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2013年03月14日
『経営の未来(DHBR2013年3月号)』―自社の経営が優良かどうかを判定するサーベイ
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 03月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2013-02-09 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2013年3月号で興味深かったのが、ニコラス・ブルームらの「経営の基本はいまだ通用するか」という論文。以下に示す経営の基本的な原則を実践している企業は本当に高い成果を上げているかをグローバル規模で調査したものだ。
(1)目標:長期的目標を定め、短期的成果について厳しく実現可能なベンチマークを設けているか。論文の著者によると、調査における経営スコアが1点増えると、生産性が23%向上し、株式時価総額が14%増加し、売上高の年間成長率が1.4ポイント増加するという。
(2)インセンティブ:成績優秀者に昇進とボーナスで報い、成績不振者の再教育や異動を行っているか。
(3)モニタリング(監視):改善の機会を見つけるため、成果に関するデータを徹底的に収集、分析しているか。
実際のサーベイは、World Management Surveyで受けることができる。製造業、小売業、病院、学校の4業種のうち、日本企業のベンチマーキングが可能な製造業の質問項目を以下に挙げる(私の超訳なので、間違っている箇所があったらご指摘ください)。なお、各設問につき1点~5点のスコアをつけるのだが、いずれの設問も2点は「1点と3点の間」、4点は「3点と5点の間」と記述されているため、以下では説明を割愛する。
Q1.あなたの企業では、現代的なリーン生産方式の手法のうち、どのような種類のものが導入されているか?
1.サプライヤの納期遵守以外に、リーン生産方式はほとんど導入されていない(導入されているとしても、場当たり的である)。
3.いくつかのリーン生産方式の手法が導入されている。ただし、非公式かバラバラの変革プログラムによる。
5.主要なリーン生産方式の手法(ジャスト・イン・タイム、自働化、多能工化など)が公式に全て導入されている。
Q2.どのような目的でリーン生産方式が導入されたか?
1.他社が導入しているから。
3.コスト削減のため。
5.(コスト削減を含め、)ビジネス上の目標を達成するため。
Q3.通常、問題の発見と解決はどのように行われているか?
1.問題が起こってもプロセス改善は行われない。
3.パフォーマンス改善のために、問題が起きた場所で働く全社員を巻き込んだ1週間のワークショップが開かれる。
5.問題を構造化することは各社員の責任であり、問題の解決は特別なチームや資源を投入せず、通常業務の一部として行われる。
Q4.業績評価のために、どのような指標を使っているか?
1.測定されている指標は、ビジネス上の目標とは無関係である。また、測定は場当たり的である(全く測定されていないプロセスも存在する)。
3.大部分のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が公式に測定されている。測定は上位マネジメント層が行っている。
5.業績は継続的に測定されており、全社員に対して、公式・非公式を問わず、視覚的なマネジメントツールを用いて指標の中身が伝えられている。
Q5.社員はどのようにして業績の評価を受けているか?
1.業績の評価はほとんどない。また、あったとしてもあまり意味のある方法ではない。例えば、達成できたか失敗したかを知らされるだけである。
3.定期的に成功と失敗の両方について、評価を受ける。評価の結果は、上位マネジメント層に伝えられる。ただし、明確なフォローアップ計画は採用されていない。
5.成果は、業績評価指標に基づいて継続的に評価される。継続的な改善を行うために、あらゆるフォローアップを受ける。また、評価の結果は全社員に伝えられる。
Q6.業績評価の会議は、どのように実施されるか?
1.建設的な議論のための情報やデータはほとんど存在しない。あるいは、意味のないデータに議論が集中する。明確なアジェンダも会議の目的も知らされない。
3.評価会議は、適切な情報やデータを使って行われる。会議の目的もアジェンダも明確である。しかし、問題の本質的な原因は議論されない。
5.定期的な評価会議は、原因の特定と問題の解決にフォーカスが絞られている。会議の目的、アジェンダ、フォローアップのステップも全員に明示されている。会議は建設的なフィードバックとコーチングの場となっている。
Q7.評価会議中に合意された目標が達成されなかったらどうなるか?
1.合意した目標を達成できなくても何も起こらない。
3.合意した目標が達成できなくても、しばらくの間は大目に見てもらえる。
5.合意した目標が達成できなかった場合は、その人の弱みを克服するためのトレーニングが行われるか、その人の能力に合った職場へ異動となる。
Q8.企業レベルの目標としては、どのようなものが設定されているか?
