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「ものづくり補助金」の「機械装置費」に関する一考
「海外ビジネス進出セミナー」で学んだこと(2/2)
「海外ビジネス進出セミナー」で学んだこと(1/2)

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2015年09月23日

「ものづくり補助金」の「機械装置費」に関する一考


工場(圧力計)

 今日は一体誰に向けて書いているのかが解らないマニアックな記事を。ここ数年、多くの中小企業(特に中小製造業)が利用した補助金に「ものづくり補助金」がある。これは、国内外のニーズに対応したサービスやものづくりの新事業を創出するため、革新的な設備投資やサービス・試作品の開発にかかる経費の一部を補助するというものである。補助対象となる費目の中に「機械装置費」があるのだが、この機械装置費の扱いが実は非常に厄介だと感じることがあった。

 (1)ものづくり補助金には、試作品の開発と機械装置の購入を行う「試作開発+設備投資」と、機械装置の購入のみを行う「設備投資のみ」という類型がある。以前の記事「【補助金の現実(2)】補助金の会計処理は、通常の会計処理よりはるかに厳しい」で書いたように、経済産業省関連の補助金では、取引先・仕入先から何を購入し、外注先・委託先・外部専門家に何の業務・工程を委託し、自社の社員にどんな業務を行わせたのか、細かく記録させることが要求される。

 「試作開発+設備投資」型の場合、必要書類を揃えていくと、幅5~6cmのA4キングファイルが必要になる。1冊では足らず、2冊、3冊にまたがることもある。これに対して、「設備投資のみ」型の場合は、下手をすると機械装置1台だけの購入で終わってしまうから、必要書類は非常に少ない。それなのに、時に「試作開発+設備投資」型よりも多くの補助金を受け取れるのは、どうも不公平な気がしてならない。ものづくり補助金の補助上限額は、原則として1,000万円である。同じ1,000万円をもらうのに、「試作開発+設備投資」ではキングファイルをいっぱいにしなければならないのに、「設備投資のみ」型では20枚程度の書類で済む、ということが起こりうる。

 この不公平感を解消するためには、「設備投資のみ」型を認めずに「試作開発+設備投資」型に一本化するのが無難であろう。そもそも、設備投資がメインであっても、試作開発である以上は、機械装置費以外の経費が発生するのが普通である。

 例えば、新型のマシニングセンタを導入すると、社員はその操作方法を何か月かかけて取得しなければならない。トヨタには「カタログエンジニアになるな」という言葉があるが、カタログに書いてある通りの操作方法しかできないようではダメだという意味である。自社製品や工程の特性に応じて、独自の使用方法を編み出す必要がある。その過程では、直接人件費や原材料費がかかる。また、新しいマシニングセンタを使って、計画していた新製品が図面通り、顧客からの要求通りに作れるかどうかも試さなければならない。ここでも原材料が消費される。したがって、設備投資がメインでも、最低でも原材料費と直接人件費は発生するはずなのである。

 (2)ものづくり補助金は、公募の回を重ねるごとに設備投資の比重が高まっていった。平成25年度補正以降は、原則として単価50万円以上(税抜き)の機械装置の購入が必須となった。この50万円という数字は、会計上単価50万円以上で耐用年数1年以上の機械装置を固定資産計上することに従ったものと思われる。ということは、経済産業省は、ものづくり補助金を通じて、中小企業の固定資産形成を促したいと考えているようである。

 しかし、量産段階ならともかく、試作開発の段階でそれほど大きな機械装置を購入することは考えにくい。試作段階では、機能が限定され、壊れても構わないような数百万円程度の機械装置を購入し、量産段階に入ったら1,000万円クラスの大型機械装置を導入する、というのが自然の流れである。にもかかわらず、ものづくり補助金は、できるだけ金額の大きい機械装置の購入を是としている節がある。そのため、補助金を使って1,000万円クラスのマシニングセンタ、旋盤加工機、射出成型機、CAD/CAMソフト、3次元測定器などを導入する中小企業が散見される。

 一方、ものづくり補助金においては、取得した機械装置を補助事業計画の目的の範囲外で使用してはならないという制約がある。Aという製品を製作するためにマシニングセンタを購入したら、そのマシニングセンタではA以外は製造してはならないというわけだ。「機械装置を目的外使用しない」という誓約書を企業に書かせている補助金事務局もある。仮に目的外使用が発覚した場合は、誓約書違反として補助金の辞退に追い込まれる、という話も聞いたことがある。

