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【ドラッカー書評(再)】『企業とは何か―その社会的な使命』―GMの分権化の特徴、他
【ドラッカー書評(再)】『企業とは何か―その社会的な使命』―マネジメントへの参画から責任へ、他
【平成28年度補正ものづくり補助金】賃上げに伴う補助上限額の増額について

プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2016年11月29日

【ドラッカー書評(再)】『企業とは何か―その社会的な使命』―GMの分権化の特徴、他


企業とは何か企業とは何か
P.F.ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2005-01-29

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 GMの分権化の特徴
 ドラッカーが研究したGMは、典型的な事業部制組織であった。事業部制組織はさらに3つのパターンに分けられる。1つ目は、財務会計、人事、情報システムといった、いわゆるスタッフ機能も全ての事業部制組織に持たせ、本社経営陣の直下には経営企画室ぐらいしかないというパターンである(この事業部制において、それぞれの事業部を自立させると、いわゆる社内カンパニー制になる)。2つ目は、財務会計、人事、情報システムなどをそれぞれの事業部が持つと同時に、本社経営陣の直下にも同じく財務会計、人事、情報システム部門がスタッフ部門としてぶら下がる形である。事業部の中にある人事部の社員は、事業部内の人事部マネジャーに報告すると同時に、スタッフ部門の人事部マネジャーにも報告する義務が生じる。

 3つ目は、本社経営陣の下に、典型的なスタッフ部門だけでなく、調達、製造、物流、営業といったライン機能もぶら下がるという形式である。調達、製造、物流、営業などは、それぞれの事業部と本社経営陣側で重複する。GMが採用していたのがこの方式であった。
 これら製品別の各事業部に加え、本社機能として、生産、技術、販売、研究、人事、財務、広報、法務等、それぞれ担当の副社長に率られるスタッフ部門がある。本社スタッフ部門は、本社経営陣と事業部長に対する補佐役であって、経営政策の策定と事業部間の調整に携わっている。
 本社スタッフ部門は、事業部外の情報を事業部に伝えるとともに、事業部の情報を本社経営陣に伝える。本社経営陣は、事業部の生産、技術、流通、人事についての情報をスタッフ部門に依存する。それらの情報は、本社経営陣と事業部経営陣のチームワーク上重要な意味を持つ。(中略)スタッフ部門が経営政策を定めるわけではない。提案するだけである。採用してもらうためには、本社経営陣と事業部経営陣双方に売り込まなければならない。
 ドラッカーは、GMの経営組織の強みを「分権化」にあるとした。分権化とは、簡単に言うと、事業部制組織において、それぞれの事業部長に大きな権限を与え、本社の経営陣は事業ポートフォリオ管理や組織横断的な組織文化の醸成など、全社的な経営課題に集中するという仕組みである。また、スタッフ部門は、引用文にある通り、事業部に対してサポート機能を果たすにとどまる。GMの事業部制組織は、スタッフ部門にライン機能が含まれる”重たい”事業部制組織であるにもかかわらず、この原則が守られていた。

 分権化が各事業部長への権限移譲であれば、それは事業部制組織の特徴そのものであって、ドラッカーが敢えて分権化と名づけるまでもないはずである。分権化の本質は、本社経営陣から各事業部長への権限移譲ではない。事業部長は課長へと、課長は現場社員へと、組織の下層に対して次々と権限委譲をする点が重要である。本社経営陣は10の権限のうち、9を事業部長に移譲して、手元に1の権限を残す。事業部長は9の権限のうち、7を課長に移譲して、手元に2の権限を残す。課長は7の権限のうち、4を現場社員に移譲して、手元に3の権限を残す。現場社員は4の権限を手にする。つまり、組織の下層に行くほど権限が大きくなり、上層に行くほど責任が大きくなる。換言すると、いわゆる「権限―責任一致の原則」は、分権制では崩れる。

 ドラッカーも、事業部内での権限移譲について、次のように述べている。
 GMの事業部のなかには、事業部内で分権制をとっているものがある。戦時に創設された航空機関係の事業部の1つでは、事業部全体を分権制によって組織している。5つの工場すべてが、それ自体独立した事業部であるかのようにマネジメントされている。(中略)

