2016年09月28日
【城北支部国際部セミナー】「ここがポイント!日本人が気づいていない外国人旅行者へのおもてなし」~インバウンド需要に対応する現場経営者からのメッセージ~
私が所属する(一社)東京都中小企業診断士協会・城北支部国際部では、9月24日(土)に「『ここがポイント!日本人が気づいていない外国人旅行者へのおもてなし』~インバウンド需要に対応する現場経営者からのメッセージ~」と題してセミナーを開催した。プログラムは以下の通り。今回の記事では、セミナーの内容を簡単にまとめておく。
講演①「オ・モ・テ・ナ・シは日本だけの文化じゃない、旅行者の気持ちになってみて」(1)「おもてなし」が最も問われるのは、マニュアルに書いていないことが起きた時である。ある中国人旅行客が日本で約15万円の炊飯器を購入したが、帰国後に初期不良であることが判明した。炊飯器のメーカーに問い合わせると、「修理することは可能だが、海外に送ることができない」と言われた。そこで、そのメーカーの製品を取り扱っている中国の販売代理店に相談したところ、「日本で買ったものは修理できない」と断られてしまった。
講師:株式会社ファーストメモリー代表取締役 李 承妍(り しょうけん)氏
講演②「東京都北区赤羽に泊まる。その心とは。」
講師:株式会社TheBoundary代表 「HOTEL ICHINICHI」オーナー 吉柴 宏美氏
この場合、「マニュアルに書いていないことはできない」と考えるのではなく、「マニュアルに書いていないことは、別に禁止されていることではない。顧客にとって意味があるならば、積極的にやればよい」と発想を転換する必要があるだろう。そういう判断ができる人材を育成すること、また、そのような判断を許容する組織風土を醸成することが、おもてなしを提供する上で重要になる。もちろん、毎回アドホックに判断を下すわけにもいかないので、定期的に「例外事象」を検証しなければならない。例外が1回限りのことではなく、今後も頻繁に起きる可能性があるのであれば、マニュアルを改訂する。そうすることで、組織全体のサービス品質が底上げされる。
(2)欧米の旅行客は、旅の上級者が多い。彼らは事前に日本で行きたい場所の情報を細かくリサーチしている。谷中や根津神社のことを知っている外国人もいる。また、オーストラリアやアメリカの旅行客の中には、四国・九州を自転車でツーリングする人もいる。四国・九州では東京ほど英語が通じないため、ツーリストは片言の日本語で現地の人に話しかけるのだが、それでも親切に接してくれる日本人にいたく感動するそうだ。すると、次に日本を訪れた際には、午前中は日本語教室に通い、午後は旅行を楽しみたい、といった要望が出てくる。
欧米人に対しては、こちら側もきめ細かく情報を提供することが求められる。Airbnbを利用して訪日する欧米人には、空港からのアクセス地図、宿泊地の周辺マップ、部屋にある家電の取扱説明書を提供している。また、欧米人は、帰国後に何を体験したのかを周囲の人に語りたがる、あるいは自分が体験したことを母国で実践したがる傾向がある。とりわけ、欧米人はラーメン、寿司、卵焼きに食いつく。そこで、母国の食材で作れるようなレシピを渡すと、非常に喜ばれる。海外には「だしを取る」という風習がないため、だしの取り方もレシピに書いておく。
(3)アジア人観光客は、事前にリサーチするものの、情報がありすぎて混乱しているケースが多い。そこで、「ガイドブックにはこう書いてあるが、現地の人(日本人)は実際にはどう思っているのか?」を教えると、彼らの旅行の助けになる。アジア人は写真をたくさん撮って、SNSで友人とシェアする傾向が強い。そのため、本来は写真撮影NGの場所であっても、交渉して特別に許可をもらうことがある(例えば、茶室の内部など)。また、彼らはSNSにアップする写真を少しでもきれいに見せいたいという欲求も持っている。「写真に写っている顔を小さくしたい」、「二の腕を細くしたい」といったニーズにも応えてあげると、旅行客の満足度が上がる。
