この月の記事
ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』―アメリカは「つながりすぎたシステム」から一度手を引いてみてはどうか?
『選ばれる人材の条件(DHBR2015年5月号)』―潜在能力に頼った採用を止めよう、他
『人生心得帖(『致知』2015年5月号)』―中小企業は「生業」で終わってはならないと思う

お問い合わせ
お問い合わせ
プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京23区、神奈川県川崎市・横浜市を中心に活動する中小企業診断士・コンサルタント。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
アクセスカウンター(PV)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

タグクラウド

Top > 2015年05月 アーカイブ
2015年05月29日

ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く』―アメリカは「つながりすぎたシステム」から一度手を引いてみてはどうか?


世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方世界はシステムで動く ―― いま起きていることの本質をつかむ考え方
ドネラ・H・メドウズ Donella H. Meadows 小田理一郎

英治出版 2015-01-24

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 施策への抵抗に対処するひとつのやり方は、力で圧倒する方法です。十分な力を使うやり方で、それを続けることができるなら、この「力で」というアプローチはうまくいく可能性があります。その場合の代償は、とてつもない恨みと、その力が外されたときに爆発的な結果が生じる可能性です。(中略)

 施策への抵抗を力で抑え込む代わりの方法は、あまりに直感に反しているため、ふつうは考えられないものです。「手を放す」ことなのです。効果のない施策をあきらめるのです。押しつけたり抵抗したりすることに注いでいる資源やエネルギーを、もっと建設的な目的のために使うようにするのです。そのシステムはあなたの思い通りにはなりませんが、思うほど悪い方向に行くこともないでしょう。
 本書は「システム思考」に関する書籍である。システムの基本形や、システムが機能不全に陥るパターンを解説している。引用文は、著者が「施策への抵抗」と呼ぶ機能不全のパターンに言及した部分である。様々な利害関係者がよかれと思って施策を展開したのに、結局はお互いに足を引っ張って、誰もが望まない結果を招いてしまうことを指している。引用文にある「手を放す」という解決策は、著者の出身国であるアメリカにそのまま突き返してやりたいと思った。

 アメリカは、政治的自由に基づく民主主義と、経済的自由に基づく市場主義を強く信奉している。アメリカは中世を経験することなく、啓蒙時代に誕生したため、表向きは理性の働きによって宗教から脱却した、世俗的な国家として歴史を歩んできた。ところが、民主主義と市場主義に対する並々ならぬ熱の入れようを見ると、「アメリカ教」とでも呼んだ方がよいのかもしれない。

 アメリカが建国された時代に世界を動かしていたのは帝国主義であり、ヨーロッパ諸国が世界各地に植民地を建設していた。一部のアメリカ人は、これに倣って植民地の開拓に乗り出そうとしていた。しかし、アメリカ自体がイギリスの植民地支配から独立した国家であるため、イギリスと同じ道をたどるのは建国理念に反するとの声の方が大多数を占めるようになった。代わりに、アメリカ教という宗教(価値)を輸出することで、世界を支配下に収めることにしたのである。

 アメリカの目標は、世界で民主主義を実現することである。各国の政治に介入し、民主主義の推進派を積極的に後押しする。アメリカはイスラエルを中東で唯一の民主主義国家として支持している。また、中東におけるアメリカの盟友であるサウジアラビアをはじめ、周辺のイスラーム国家も民主主義国家に変革したいと考えている。2011年にエジプトで始まった民主化運動である「アラブの春」は、反欧米政府を打倒するためにアメリカが後方支援していたらしい。

 アメリカは独裁政権を強く批判し、時に制裁を加える。かつてブッシュ元大統領は、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んだ。もっとも、イランは本来無関係だったのだが、3か国と言った手前もう1か国名前を挙げなければならなくなり、仕方なくイランを指名したのが実情らしい。その影響で、アメリカとイランの関係は冷え込んだ。最近、「アジア最後のフロンティア」として注目されるミャンマーも、軍事政権がアメリカから問題視され、長らく経済制裁を受けていた。

 民主主義と同時に、市場主義の普及(布教)もアメリカの重大な使命である。世界中が自由市場によってつながり、アメリカ企業の製品・サービスが世界中で消費されることが最終ゴールである。アメリカは基軸通貨のドルを握っているので、市場で自由自在に振る舞うこと可能だ。まず、ドル紙幣をせっせと印刷してカネ余り状態にする。余ったカネはアメリカ企業の株式に投資される。その結果株価は上がり、アメリカ企業は積極的な設備投資を行う。そして、供給力過剰によってアメリカ市場からあふれた製品・サービスは、世界市場を目指すようになる。