 しかもこの事業部は、分権制を工場レベルの下のレベルにまで適用していた。工場内の各部門を独立させ、それらの長に全面的な権限を与えた。ただし、経営幹部は全員、頻繁に開かれる会議を通じ、事業部の方針や直面する課題を知らされていた。
 分権化を進めるためには、部下に対して単に「この範囲の仕事を創意工夫を凝らして実施せよ」と告げるだけでは不十分である。引用文にあるように、権限移譲される側は、仕事・組織の全体像は何か?その全体像の中で自分の役割はどのような位置づけにあるのか?を知らされなければならない。その上で、全体像に貢献するために、自分はどのような成果を上げるべきか?その成果はどのような尺度によって測定するのか?を決定する。ただし、成果を上げるための手段については、権限移譲される側の自由に委ねられる。これが分権化の手順である。
 第2の教訓は、人は金のために働くのであり、仕事や製品のために働くのではないとの考えの間違いだった。働く者は、作業、製品、工場、仕事を知り、理解しようとしている。そ粉で工場の経営陣は、社会的見地ではなく効率的見地から、仕事と製品の関係が見えるようにするために知恵を絞った。その結果は効率と生産性だけでなく、士気と満足度の向上だった。
 この事業部では、工場の仕事、空気、音、匂いになれさせるために、新人をすぐ機械に配備した。2、3日してから訓練係が工場付属の射撃場へつれていき、目の前で銃を分解して構造を説明した。そして、その新人がかなり正確に加工した部品をつけて、実際に何発か撃たせた。次に、同じくその新人が雑に加工した部品をつけて撃たせた。こうして部品と性能の関係を納得させた。
 分権化においては、組織はフラット化しない。この点は誤解されがちだが、ドラッカーはきっぱりと、分権化とフラット化は異なると断じている。分権制においてはむしろ、階層構造が維持される。社員は階層を昇りながら、徐々に大きな責任を身につけていく。つまり、徐々にリーダーとしての能力を習得する。リーダーシップとは究極のところ、自分の思い通りには動かない人たちを使って、望ましい成果を上げることである。分権化による組織の階層は、上に昇れば昇るほど自分の思い通りには動かない部下が増える構造であり、リーダーシップを少しずつ練習する格好の場となっている。仮に組織がフラット化すると、事業部長はいきなり自分の思い通りには動かない部下を大勢抱え、大きな責任を背負うことになる。これでは社員が潰れてしまう。

 自由企業体制と集産体制
 私が経済学に疎いこともあって、ドラッカーの経済学を理解するのにはいつも苦労してしまうのだが、本書で論じられているドラッカーの経済学を私なりに整理すると次のようになる。まず、現代社会は産業社会、つまり産業が社会の中心を占める社会である。この点については誰も異論はないだろう。その産業社会を支える体制として、ドラッカーは集産体制と自由企業体制の2つを挙げる。集産体制は、天然資源を中心として、国家の富を増やすことを目的とする。そして、需要が量的に無限大であるのに対し、供給が限定的であるという前提に立つ。

 この場合、限られた供給を上手くコントロールしないと、価格体系が崩壊する(現代でも、石油に関してOPECが行っていることがこれである)。そこで、国家自身が供給のコントロールに乗り出す。したがって、(国家が所有する)企業は自ずと独占的になる。自由競争に供給や価格の調整を委ねるという発想はない。集産体制は将来の見通しが立てやすい経済である。だから、計画経済が成り立つ。ただし、需要が”量的に”無限大ということを前提にしているため、今国民が欲しているものを永遠に生産し続けることを意味する。したがって、国民の生活水準が上がって、将来的に国民のニーズが変化する可能性がある点は全く無視されている。

 もう一方の自由企業体制は、集産体制とは正反対の前提に立つ。まず、自由企業体制の目的は、天然資源ではなく、人的資源を活用して国家の富を増やすことである。さらに、無限なのは需要側ではなく供給側である。その需要は限定的であると同時に、時間によって変質するという特性がある。また、供給側は、土地や設備といった古典的な生産要素ではなく、人的資本すなわち人間の能力に依存しているため、”質的に”無限大である。供給側は人間の能力を鍛え、様々に組み合わせることで、可変的な生産能力を手にすることができる。

