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【み・らいず2の採用の秘密】なぜ若者は”み・らいず2”に集まるのか?(セミナーメモ書き)
平成30年度業務改善助成金について
DHBR2018年7月号『アジャイル人事』―日本の製造業がアジャイルを実践するために人事部がなすべき5つのこと

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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都豊島区を拠点に、東京23区で活動する中小企業診断士(コンサルタント・トレーナー)。コンサルティングなどの仕事の実際の中身は守秘義務の関係で書くのが難しいため、書評が中心となっている点は何卒ご容赦あれ。

 専門領域は、(1)経営ビジョン・事業戦略の策定、(2)ビジョンや戦略とリンクした人材育成計画の立案・人事評価制度の構築、(3)人材育成計画に沿った教育研修プログラムの企画・開発。

 モットーは「日々改善、日々成長」、「実事求是」、「組織のためではなく知識のために働く」、「奇策は定石より先に立たず」、「一貫性(Consistency)」、「(無知の知ならぬ)無知の恥」

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

 ブログタイトルに、oasisの往年の名曲『Whatever』を入れてみた。

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マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


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◆個人事務所「シャイン経営研究所」◆ シャイン経営研究所ロゴ


(一社)東京都中小診断士協会一般社団法人東京都中小企業診断士協会
(城北支部執行委員、青年部長を務めています)

企業内診断士フォーラム(KSF)企業内診断士フォーラム
(独立診断士の立場から、企業内診断士の活動を応援しています)

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2018年06月24日

【み・らいず2の採用の秘密】なぜ若者は”み・らいず2”に集まるのか?(セミナーメモ書き)


福祉

 神奈川県よろず支援拠点のセミナー「人が集まる会社の秘密~みんなが幸せになる職場の作り方教えます~助成金を有効利用して、社内環境の整備、社員がいきいきと働ける職場作りをしませんか!」に参加してきた。第1部は「平成30年度業務改善助成金」についてであったが、第2部はNPO法人み・らいず2執行役員兼一般社団法人FACE to FUKUSHI事務局長を務める岩本恭典氏より、NPO法人み・らいず2の採用についてのお話があった。

 以下、セミナー内容のメモ書き。

 ・NPO法人み・らいず2は、大阪府、大阪府堺市、京都を拠点に、障害のある人、発達障害や不登校や引きこもりの子どもたち、高齢者への支援を行う団体である。「支援を必要としている人に支援を届け、必要な支援をつくり続けていくこと」をミッションとし、「だれもが、自分らしく地域で暮らせる社会」というビジョンの実現を目指して、育む事業(児童発達支援、大阪市不登校児童通所事業、課題早期発見フォローアップ事業)、学ぶ事業(個別学習塾・家庭教師派遣、放課後等デイサービス、堺市学習と居場所づくり支援事業)など6つの事業を展開している。正職員約30名、非正規職員約20名であり、直近の売上高は約3億円である。2012年より新卒採用を開始し、人手不足が特に深刻であると言われる福祉業界で、毎年一定数を採用している

 ・岩本氏は、「人材がほしいと思ってから採用活動をしているようでは遅い」と言う。み・らいず2の活動は、200~300人の学生ボランティアによっても支えられている。そのボランティアを募集するために、み・らいず2の職員が関西圏の各大学に対し、「講義の最後の5分だけでよいので、み・らいず2のPRをさせてください」と電話で依頼をしている。現在では、年間100校ぐらいを訪問しているそうだ。こうした地道な活動によって集まった学生ボランティアは、1年生のうちからみ・らいず2の活動にかかわっていれば、4年間みっちりとみ・らいず2の理念を叩き込まれることになる。その学生ボランティアのうち、2~3割が会社説明会に出席してくれている。

 最近、み・らいず2では中途採用も行うようになったが、一般的な中小企業と同じで、ハローワークに求人を出しただけでは満足な人材を採用することができない。そこで岩本氏は、学生ボランティアのネットワークを活用することができるのではないかと考えた。学生時代にみ・らいず2でボランティアをし、大企業に就職したものの、2~3年で退職してしまった人にアプローチする。彼らは既にみ・らいず2の理念も活動も十分に理解しているため、中途採用に至るケースがある。今後、こうした学生ボランティアのネットワークへのアプローチを強化する予定である。

 ・リクルーターから見ると、就職活動をしている学生は皆同じようなスーツを着て、同じような髪形をし、同じようなバッグを持っているため、見分けがつかない。そこで、学生の個性が見えるような工夫をしている。例えば、履歴書は一般の履歴書を使わず、「その人が写っている楽しそうな面白写真」を掲載する欄を設けたり、「好きな食べ物・その理由」、「好きな漫画・映画・本・小説などとその理由」を記入する欄を設けたりしている。以前は、「あなたをゴレンジャーに例えると何色ですか?」という質問欄を設けたこともあったそうだ。

 ・「2018年卒マイナビ学生就職モニター調査 3月の活動状況」によると、学生が企業を決める上で大切にしていることの第1位は「社員の人間関係がよい」ことである。また、「リクルートキャリア 就職白書2016」で、学生が企業を選ぶ時に最も重視した条件を見ると、就職活動が進むにつれて「一緒に働きたいと思える人がいるかどうか」が重視される傾向にある。