 どこの国も、自国の産業を守るために関税障壁などを設けている。ところが、アメリカが世界の自由市場化を目指す上で、この障壁は邪魔以外の何物でもない。したがって、アメリカは他国の経済政策にも介入し、アメリカにとって不利なルールや制度を撤廃させる。日本に対しても、年次改革要望書が送られてくる。だが、それぞれの国といちいち個別に交渉するのは大変だ。そこでアメリカが目をつけたのがTPPである。TPPによって、完全なる自由貿易のルール(つまり、アメリカにとって最も都合のよいルール)を、一気に多くの国に適用しようというわけだ。

 アメリカの野望の果てに実現するのは、世界中の人・モノ・カネ・情報が自由に往来しするフラットな世界である。とはいえ、あまりにつながりすぎた世界は重大な危険をはらんでいる。例えば、サブプライムローン問題は、リスクが高い低所得者の住宅ローンを複雑なアルゴリズムによって組み合わせ、元のリスクが解らないようにして世界各地の投資家にばらまいたことが原因だった。ひとたび住宅ローンの返済が滞ると、その影響は全世界に広がった。リーマン・ショックが起きた当初、日本は平静を保っていたものの、実際にはその後数年間深刻なダメージが残った。

 人の自由な往来によるリスクと言えば、イスラム国(IS)が挙げられる。ISにはヨーロッパやアジアなど、全世界から何万人もの若者が参加している。彼らが母国に戻った後、テロを引き起こす可能性がある。各国は、危険と思われる人物からはパスポートを取り上げて、ISへの渡航を事前に阻止するなどの対策を取っているが、おそらくこういうルールは機能しない。テロ行為は、何かルールで制限すればするほど、そのルールをかいくぐって先鋭化するものである。

 インターネットを介してあらゆる情報がつながるのも問題だ。IoT(Internet of Things)という言葉が登場し、パソコンだけでなく、家電、自動車などあらゆるモノがインターネットに接続される。もちろん生活が便利になるのはよいことだが、同時にサイバーテロに遭う危険性も高まる。パナソニックの関係者は、「我が社の炊飯器がペンタゴンを攻撃したらシャレにならない」と語っていたが、冗談ではなく十分にありうる。あってはほしくないことだが、グーグル、アップル、アマゾンあたりが、いつか情報管理をめぐって深刻なトラブルを起こすかもしれない。

 アメリカは、力によって他国を自らの望むシステムに取り込むのではなく、もう少し他国の文化や価値を尊重し、適度な距離を保つことを学ぶべきではないだろうか?政治的自由と経済的自由が両方とも実現されている国は、実は少数派である。世界には、政治的・経済的自由の度合いに応じて、様々な体制・社会が存在する。東アジアや東南アジアを見ると、中国、シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムなど、経済的自由はあるが政治的自由が制約されている国が多い。アメリカは、そういう国への共感力を鍛えるべき時期に来ている気がする。
 ただひとつの文化にこだわることは、学習を閉ざし、レジリエンスを弱めます。いかなるシステムも(生物学的なものでも、経済的なものでも、社会的なものでも)あまりに固く閉ざされていると、自己進化ができません。体系的に実験をさげすみ、イノベーションの原材料を消し去ってしまうシステムは、この非常に変化しやすい惑星の上では、長期的には消える運命にあります。



2015年05月27日

『選ばれる人材の条件(DHBR2015年5月号)』―潜在能力に頼った採用を止めよう、他


ダイヤモンド・Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 05月号 [雑誌]ダイヤモンド・Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2015年 05月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2015-04-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2015年5月号については、各論文に一言ずつコメントをつける形でレビュー記事をまとめてみたいと思う(かつてはこういう形で書いていたのだが、いつの間にか長々と文章を書く今のスタイルになってしまった)。

○なぜ創業者の精神が生き続けるのか 【インタビュー】リクルートが人材輩出企業と呼ばれる理由(峰岸真澄)
 こうした(優れた)人材を育てようと、組織として人材育成の仕組みやシステムはいくつも持っています。(中略)しかし、それによって社員全体の平均値を上げることは可能ですが、本当に突出した優秀な人材というのは、こうした仕組みやシステムでつくり出せるものではないのだとも思っています。
 優秀な経営者やリーダーは教育によって育てられるのか?という問題は非常に難しい。昔のDHBRに、「ビル・ゲイツはMBAで育てることができたか?」という問いを考察した論文があった(論文の著者はYesと答えていた)。私も多少は人材育成をかじっている人間なので、この問いには自信をもってYesと答えたいが、Noと言わざるを得ない面もあることは否定できない。

