プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年02月17日

【ベンチャー失敗の教訓(第5回)】とにかく形から入ろうとする社長


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 コンサルタントというのは見栄を張りたい人種なのか、ややもすると形から入ろうとする傾向があるように思える。私がX社に入社してまず驚いたのは、A社長、B社長、C社長それぞれに秘書がついていることだった。私が入社した頃は、3社合わせても20人ちょっとしか社員がいなかった。そのうち3人が秘書というのだから、人数構成のいびつさがお解りいただけるであろう。

 しかも、秘書が必要になるほど各社長が多種多様な業務を抱えていていたわけでもなさそうだった。全社員のスケジュールはグループウェアで共有されており、一般社員でも社長のスケジュールを見ることができたのだが、どの社長もスケジュールがぎっしり詰まっている状態ではなかった。忙しくあちこちを訪問しているわけでもなく、社内に1人でいる時間も長かった。私も一応中小企業診断士の端くれなので、中小企業の話を聞く機会はそれなりにあるけれども、この程度の社員数で秘書がいる中小企業など1社も聞いたことがない。自分のスケジュール管理や細かい雑務も、社長自身がやっているケースが大半である。

 秘書も多ければ顧問も多かった。3社の社員数は一番多い時で50人を超えたが、顧問の数もその時が最大だった。何と6人もいたのである。ソニーの人事責任者やデザイン責任者、ミスミで事業再生を手がけていた人、DDIの創業に携わった人、ゴールドマン・サックスの投資部門にいた人など、そうそうたるメンバーであった。たまに3社合同の全社会議を行うと、大会議室の最前列が全員顧問で埋まるという、不思議な光景が見られた。卑近な比較かもしれないが、グループ全体で5万人の社員がいる東京電力の顧問数が2011年6月末時点で13人である。東電の100分の1の規模の企業グループが、東電の半分の顧問を抱えていたのである。

 6人の顧問は、主にC社長のコネによるものであった。しかし、豪華な顧問を揃えたところで、「【ベンチャー失敗の教訓(第4回)】何にでも手を出して、結局何もモノにできない社長」で述べたように、会社として何をやりたいのかが常にブレていたから、顧問にどんな助言や支援を求めればよいのかが一向に定まらない。顧問の人たちも非常にやりにくかったと思う。ある顧問は、オフィスに顔を出したもののやることがないためか、デイトレードにいそしんでいた。結局、顧問を有効活用することができず、コストばかりがかさむという理由で、次第に顧問の数は減らされていった。そのお金を、若手社員の採用や育成に使った方がよっぽど有益だったと思う。

 形から入る性癖が一番強かったのはC社長であり、それが如実に表れていたのがオフィスであった。コンサルティング会社は立派なオフィスを構えていなければならないとでも思い込んでいたのか、3社が悠々と入る100坪超のオフィスを都内の一等地に借りていた。私は転職活動をしている時にそのオフィスを見て、「立派なオフィスに入っているのだから、さぞ儲かっていることだろう」と思っていたのだが、甘かった。実際には、高すぎる家賃が利益を大きく圧迫していた。オフィスの坪単価は、何と六本木ヒルズの最上階に入っているゴールドマン・サックスのオフィスの坪単価(=約4万円とも言われる)よりも高かった。社員1人あたりの家賃は、1月あたり10万円を超えていた。ちなみに、中小企業の社員1人あたりの月額家賃平均は約2.3万円である(※)。

 実のところ、コンサルティング事業は、コンサルタントが自社のオフィスではなくクライアントのオフィスで仕事をすることが多いため、わざわざ広くて立派なオフィスを持つ必要はない。大手コンサルティングファームは確かにきれいなオフィスを構えているものの、社員全員が入れるほどのスペースはない。例えばアクセンチュアやアビームコンサルティングは、全社員数の10分の1が入ったらいっぱいになってしまうぐらいのスペースしかないと聞いている。

 X社のような教育研修事業も、大きなオフィスは不要である。A社長は、自社セミナーをみすぼらしいオフィスで開催すると参加者の顰蹙を買うという理由で、C社長が借りた広いオフィスを支持していたが、それならば外部のセミナールームを借りた方が安上がりだ。自社でセミナールームを持っても、セミナーがない時はただの空き部屋であり、その分家賃のムダが生じる。

 Y社のような人材紹介事業に限って言えば、有象無象の転職斡旋業者がはびこるこの業界で、オフィスを訪れる求職者に信頼感を持ってもらうために、見栄えのよいオフィスを用意しなければならないかもしれない。だが、その点を考慮しても都内の一等地に広々とオフィスを構える必要はない。Y社の社員数は10人にも満たなかったから、最低限の面談スペースさえあれば、日々のオペレーションを十分にやりくりできたはずだ。

 最後にもう1つだけC社長のエピソードを。私が入社した年度は、3社とも赤字という散々な決算内容だった。年度末の全社会議の冒頭で、C社長は「今期はこのような結果になって申し訳ない。株主の皆様に深くお詫びします」と陳謝した。確かに、マネジャークラスの社員には会社の株式を持っている人もいたため、赤字によって株主価値が毀損されたことは事実である。だが、全社会議の場で、株式を持っていない社員が大半を占める中で言うべき発言だったのだろうか?赤字の原因を真摯に分析し、来期以降社員に何をしてほしいのかを訴えるべきではなかったか?私はこの発言を聞いた時、「C社長は、単に大企業の社長のように振る舞いたいだけなのだ」と感じた。言うまでもないが、形よりも中身を大事にした経営をしなければならない。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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(※)「会社ごと1人当たり月額、売上高及び営業費用の状況(数値データ編)」を参照。

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