 よって、み・らいず2の新卒採用では、学生に「このNPO法人は雰囲気がよさそう」、「このNPO法人で働くと楽しそう」と思ってもらうことに重点を置いている。まずは【①】ブランディングに注力している。約5年に1度のペースで、パンフレット、ロゴ、名刺、HPを一新している。その費用は約500万円であり、売上高約3億円のNPO法人にとって決して軽くない。だが、働いた経験がない学生は、結局のところ見た目でしか判断できないので、見た目を重視している。

 とはいえ、デザイナーに丸投げするのではなく、職員たちが「自分たちのやりたいこと、事業にかける想い」を自由に語り、それをかっこよく表現してもらうようにオーダーを出している。また、自分たちのやりたいことは案外自分たちでも解っていないことから、デザイナーには職員から言葉を引き出してもらう役割も期待している。冒頭で、み・らいず2のビジョンは「だれもが、自分らしく地域で暮らせる社会」であると述べたが、当初は「だれもが、地域で当たり前に暮らせる社会」であった。ところが、「我々が目指すのは『当たり前』なのか?」という疑問が生じ、職員とデザイナーとの間で議論を深めた結果、「『自分らしく』地域で暮らせる社会」となった。

 5年に1度ブランディングを刷新すると、それまで築いてきたブランドがゼロに戻ってしまうのではないかという質問が参加者から出たが、岩本氏は「み・らいず2のやっていること、核心は変わらないが、それが社会からどのように認識されるかは変わる。だから、社会の認識に合わせる必要がある」と語った。また、ブランディングを定期的に見直すことで、対外的にも対内的にも、「この法人は攻めている」という印象を与えることができるとのことであった。

 次に、【②】①のブランディングと関連するが、会社説明会ではとにかく「楽しそうな動画」を流すことである。アップテンポの音楽と笑顔の写真を組み合わせて会社説明の動画を制作する。プロに依頼しなくても、Windows Movie Makerでそれなりの動画は作れる。セミナーではその動画も紹介されたが、岩本氏は「これを見ても、み・らいず2が何の事業をやっているか解らない。我々にも解らないのだから、学生が見たらもっと解らない」と自虐的に語っていた(笑)。だが、楽しそうな雰囲気が伝わることが重要であり、その点でこの動画が果たす役割は大きい。

 【③】①②だけを読むと、中身を軽視して上辺だけを綺麗に整えているように思えるが、実際には中身の作りこみも行っている。み・らいず2では、新卒採用を若手職員に任せている。学生と若手職員は距離が近いため、学生には親しみを持ってもらえるし、入職後の仕事のイメージも湧きやすい。また、会社説明会では、若手職員が自分の仕事やキャリア、み・らいず2の理念を思い思いに語る機会が多い。上層部が理念などを画一的に語るより、若手職員が多少表現に粗があったとしても自分で考えた言葉で語る方が、学生の共感を呼びやすい。最近の学生は、理念、事業内容、製品・サービスよりも「どんな人と働くことになるのか」をよく見ている。

 ・み・らいず2では、ペルソナ」を設定することで、ターゲットとなる学生増を具体化している。漠然と「中小企業への就職を希望する学生を採りたい」と考えるよりも、「理系出身で、地元の中小企業への就職を希望している学生を採りたい」と考えると、学生のニーズがより具体化される。前者であれば、「経営は安定しているか」、「業績は成長しているか」、「給与は年々上昇するか」といった程度のニーズしか想定できないが、後者になると「大学の選考で学んだことが活かせるか」、「転勤はないか」、「研究開発や新製品開発に積極的に投資しているか」、「エンジニア、設計開発者、研究職としてのキャリアパスはあるか」などといったニーズが想定される。ニーズが明らかになったら、そのニーズに合わせて企業側が適切な情報を発信する。

 ここで、「メリット」と「ベネフィット」を区別することが重要だと岩本氏は指摘する。メリットとは、顧客にとってプラスに働く製品・サービスの特徴のことであり、採用の場面で言えば、学生にとってプラスに働く企業の特徴である。一方、ベネフィットとは、顧客が製品・サービスから得られる満足感や将来の期待感のことであり、採用の場面で言えば、学生が企業から得られる満足感や将来の期待感である。メリットは企業目線に立っているのに対し、ベネフィットは顧客(学生)目線に立っているという違いがある。企業は往々にしてメリットを強調するが、仕事経験がない学生は、そのメリットをベネフィットに転換することが難しい。そこで、企業側があらかじめその転換を済ませておくことがポイントである。例えば、以下のように転換する。

 「研修制度が充実しています」⇒「資格を持っていなくても、働いてから資格が取れます」
 「社員の仲がよいです」⇒「困った時に親身になって相談に乗ってくれます」
 「産休・育休制度が整っています」⇒「子どもを産んでも働き続けられます」

