プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年03月03日

【ベンチャー失敗の教訓(第7回)】本を書いて満足してしまう社長


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 一般論として、ベンチャー企業が認知度を高めてブランド力を強化する方法の1つに、書籍を出版するというものがある。確かに、本を出せば、その会社には本が書けるほどのノウハウが蓄積されていることの証になる。また、本が売れて会社名が知れ渡ると、本が営業活動を代行してくれる。X社のような教育研修事業や、Z社のコンサルティング事業のように、知的資産が競争力となる業界では、社長が本を出版している企業が特に多い。

 しかし一方で、本を書くには多大なエネルギーを費やさなければならないことも事実である。仮に10万字の本を書くとしよう。1時間で1,000字書くことができるとしても、原稿を書くだけで100時間かかる。これに、本の構想を練ったり、原稿を書くための調査をしたり、出版社と原稿をやりとりしたりする時間などを加えれば、おそらく倍ぐらいの時間になるだろう。つまり、1冊の本を仕上げるには、最低でも200時間かかる計算となる。

 200時間と言えば、ほぼ1か月分の労働時間に相当する。社長が1か月間缶詰になって本を出版するのと、社長が1か月間営業で飛び回るのと、どちらが売上に貢献するかをよく考える必要がある。X社のA社長は、「【ベンチャー失敗の教訓(第2回)】営業活動をしない社長」や「【ベンチャー失敗の教訓(第3回)】製品開発・生産をしない社長」で書いたように、営業も製品開発にも消極的だった。しかし、それとは対照的に、なぜか執筆活動には熱心であった。私が入社する直前に1冊、私の5年半の在籍中に2冊の本を発表している。今思えば、A社長は自分が苦手な営業活動から逃れるようにして、執筆活動に身を投じていたのかもしれない。

 私はマーケティング業務も兼務していたので、それぞれの案件がどのリード(自社セミナー、HPからの問合せ、顧客・グループ会社・外部企業からの紹介、口コミ、そして書籍など)から生じたのかを把握することができたのだが、書籍経由で案件につながったのは、私が知る限り5年半でわずか2件しかない。営業活動に置き換えれば、3か月で2件しか受注することができなかったことになる。これでは営業担当者として失格であろう。

 個人的に、出版はあまり重要なマーケティング手法だとは思わない。ビジネス書は、1万冊売れれば御の字と言われる。だが、1万人にアプローチするのが目的ならば、もっと効率的な方法がある。それは自社のホームページを充実させることである。X社のHPは開設以来、社長や講師陣が人材育成に関するコラムを掲載していた。このコラムを最大限利用するのである。

 本は、社長がどう頑張っても1年に1冊書けるかどうかである。つまり、1年間で1万人ぐらいにしかアプローチできない。だが、HPはコンテンツを充実させ、SEO(検索エンジン最適化)を行えば、1か月で何万というUU(ユニークユーザ)を稼ぎ出すことが可能だ。リピート率を考慮しても、毎月1万人の新規UUを獲得するのは決して夢ではない。参考までに、私の旧ブログは既に更新を止めているが、現在でも1日500~800ぐらいのUU数がある。個人のブログでここまでできるのだから、企業のHPならばもっと大がかりなことができるはずだ。

 このように考えていた私は、マーケティング担当の立場から、本を書くよりもHPに定期的にコラムをアップするよう、社長に強く進言していた。私がマーケティング担当になった頃のHPのコラムは、ちょっと油断するとすぐに更新が滞ってしまうような状態であった。そこで、社長や講師陣と話し合って、数か月先までのコラムスケジュールを組み、最低でも1週間に1本はコラムがアップされるようにした(SEO的な観点から私の本音を言えば、更新頻度が高いほどHPの価値が上がり、検索エンジンでヒットしやすくなるので、本当は1週間に2本以上アップしたかった)。分担制にしたと言っても、社長はおよそ1か月に1本のペースでコラムを書けば十分であり、本の執筆に比べれば随分と負担が軽くなるよう配慮したつもりである。

 コラムが順調に更新されていた時期は、最高で約7,000の月間ユニークユーザ(UU)があった(これでも企業HPとしてはまだまだ不十分だが)。しかし次第に、社長を含め講師陣は、コラムの〆切を守らなかったり、コラムを書き忘れたりすることが多くなった。私もケツを叩くものの、X社の中で一番年下であり、マネジャー権限もなかった私にはどうしても限界があった(「はじめに」でも書いたように、それは私の甘えにすぎない、という批判は甘んじて受ける)。

 やがてHPの更新頻度が下がると、1年後にはUU数が約7割に減少してしまった。また、X社ではHPの更新情報などを伝えるHP連動型のメールマガジンを週1回配信していたのだが、HPが更新されないものだから、メルマガも8か月間(!)滞ってしまったことがある。休止前はメルマガからHPへの流入率が約15%であったのに対し、再開後には約4%にまで激減してしまった。しかもその間、社長はコラムのことなどそっちのけで、自分が好きな(?)執筆活動をしていたのだから、私は何ともやるせない気持ちになった。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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