められる場合においては、当該補助金等の交付の目的に反しない場合に限り、その交付した補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべき旨の条件を附することができる。
 収益納付の趣旨に関して、補助金に詳しいある人は次のように説明していた。基本的に、利益が出る見込みの高い事業計画があるならば、金融機関から普通に融資を受ければよい。その方が、以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」で述べたような複雑な会計処理を強いられることなく、自由にお金を使うことができる。

 補助金の対象となるのは、金融機関が融資したがらない、言い換えれば、リスクが高い事業である。利益の見通しが不明なために及び腰になっている中小企業の背中を後押しするのが補助金の大きな目的だ。ところが、中には補助金を悪用(?)して、利益が出ることが最初から解っている、つまり販売先がもう決まっていて利益の目途が立っているのに、補助金を受けようとする企業もある。そういう企業は利益の二重取りになり、補助金の趣旨に反するので、後から補助金を返還させたい。そのために、収益納付の規定を設けて牽制しているのだという。

 私の解釈はこれとは少し違っている。補助金とは国による一種の投資である。ただし、国は通常の投資家とは違い優しい投資家であって、ベンチャー企業が上場する時のように、投資金額が何倍~何十倍に化けることは期待していない。あくまでも、投資した金額が戻ってくればよいと考えている。それが収益納付である。残りの利益は企業の内部留保に回してもらい、将来的に設備投資などをしてくれればGDPが上がるので、国としてはその方がありがたい。

 しかしながら、補助金の対象=投資対象の事業は、前述したようにもともと事業化の見通しが不透明なものが多い。だから、失敗も多くなることが予想される。よって、補助金が全体としてリターンを得るためには、利益が出る事業にはとことん大きな利益を上げてもらう必要がある。したがって、一部の企業にとっては、収益納付は非常に重要な問題となる。

 収益納付額を算出する計算式はだいたいどの補助金でも同じだが、非常に複雑である。計算の基本方針を私なりに解釈すると、事業で得られた利益のうち、補助金が寄与した分を収益納付額としているようである。具体的に、「創業補助金」の交付規定33に従って計算してみよう。

 A.補助金交付額
 本事業にて交付を受けた補助金額。本ケースでは200万円としている。

 B.補助対象事業に係る収益額
 補助事業に係る営業損益など(売上高-売上原価-販売管理費など)の各年度の累計。本ケースでは、1年目から5年目の各年度の収益額が50万円⇒750万円へと徐々に増えていくように設定している。

 C.控除額
 補助対象経費。本ケースでは300万円としている。

 D.補助対象事業に係る支出額
 本報告の事業年度までに補助事業に係る費用として支出された全ての経費(補助事業終了後に発生した経費を含む)。本ケースでは、1年目から5年目の各年度の経費が300万円⇒700万円へと徐々に増えていくように設定している。

 E.基準納付額=(B-C)×A÷D
 (0以下の場合は0)

 F.累積納付額
 前年度までに収益納付した額の合計額。

 G.本年度納付額
 E+F≦AならばE(「基準納付額」+「前年度までの累積納付額」の合計が「補助金交付額」以下ならば、本年度の納付額は「基準納付額」)、
 E+F>AならばA-F(「基準納付額」+「前年度までの累積納付額」の合計が「補助金交付額」を上回るならば、本年度の納付額は「補助金交付額」-「前年度までの累積納付額」。これで補助金交付額の上限まで収益納付を行ったことになる)

補助金_収益納付

 上図を見ると解るように、利益が出たからといってただちに収益納付の義務が生じるわけではない。また、上図では5年目のE+F(「基準納付額」+「前年度までの累積納付額」)がA(「補助金交付決定額」)を上回るので、基準調整額を調整して納付額を決定している。3年目から5年目のG(「本年度納付額」)を合計すると、ちょうど補助金交付決定額の200万円となる。

 収益納付額を簡単にシミュレーションできるエクセルを作成したので参考までに。青字の斜体の部分を変えると、収益納付額が計算される。

 収益納付 簡易シミュレーションシート(※旧ブログサーバ、右クリックで保存)



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