プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年01月27日

【ベンチャー失敗の教訓(第2回)】営業活動をしない社長


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 私は、中小企業やベンチャー企業の社長の役割を次のようにとらえている。

 (1)経営ビジョンを策定し、社内に浸透させる。
 (2)営業、または製品開発・生産を主導する。
 (3)社長が営業担当ならば製品開発・生産に長けた右腕を、製品開発・生産担当ならば営業に長けた右腕を連れてくる。
 (4)社長や右腕がいなくても会社が回るように、営業や製品開発・生産の仕組みを構築する。

 (1)の経営ビジョンの重要性については、「【ベンチャー失敗の教訓(第1回)】経営ビジョンのない思い入れなき経営」で述べた通りである。(2)(3)に関しては、中小企業やベンチャー企業は慢性的に人手不足であり、人を採用する余裕もないから、社長自らが現場に出ていかなければならない。その主たる仕事が、売上に直結する営業と製品開発・生産の2つである。しかし、いくら社長が優秀でも、この2つに同時に長けた人はそういない。だから、社長はどちらかの活動を主導し、もう一方の活動に強い人材を自らの右腕として引っ張ってくる必要がある。

 現在の大企業が創業間もない頃、技術のトップと営業のトップを置いて、ワンマンならぬツーマン体制を敷いていたケースが見られる。例えばホンダでは、本田宗一郎が製品開発に専念し、藤沢武夫が営業と経理を担当していた。本田は苦手な販売や資金繰りといった経営全般を全て藤沢に任せ、社長を退任するまでついに社長印を見たことは一度もなかったという。ソニーも、井深大が技術担当専務、盛田昭夫が営業担当常務として事業をスタートさせた。森永製菓では、菓子作りに強かった森永太一郎が、松崎半三郎を営業として招き入れて以降、アメリカ進出などを成功させた(なお、松崎半三郎の娘・昭恵氏は、安部晋三総理の夫人である)。

 しかし、会社の規模を大きくするには、いつまでも社長とその右腕に頼り切った経営ではダメだ。あるいは、社長や右腕への依存度が高いと、社長や右腕に万一のことが起きた場合に会社の業務がストップしてしまうため、リスクマネジメントの観点からしてもよくない。そこで社長とその右腕は、(4)のように自らが担当する領域の「仕組み化」を行う必要がある。具体的には、自社の営業や製品開発・生産のプロセスを他の人でもできるよう標準化すること、さらにその標準プロセスにヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源が適切に投入されるようにすること、この2つである。ヒトに関しては人事制度、モノに関しては営業や製品開発・生産の能率を上げるツールや道具の整備、カネに関しては資金調達、情報に関しては現場のIT化などが挙げられる。

 私の前職はどうだったかと言うと、X社とZ社の社長は、営業と製品開発・生産(コンサルティングの場合は、コンサルタントとしてプロジェクトを遂行することが製品開発・生産に該当する)のどちらに軸足を置こうとしているのか最後まで解らなかったし、右腕的な存在を探そうともしなかった。とりわけ私がいたX社はひどかった。A社長は、自らが積極的に営業をするタイプではなかった。顧客企業向けの提案書を作ろうとしても、X社が提供している各種研修サービスのコンセプトを、コンサルタントらしく抽象的なコンセプト図で表現することばかりに腐心していた。

 提案書というからには、顧客企業が抱えている課題を明確にし、その課題解決に自社の製品がどのように貢献できるのかを明らかにしなければならない。だが、A社長が作っていたのは提案書ではなく、製品紹介資料の導入部分にすぎなかった。ある時、そんなA社長の様子に業を煮やした副社長が、「Aさん、丸とか三角とかばかり描いている場合じゃないですよ!」と激高したこともあったが、事態は改善されなかった。

 A社長は自分が営業に向いていないことを自覚してか、知り合いの営業代行サービスを利用したこともあった。その知り合いは各方面にコネクションを持っていたので、知り合いから見込み顧客を紹介してもらい、A社長がその後の営業をフォローすることになった。確かに、この知り合いのおかげで、一時的に見込み顧客は増えた。しかし、A社長は表敬訪問をすればそれで営業をしたとでも思っているかのようであり、受注につながった案件は皆無と言っても過言ではなかった。毎週の営業ミーティングで、営業部長から「A社長はお客さんのところで何を話しているのですか?」と問い詰められると、A社長は答えに窮してしまい、逆に「じゃあ何を話せばいいと思う?」と営業部長に質問するありさまだった。

 A社長に比べると、Z社のC社長はまだ営業に強い方であったけれども、そもそも本気で自社のサービスを売り込もうとしていたかどうかはかなり疑問である。最下部の(※注)には書かなかったが、実はZ社には、本業のコンサルティング事業とは別に、ファンド事業があった。C社長が自分の知り合いから出資金を募って運用するという、C社長の全くの個人的な仕事であり、コンサルティング事業とはシナジーのない事業であった。

 C社長は毎朝出勤すると、コンサルティングスタッフがいるブースを無視して、ファンド担当者がいる部屋に挨拶をして入っていき、運用状況を確認するのを日課にしていた。この行動を見たコンサルティングスタッフはどう思うだろうか?私ならば、「C社長にとっては、コンサルティング事業よりもファンド事業の方が大事なのだろう」と考える。もしもC社長が営業を重視していたならば、出勤して真っ先にすることは、今日の訪問予定を確認したり、部下の営業活動の進捗や問題について話し合ったりすることであるはずだ。社長の言動には、社長の優先順位が表れる。そして、社員は社長の一挙一動を、社長が思っている以上に注視しているものである。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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