 メリットをベネフィットに転換することで、学生はその企業で働く姿を具体的にイメージすることができ、働く上での不安を減殺し、企業から得られる利益を明確に認識することができる。

 ここからは私見。ペルソナはマーケティングでは有効だと言われているが、採用、とりわけ新卒採用においても有効かどうかは個人的には疑問である。マーケティングの世界では、製品・サービスの寿命が短くなっているから、新製品・サービスを開発するたびにペルソナを設定し、ターゲット顧客に確実に製品・サービスを提供して計画通りの収益を上げることが求められる。

 だが、新卒採用で入社した社員は、長くその組織で働くことが期待されている。採用の段階でペルソナを狭く設定すると、入社後に事業内容が変更になった時に、新しい事業が求める人材像と採用時のペルソナがミスマッチを起こす恐れがある。み・らいず2では、職員の「やりたい」という気持ちを重視しており、次々と新しい事業が生まれるというから、この点はなおさら心配である。新卒採用の段階では、「素直である」、「責任感がある」、「協調性がある」、「柔軟である」といった基本特性に注目すれば十分ではないかと考える(もっとも、ブログ別館の記事「『新しい産業革命―デジタルが破壊する経営論理(『一橋ビジネスレビュー』2016年AUT.第64巻2号)』」では、ターゲットを絞ってセンターピンを狙った方がかえって製品・サービスが多角化すると書いており、人材育成でも同じことがあてはまる可能性が全くないとも言えないが)。

 もう1つつけ加えると、ペルソナを具体的に設定しているということは、それがそのまま応募者をスクリーニングする基準になるはずだが、み・らいず2では今のところそのような選別を行っていないそうだ。現状では、面接官が勘によって、「一緒に働きたい人」を選んでいる。それはそれで重要であるものの、採用する人材が同質化するという課題を抱えている。異質な人材を受け入れるためには評価基準を明確に定める必要があると認識しているところだそうだ。同じことは、入社後の職員の評価についても言える。現在は明確な評価基準がない。辞めていく職員を見ていると、み・らいず2のお祭り・サークルのような雰囲気に何となく合わない人が多い。すると、残った人が同質化していくという課題に直面する。

 ・み・らいず2は「雰囲気のよさ」を学生にアピールしている一方、実際には福祉業界の仕事は3Kと呼ばれるように、よいことばかりではない。入職後のリアリティ・ショックを防ぐために、学生に対してはよい面も悪い面もありのままに伝えるように心がけている。これを採用の世界では"Realistic Job Preview(現実的な仕事情報の事前開示)"と呼ぶ。元々は大企業向けに提唱されたコンセプトであり、殺到する応募者を初期段階でスクリーニングするために、自社の悪い点も正直に告白することが推奨されているというものである。ところが、み・らいず2や中小企業が大企業の真似をすると、誰も応募してこなくなる。そこで、み・らいず2では、選考プロセスの中盤から終盤にかけて、悪い情報を伝えるようにしている。その際、単に「こういう悪い点がある」と言うのではなく、「現在はこういう課題を抱えているが、課題解決に向けてこのようなことを行っている」、「一緒に課題解決をしてほしい」と伝えている。

 ・み・らいず2は、特に採用難と言われる福祉業界で、毎年新卒採用に成功しているという実績があるから、私が何かを指摘するのははなはだおこがましいのだが、最後にセミナーを聞いてみ・らいず2が抱えているであろう課題を挙げてみたいと思う。

 ①事業戦略の明確化=障害者は人口に対する割合がほぼ決まっており、突然増えたり減ったりはしない。その点で、市場規模は予測しやすいと言える。み・らいず2が中長期的にどの地域までカバーしたいのか、その地域では障害者支援サービスがどの程度充実しているのか、不足しているサービスをみ・らいず2が提供できるのかといったことを検討していくと、将来のみ・らいずの売上目標が見え、それに伴って必要な組織規模も判明する。その組織規模と現状とのギャップを明らかにし、その差を埋める施策を展開するという戦略的な活動が求められる。

 ②業務プロセスの標準化=職員がやりたいことを優先して次々と事業が立ち上がっているということだが、ややもすると業務が属人化している可能性がある。障害者支援の場合、例えば1時間サービスを提供するといくらの収入が得られるかは法律などによって定まっている。福祉業界に携わる人は奉仕の気持ちが強く、目の前の顧客のために採算を度外視してまでもサービスを提供しようとする傾向がある。しかし、NPO法人として安定的な収益を確保するためには、業務プロセスをある程度標準化することも必要になるだろう。

 ③行動規範の策定=み・らいず2にはミッション、ビジョンはある反面、バリュー(行動規範)がない。今までは「雰囲気重視」で皆仕事をしてきたものの、み・らいず2がミッションやビジョンを達成する上で、それぞれの職員が従うべき行動規範や価値観を明らかにすることが欠かせない。その行動規範・価値観は、採用時のスクリーニングや、職員評価の基準にもなる。もっとも、全職員が完全に同じ価値観を持つ必要はない。それでは、現在み・らいず2が直面している同質化と同じである。理想は、基本的な価値観は共有しているが、それ以外にも各職員が固有の価値観も持っているという状態である。端的に言えば「半同質/半異質」である。異質な価値観の衝突は緊張をもたらすけれども、同時に貴重な創発的学習の契機となる。

