プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年03月31日

【ベンチャー失敗の教訓(第11回)】シナジーを発揮しない・できない3社


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 前職の会社が3社に分かれて3つの事業を行っていたのは、3社がシナジーを発揮し、クライアントとの太いパイプを構築するためであった。具体的には、まずはZ社が戦略コンサルティングという最上流工程を担当する。そこから見えてきた組織・業務・人材面の課題を、X社の組織開発・人事コンサルティングで解決する。コンサルティングの結果、教育研修のソリューションが必要となればX社の研修サービスを、要となる人材が不足していることが判明すればY社の人材紹介サービスを提供する、という流れであった。ITベンダーはしばしば社内にコンサルティング部隊を持ち、コンサルティングからシステム構築までを一貫して行うビジネスモデルを採用しているが、3社が目指したビジネスモデルはその人事版と言えるだろう。

 だが、実際にこのようなシナジーが発揮された案件は、私の5年半の在籍中1件もない。人事制度構築コンサルティングから研修サービスの提供に限定しても、おそらく私ぐらいしかやったことがない(営業人材の評価・教育制度構築のコンサルティングを行い、教育制度に従って営業研修を3年ほど継続受注した)。その原因は、3社とも事業が未成熟で、シナジーを発揮するどころではなかったことにあると考える。Z社のコンサルティングとX社の研修サービスは、以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第4回)】何にでも手を出して、結局何もモノにできない社長」で述べたようにかなり迷走しており、大部分のサービスが中途半端に終わっていた。

 また、X社にはそもそもコンサルティング部隊が決定的に不足していた。X社とZ社は、お互いのサービスの未熟さ、そして収益性の悪さをめぐって頻繁に対立していた。だが、論争になると口が立つのはたいていコンサルタントの方であるから、Z社のコンサルタントがX社の講師陣をやり込めてしまうことが多かった。こうして両社の社員が反目し合ううちに、X社の社員の中にコンサルタントを毛嫌いする傾向が生まれ、X社はコンサルタントの新規採用を止めてしまった。

 Y社の人材紹介事業は、自社をプラットフォームとして、求職者と求人企業という2種類の顧客ネットワークを構築する事業である。この手のビジネスは、ネットワークの拡大に伴って飛躍的にビジネスが拡大する。つまり、求職者が増えれば、「あの会社に登録している人が多いから」という理由で新たに求職者が増えるとともに、求職者のプールに魅力を感じる求人企業も増加する。同様にして、求人企業が増えれば、「あの会社を使っている企業が多いから」という理由で新たに求人企業が増えるとともに、求人企業の多さに魅力を感じる求職者も増加する。

 しかし、裏を返せば、求人企業や求職者が少ない状態では、ネットワークが全く魅力を持たず、ビジネスとして成立しないという難しさがある。名もないベンチャー企業の場合、まずは求人企業と求職者の双方に対して、自社が信頼できる企業であることを証明する必要がある。普通の企業が普通に顧客を開拓するのでも大変なのに、Y社は2種類の顧客を同時に開拓しなければならないという”ハンデ”を背負っていた。そのハンデを克服する決定的な施策も仕組みなく、何年経ってもY社の事業はほとんど物にならなかった。

 さらに、X社とY社の間でシナジーが発揮できないビジネスモデル上の致命的な欠陥があった。それは、X社のキャリア開発研修に原因がある。キャリア開発研修の導入を検討している企業の人事担当者は、「この研修を受けると、キャリア意識が高まった自社の社員が転職してしまうのではないか?」と心配することが多い。もちろん、X社は「御社の中でどうやってキャリアをアップさせるかを考えてもらう研修だ」と答えるわけだが、X社の関連会社にY社があることで、「キャリア意識が高まった社員をY社の転職サービスで転職させようとしているのではないか?」という疑いをかけられることも非常に多かった。だから、X社の提案書のグループ企業紹介ページやX社のHPには、関連会社としてY社の名前を載せない、という事態になってしまった。

 シナジーは1+1以上の成果を目指すものだと言われる。だが、個人的には、シナジーは足し算ではなく掛け算で考えるべきだと思う。したがって、未熟な事業、つまり1.0未満の事業が1つでもあれば、かえって足を引っ張られる結果になる。全てが未熟な事業ならば、どんなに集まっても1.0すら超えられない。3社はまさにそういう事態に陥っていたように思える。

 戦国の武将・武田信玄の家には、「三四十二、三四七つ」という秘伝がある。これは、「3と4は掛け合わせれば12になるが、足せば7にしかならない」という意味である。信玄は、シナジーを足し算ではなく掛け算で考えていたわけだ。信玄の下には、馬場美濃守、内藤昌豊、山県昌景といった歴戦の勇将に加え、軍師として名高い山本勘助と、傑出した才能を持つ人材が多く集まっていた。信玄は合議制によって、こうした1.0を超える優れた人材からアイデアを募って掛け算のシナジーを実現し、当時最強と呼ばれた武田軍を指揮していた(惜しむらくは、信玄が徳川家康を討つ途中、病死してしまったことだ)。信玄の秘伝に学ぶところは大きいと思う。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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