 ところが、機械装置が高額であればあるほど、特定の製品のためだけに使用するというのは考えにくくなる。マシニングセンタのような工作機械であれば、その1台で様々な製品を作るのが普通だ。CAD/CAMソフトは様々な製品が設計できるのに、補助事業計画に書いた製品しか扱えないようでは非効率極まりない。経営資源に限りがある中小企業は、設備の稼働率を上げようとするだろう(中小企業に限らず、大企業でもそうするだろう)。補助金で高額の機械装置を購入することを認めておきながら、用途を非常に狭く限定するのは、どうも矛盾しているように思える。

 (3)機械装置費と外注加工費の区別は難しい。よく受ける質問は、「制御基板の製作費は機械装置費か外注加工費か?」というものである。その制御基板が、顧客に所有権が移転する製品(ここでは、試作品も将来的には顧客に所有権が移転するものとして考える)の一部を占めるのであれば外注加工費であり、自社が保有する設備などに組み込まれて顧客に所有権が移転しなければ機械装置費である、というのが一応の区別である。

 だが、困るのは、ソフトウェア開発を外注した場合である。例えば、顧客に何らかのWebサービスを提供するために、自社サーバ内に格納するアプリケーションをスクラッチで開発してもらったとする。顧客はWebを通じてそのアプリケーションを利用するものの、アプリケーションの所有権はあくまでも自社に帰属したままである。したがって、先ほどの区別で言えば、アプリケーション開発は機械装置費となる。そのアプリケーションは、ほとんどその企業のサービスそのものなのに、全て機械装置費に計上して100%外注させることも可能なのである。

 ここで問題となるのは、ものづくり補助金には、「もっぱら企画のみに専念し、試作開発の実作業を第三者に丸投げする事業」(いわゆるファブレス)は補助対象外であると明示されていることである。その具体的な基準として、「外注加工費は経費総額の2分の1以下でなければならない」という規定がある。前述の例では、自社は設計だけで、開発を全て外部のITベンダーに任せている。それなのに、機械装置費と外注加工費の区別に従うと、ITベンダーに支払う報酬を全て機械装置費に計上することで、禁止規定をすり抜けて事実上ファブレスを行うこともできてしまう。

 こうした事態を回避するためには、外注加工費には、顧客に所有権が移転する製品に組み込まれるものの製作に加えて、顧客に一時的に使用権が発生する機械装置(ソフトウェアも含む)の製作も含めるとよい。ここで、こんなケースを考えてみよう。製造業向けに試験・検査サービスを提供している企業があるとする。この企業では、「顧客が自ら被測定物を持ち込み、この企業の設備を使って、試験・検査を顧客自身が実施する」というサービスを提供している。

 この企業が、新たな試験・検査装置を開発する際の部品組立を外部に委託する費用は何に該当するだろうか?ものづくり補助金における一般的な区分に従えば、機械装置費である。しかし、顧客に試験・検査装置の使用権が一時的に発生することを踏まえると、外注加工費に計上するのが適切ということになる。なお、この企業が部品を調達して自ら組み立てる場合は、部品代は原材料費に計上するのが適切である。

 平成26年度補正から新たに追加された「クラウド利用費」という費目も、話をややこしくしている。クラウド利用費とは、SaaS、PaaS、IaaSの利用料を指す。細かい話は抜きにして、ここで想定されているのは、「既に存在するWebアプリケーションを、自社サービス用にカスタマイズして、顧客に提供する」ようなサービスのことである。Salesforce.comは代表的なSaaSだが、中小企業向けのポータルサイトである「ミラサポ」はこのSalesforce.comをカスタマイズして提供されている。セールスフォース社に支払うカスタマイズ費や月額利用料がクラウド利用費に相当する。

 クラウド利用費には既存クラウドサービスのカスタマイズ費が含まれているために、先ほど見たような機械装置費と外注加工費の問題が生じる。つまり、ソフトウェアベンダーに開発を丸投げしても、その費用をクラウド利用費に全て計上することで、ファブレスを禁止する規定をすり抜けてしまうのである。ここでも、開発したアプリケーションの利用権が一時的に顧客に発生することから、カスタマイズ費を外注加工費に計上させるべきである(ちなみに、クラウドサービスの月額利用料は、原材料費に相当するだろうか?そもそも、ものづくり補助金の費目は、典型的な製造業を想定しているのに、ITサービスまでもカバーしようとしているところに無理がある気がする)。

2015年09月21日

「海外ビジネス進出セミナー」で学んだこと(2/2)