 ④スキルマップの策定と戦略的なジョブローテーション=み・らいず2の職員としてどのような能力を習得する必要があるのかを明らかにしなければならない。その人材要件に基づいて、それぞれの職員の現在の能力レベルをマッピングする。同時に、み・らいず2のそれぞれの事業内の各ポジションでは、どのような能力を習得することができるかを整理する。これらの情報に基づいて、職員1人1人が望ましい能力を習得するために、どの事業のどのポジションを順番に経験していけばよいのかというキャリアパスを描く。日本のキャリア開発の現場ではどうも、社員が自分のやりたいことを自由に構想すればよいと思われている節がある。しかし、本当のキャリア開発とは、組織の側が個人に期待するキャリアを提示することから始まり、それに対して個人が自分の欲求や家庭の事情などを踏まえてどう考えるかを議論するものである。


2018年06月23日

平成30年度業務改善助成金について


給料

 神奈川県よろず支援拠点のセミナー「人が集まる会社の秘密~みんなが幸せになる職場の作り方教えます~助成金を有効利用して、社内環境の整備、社員がいきいきと働ける職場作りをしませんか!」に参加して、厚生労働省の「業務改善助成金」について話を聞いてきた。

 【概要】
 業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度である。生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成する。

 【助成対象事業場】
 事業場内最低賃金が1,000円未満の中小企業・小規模事業者が対象となる。
 ※引き上げる賃金額により、支給対象者が異なるため注意が必要。

 【支給の要件】
 (1)賃金引上計画を策定すること。
  事業場内最低賃金を一定額 以上引き上げる(就業規則などに規定)。
 (2)引上げ後の賃金額を支払うこと。
 (3)生産性向上に資する機器・設備などを導入することにより業務改善を行い、その費用を支払うこと。
  ①単なる経費削減のための経費(例:LED照明の導入)、 ②職場環境を改善するための経費(例:冷暖房設備の導入)、 ③通常の事業活動に伴う 経費(例:PCの購入)は除く。
 (4)解雇、賃金引下げなどの不交付事由がないこと。
  ①当該事業場の労働者を解雇した場合(天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、または労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇した場合を除く)、その者の非違によることなく勧奨を受けて労働者が退職した場合、または主として企業経営上の理由により退職を希望する労働者の募集を行い、労働者が退職した場合。
  ②当該事業場の労働者の時間あたりの賃金額を引き下げた場合。
  ③所定労働時間の短縮、所定労働日の減少(天災事変その他やむを得ない事由のために事業の正常な運営が不可能となった場合、または法定休暇の取得その他労働者の都合による場合を除く)を内容とする労働契約の変更を行い、月あたりの賃金額を引き下げた場合。
 は不交付事由となる。

 【助成額】
 申請コースごとに定める引上げ額以上、事業場内最低賃金を引き上げた場合、生産性向上のための設備投資などにかかった費用に助成率を乗じて算出した額を助成する(千円未満端数切り捨て)。なお、申請コースごとに、助成対象事業場、引上げ額、助成率、引き上げる労働者数、助成の上限額が定められているため要注意。賃金引き上げの対象となる労働者は、6か月以上勤務している必要がある。ただし、雇用保険加入者以外であってもよい(同居親族は不可)。極端な話をすれば、1週間に1時間だけ働くパートの賃金引上げでも認められる。

業務改善助成金の助成率

 【事業場内最低賃金の計算方法】
 ・時給制のパート・アルバイトの場合は、時給で見る。
 ・月給制の場合は、実際に支払われる賃金から以下を除外したものが最低賃金の対象。
  (1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  (2)1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  (3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
  (4)所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
  (5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  (6)精皆勤手当、通勤手当、家族手当

 (※)「(6)精皆勤手当、通勤手当、家族手当」は除外するのを忘れがちであるため要注意。
 《例①》基本給14万円、役職手当2万円、通勤手当1万円で、1日8時間、年間245日(年間休日120日)働く労働者の時給=(14万円+2万円)÷(8時間×245日÷12か月)=979.59円
 ⇒東京都の最低賃金958円(2017年10月以降)を満たすのでOK。
 《例②》基本給14万円、役職手当1万円、通勤手当2万円で、1日8時間、年間245日(年間休日120日)働く労働者の時給=(14万円+1万円)÷(8時間×245日÷12か月)=918.37円
 ⇒東京都の最低賃金958円(2017年10月以降)を満たさないのでNG。

 【生産性向上に資する設備・機器の導入例】
 ・POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
 ・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
 (※)通常の補助金や助成金では一般的な自動車は対象外であるが、業務改善助成金においては、車両に対して付与されるナンバープレートの「車種を表す数字」が8で始まるもの、およびこれに準ずると考えられる「特種用途自動車(福祉車両など)」は認められる。
 ・顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化
 ・専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上  など。
 >>>2017(平成29)年以前の助成事例はこちらを参照。