1.目標は財務的なもの、またはオペレーション面のものである。
3.非財務的な目標も設定されているが、トップマネジメントの評価に関係するものに限られる(それらの目標に、組織の他の社員が関与することはない)。
5.財務面、非財務面の目標のバランスが取れている。上位マネジメント層は、財務的な目標だけの場合よりも、非財務的な目標もあった方が、しばしば刺激的で挑戦的だと考えている(例えば、2003年までにシェア60%を達成する、など)。
Q9.企業の目標は何に基づいているか?また、企業の目標はどの程度個々の社員のレベルにまでブレイクダウンされているか?
1.企業の目標は(株主価値と何の関係もない)会計上の数値に基づいている。
3.企業の目標は株主価値に基づいて設定されているが、個々の社員に明確にはブレイクダウンされていない。
5.企業の目標は株主価値に基づいて設定されている。企業の業績は、企業の目標がビジネスユニットを通じて個々の社員にまで明確にブレイクダウンされた時、飛躍的に伸びる。
Q10.どのくらいの時間軸で企業の目標をとらえているか?それらの目標はお互いに関連しているか?
1.トップマネジメントの主たる関心は、短期的な目標に当てられている。
3.組織の全階層において、短期・長期両方の目標がある。それらの目標は独立して設定されているため、必ずしも相互に関係がない。
5.長期的な目標が短期的な目標に翻訳されている。そのため、短期的な目標が、長期的な目標に到達するための”階段”となっている。
Q11.企業の目標は野心的か?あなたはその目標に突き動かされていると感じるか?
1.企業の目標は容易に達成可能である。マネジャーは意図的に目標を低く見積もっている。
3.大部分の地域で、トップマネジメントは、明確な経済的・論理的根拠に基づく野心的な目標を掲げている。一方で、そのような厳格な基準に耐えられない”聖域”(=甘い目標)がいくつか存在する。
5.企業の目標は全ての部門の力を結集させなければ達成できない。また、それらの目標は非常に厳格な経済的・論理的根拠に基づいて設定されている。
Q12.社員が個人の目標について尋ねられたら、何と答えるだろうか?
1.成果を測定する方法は複雑でしっかりと理解できない。個人の成果は公にされていない。
3.成果を測定する方法が確立されており、情報も行き渡っている。成果は組織のあらゆる階層で公にされているが、お互いに比較することは推奨されていない。
5.成果を測定する方法がしっかりと確立されており、情報も十分に行き渡っている。また、あらゆる評価面談の場を通じて、個人の成果の情報は補足される。成果とランキングは、競争を活性化させるために公にされている。
Q13.企業において優秀な人材を惹きつけ、能力開発することは最重要課題であることを、上位マネジメント層はどのように示しているか?
1.上位マネジメント層は、優秀な人材を惹きつけ、能力開発することは最重要課題であると認識していない。
3.上位マネジメント層は、組織のあらゆる階層で優秀な人材を獲得することが勝利のカギであると信じており、またそのように話している。
5.上位マネジメント層は、人材開発によって評価され、人材開発に責任を負っている。
Q14.どのような報酬システムを導入しているか?
1.成果の大小にかかわらず、均等に報酬を受ける。
3.成果と連動した報酬システムを導入している。
5.野心的な目標と、成果と連動した報酬システムによって、競合他社よりも高い成果を上げようと努力している。
Q15.仕事ができない社員がいた場合、企業としてはどう対処するか?
1.仕事ができない社員でも、めったにそのポジションから異動とはならない。
3.仕事ができないと考えられる社員は、数年の間同じポジションにとどまる。
5.弱みが見つかったらすぐに解雇するか、あまり重要ではないポジションに異動させる。
Q16.花形社員の特定や能力開発は行われているか?
1.社員は在職期間に応じて昇進する。
3.社員は成果に応じて昇進する。
5.積極的に花形社員を特定し、能力開発を行い、昇進させている。
Q17.あなたの企業で働くことは、競合他社で働くことと比べて魅力的か?
1.競合他社の方が、優秀な人材を惹きつけるだけの価値を持っている。
3.社員に対して我が社が提供する価値は、競合他社が提供する価値に匹敵する。
5.我が社は、競合他社よりもユニークな価値を優秀な人材に提供できる。
Q18.退職を考えている花形社員がいた場合どうするか?
1.花形社員を引きとめるためにほとんど何もしない。
3.花形社員を引きとめるために努力する。
5.花形社員を引きとめるために必要なことは何でもする。
試しに、前職の会社を製造業に見立ててサーベイを受けてみた。【ベンチャー失敗の教訓】シリーズをご覧いただければ結果は言わずもがなの低評価だが、参考例として掲載しておく。日本の製造業の平均("Overall Management")は3.2である。その内訳を見ると、日本の製造業は、"Operations Management"、"Performance Monitoring"、"Target Setting"、"Talent Management"の中で、"Talent Management"のスコアが低いことが解る。
Overall Management
Operations Management
Performance Monitoring
Target Setting
Talent Management