会議

 (前回の続き)

 (7)キーマンを採用した後は、キーマン主導でリーダーを採用する。キーマン主導とはいえ、キーマンに任せきりにしてはならない。キーマンが自分の身内ばかりを採用して、日本本社の言うことを聞かなくなるリスクがあるためだ。よって、リーダーの採用には日本本社も関与する。

 リーダーは日本本社に半年~1年ほど送り込み、仕事のやり方を教えるとともに、日本的経営についても体得してもらう。その際、OJTのやり方をしっかり教えることが重要である。日本人はOJTが上手であるのに対し、アジア人は総じてOJTが苦手である。教える側はどうやって背中を見せればよいのかが解っていないし、教えられる側もどうやって見ながら学べばよいのかが解っていない。タイでは、先生に質問するのは失礼という文化があるから、先生に質問することはむしろ望ましいということを教えなければならない。

 リーダーが日本から戻った後は、リーダーの下でOJTを通じてワーカーを育成する。その際、リーダーに全て任せきりにするのではなく、日本本社から社員を派遣して、リーダーによるOJTをサポートすることも必要である。OJTでは5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)を教える。ただし、このコンサルタントの方によれば、日本人が教えられるのは4S(しつけ以外)までであり、しつけだけは現地社員が教えなければならないという。

 大部分のワーカーは、地方からの出稼ぎ労働者である。彼らの中には、信号というものを生まれて初めて見る人も多い。だから、「赤の場合は渡ってはいけない。青になったら渡ってよい」という非常に基本的なところから教える必要がある(余談だが、カンボジアはポル・ポト政権が知識層を大量に虐殺した影響で、教育システムが破綻している。そのため、色の見分けがつかない人がいる。ピンクを見てもオレンジを見ても、赤としか答えられない。カンボジアに進出した日系企業の中には、色の見分け方の教育を行っているところもある。以前の記事「「カンボジア投資セミナー」に行ってきた(日本アセアンセンター)」を参照)。

 (8)海外進出する主たる目的はコスト削減であり、現地のサプライヤーからの調達比率を上げることで、原材料費の抑制を目指す。しかし、何でもかんでもすぐに現地のサプライヤーに切り替えることはできない。ネジ1本であっても、現地のよく解らない企業から調達すると、製品に組み込んだ際に不具合が生じる可能性がある。よって、日本のようにQCD三拍子揃ったサプライヤーを根気強く探し、時にはサプライヤーを育成しなければならない。

 サプライヤーを探す際には、絶対にサプライヤーの工場を見に行く。5Sが徹底されているか、在庫・仕掛品は適切に管理されているか、品質管理体制は整っているか、といった点を確認する。また、契約後も、年に1回は工場への立入検査を行う。サプライヤーの工場には、現地の購買担当者だけを行かせるのではなく、日本から購買担当者を派遣し、同行させる。そうすることで、サプライヤー評価の方法について、現地の購買担当者とノウハウを共有することができる。

 なお、購買や経理など、会社の資材・資金を扱う担当者は、年に1回配置転換をするなど、長くその職に置かないようにする。仕事に慣れてくると、サプライヤーと共謀したり、伝票を操作したりして、会社の資金を横領する。よって、仕事に慣れる前に、配置転換をしてしまう。作業効率を多少犠牲にしたとしても、会社の資金を守るためにそこまでしなければならない。

 (9)海外販路開拓の重要な手段が展示会である。日本の展示会は、担当者レベルの人が情報収集で来ることが多いため、ブースで具体的な商談が進むことは少ないように思える。しかし、海外の展示会では、業界の重鎮、政府の要人など、日本では考えられないような大物がふらりと訪れることがある。それなのに、日本企業のブースには、現場レベルの社員しか配置していない。せっかく大物がやって来てその場で契約を結びたがっているのに、ブースの担当者は「本社に確認しないと解りません」などと及び腰になってしまい、みすみす機会を逃してしまう。

 ただし、業界の重鎮、政府の要人を装った詐欺師がブースに来ることもあるので要注意である。そういう人から豪華な歓待を受けたところ、後から高額の手数料を請求されたり、現地企業に一方的に有利な契約を結ばされたりした、という被害が発生している。海外で展示会をする際には、政府、顧客企業、競合他社、関連産業などの主要人物に関する情報を押さえておく。