 需要側も供給側も変動的であるから、集産体制のように、国家による統制は不可能である。代わりに、需要側と供給側が出会う場として、市場が重要な役割を果たす。市場では、価格が自由に形成される。このことは、消費者である市民が、無限の供給の中から自らの需要に合致したものを選択する自由な存在であることの証となる。国家は供給の統制を放棄しているため、市場には競合他社が現れる。市場が有限で、かつ競合他社が存在するということは、競争を健全に保つ上での企業の適正規模があることを意味する。大きすぎても小さすぎても競争は歪められる。その適正規模を測る指標として、ドラッカーは市場シェアとコストという2つを示している。

 ドラッカーは、自由企業体制を攻撃する人たちは、利益と利潤動機を混同し、かつどちらも悪いものと見なしている点を批判する。まず、利益とは、前回の記事でも書いたように、将来のコストである。企業が持続的に成長・発展し続けるための投資の源泉である。よって、利益とは本来的には企業の手元に残るものではない。次に、利潤動機についてであるが、ドラッカーは利潤動機という個人的な欲求を、社会的な目的へと融合させることができると説いている。利潤動機は、人に対する欲求ではなく、モノに対する欲求である。よって、利潤動機が原因で、圧政という政治的暴力の悲劇が生じることはない。人々が利潤動機を追求すれば、社会の富を豊かにするという社会的目的の達成につながることをドラッカーは期待している。

2016年11月28日

【ドラッカー書評(再)】『企業とは何か―その社会的な使命』―マネジメントへの参画から責任へ、他


企業とは何か企業とは何か
P.F.ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2005-01-29

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 発禁処分を食らった禁断の書
 『経済人の終わり』、『産業人の未来』を発表し、政治学者として活躍していたピーター・ドラッカーに、「我が社のことを研究してほしい」と声をかけたのがGMであった。本書はドラッカーがGMを1年余りに渡って詳細に研究し、その結果をまとめて1946年に発表したものである。ところが、調査を依頼したGMの経営陣が本書の内容をを拒否したため、本書は長らく発禁状態にあった。本書が復刻されるまでには40年近くの期間を置かなければならなかった。

 GMの経営陣が本書に対して拒絶反応を示した理由を、ドラッカーは1983年版のエピローグで次の3つにまとめている。それは、①GMが第2次世界大戦後に平時生産に復帰するにあたって、経営政策を見直すべきだとしたこと。どんな政策も万能ではなく、せいぜいもって10年~20年であるから、常に政策を変えていかなければならないと提案したこと。②労働力はコストではなく資源としてとらえるべきだと指摘したこと。労働者を経営に参画させることで、彼らの意欲を高める必要があるとしたこと。③企業は公益に関わりがあり、社会の問題に責任があると主張したこと。現在の言葉で言うところのCSRを提唱したこと、の3つであった。

 特に②へのアレルギー反応が凄まじいかったらしく、ドラッカーは次のように述べている。
 当時は、GMだけでなくアメリカの産業界の経営幹部のほとんどが、仕事改善プログラムやQCサークルの類を経営陣に対する越権と見ていた。「マネジメントの専門家はわれわれである」「経験や教育のない者よりも仕事を知っているからマネジメントの任にある。責任はわれわれにある」「われわれは生産性について、企業、株主、顧客、労働者に責任がある。われわれが責任を果たさなければ、どうして満足な賃金を払えるか」と言っていた。
 しかし②こそが、ドラッカーをしてドラッカーたらしめた主張であると言えるだろう。ドラッカーはGMを研究した際、工場で働いた経験のない肉体労働者が責任感を持って連帯し、製品や工程の改善を行っている姿に感銘を受けた。これを戦時中の一時的な現象として片づけるのではなく、平時においても行うべきだとしたわけである(戦争が我々の生活を豊かにした様々なイノベーションの源泉であったことはよく知られているが、ドラッカーのマネジメントもまた、戦争の産物であるというのは、私をやや複雑な心境にさせる)。

 本書の中では、社員を経営に参画させ、社員に連帯感や責任感を持たせるための方策がいくつか挙げられている。その最たるものが、職場コミュニティ活動への参画である。本書の発表と近い時期に書かれた別の論文では、社員を職場コミュニティの余暇活動、スポーツ・チームや趣味のサークル、社員旅行やパーティ、研修活動、社内報、社員食堂、医療厚生、生産性向上プログラムなどに参画させることが、社員のマネジメント意識を醸成する上で有効であると述べている(「経営者の使命」DHBR2010年6月号収録。初出は1950年)。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 06月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 06月号 [雑誌]
P.F.ドラッカーHBR全論文