 教育とは、標準的な行動様式や能力・マインドを身につけることが目的である。一方、優秀な経営者やリーダーというのは、その標準を突き抜けていくところに優秀さがある。よって、優れた経営者やリーダーは、直接的には教育からは生まれない。しかし、教育によって標準を定義しなければ、標準から外れた優秀さというものを評価することはできない。その意味で教育は必要であり、間接的に優れた経営者やリーダーを生み出すことに貢献していると言える。

 人材育成に関与する身としては、教育によって優秀な経営者やリーダーを輩出したいと思っているものの、それは直接的には叶わぬ夢である。私が望むべきなのは、より高度な標準の教育を通じて、それを否定し、突き破り、より優秀な人材が現れてくれることである。そのために私は、将来的には優秀な人たちによって否定されるべき標準を永遠に磨き上げなければならない。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
○新たな人材の発掘と育成の時代へ 人材は潜在能力で見極める(クラウディオ・フェルナンデス=アラオス)
 あれほど適任に見えた家電販売会社のCEOが悲惨な失敗に終わったのはなぜか。そして、明らかに不適格だったアルゴルタがこれほど見事な成功を収めたのはなぜか―。その答えは”潜在能力”にある。すなわち、日ごとに複雑さを増す職務内容と事業環境にしっかりと適応し、自分を成長させる能力のことだ。
 個人的には、この”潜在能力”という言葉には細心の注意を払う必要があると考えている。野村克也氏は潜在能力という言葉が嫌いであった。スカウトが、「あの選手は潜在能力が高いからドラフトで獲りましょう」と言っても、その言葉を信用しなかった。野村氏にとって重要なのは、その選手がチーム内で具体的にどのようなポジションをこなせるかという現実性であった。

 私も野村氏の考え方に賛成である。採用の時には、ポテンシャルを評価するのではなく(そもそも、今顕在化していないものをどうやって評価すればよいのだろうか?)、明日から何ができるのかを見極めなければならない。引用文にある”潜在能力”は、潜在能力という名前がついていながら、実は「日ごとに複雑さを増す職務内容と事業環境にしっかりと適応し、自分を成長させる能力」という非常に具体的かつ実際的な能力を指している。この点を誤解してはならないだろう。

 ここで、「新卒採用ではポテンシャルを評価するしかないのではないか?」という意見はあるだろう。確かに、企業に適合した実務能力を持つ学生などまずいない。多くの場合、「我が社で将来やりたいこと」を聞き、その熱意の高さをもってポテンシャルを評価する。しかし、「我が社で将来やりたいこと」をやるには長い時間がかかる。それまでモチベーションが保てるだろうか?それに、モチベーションは環境によってすぐに変化する。今日はモチベーションが高くても、明日もモチベーションが高いとは限らない。そんな不確定要素で人材を評価するのは、リスクが高い。

 この問題に直面したある中堅SIerでは、エントリーシートから志望動機の欄を削除した。代わりに、学生の価値観が自社の価値観と合致しているかを確かめるのに時間を使うようにした。価値観とは、仕事や生活で重要な意思決定をする際の判断基準である。モチベーションは乱高下を繰り返すのに対し、価値観はそれほど頻繁に変わらない。価値観ベースの採用に切り替えたところ、このSIerでは新入社員の離職率が10分の1になったという。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
○人材を外部から招くのではなく、輩出する企業へ 経営人材は企業内で育てられるのか(菅野寛)
 内部人材でも擬似的に外部経験を積んで外の視座・視点を養うことは可能なのである。Which(外部人材か内部人材か)よりも、How(外部人材・内部人材であろうが、いかに外の視座・視点を養う経験を積むのか)のほうが本質的な論点である。
 外部招聘の経営者が増えていることを受けて書かれた論文である。経営者は外部人材であるべきか、内部人材であるべきか?という問いは、実はほとんど意味がないと思う。外部から招聘される人材は、その人が最初に経営者となった企業ではほぼ例外なく内部昇格している。どこかの企業に勤めていて、いきなり他の企業の経営者に抜擢されることは(仮にMBAホルダーや大手コンサルティングファーム出身者であっても)まずあり得ない。内部昇格で経営者になった企業で成果を上げたから、他の企業から声がかかったわけである。

 よって、どんな外部人材であっても出発は内部人材なのであり、経営者は外部人材であるべきか、内部人材であるべきか?と聞かれれば、内部人材が基本であるという答え以外にない。