 【助成対象】
 機械装置等購入費・造作費をはじめ、謝金、旅費、借損料、会議費、雑役務費、印刷製本費、原材料費、人材育成・教育訓練費、経営コンサルティング経費、委託費が対象となる。
 (※)人材育成・教育訓練費、経営コンサルティング経費(ただし、業務効率化のコンサルティングに限る)も助成対象となっているのがポイント。
 (※)過去に業務改善助成金を受給したことのある事業場であっても助成対象となる。よって、2017(平成29)年以前に受給した企業が受給できることはもちろんのこと、2018(平成30)年に受給した企業が同一年度に2回以上受給することも可能である。

 【生産性要件】
 生産性を向上させた企業が業務改善助成金を利用する場合、その助成率を割増する。ここで言う「生産性」とは、企業などの決算書類から算出した、労働者1人あたりの付加価値を言う。助成金の支給申請時の直近の決算書類に基づく生産性と、その3年前の決算書類に基づく生産性を比較し、伸び率が6%以上である場合に割増される。なお、金融機関から「事業性評価(所轄労働局長が、助成金を申請する事業所の承諾を得た上で、事業の見立て〔市場での成長性、競争優位性、事業特性、経営資源・強みなど)を与信取引のある金融機関に照会し、その回答を参考にして、割増支給の判断を行うもの)」を受けている場合には、1%以上の伸びで可。

 一般企業の場合、
 生産性指標=(営業利益+減価償却費+人件費+動産・不動産賃借料+租税公課)÷雇用保険被保険者数
で計算される。社会福祉法人、医療法人、公益法人、NPO法人、学校法人、個人事業主の生産性指標については、「業務改善助成金交付要領」p7以降を参照。

 【業務改善助成金の手続き】

業務改善助成金の手続き

 (1)助成金交付申請書の提出
 業務改善計画(設備投資などの実施計画)と賃金引上計画(事業場内最低賃金の引上計画)を記載した交付申請書(様式第1号)を作成し、都道府県労働局に提出する。

 (2)助成金交付決定通知
 都道府県労働局において、交付申請書の審査を行い、内容が適正と認められれば助成金の交付決定通知を行う。

 (3)業務改善計画と賃金引上計画の実施
 ・業務改善計画に基づき、設備投資などを行う。
 ・賃金引上計画に基づき、事業場内最低賃金の引上げを行う。
 (※)交付決定前に設備投資を行ったり、事業場内最低賃金の引き上げを行ったりしてはならない。事業場内最低賃金の引上げは、交付申請書の提出後から事業完了期日までであれば、いつ実施しても構わない。

 (4)事業実績報告書の提出
 業務改善計画の実施結果と賃金引上げ状況を記載した事業実績報告書(様式第9号)を作成し、都道府県労働局に提出する。

 (5)助成金の額の確定通知
 都道府県労働局において、事業実績報告書の審査を行い、内容が適正と認められれば助成金額を確定し、事業主に通知する。

 (6)助成金の支払い
 助成金額の確定通知を受けた事業主は、支払請求書(様式第13号)を提出する。

 【問い合わせ先・申請先】
 ・問い合わせ先は、各都道府県に設置されている「働き方改革推進支援センター」。
 ・申請先は、「各都道府県労働局」。

 【講師からのアドバイス】
 ・厚生労働省の他の助成金に比べると、雇用保険への加入状況を詳しく調べられない。逆に、法人税や所得税、消費税を適切に納税していることを証明する必要がある。
 ・時間外労働が多いからといって不支給事由になるわけではない。
 ・最低賃金の改定は毎年10月に行われることが多いため、最低賃金が引き上げられるよりも前に(9月末までに)交付申請書を提出するとよい。
 ・事業場内最低賃金が1,000円未満の中小企業が対象であること、東京都の最低賃金は毎年25円前後引き上げられることを踏まえると、東京都の中小企業が業務改善助成金を活用できるのは、おそらく2018(平成30)~2019(平成31)年度までと思われる。

 【私見】
 厚生労働省の助成金は、賃金アップ、処遇改善を目的としたものが多い。賃金アップや処遇改善に対してなかなか前向きに取り組むことのできない中小企業に対して、多少のインセンティブを与えることでそれらを実現させ、ひいては国全体の雇用環境をよりよくしようというわけである。企業から見れば、助成金によって初期の費用は軽減されても、長い目で見れば実は負担は増えることになる。したがって、単に助成金がもらえるからという安易な理由で飛びつくと痛い目に遭う。業務改善助成金に関して言えば、機械設備の投資の大部分は助成金によって賄うことができるものの、事業場内最低賃金の引き上げによって人件費は増加する。その上昇分を補って余りあるほどの売上増の計画をあらかじめ立てておかなければならない。

 例えば、正社員3人、パート7人の飲食料品小売業を考えてみよう。正社員の月給は30万円、パートは全員フルタイムで働くとして、その時給は970円だとすると、この企業の人件費は、(30万円×12か月×3人)+(970円×8時間×20日×12か月×7人)=23,836,800円となる。「平成27年業種別経営指標」の「飲食料品小売業」を見ると、2015年の売上高対人件費率は約12.7%であるから、この企業の売上高はおおよそ23,836,800円÷12.7%=187,691,339円となる。