ダイヤモンド社 2010-05-10

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 だが、職場コミュニティ活動への参画というアイデアを、ドラッカーはすぐに放棄した。職場コミュニティ活動への参画程度では不十分と感じたのだろう。それよりももっと大きな要因として考えられるのは、この頃から社員が単に手と足を差し出すだけの存在ではなく、知識労働者として台頭してきたことである。知識労働者は、企業にとって重要な経営資源である知識を自ら保有している。保有しているということは、その使い方について自由に意思決定を下すことができることを意味する。こうした社員のことを、ドラッカーはエグゼクティブ(経営管理者)と呼んだ。エグゼクティブの役割をまとめたのが『経営者の条件』である。

ドラッカー名著集1 経営者の条件ドラッカー名著集1 経営者の条件
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 「参画」というアイデアは、1930年代に活躍したメアリー・パーカー・フォレットのアイデアから借用したものと思われる。ドラッカーは、ほとんど無名だったフォレットを自分が発掘し、マネジメントの母として認めたことをよく自慢していた。ただし、ドラッカーが経営学を体系化していく中で、「参画」という言葉は消え失せていく。むしろ、参画程度では生ぬるいとさえ批判を加えている。前述のように、知識労働者であるエグゼクティブは、自分が保有する知識という経営資源をどのように使うかについて自由を有している。しかし、自由を有するからには、成果に対して責任を負わなければならない。その責任は生半可なものではない。高い水準を達成しなければならない。だからこそ、参画という、左派が使いそうな柔らかい表現を嫌うようになったと考えられる。

 中小企業への過去の賛辞と現代の問題
 興味深いことに、本書には中小企業を賛辞している箇所がいくつかある。
 中小企業では見習いさえ、他の従業員の仕事を見、全体を見ざるを得ない。他の部門のものの見方や問題を知ることなしにはすまされない。しかも彼らの昇格や昇進は、他の分野で働く力があるかどうかによって決められる。
 中小企業で働くスペシャリストは、他の部門で何が起こっているかは、いやでも目にする。同じように中小企業の経営幹部は企業の外で起こっていることをいやでも目にする。おまけに中小企業では、取締役会が経営幹部に対し、株主、金融機関、地元有力者、主要顧客など重要な人たちのものの見方や、反応とそのわけを理解させる役割を果たしている。
 ドラッカーは、チェスター・バーナードの『経営者の役割』から、次の言葉を紹介している。
 今日、リーダーとしての経験を得る機会は、中小企業、政党支部、労組にしか見当たらない。そのよなことでは十分な数のリーダーを用意することはできない。したがってすでにいくつかの企業で試行中のリーダー育成のためのプログラムが必要である。
経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)経営者の役割 (経営名著シリーズ 2)
C.I.バーナード 山本 安次郎

ダイヤモンド社 1968-08

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 つまり、当時は中小企業の方がリーダーを輩出する機関としては有能だと見られていた。ところが現代ではどうであろうか?中小企業診断士としての目からすると、中小企業から有能なリーダーが育っているとは言い切れないように思える。経済紙をにぎわすベンチャー企業の経営者の多くは、大企業の出身者が占めている印象を受ける(もちろん、その中には泡沫のリーダーも含まれているが)。その大きな要因は、中小企業が利益を追求し、新規事業、とりわけイノベーションに投資すること、それから新入社員の採用・育成を怠ってきたからではないかと考える。

 引用文によれば、中小企業では取締役会が経営陣に対する牽制機能を果たしているという。しかし、実際の中小企業では、代表取締役をはじめほとんどの取締役が株主を兼ねており、自らへのリターンを最大化すると同時に、企業の利益をほぼゼロにして法人税を納めないようにしているケースが散見される。損益計算書上で、売上高経常利益率が1%を切っているような企業は、利益を操作している可能性が高い。利益を小さく見せる方法には、前払費用として資産計上すべきものを費用計上する、役員報酬を操作するなど、いくつか方法がある。上場企業については、いわゆる「伊藤レポート」がROE8%以上を要求している。上場企業は利益を出すように規律づけられているのに対し、中小企業は反対に利益を出さないような誘因が働いている。