 次にこの論文で問われているのは、経営者に要求される能力は先天的なものか、後天的に学習可能か?という点である。これについては、先天的な能力もあるだろうが、大部分は後天的に学習が可能である、という至極当然の答えとなる。競争環境が時々刻々と変化し、かつその変化が予測不可能であるならば、その変化に組織を適応させる、あるいは変化を先取りして組織を変化させる経営能力は、その時々に応じて学習するしかない。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
○2万人以上の調査が明かす総合力の重要性 真のリーダーは6つのスキルを完備する(ポール・J・H・シューメーカー、スティーブ・クラップ、サマンサ・ハウランド)
 これまでに2万人以上を対象に調査を実施し、6つのリーダーシップスキルを特定した。その6つとは、先を見通す力、疑問を投げかける力、読み解く力、意思決定力、1つの方向にまとめる力、学習する力である。
 ディシジョン・ストラテジーズ・インターナショナル(DSI)のHPで自己診断テストを受けることができる。本論は、リーダーに必要なスキルを列挙したという、リーダーシップ論によくある論文である。リーダーシップ論に限らないが、人材要件を論じる際に、いきなり能力をいくつかのカテゴリーに分けるアプローチはあまり感心しない。このアプローチだと、能力のカテゴリーが抽象的になりすぎることがほとんどである。この論文でも、「先を見通す力」や「1つの方向にまとめる力」などが具体的に何を指しているのか、いまいちピンとこない。

 人材要件を考える上では、その人に期待する仕事・業務の中身を具体的に記述することを心がけるとよい。リーダーシップであれば、リーダーにどんな成果を期待するのか?その成果を上げるために具体的にどのような行動をとってほしいのか?を明確にする。抽象的な言葉できれいに整理するのではなく、多少とりとめのない表現や長ったらしい言葉が混じってもいいから、具体的で生きた文章に落とし込むことが重要だ。その長い文章があれば、人材要件はでき上がったも同然である。それを敢えて抽象的な能力の名前でまとめ直す必要は、実はそれほどない。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
○デジカルなビジネスを生む5つのルール リアル店舗はネットの力で成長する(ダレル・K・リグビー)
 ほとんどの企業は消費者が実践しているように、デジタルとフィジカルの世界を融合させなければならないと気づくはずだ。自社の事業を考えてほしい。フィジカル、すなわち物理的な部分は本当に消え失せるだろうか。デジタルとフィジカルを融合させるイノベーションは、新たなビッグチャンスのきっかけにならないだろうか。
 論文には明確に書かれていないが、オムニチャネルに関する論文である。営業やコールセンターといったリアルのチャネルの時代は終わりだ、これからはインターネットというバーチャルなチャネルの時代だと考えている人がいるが、実はそんなに簡単な話ではない。確かに、Web通販やソーシャルメディアによって、販売の可能性は広がった。しかし、その可能性をものにできている企業は、実はもともとリアルのチャネルにおける販売力が高い企業であるような気がする。

 バーチャルなチャネルは顧客の顔が見えないし、双方向のやり取りが制限される。そのため、限られた情報から顧客の潜在的なニーズを推測するという高度な能力が必要になる。リアルのチャネルで顧客との綿密なやり取りから顧客ニーズを確実に拾う能力さえ十分でない企業が、バーチャルなチャネルで顧客の要望を先読みできるとは思えない。バーチャルなチャネルは販売活動を省力化するという通説に反して、リアルのチャネルよりも難易度が高いのである。

 だから、Web通販の売上高が伸びないと悩んでいる企業は、Webサイトにてこ入れするのではなく、リアルのチャネルをもう一度見直した方がよいのかもしれない。


2015年05月25日

『人生心得帖(『致知』2015年5月号)』―中小企業は「生業」で終わってはならないと思う


致知2015年4月号人生心得帖 致知2015年5月号

致知出版社 2015-05


致知出版社HPで詳しく見る by G-Tools

 中谷:うちは祖父・巳次郎が由布院に旅館を開いてから今年で93年です。組織には「完成形」というものはなくて、新しく変身し続けなければ時代の流れに取り残されて衰退しますし、だけど新しいものを取り入れたら間違いなくいいってものでもない。(中略)

 いま一番感じているのは、大事な思いを誰かに伝えていかないと、事業は一代では足りないということですね。ところが、どうやって次の世代に伝えていくか、そのことを真面目に考える人がいまは少ない。
(辰巳芳子、中谷健太郎「一生を歩み続ける 我が人生の心得」)
 以前の記事「『未来をひらく(『致知』2015年2月号)』―日本人を奮い立たせるのは「劣等感」と「永遠に遠ざかるゴール」」、「『一を抱く(『致知』2015年4月号)』―「自分の可能性は限られている」という劣等感の効能について」などでも書いたが、日本の企業経営は永遠に続く「道」であり、引用文にもある通り、とても一代で完成するようなものではない。だから、次の代、また次の代へと大事に受け継いでいく必要がある。日本には、創業200年を超える長寿企業が3,000社以上ある。これは世界の約4割であり、次点のドイツ(約800社)を大きく引き離して世界一だ。