 ここで、パート7人の時給を30円アップして1,000円にしたとすると、人件費は(30万円×12か月×3人)+(1,000円×8時間×20日×12か月×7人)=24,240,000円となり、403,200円増加する。先ほどの売上高対人件費率を用いれば、この企業の売上高の目安は24,240,000円÷12.7%=190,866,142円になり、約317万円売上を増加させなければならない計算となる。この売上増の計画なくして助成金に飛びつくと、後々人件費の上昇に苦しめられることになる。


2018年06月18日

DHBR2018年7月号『アジャイル人事』―日本の製造業がアジャイルを実践するために人事部がなすべき5つのこと


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 「アジャイル(Agile)」とは「俊敏な」という意味であり、近年IT業界で使われるようになった用語である。端的に言えば、要求仕様の変更などに対して、機敏かつ柔軟に対応するためのソフトウェア開発手法のことである。従来は、要求仕様を満たす詳細な設計を行った上で、プログラミング開発や試験工程に移行する「ウォーターフォールモデル」が主流だったが、開発途中での仕様変更や修正が困難で、技術革新や企業環境の変化に即応することが難しいという問題を抱えていた。アジャイルでは、仕様や設計の変更があることを前提に開発を進めていき、徐々に擦り合わせや検証を重ねていく。途中経過の成果を早い段階から継続的に顧客に引き渡すことで、開発途中での確認や仕様変更などに対応する。また、仕様書だけに頼るのではなく、顧客や開発チーム内でのコミュニケーションを重視することを原則としている。

 今月号の論文「伝統的な組織を俊敏に変える3つのステップ 日本企業が『アジャイル』を実践する方法」(桜井一正、高部陽平)では、アジャイルが適用できるための条件として、①トライ・アンド・エラーが許容される、②短期間で成果を可視化できる、③最大20人の単位でチームが成り立つ、④リーダーの力量、⑤ジュニアメンバーの自律性という5つが挙げられている。

 私はこの論文をパッと読んだ時、日本企業にはアジャイルを導入する余地がほとんどないのではないかと感じた。というのも、以前の記事「『一橋ビジネスレビュー』2018年SPR.65巻4号『次世代産業としての航空機産業』―「製品・サービスの4分類」修正版(ただし、まだ仮説に穴あり)」で使用したマトリクス図に従えば、日本企業は「必需品である&製品・サービスの欠陥が顧客の生命(BtoCの場合)・事業(BtoBの場合)に与えるリスクが大きい」という<象限②>に強いからである。この象限では品質上の欠陥は絶対に許されない。自動車業界では、最終組立メーカーが系列の部品メーカーに「不良ゼロ」を要求するぐらいである。この象限では、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、別の言い方をすれば、顧客に対して不良を含むかもしれない試作品を提供しながら開発を進めることは不可能に近い。

 欧米、特にアメリカでアジャイルが実践されているのは、アメリカ企業が前述のマトリクス図のうち、「必需品でない&製品・サービスの欠陥が顧客の生命(BtoCの場合)・事業(BtoBの場合)に与えるリスクが小さい」という<象限③>に強いからである。特に、アメリカ企業はWebサービスやソフトウェアに強い。これらの製品・サービスでは、多少のバグがあっても顧客に許される。むしろ、バグの発見によって製品・サービスがどんどんグレードアップしていくのを顧客が歓迎しているくらいだ。こういう領域であれば、企業はアジャイル開発で素早くベータ版を市場に投入し、顧客からのフィードバックを得ながら品質を上げていくことが有効であろう。

 今月号では、オランダの金融機関であるINGがアジャイル経営を行っていることが紹介されている(ドミニク・バートン、デニス・ケアリー、ラム・チャラン「フィンテック時代のING全社改革 世界的金融グループはアジャイル手法で組織を変えた」)。INGでは、従来型の組織の大半が「トライブ(部族)」、「スクワッド(分隊)」、「チャプター(支部)」と呼ばれるアジャイル組織に変更された。まず、住宅ローンや証券、プライベートバンキングなど個別の事業領域に対応して、13のトライブが設けられた。各トライブの最大人数は150人である。各トライブにはトライブ・リーダーがいて、トライブ内に9人以下のメンバーからなるスクワッドを作る。スクワッドは自己管理型のチームであり、新製品・サービスの提供やメンテナンスなど具体的な顧客ニーズに応える。

 スクワッドはマーケティングの専門家、製品の専門家、データアナリスト、IT技術者など、部署横断的に多様な人材で構成され、メンバーのうち1人が「製品責任者」に指名される。チャプターは、多くのスクワッドに分散する同一分野(例えば、データアナリティクスやシステム開発工程など)の人材をまとめる役割を果たす。ここまで読んで、これは製品別/顧客別事業部制組織と何が違うのだろうかと私は疑問に感じた。トライブを事業部、スクワッドを製品別/顧客別のチーム、チャプターをスタッフ部門と読み替えれば、従来の組織論で説明することができてしまう。一般的な金融機関は前述のマトリクス図で言うと<象限②>に該当するのだが、やはりアジャイルは<象限②>と相性が悪いのではないかと思った。

