プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 竹田恒泰『日本人はなぜ日本のことを知らないのか』―よくも悪くも「何となく、何とかしてしまう」のが日本人
Prev:
prev 【《新シリーズ》ベンチャー失敗の教訓(第0回)】はじめに
2013年01月15日

『強い営業(DHBR2012年12月号』―「モチベーションのダイバーシティ」に基づく報酬体系の必要性


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 12月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 12月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-11-09

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 社員を正しく動機づけるための報酬制度の設計は、人事部門にとって永遠の課題であるに違いない。特に、金銭的報酬にはどの企業も神経質になるのではなかろうか?私も前のブログで素案をいくつか示してみたものの、体系的な制度からはほど遠い。企業の業績にそれぞれの社員がどの程度貢献しているのかを短期・長期両方の視点から評価し、また利益には直接つながらないが企業の永続・発展にとって重要な活動も考慮しなければならない。数学的・統計学的な知見を総動員して、多数のパラメータからなる複雑なモデルを構築する必要があるだろう。

 功ある者には禄を、徳ある者には地位を-『人事と出世の方程式』
 「顧客生涯価値」と「社員生涯価値」のまとめ(1)-『バリュー・プロフィット・チェーン』
 「顧客生涯価値」と「社員生涯価値」のまとめ(2)-『バリュー・プロフィット・チェーン』
 「人材の柔軟な配置変更」の実現に向けてクリアすべき課題(1)―『イノベーションの新時代』
 マネジャー(管理職)の評価方法に関する素案
 「イノベーションに失敗した人」の評価方法に関する素案

 だが、『DIAMONDハーバードビジネスレビュー』2012年12月号には、業績と連動した公平な金銭的報酬の制度をあれこれ思案している私にとって、見過ごすことができない論文があった。『ハイ・コンセプト』などの著者であるダニエル・ピンクの「創造的で複雑な仕事に歩合制は馴染まない セールス・モチベーション3.0」という論文(実際にはたった2ページの記事)である。
 とりわけ、「○○をしたら報酬を与える」といった種類の条件付き報酬は、社会科学者が「機械的」と呼ぶルーチン作業によく効く。封入を素早く行う、組立ラインで同じネジを同じように回す、といった作業を考えてほしい。報酬、特に現金報酬を約束されると、俄然意欲が湧いてきて、仕事をやり遂げることだけに意識を集中するのが、人間の性なのである。

 ところが、同じ条件付き報酬でも、創造性が求められる複雑で概念的な仕事(心理学者の言う「発見的」な仕事)のモチベーションを高める効果は格段に低いと判明している。新しい製品を考案したり、顧客とともに未知の課題の解決を目指したりする状況を考えてほしい。このようなプロジェクトでは幅広い視野が求められるが、研究によれば、条件付き報酬は視野を狭めるおそれがある。
 ピンクはこう述べた上で、昨今の営業職の仕事が創造性を増していることから、歩合制はかえってパフォーマンスを低下させる危険性があると警告している。記事の中では、これまでの歩合制を改めて報酬の90%を基本給で支払い、業績連動分を10%に抑えた結果、売上高が増加した企業の事例が紹介されている。人事部は、金銭的報酬の決定モデルをどうすればよいかということで頭を悩ます必要はもうないのかもしれない。

 引用文中でピンクが触れている「条件付き報酬」の研究が具体的にどのようなものなのかは、残念ながらピンク自身も言及していないのだが、アラステア・ドライバーグ『ビジネスについてあなたが知っていることはすべて間違っている』の中に類似の研究が載っていた。

ビジネスについてあなたが知っていることはすべて間違っているビジネスについてあなたが知っていることはすべて間違っている
アラステア・ドライバーグ 田口未和

阪急コミュニケーションズ 2012-09-27

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 研究内容を要約するとこうである。実験では、キャンドル、画鋲の入った箱、紙マッチを使った単純な論理的クイズが被験者に与えられた。被験者は、キャンドルを壁に固定し、ろうがテーブルにこぼれないようにする方法を探すように指示された。多くの被験者がキャンドルを壁に直接画鋲で留めようとしたが、うまくいかなかった。しかし、最後にはほとんどの被験者が解決策を見つけた。画鋲の入った箱を壁に画鋲で留めて、その上にキャンドルを乗せたのである。

 この実験では、被験者は2つのグループに分けられていた。片方のグループには、この問題を解くまでの平均時間を出したいと伝えられていた。もう片方のグループには、金銭的報酬が約束されていた。早く問題を解くことができた上位25%には5ドル支払うというものだ。

 2つのグループの結果はどうであったか?ここまで記事を読んだ皆様なら想像がつく通り、後者のグループの方が答えを見つけるのに平均して3分半長くかかった。パズルを解くには複雑な認知的作業が必要であり、「機能的固着」と呼ばれる固定観念(一般的な機能にとらわれ、それ以外の機能を柔軟に考えられなくなること)を克服しなければならない。この問題の場合は、箱を画鋲の入れ物ではなく、キャンドルスタンドとして見る必要がある。金銭的報酬は、被験者の視野を狭めてしまう。金銭的報酬を求めて問題を早く解こうと集中するほど、箱に異なる機能を与えるというアイデアがひらめかないのである。

 では、創造的な社員を正しく動機づけるためにはどうすればよいのだろうか?それはやはり、金銭的報酬以外の報酬にも視野をぐっと広げ、さらに社員が動機づけられる要因は社員によって様々であること認めることだろう。動機づけ理論の先駆的存在であるフレデリック・ハーツバーグは、仕事の満足度に影響を与える要因を10個挙げた。すなわち、「達成」、「承認」、「仕事そのもの」、「責任」、「昇進」、「会社の政策・経営」、「監督技術」、「給与」、「上役との人間関係」、「作業条件」である。そして、前半の5つを「動機づけ要因(モチベーティブ・ファクター)」、後半の5つを「衛生要因(ハイジーン・ファクター)」と呼んだ。ハーツバーグの重要な発見は、社員のモチベーションアップにつながるのは「動機づけ要因」の方であり、「衛生要因」に関しては、社員が仮にそれに満足していてもモチベーション向上につながらない、ということであった。

 しかしこの研究は、「ピッツバーグで技師や会計士という創造的な職業に就く200人」を対象に行われたものである点を忘れてはいけない。10の要因のうち、皆様の企業の社員を動機づける要因はピッツバーグの技師とは異なるかもしれないし、10の要因のレベル差も企業や職種によってまちまちだろう。あるいは、10の要因以外にも、重要な動機づけ要因が存在する可能性がある。例えば、ハーツバーグの10要因の中には、「同僚との関係」、「自社製品・サービスへの愛着度」、「学習機会」などが含まれていない。自社の社員は一体何によって動機づけられるのか?それは業務・部門・職種ごとにどう異なるか?を人事部は綿密に調査する必要がある。

 社員のモチベーション向上に関するソリューションを提供しているJTBモチベーションズは、「モチベーションのダイバーシティ」というコンセプトを提唱している。社員の価値観や業務の多様性にきめ細かく寄り添ったインセンティブを持つ企業こそが、社員のモチベーションを効果的に引き出し、競合他社よりも高いパフォーマンスを上げるに違いない。ただ1つ、人事部にとっては残念なことに、金銭的報酬の複雑なモデルを考える必要性からは解放されたものの、その代わりに非金銭的な報酬を含むバラエティに富んだインセンティブの仕組みを構想するという、より困難な仕事が与えられることになってしまったわけだが・・・。

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like