プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2012年12月17日

佐々木玲仁『結局、どうして面白いのか─「水曜どうでしょう」のしくみ』―物語の二重構造


結局、どうして面白いのか ──「水曜どうでしょう」のしくみ結局、どうして面白いのか ──「水曜どうでしょう」のしくみ
佐々木玲仁

フィルムアート社 2012-09-13

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 北海道の人気ローカル番組「水曜どうでしょう」を、九州大学の臨床心理学者である佐々木玲仁准教授が分析するという、一風変わった試み。帯には藤村・嬉野両ディレクターに加え、何と評論家の内田樹氏がコメントを寄せている。内田氏も熱烈などうでしょうファンらしい。

 文章は平易で非常に読みやすいけれども、内容は何となく解ったかなぁ?という感じ。もっとも、著者自身も、この本でどうでしょうの仕組みが完全に明らかになったとは言っていないし、明らかにしようともしていない。あくまでも一つの見方であると断っている。

 音楽、映画、ドラマ、バラエティー、舞台、絵画などどんな作品でも、繰り返し観たり聴いたりできるものには、必ず何らかの「型」があると思う。例えば、世界には長年にわたり多くの人に受け継がれている英雄の物語が数多く存在するが、物語の展開パターンはだいたい決まっているとされる。ジョセフ・キャンベルの研究によると、英雄物語は、(1)旅に出て、(2)何事かを成し遂げ、(3)生還する、という3つのステップで構成されるという。

千の顔をもつ英雄〈上〉千の顔をもつ英雄〈上〉
ジョゼフ キャンベル Joseph Campbell

人文書院 2004-03

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千の顔をもつ英雄〈下〉千の顔をもつ英雄〈下〉
ジョゼフ キャンベル Joseph Campbell

人文書院 2004-03

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 そして、その型が人生や社会の構図をうまく切り取ったものであれば、鑑賞者の共感を呼び、「また観てみたい、聴いてみたい」と思わせる力を持つのだろう。先ほどの英雄物語で言えば、大抵の人は人生で一度ぐらい、何か大きなことをやり遂げたい、周囲が無謀だと言っても挑戦してみたい、という願望を持っている。その願望にうまくフィットする英雄物語は、多くのファンを集め、繰り返し読まれ、さらには後世にも語り継がれていくに違いない。

 英雄物語に比べれば、水曜どうでしょうは本当にバカバカしい番組ではあるものの、ちゃんと一定の型を備えている。私なりにどうでしょうの型を整理すると、(1)ミスターか藤村Dが「ここに行きたい」と言い出す、(2)乗り気でない大泉さんを強引に旅に連れ出す、(3)企画段階では楽しいはずだと思っていた旅が、意外と過酷であることに気づく、(4)道中の偶然の出来事に振り回されて、4人の間で罵り合いが始まる、(5)最終的には、旅の本来の目的からかけ離れた、バカな方向へと向かって行く、という感じだ。どうでしょうの型は、「人生は偶然に左右されるし、偶然が計画よりも好ましい状態を生むこともある」という人生の法則に対応している。予定調和があまりにも見事に崩れていくところが、視聴者を惹きつける大きな要因の1つと考えられる。

 ただ、英雄物語の場合は、物語の中に3段階からなる型が全面的に現れているのに対し、どうでしょうでは、典型的なバラエティーの「企画」の"裏に"(あるいは企画と混合して)、前述の型が存在するという特殊性を著者は指摘している。著者は裏で進行している物語を「メタ物語」と呼び、本来の企画=物語と、このメタ物語の二重構造こそがどうでしょうの仕組みであり、その複雑さゆえに面白さを説明しにくいのだと分析している。

 具体例を挙げると、番組史上、最高視聴率を叩き出した「ヨーロッパ・リベンジ」は、表向きは北欧4カ国をレンタカーで回り、パリをスタート地点としてフィンランドのヘルシンキにゴールする、という企画である。しかしその企画の裏では、どうでしょうの型に沿った別の物語が進行しているのである。すなわち、ミスターと藤村Dがあらかじめ用意していたメルヘン小ネタを凌駕する「ムンクさん」が登場して、即興でドラマ撮影が始まる、フィヨルドの美しい風景に退屈を覚えて、せっかくの海外旅行なのに全員が精神崩壊する、といった具合だ。

 より複雑な企画としては、「桜前線捕獲大作戦」が挙げられるであろう。これは、桜前線の最前線を見に行く、つまり北海道から順番に南下して、桜が咲き始める場所を特定するという、今のバラエティで言えば「鉄腕DASH」あたりがやりそうな企画である。しかし、道中でミスターが嫌いな甘いものを見つけては、ミスターに”生き地獄”を味わわせる方がメインになってしまう。一方、”加害者側”の大泉さんも、最初は前沢牛のサーロインステーキを食べて一人だけいい思いをしたのに、最後は平泉のわんこそば攻撃を受けて酷い目に遭う。こうなると、桜前線の最前線を追いかけるという話は完全にどこか脇へ追いやられてしまう。

 さらに、この「桜前線捕獲大作戦」からは、水曜どうでしょうのファンの人たちを対象に、当時のロケ地を回る2泊3日の東北バスツアーが企画されている(「東北2泊3日生き地獄ツアー」)。これは表の物語であって、裏ではどうでしょう班の4人がツアー客にドッキリをしかけるという物語が同時進行している。しかし、4人が企んだドッキリの内容とは全く無関係に、藤村Dが夜な夜な大泉さんの部屋に乱入し、「腹を割って話そう」と息巻くシーンばかりがOAされ、ミスターが体を張ってツアー客を驚かせようとしたシーンは全部カットされてしまう。

 本来の「桜前線の最前線を見に行く」という企画から第1の裏の物語(ミスター生き地獄&大泉さんわんこそば事件)が生まれ、そこから第2の裏の物語(ツアー客へのどっきり)が派生し、さらに止めを刺すように第3の裏の物語(「腹を割って話そう」事件)が展開されるという、非常に複雑な構造になっている。加えて、「腹を割って話そう」事件で大泉さんが最後に言った「僕は一生どうでしょうします」という言葉のおかげで、本当に水曜どうでしょうは一生続く番組になってしまった。こういう形で番組の命運が決まったことも、第4の裏の物語と言えるかもしれない。

《追記》
 ところで、DVD第18弾『ゴールデンスペシャル サイコロ6/onちゃんカレンダー/30時間テレビの裏側全部見せます!』の副音声で、ミスターがいいことを言っていた。自分は今までバイクに乗って猛スピードで走ってきた。だが、スピードを出せば出すほど、視界が狭くなって(※これは車やバイクを運転する人なら解るはず)、大事なものを見落としてしまう。だから、バイクから降りることにした。そうしたら、今まで見えていなかったものが見えるようになってきた、と。

 企業の経営でも同じなのだろう。あまりに猛スピードで成長しすぎると、足元の重要なものを見失う可能性がある。万が一、脇道から何かが飛び出してきて事故でも起こせば、一気に組織がダメになってしまう。しかも、速度が上がれば上がるほど、組織へのダメージは大きくなる。あまりに事業が急成長している時など、一点突破で突っ走っていると感じた時には、経営者は敢えてその軌道から一旦逸れて、事態を客観的かつ冷静に見つめてみることが重要である。

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