 本書でドラッカーも述べていることであるが、利益とは将来のコストである。利益は、企業が持続的に成長するための投資に回さなければならない。本業が斜陽フェーズに入っても、第2、第3の成長カーブを描けるように、複数の新規事業に投資しなければならない。特に、イノベーションへの投資は重要である。イノベーションは既存企業を一発で吹き飛ばす威力を持っているので、早い段階からイノベーションを自社に取り込む必要があるからである。イノベーションを含めて複数の案件に投資するには、一定の利益を要する。現在の中小企業はこれができていない。

 また、引用文では中小企業がリーダー育成機関として機能しているとあるが、リーダーを育成するには、若いうちから責任ある仕事を任せることが重要である。しかし、若手社員に任せた仕事がその企業の命運を左右するようでは、企業としても安心できない。若手社員に任せるべき仕事とは、若手社員にとっては大きな仕事だが、企業全体から見ると規模が小さく、仮に失敗してもダメージが少ない仕事である。例えば、小口顧客を担当させる、レガシーとなった製品の改良を任せるといった具合である。そのためには、企業の利益にある程度余裕が必要である。

 現在の中小企業は、利益を出さない⇒若手社員を採用しない⇒全ての中高年社員が主力事業に注力し、仕事が高度化する⇒若手社員が入る余地がさらになくなり、若手社員を採用しない⇒そうこうしているうちに社員が高齢化する⇒後継者がいなくなる、というプロセスをたどっている。逆に、大企業はドラッカーををはじめとする学者・コンサルタントが体系化した経営学に従って、利益を出し、若手社員を採用・育成し、イノベーションを含む新規事業に投資している。その結果、この半世紀で大企業と中小企業の差が随分と広まってしまったように感じる。

2016年11月25日

【平成28年度補正ものづくり補助金】賃上げに伴う補助上限額の増額について


給料

 平成29年度補正予算「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業補助金」の申請書の書き方に関する記事を公開しました。ご参考までに。

 ものづくり補助金(平成29年度補正予算)申請書の書き方(1)(2)
 《参考記事》
 「新ものづくり補助金(平成25年度補正)」申請書の書き方(例)
 「ものづくり補助金」申請書の書き方(例)(平成26年度補正予算「ものづくり・商業・サービス革新事業」)(1)(2)(3)(4)(5)

 平成28年度補正予算ものづくり補助金(革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金)の公募が11月14日から開始された(締切は2017年1月17日)。従来は賃上げへの取り組みを表明すると加点要素となったが、今回は賃上げへの取り組みにより、下表の通り補助上限額が引き上げられることとなった。ただし、全社員(雇用保険対象者)の賃金額、勤務地のほか、雇用保険被保険者証番号、氏名などの必要事項を全国事務局が採択決定後に用意するインターネット上のシステムに入力する必要があるなど、事務処理が大変になる。補助上限が最大で3倍になるのだから、それ相応の負担は覚悟せよということなのだろう。

平成28年度補正ものづくり補助金_類型・補助上限額

 補助上限の増額の要件は下記の通りだが、なかなか複雑なので、自分の理解を深めるためにも今回の記事で一度整理してみることにした。

平成28年度補正ものづくり補助金_雇用・賃金拡充への取組み

 【Ⅰ】まず、補助上限額が2倍となるのは、以下の3要件を全て満たす場合である。
事業終了時点から遡及した6ヵ月間と、前年同期間(6ヵ月間)を比較して、
 ①全社員の平均賃金を5%以上増加する。
 ②従業員の最低賃金グループの平均賃金を5%以上増加する。
 ③雇用者を維持・増加する。
 例えば、補助事業が2017年12月に完了する予定の場合は、2017年7~12月の6ヶ月間と、その1年前にあたる2016年7~12月の6ヶ月間を比較する。

 ①について、
 ・社員とは、本社、国内の支社・営業所・工場等のすべての雇用保険対象となる者を指す。契約形態は、正社員の他、雇用保険対象であるパート、アルバイト、契約社員(有期・無期を問わない)、非正規社員、出向者および嘱託員を含む。

 ・平均賃金は6ヶ月間の平均時間単価を採用する。平均時間単価は、賃金÷勤務時間で計算されるが、(a)賃金には通勤手当、家族手当、精皆勤手当、時間外勤務手当、休日出勤手当、深夜勤務手当、賞与を含まない(ほぼ基本給と等しいと考えればよい)。賃金に時間外勤務手当などを含まないため、(b)勤務時間には残業時間を含めず、所定労働時間で計算する。