 ただ、これで話が終わってしまっては何の面白みもない。確かに、不良を含むかもしれないベータ版を提供し、顧客と擦り合わせながら製品・サービスの品質を上げていくというアジャイルは日本企業には不向きかもしれない。しかし、アジャイルの別の側面、すなわち、PDCAサイクルを細かく回すことで不良を出さないようにするという点は取り入れることができると思う。

 ウォーターフォールモデルでは、最後の統合テストを行うまでバグが解らず、バグが見つかった時には大幅な手戻りが発生するという問題があった。製造業でも、ラインで製品が完成してから品質保証部門(品証)が検査を行うため、やはり不良が見つかった場合には大幅な手戻りが生じるか、不良品を破棄しなければならないという問題を抱えていた。近年、日本の製造業の品質神話が崩れつつある。昔は、品証が問題を発見すると、「こんなもの出荷できるか!」と最後の番人役を務めていたのだが、次第にそういう人はいなくなり、同時にラインでは非正規社員が増えたことで、総合的な現場力が劣化したことが原因のようである。よって、現場でPDCAサイクルを細かく回し、不良を発見するタイミングを増やすことが重要である。不良の発見は、製造工程の初期段階であればあるほどよいと、インテルのアンドリュー・グローブは述べている。

インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学
アンドリュー・S. グローヴ Andrew S. Grove

早川書房 1996-04

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 まず、何を作るか計画を立てる。そして、少し作ってみる。その後、第三者にチェックしてもらい、問題があればそれを改善する。目的物そのものが変われば、計画の段階から見直す。これを細かく繰り返すのがアジャイルである。このプロセスは何かに似ていると思わないだろうか?そう、日本企業に特有の「稟議」プロセスである。

 稟議では、利害関係者に根回しをして、ある人からフィードバックをもらっては企画書を修正し、その後別の人からまたフィードバックをもらってはさらに企画書を修正する。途中で、「こんな企画ではダメだ」と言われたら、企画を練り直す。そして再び、利害関係者の意見をうかがう。こうして、様々な立場の人たちの多角的な意見を反映させて企画を作り上げていく。利害関係者が集まる意思決定会議では、ほとんど異論が出ずに企画が承認される。表面的に見れば、まさにアジャイルである。しかし、稟議の問題は、アジャイルという言葉とは裏腹に、時間がかかりすぎることである。これは、稟議が非公式、偶発的、暗黙知的に行われるためである。だから、アジャイルを実践するには、細かいPDCAサイクルを公式化しなければならない。

 そのために人事部がなすべきことは、以下の5つである。

 ①製造現場の業務プロセスの設計を支援する。
 日本では、業務を遂行する現場が強く、業務プロセスにヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を投入する人事部、購買部、経理部、情報システム部は現場に従うという主従関係が成立しているように思える。例えば、人事部は製造現場から言われるがままに人材を採用し、ラインに配属する、という関係である。だが、私はこうしたスタッフ部門はもっと現場に介入して、現場の業務プロセス構築を支援するべきだと考えている。

 製造現場はスループットを最大化するという目的のために製造工程を設計するが、人事部はヒト、購買部はモノ、経理部はカネ、情報システム部は情報の視点から製造工程を最適化する。4部門が連携して、最適化の精度を上げることも重要である。さらに、製造工程は高度に技術的なプロセスでもあるから、設計部や製造工程部との連携も欠かせない。ここでのポイントは、先ほど述べたように、製造工程の早い段階でチェックのプロセスをできるだけ多く設定することである。上司から部下へのフィードバックの機会をあらかじめ業務プロセスに埋め込んでおく。こうしたフィードバックは、運用段階になるとややもすればおろそかにされがちであるから、きちんと文書化しておくことが欠かせない。アジャイル開発では文書が不要と言われることもあるが、基本指針を関係者間で共有するための文書は必須である。

 ②経営戦略、経営目標が変更になったら、素早く現場にブレイクダウンする。
 アジャイルでは、事業環境の急激な変化に伴って経営戦略や目標が頻繁に変わることを想定している。多くの企業では目標管理制度が導入されているが、年に1回の目標設定では環境変化に適応できない恐れがある。人事部は経営陣と緊密に連携し、戦略が変更されたら新しい経営目標を各部門や各社員の目標に落とし込むことができるようにしなければならない。もちろん、単に人事部が上から目標を押しつけるのではなく、人事部が提示した目標が腹落ちするように、上司と部下の間で対話を行うことが重要である。そして、現場の目標が変われば業務プロセスも変更になるから、①で述べたように人事部は現場の業務プロセス再構築をサポートする。

