プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(上)』―実はフラット化していなかった日本企業
Prev:
prev 【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(上)』―戦略立案の客観的アプローチと主観的アプローチ(1)
2013年01月30日

【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(上)』―戦略立案の客観的アプローチと主観的アプローチ(2)


ドラッカー名著集2 現代の経営[上]ドラッカー名著集2 現代の経営[上]
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 (前回の続き)

 客観的アプローチのメリットは、説得力ある分析を行えば、手堅く事業機会をモノにできるという点である。すでに顕在化しつつある将来の市場がある場合に、客観的アプローチは威力を発揮する。しかし、客観的アプローチのデメリットは、どの企業も似たような結論=戦略に帰着しやすく、魅力的な市場があれば企業がこぞって参入し、またたく間にレッドオーシャンになってしまうということだ。日本の人口構造の変化を見据えて、どの企業も成長が予想される高齢者市場に目をつけているのはその最たる例と言えるだろう。

 誰も予想しなかったような市場=ブルーオーシャンを切り開くには、主観的アプローチの方が優れている。客観的アプローチは、データが存在しない世界のことを予想できない。しかし、主観的アプローチは、戦略立案者の思い込みによって”少し歪んだ世界観”、”少し飛躍した論理”がデータの不足を補い、新しい世界を自由に描き出すことができる(スティーブ・ジョブズの「現実歪曲空間[Reality Distortion Field]」はその好例)。もちろん、全ての新しい世界が市場に受け入れられるわけではない。むしろ、死産に終わる戦略の方が多いだろう。だが、世界をあっと驚かせ、競合他社を一気に出し抜き、業界構造をがらりと変えてしまう戦略は、主観的アプローチから生まれることの方が多いように思えるのである。

 主観的アプローチには、客観的アプローチのように有名なフレームワークや精緻な理論があるわけではない。むしろ、主観的アプローチを理論化するという試み自体が、主観の客観化という矛盾をはらんでいるから、理論化は不可能かもしれない。私のアイデアにすぎないが、主観的アプローチで戦略を立案するための問いをドラッカー風に1つ考えてみた。それは、「もし今の事業が法律で禁止されたら、われわれは明日から何をするか?」という問いである。

 人間は、事故や病気などによって、それまで普通にできていたことができなくなると、内なる声に耳を傾けて、本当の自分とは何なのかを深く考察するようになる。そして、今までの自分を尊重しつつも、それとは異なる自分を発見し、新しい人生を歩み出すものである(旧ブログの記事「何かを諦めざるを得ない時こそ、大切な価値観に気づく」を参照)。この発想方法を、事業戦略の構想にも取り入れてみるとよいと思う。

 例えば、JTはタバコが法律で完全に禁止されたらどうするだろうか?現在は、食品事業でタバコの売上減を補う形になっているが(売上に占める食品事業の割合は約2割)、仮にタバコが禁止された場合、「食品は生活必需品であり、絶対に消えない市場だから」という単純な理由で食品事業を拡大するのであれば、JTは環境変化に受動的に反応するだけの組織体となってしまい、JTらしさは完全に失われてしまうに違いない。

 JTが社会に対して提供できること、あるいはJTが社会に対して提供したいこととは一体何だろうか?タバコが人々のストレス解消に貢献してきたという歴史を尊重して、「健康に害を与えずにストレスを解消する新しいソリューション(それがどういう製品やサービスになるかは、私には今すぐに想像できない)」、あるいはもっと本質的なところまで踏み込んで、「そもそも人々がストレスを感じない社会づくり(それがどんな社会なのかは、私には今すぐに想像できない)」に思いをはせることが、主観的な戦略構築の第一歩になるのかもしれない。

 他にも例えば、コーヒー豆の原産地における児童労働が問題視されて、コーヒーが全面的に禁止されたら、スターバックスはどうするだろうか?個人情報の取扱いが厳しくなって、企業による購買履歴情報の取得が禁止されたら、Tポイント・ジャパンはどうするだろうか?受験戦争を煽り立てているという理由で、文科省が塾や家庭教師を禁止したら、河合塾やトライはどうするだろうか?こういった問いは、客観的アプローチでは本当に法規制が迫っている時にしか発せられないものであり、通常はなかなか出てこないものである。

 この問いは極端だと思われるかもしれない。だが、アップルがiPhoneを生み出したアプローチは、これに近いものがあったと思う。ジョブズは、iPodが大ヒットしても、喜びをじっくり噛みしめるどころか、「iPodを脅かすのは何だろうか?」と気を揉み始めた。すると、iPodの機能は携帯電話に吸収されて、人々は電話と音楽プレイヤーを同時に持ち歩く可能性が考えられた。そこで、iPodの売上を共食いするのを覚悟で、iPhoneの開発に乗り出したのである(※)。

 >>シリーズ【ドラッカー書評(再)】記事一覧へ


 (※)ウォルター・アイザックソン「伝記作者が語る スティーブ・ジョブズ流リーダーシップの真髄」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2012年11月号)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 11月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 11月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-10-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools


  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like