ところで、インバウンド需要をとらえるために、外国語に対応したHPを制作している企業は多いが、たいていは英語化で止まっている。2015年の訪日外国人を国別に見ると、1位中国(約499万人、25.3%)、2位韓国(約400万人、20.3%)、3位台湾(約368万人、18.6%)、4位香港(約152万人、7.7%)、5位アメリカ(約103万人、5.2%)である(ANA「外国人観光客数 年別・国別ランキング」より)。よって、英語対応だけでなく、中国語対応することが欠かせない。
(4)外国人旅行客はマナーが悪いと言われることがある。しかし、多くの外国人旅行客は、日本のルールは守りたいと思っている。ただ、日本のルールをよく知らないだけである。電車の中で電話を使ったり、大声で話したりしてはいけない、レストランの予約をキャンセルする場合には事前に電話しなければならないといったルールを共有しておけば、トラブルはかなり減らせる。
(5)吉柴宏美氏は赤羽で「ICHINICHI」というホテル・ホステルを経営している。赤羽と言えば飲み屋のイメージが強い(「せんべろ」=1,000円でベロベロに酔えるという言葉がある)。ホテルで起業するという話を周囲にしたところ、「赤羽などに人が集まるのか?」と何人にも言われたという。だが、吉柴氏は「それは赤羽が雑多な街という印象を持っている人の意見だ」と一蹴した。訪日外国人は、赤羽という街がどういうところなのかは気にしない。空港から近く、自分が行きたい場所へのアクセスがよいところに泊まりたいと考える(これは、日本人が海外旅行する時も同じはずだ)。そういう視点で赤羽を見ると、実に外国人旅行客に適した立地である。
また、赤羽に飲み屋が多いというのもプラスに働く。宿泊客に「日本で面白かったところはどこか?」と聞くと、ラーメン屋、のんべえ横丁といった回答が返ってくる。銀座などは日本旅行の定番であるが、銀座のショップは母国にもたいてい存在するわけで、わざわざ銀座まで来る必要はない(これは私も銀座で外国人が増えるのを見ながら、薄々感じていたことである。また、ビックカメラなどで爆買いをする中国人は多いものの、そこで売っている家電の大半は中国製であり、日本で買う意味があるのかと思ってしまう)。それよりも、日本ならではの体験を外国人旅行客は求めている。飲み屋が多い赤羽は、底知れぬポテンシャルを秘めているかもしれない。
(6)最初の顧客誘導として、最も効果的なのは海外のホテルブッキングサイトである。Expedia、Booking.com(欧州のユーザーが多い)、Agoda(アジア人のユーザーが多い)、Trip Adviserなどと契約している。ホテルブッキングサイトを活用する場合、価格は統一する必要がある。各サイトに支払うコミッションの割合が異なるからと言って、サイトごとに価格を変えると、サイト内の検索順位が下がるようなアルゴリズムになっている。
(7)小さなホテルであるから、大手ホテルならば絶対にやらないことをするように心がけている。ある台湾人旅行客が、空気清浄機を家電量販店で買おうとしていたが、あいにく売り切れていた。どうしてもその空気清浄機がほしいのだけれども、後2日で台湾に帰らなければならない。他の家電量販店にその空気清浄機が置いてある保証はない。そこで、吉柴氏がAmazonで検索したところ、在庫があると解ったので、吉柴氏の個人アカウントで立て替え購入をした。翌日、製品が無事に届き、その台湾人旅行客は大喜びで帰国した。実は、彼らはそれまで部屋が狭いだの何だのと文句を言っていた。しかし、空気清浄機の一件があってからはがらりと態度が変わり、Agodaのレビューで星10をつけてくれたそうだ。この話は(1)に通じるところがある。
※勝手ながら、10月は1か月間ブログをお休みします。11月にまたお会いしましょう!
(ブログ別館「こぼれ落ちたピース」は更新する予定です)