 ここで問題になるのが報酬である。近年は成果主義が浸透し、給与全体に占める業績給の割合が上昇する傾向にある。今月号の論文「採用、評価から育成まで アジャイル化する人事」(ピーター・カッペリ、アナ・テイビス)では、個人の貢献に応じて報酬を細かく調整するべきだと述べられている。だが、この点に関して、私は異なる考え方を持っている。それは、個人の業績、部門や会社全体への貢献度を厳密に測定して金額に変換することは不可能だということである。経営戦略の変更に伴って頻繁に個人目標が変わるならばなおさらである。だから私は、報酬に関しては以前の記事「比較的シンプルな人事制度(年功制賃金制度)を考えてみた」で述べたような簡素な制度を保持するべきだと考える。そうすれば、個人の貢献度合いをめぐって、社員と人事部との間で不毛な議論を呼び、そのために業務が停滞することもないだろう。

 ③上司から部下へのフィードバック情報を蓄積する。
 アジャイルでは、①で設計された業務プロセスに従って、上司から部下に対して頻繁にフィードバックがなされる。人事部は、そのフィードバック情報を蓄積する仕組みを情報システム部門と一緒になって構築するとよい。大がかりなシステムは不要である。チャット機能と、上司のフィードバックコメントから部下の強み・弱みを抽出できるテキスト分析機能がついていればよい。このシステムを使うことで、定期的な人事考課のために上司が部下の仕事ぶりに関する過去の記憶を遡って、人事考課シートに評価コメントを記入するという面倒な作業から解放される。

 上司から部下に対してフィードバックを行う際には注意点がある。それは、何か問題が生じた時に、すぐさま、対面でフィードバックをするということである。問題発生から時間が経てば経つほど、フィードバックの効果は薄れていく。また、メールやチャットのみでフィードバックをするのも望ましくない。川島隆太『スマホが学力を破壊する』(集英社、2018年)によると、対面で会話をした場合には、思考や創造性を担う脳の最高中枢である前頭前野が活性化するのに対し、PCで文章を書いた場合には前頭前野が活性化しないそうだ。だから、アジャイルが目指す効率化に反するように思えても、上司から部下へのフィードバックに関しては対面で行うべきである。その上で、そのフィードバック内容を先ほどのシステムに入力する。

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 ④人材の柔軟な配置を実現する。
 業務プロセスが頻繁に変更になれば、人材の入れ替えも頻繁になる。人事部は、③のシステムを活用して、それぞれの社員の能力、技術、強みをデータベース化する。そして、現場と緊密に連携して、どのラインで人材が不足しているのか、逆にどのラインで人材が余剰になっているのかをリアルタイムで把握しておく。人材が不足しているラインには、ラインが要求する人材要件にフィットする社員をデータベースの中から検索する。逆に、余剰人材に関しては、その人の能力などが活かせる現場がないかを探す。人事異動は製造部門内だけで完結する場合もあれば、製造部門以外の部署が関係してくる場合もある。現在はこうしたデータベースが充実していないため、欠員が出るとその場しのぎで非正社員を採用しているケースが多いように感じる。

 ここでのポイントは、1年ないしは半期に1回の異動にとらわれてはいけないということである。期中で戦略も目標も業務プロセスも変化するのだから、それに合わせて人材も変化させなければならない。日本企業の場合はゼネラリストを育成するという方針が強いため、職種や部門の転換を伴う異動は比較的受け入れられやすい。一方、欧米の場合、社員はスペシャリスト志向が強く、職種や部門の転換には反発する傾向があるそうだ。また、部下の職種や部門が変わることを快く思わない上司も多いらしい。上司にとって部下は業績を上げるための手段であり、それを取り上げられると自分の業績に響くからだという。この点、日本企業は柔軟な人材配置が実現しやすいと言えるだろう。この利点を活かさない理由はない。

 ⑤必要な技術・能力を素早く習得できる学習環境を整える。
 環境が変化し、戦略が変化し、業務プロセスが変化すれば、必要となる技術や能力も変化する。その技術・能力を社員に習得してもらうために、人事部が伝統的な集合研修に頼っているようでは遅きに失する。かといって、現場のOJTに任せると社員の能力レベルに差が生じる可能性がある。ここで、昔の私ならば、社員が自ら最新の技術・能力に関する動画を撮影して、社内のイントラネットに自由にアップできる環境を構築したらどうかと提案していただろう。だが、最近はどうもこうしたe-Learningの効果に懐疑的であるし、③で紹介した『スマホが学力を破壊する』の論理を拡張すれば、オンライン講座を見ても前頭前野が活性化しない恐れがある。

 最も効果的なのは、社員同士の勉強会であろう。①とも関連するが、定期的な勉強会を業務プロセスの中に強制的に組み込んでおくのも1つの手である。人事部は、最新の技術・能力を持つ社員の暗黙知を引き出し、それを形式知化する支援を行う。また、その形式知がどうすれば他の社員にも伝わりやすくなるか、学習コンテンツ制作のアドバイスをする。さらに、ワークショップを交える場合には、参加者同士の間で新たな学習が生まれるようなファシリテーションの方法についてもサポートする。勉強会も、アジャイルの目指す効率化を短期的には犠牲にするものの、中長期的に見れば職場の活性化につながり、それが生産性向上をもたらすと考える。



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