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2012年12月11日
麻生太郎『自由と繁栄の弧』―壮大なビジョンで共産主義を封じ込めようとしていた首相
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安倍晋三氏にも申し訳なかったが、麻生太郎氏に対しても本当に申し訳なかったと言わざるを得ない。こんなに壮大な外交ビジョンを描いておられたとは、外相の時も総理の時も知らなかった。先日紹介した『とてつもない日本』の続編にあたる本書は、麻生氏が目指す「価値の外交」の詳細部分に踏み込んだ内容となっている。
「価値の外交」とは、日米同盟を基盤として、日本とアメリカが共有する「普遍的価値」、すなわち民主主義、自由、人権、市場経済、法の支配などの原理を各国へと広げていく外交である。その完成形は、下の地図のように、日本を出発点として、東南アジア、中央アジア、中東、東欧諸国、そして北欧へと延びる長い弧となる。これを「自由と繁栄の弧」と呼ぶ。
上図のように非常にスケールの大きいビジョンであるにもかかわらず、既に具体策がいくつも打たれている。東南アジア諸国との外交関係はメディアでの情報も多いのでここでは省略するが、国民(というか私)にとってあまり馴染みがない中東と東欧諸国については、トルコとポーランドがカギを握る国であるとされている。
まず、トルコは親日国であり、中東との関係も比較的良好であるから、このメリットを活かして、中東、特にイスラエルとパレスチナにおける農業団地開発を推進する。また、ポーランドに関しては高等教育施設の支援実績があり(「ポーランド日本情報工科大学」という、日本の文字が入った大学がある)、こうした事例を他の旧共産圏諸国にも展開していく。
中央アジアは資源国であるにもかかわらず、陸路・空路が整備されていないために、経済成長が制限されている。そこで、アフガニスタン、パキスタンの両国を通ってアラビア海へと通じるルートを構想し、そのインフラ整備を支援する。なお、自由と繁栄の弧の中に北欧が入っているのは、北欧では海外支援のエキスパートを育成する教育機関が発達しており、そのノウハウを日本が吸収するためである。
麻生氏は、地図のような自由と繁栄の弧を構築する目的を本書の中で明記していないが、この弧によって2大共産国であるロシア・中国を包囲しようとしているのは自明である。もちろん、外交は囲碁の世界とは違うから、周囲を囲めば真ん中の石を確保できる(=中国とロシアを民主化できる)といった単純な話ではない。しかし、両国の周りにぐるりと自由主義・民主主義圏を作ることで、例えば中国から南アフリカの独裁政権に対して武器を輸出するルートを断つことができる。
ここ2週間で安倍・麻生両氏の本に目を通したが、2人の外交に共通するのは、日米同盟の重視と、民主主義・自由といった普遍的価値の普及である。そして、同じく普遍的価値を共有する韓国を、外交上の重要なパートナーとして位置づけている。ところが、ここ5年あまりの間に、日米同盟は普天間基地移設問題を機に不安定になり、日韓の関係はお互いに潰し合いのような様相を呈している。今後どういう外交を展開していくつもりなのか、政治家の生の声に私自身もっと敏感にならなければならないと思った。
次は、小沢一郎氏の『日本列島改造論』でも読むかな?レビューを読んでいると、「この頃の小沢さんが一番輝いていた」なんていう声も上がっているが、中身は果たして・・・?
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