 ・事業終了時点から遡及した6ヵ月間と、前年同期間ともに在籍した社員の平均賃金を比較する。例えば、前年同月期にA、B、C、D、Eの5名が所属していた企業において、補助事業終了までにA、Bが退職し、F、Gが入社した場合は、C、D、Eの3名の平均賃金を比較する。

 ・上記の留意点に基づいて全社員の平均賃金を比較し、5%以上増加することが要件となる。平均賃金を計算するExcelのフォーマットを作成してみた。白抜きセルに入力すると、朱色のセルが自動計算される(社員数30名までに対応。それ以上の場合は行を追加してください)。パート、アルバイトは基本的に時給が決まっているため、本来は計算しなくてもよいのだが、例えば朝シフトと昼シフトで時給が異なる、月の途中で昇給するといったケースが考えられるため、賃金÷勤務時間で計算するようにしてある。なお、夜シフトの時給が深夜手当込みになっている場合などは、割増賃金相当分を控除する必要がある。
 >>平成28年度ものづくり補助金 賃上げ計算用Excel

平成28年度補正ものづくり補助金_賃上げ

 ②について、
 ・「最低賃金グループ」とは、社員のうち、賃金が低い下位10%の社員グループ(全社員数の10%相当)を指す。最低賃金グループを構成する人数の基準となるのは、実績確認期間の前年同期間における賃金が低い10%に位置する範囲であり、全社員数を10で割って小数点切上げにより算出する(例:社員数が1~10人の場合⇒1人、従業員数が11~20人の場合⇒2人)。

最低賃金グループ

 ・上記の例は社員数30名の場合を表している(以下同)。左表では平均賃金が高い順に並んでいる。最低賃金グループに所属するのは、30名÷10=3名であり、左表の従業員番号28、29、30の社員が該当する。補助事業が2017年10月に完了した場合、実績確認期間は2017年5~10月、前年同月期は2016年5~10月となる。従業員番号28、29、30の社員の平均賃金が右表のように変化した場合、3人の平均賃金の合計額が前年同月期より5%以上アップしているため、要件を満たす(従業員番号29よりも26、27の平均賃金が低くても問題ない)。

最低賃金グループ③

 ・最低賃金グループに属する平均賃金と同額の社員が複数いる場合は、その社員も最低賃金グループに含める。上記の例では、下位3名は従業員番号28、29、30であるが、従業員番号27の社員と従業員番号28の社員の平均賃金が同じであるため、従業員番号27の社員も最低賃金グループに含め、4人とする。

最低賃金グループ②

 ・上記の例では、公募時点では従業員番号28、29、30の3名を最低賃金グループとしていたが、補助事業期間中に社員に変動があった場合を表している。従業員番号28、29の社員が退職したことにより、比較対象となる最低賃金グループは、従業員番号28、29、30の3名ではなく、退職者を除く下位10%、すなわち、従業員番号26、27、30の3名となる。

 ③について、
 ・雇用者とは、①における社員と同義である(社員とは、本社、国内の支社・営業所・工場等のすべての雇用保険対象となる者を指す。契約形態は、正社員の他、雇用保険対象であるパート、アルバイト、契約社員(有期・無期を問わない)、非正規社員、出向者および嘱託員を含む)。雇用者の減少には、解雇の他、社員の定年退職や自発的離職者、契約満了も含むため、雇用維持の要件を満たすにはその分の人員補充が必要となる。

 【Ⅱ】【Ⅰ】に加えて、さらに補助上限額が1.5倍となるのは、次の条件を満たす場合である。
 ④社員の最低賃金グループの平均賃金を10%以上増加する。
 (※)ただし、前年同期間において最低賃金グループに属する社員のうち、平均賃金が時間給(時間換算額)で1,000円以上の者がいる場合は、④の増額要件の適用を受けることはできない。
最低賃金グループ

 ・上図のように、賃上げ後に平均賃金が1,000円を超えるのは問題ない。

最低賃金グループ②

 ・上図のように、公募時に想定していた最低賃金グループに属する社員が補助事業期間中に退職したことにより、最低賃金グループの構成が変更となった場合、その中に平均賃金が1,000円を超える者(従業員番号26の社員)がいると、要件を満たさなくなる。




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