 一方で、近年は中小企業の事業承継難が問題になっている。やや古いデータになるが、『中小企業白書(2006年版)』によれば、年間廃業社数約29万社のうち、約7万社は「後継者がいない」ことを理由とする廃業であると推定され、これだけの雇用が完全に喪失された場合を仮定すると、失われる雇用は毎年約20万人~35万人に上ると推定される。

 それから9年が経ち、事態は深刻化している。2014年の全国社長の平均年齢は60.6歳と高齢化が進んだ。年齢分布では70代以上の社長の構成比が上昇しており、5人に1人が70代となっている。現在の中小企業の経営者は、1950年代後半から70年代前半までの高度経済成長期に、20代~30代で起業した人が多い。社長が約半世紀もの間企業を引っ張ってきたものの、気がついたら自分は高齢者になり、かつ後継者もいない、という現実に直面しているわけだ。

 ただ思うに、中小企業が持続的に成長し、少しずつ社員の数を増やしていれば、後継者候補のプールができ上がり、後継者選びに苦労する可能性は低くなったはずだ。後継者難に陥っているということは、厳しいことを言うようだが、長い間小規模企業にとどまったままで、事業拡大や人材育成に十分な投資をしなかったツケが回ってきている、という見方もできる。事実、『中小企業白書(2014年版)』を見ると、小規模企業は中規模企業に比べて「自分の代で廃業することもやむを得ない」と回答する割合が高く、後継者選びに苦労している様子がうかがえる。

 事業拡大や人材育成に投資するには、一定の利益が必要である。ところが、中には利益を出すことをよしとしない中小企業がある。億単位の売上高に対し、税引き前当期純利益が数十万円しかない決算書をよく見かける。これは、日本の法人税の実効税率が諸外国に比べて高いためだと言われる。経営者は、税金で持って行かれるぐらいなら、役員報酬にして自分の手元に残そうとするわけだ。しかし、中小企業の場合は、様々な優遇措置を組み合わせると実効税率が下がる。一部の中小企業の経営者は、生来的に利益を出したがらない性格なのかもしれない。

 会計の教科書を読むと、「企業は『資本コスト』を上回る利益を上げなければならない」と書かれている。企業は金融機関から借入金を、株式市場から出資金を調達している。だが、これらの資金はタダでは調達できない。借入金には利息がかかるし、株主は配当やキャピタルゲインを期待している。よって、これらの費用を資本調達に要するコスト=資本コストと呼び(資本コスト=支払利息+配当金・キャピタルゲイン)、企業にはそれを上回る利益を要求するわけだ。

 しかし、現実には資本コストを上回る利益だけでは不十分である。企業を持続的に成長させるために、新しい設備を導入したり、新技術の研究開発を行ったり、工場やオフィスを増床したり、製造ラインの人員を増やしたり、営業担当者のスキルレベルを上げたりしなければならない。その原資は利益に他ならない。ドラッカーが述べたように、「利益とは将来のコスト」である。これに税金の支払いも考慮すれば、資本コストを上回る利益だけでは全く持って足りないのだ。

 利益率の適正水準は、事業規模や将来に計画されている投資内容によって異なるため、一概には言えない。ただし、京セラ名誉会長・稲盛和夫氏は、「経常利益率10%を出せなければ事業ではない」と述べていることは心に留めておく必要があるだろう。経営者と少数の社員が最低限食べて行ければよいという企業のことを「生業的企業」と言う。しかし、企業は社会的公器であるのだから、将来に渡って継続的に投資を行い、2代目、3代目と受け継がれることを目指すべきではないだろうか?(かくいう私も、そういう事業を実現しなければならない)

 逆に、持続的な成長に向けた利益を上げられない企業は、早い段階で市場から退出願いたい。最近、中小企業向けの補助金に関与する機会が増えたのだが、老朽化した設備を入れ替えるだけで多額の補助金を受けているケースが見られる。補助金とは本来、新製品開発や最新設備の導入など、リスクが高い取り組みを後押しするのが目的である。単なる設備のリプレースに必要な資金は、前述の通り企業の利益から捻出するのが本筋である。それすらできない企業は市場から退場するべきであり、そういう企業を補助金で救済する意味はないと思う。



  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like