 顧客企業に関する情報は、詐欺防止以外にも重要である。展示会は新規顧客を開拓する場ではあるものの、実は既存顧客にも来ていただき、新製品をお披露目する機会でもある。そのため、展示会には既存顧客をたくさん招待する。ブースに多くの人がいらっしゃることを想定して、本社は営業・マーケティング部門以外に、設計・開発・製造部門などからも助っ人を招集する。

 しかし、普段顧客との接点がない彼らは、ブースの前を通る人のうち誰が自社の顧客なのかが解らない。これでは、せっかく展示会場に顧客がいらっしゃるのに、挨拶の1つもしない非礼を働くことになってしまう。そのため、ある企業では、既存顧客の担当者の顔写真を設計・開発・製造部門などの助っ人にも送付し、ブースでの応対について事前トレーニングを実施したという。

 (10)海外の展示会では、模倣被害が頻繁に発生する。製品そのものの模倣については事前に対策を考えるが、意外と抜け落ちているのが治具・工具の模倣対策である。ブースでは機械のデモンストレーションなどのプロモーション映像を流すことがある。しかし、その映像の背景に映り込んでいる治具・工具の情報が漏れることがあるので注意しなければならない。

 (11)海外ビジネスには様々なリスクがつきものである。当局から許認可が下りない、当局の投資奨励策の方針が変わる、工場がスケジュール通りに建設されない、現地で調達した原材料・機械装置に不具合が多い、急激な通貨安で輸入コストが跳ね上がる、現地法人の社長が病気で倒れる、社員が窃盗・横領などの不正を働く、地震・津波・台風などの自然災害に遭うなど、挙げればきりがない。だが、思いつくリスクについては、事前に対策を練っておく必要がある。

 ただし、大きな政変やテロだけは、起こる可能性があると解っていても、事前に対策の打ちようがない。こういうケースでは、「現地の工場を捨てても本社はつぶれない」という計画を立てるのが最善である、というのがこのコンサルタントの方のアドバイスであった。

 仮に、日本での売上高が30億円である企業が、海外で10億円の売上高を目標とした工場を建設するとしよう。総資産回転率はだいたい1倍であるから、海外法人の総資産は約10億円である。自己資本比率を高めに見積もって3割とすると、残り7割は借入金である。だが、工場を建設してすぐにテロが起き、工場がつぶれたら、7億円の借金だけが残る。その7億円を本社がいきなり負担することになっても、本社は存続できるようにしておかなければならない。ひょっとしたら、日本国内の売上高が30億円では足りないかもしれない。その場合は、海外で売上高10億円を目指すと同時に、国内の売上高も40億円、50億円と伸ばす計画を立てなければならない

2015年09月20日

「海外ビジネス進出セミナー」で学んだこと(1/2)


会議

 海外子会社の副社長を歴任するなど、海外経験が豊富なコンサルタントから、海外ビジネスについて色々と教えていただいた。この方は海外での工場建設・運営に何回も携わったことがあるため、その辺りの話も聞くことができた。

 (1)海外に工場を設置する場合、まずは候補となる用地を何か所かピックアップし、現地調査を経て絞り込む、という手順を踏む。その際、候補地は2~3か所にとどめるべきである。「現地で実際に見ないと解らない」と言って、たくさんの候補地を視察したくなるが、たいていは上手くいかない。このコンサルタントの方は、事業会社にいた時に、12か所の候補地を手分けして回ったそうだ。メンバーの目線を合わせるためにチェックリストを用意したにもかかわらず、チームによって評価がバラバラになってしまい、結局用地を絞り込むことができなかった。

 現地視察をする場合には、本社の責任者=重役クラスを現地の政府機関に連れていくべきである。本社の重役が現地の政府機関に行けば、政府機関側も幹部クラスを出してくれる。政府機関の幹部は、公にされていないような優遇策を提示してくれることがある。

 (2)工場用地を選定する際には、現地の建築制限(建ぺい率、容積率、緑化率、階数制限、高さ制限、セットパック、構造物の強度など)が順守されているかをチェックする必要がある。用地のオーナーは、日本企業を誘致したいがために「大丈夫です。当局とは話がついています」などと軽く言うが、こういう言葉には要注意である。

 このコンサルタントの方が勤めていた事業会社では、レンタル工場を2つ借り、オーナーの許可の下に2つの工場の間に渡し屋根を設けて、屋根の下を原材料置場として使用していた。ところが、操業から8年ぐらい経った頃に、当局から違法建築だと指摘されてしまった。工場と工場の間は道にあたるため、緑化が必要だというわけだ。仕方なく置いていた原材料を撤去したが、原材料を工場の間に置く前提で動線を設計していたため、製造ラインに大きな影響が出たという。

 (3)当局に話をする際には、必ず工場レイアウト図を持参するべきである。中小企業は日本国内でも工場を建設した経験がそれほどなく、まして2代目、3代目の社長ともなれば、先代から承継した工場の設計図を知らないこともある。だが、海外展開する場合にはそれでは困る。

 工場のレイアウト図を持っていくと、当局の担当者と現地のルールについて色々と話をすることができる。例えば、トラックの床高が日本と異なるため、現地の高さに合わせる必要があるとか、規制に沿った緑地を確保しなければならないとか、消防活動に必要な窓を設定してほしいとか、手すりの高さを現地のルールに合わせなければならない、といった具合である。

 現地側は日本企業側の要望を聞き入れてくれることもある。このコンサルタントの方が勤めていた事業会社では、レンタル工場への入居を検討していた。レンタル工場は工業団地と異なり、工場設備が初めから決まっているため、自由に拡張・改造することができない。この会社ではどうしてもコンプレッサを設置する必要があったが、事前に提示されたレイアウトによれば、コンプレッサを置く場所がない。そのことをレンタル工場のオーナーに話したところ、工場の外に無償で小屋を建ててコンプレッサを格納し、工場の壁をぶち抜いて小屋と工場をつないでくれたという。

 (4)工場を建設する際、日本の建設会社を使うのか、現地の建設会社を使うのかを決めなければならない。日本企業の方が価格は高いが、日本語で仕事が進むという安心感がある。現地企業には現地企業のメリットがある。例えば、現地の情報(建築規制、労務管理、その他現地の常識など)は彼らの方がよく知っており、仕事が早いこともある。また、現地企業は日本企業よりも動員力がある。納期が迫ってくると、現地企業は(どういう手段を使っているのか解らないが、)現地の作業員を大量にかき集めて、一気に工事を完成させてしまう。

 品質管理は、日本企業が現地企業より優れているとは限らない。日本企業は、現地企業に下請に出していることが多いからだ。日本企業であっても手抜き工事は起こる。このコンサルタントの方が勤めていた事業会社では、日本企業に建設を依頼したところ、ダクトから冷風が出ないという問題が生じた。そこで、工場の屋根裏を調べたら、何とダクトがエアコンとつながっていなかった。建設会社に任せ切りにせず、自社でもきちんと品質管理、検収を行うことが重要である。

 (5)海外(特に新興国)における会社設立は基本的に認可主義であり、国によって投資奨励業種、条件つき開放業種、禁止/規制業種が定められていることが多い。日本の公務員は何かと国民からの非難にさらされるが、海外では公務員は権限の強い特権階級である。彼らは公に出ているルールとは無関係に、内規で動く。そのため、自社が公のルールに従っていたとしても、本当にそれで問題がないかどうか、当局の窓口に行って1つ1つ確認しなければならない。ただし、当局の窓口担当者に対して、「今、○○とおっしゃったということについて、一筆サインを書いてください」とお願いしても、絶対に嫌な顔をされるので要注意である。

 投資奨励業種には、新素材、新エネルギー、ハイテク製品、バイオテクノロジー、IT技術、製造機械など、その国が重点的に育成したい業種が指定される。当局の窓口担当者も誘致の実績がほしいため、多少実態とかけ離れていたとしても、社名に「○○ハイテクノロジー」などと入れると、すんなり許認可が通ることがある。

 (6)海外製造子会社の社員は、キーマン、リーダー、ワーカーの順番で採用する。キーマンとは、日本語が解る現地人で、人事・総務・経理全体を見渡せる人のことである。日本でもこの3分野に精通した人は少ないのに、その上2か国語ができる人を探そうというのだから、相当時間をかけなければならない。現地の当局に相談するとキーマンを紹介してくれることがあるが、このコンサルタントの方はそのような方法をあまりお勧めしない。なぜなら、当局が経営に介入してくることがあるし、仮にそのキーマンと上手くいかなかった場合、簡単に解雇できないからである。

 日本企業の場合、総務的な仕事は社員が自己管理でやってくれるため、総務部はそれほど重要視されない(リストラの際には真っ先に対象となる)。しかし、海外では備品1つ取っても会社側が厳格に管理しなければならない。盗難・着服防止策を定め、社員を監視する必要がある。そのため、総務は非常に重要な仕事となる。現地で上手くいっていない日本企業は、たいてい総務機能が弱いというのが、このコンサルタントの方の自説である。

 (続く)




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