プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 『最高のキャリアを目指す(DHBR2013年5月号)』―組織の戦略は人間のキャリア形成から何を学べるか?
Prev:
prev ジョセフ・ジャウォースキー『源泉』―集団は本当に未来を変えることができるのか?
2013年04月14日

【ベンチャー失敗の教訓(第13回)】曖昧で中途半端だったポジショニング


 >>シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】記事一覧へ

 前回の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第12回)】独り歩きした戦略的目標に全くついて行けなかった組織能力」では、X社が自社の組織能力を軽視したターゲティングを行っていたことを指摘したが、X社はターゲティングだけでなく、ターゲット市場でどのような顧客価値を提供し、競合他社とどうやって差別化を図るのかというポジショニングも不適切であった。

 研修業界のビジネスモデルを分析してみると、この業界で成功しているポジショニングには2種類しかないことが解る。1つは少数のキラーコンテンツに絞り込んで、特定の分野の専門性を追求するというもので、例えばモチベーション・マネジメントに特化しているリンクアンドモチベーションやJTBモチベーションズ、コーチングに特化しているコーチA、経営幹部育成に特化しているインヴィニオ、ロジカルシンキングに特化しているアルー、リーダーシップに特化し『7つの習慣』でも知られるフランクリン・コヴィー・ジャパンなどが挙げられる。

 もう1つは幅広い研修サービスを揃えて、顧客のあらゆるニーズに応えようとするものであり、例えばリクルートマネジメントソリューションズ、日本能率協会、ビジネスコンサルタント、マネジメントサービスセンター、トーマツイノベーションなどがこのタイプに該当する。また、NECラーニングや富士通ラーニングメディアなどメーカー系の研修会社も、グループ会社に様々な研修を提供しているノウハウを活かして、外販を行っている。やや特殊な例としては、ターゲット業界を絞って、その業界で必要となる研修のフルラインナップを目指すというものがある。例えば、グローバルナレッジは、IT業界に特化した研修会社である。

 前者のポジショニングにおけるKSF(重要成功要因:Key Success Factor)は、他ならぬ高い専門性と、専門分野に精通した講師をスピーディーに育成する能力である。JTBモチベーションズは自社のモチベーション理論を充実させるために様々な統計的調査を行っているし、フランクリン・コヴィー・ジャパンはリーダーシップのあるべき姿を理論化して世界に展開している。また、誰が講師を務めても高い専門性を発揮できるよう、さらには自社の貴重なノウハウが外部に流出することがないよう、このタイプの研修会社は講師を自前で育成しようとする傾向が強い。コーチAは講師=コーチを育成するプログラムが非常に充実している。

 一方、後者のポジショニングにおけるKSFは、外部の研修会社と提携しながら、幅広いラインナップを実現する能力である。人事部のニーズにきめ細かく対応するためには、10や20の研修では不十分であり、百単位の研修が必要となる。そして通常、これだけの数の研修を全て自社で開発し、自前で講師を育成することは不可能に近いから、足りない研修は外部から調達することになる。トーマツイノベーションが主に中堅・中小企業向けに発行している年間の研修案内の冊子をよく見ると、トーマツイノベーションが開発した研修はむしろ少数であり、講師名の欄には外部講師の名前(個人企業のような中小・零細の研修会社も含む)が並んでいることが多い。

 X社のポジショニングは両者の中間であり、どっちつかずの状態であった。キャリア開発研修を主力サービスにしようとしていたが、それ以外にもリーダーシップ研修、ダイバーシティマネジメント研修、経営幹部育成研修、コミュニケーション研修、営業力強化研修、ITコンサルタント育成研修と、一見するとお互いに関連性の薄い研修を自社で開発していた。X社は最大で20名ほどしか社員がおらず、その規模にしては自前の研修が多すぎたため、いつまで経っても講師と営業担当者に専門性が身につかなかった。

 ある時私は、各社員の専門性を高めるのを目的に、講師と営業担当者を1人ずつペアにして、1つのペアには1つの研修しか担当させないようなチーム体制へ変更することを提案した。ところが、その時にはX社の業績がかなり悪化しており、直後にリストラを余儀なくされたので、チーム体制は機能することなく終わった。

 X社からすると研修の数は多かったが、顧客企業から見れば研修が少なすぎた。リーダーシップ研修を提案すると、「リーダー育成よりも、マネジャーの基本的なマネジメントスキルが足りていないことが問題だ」と話す人事担当者が多かったが、X社にはマネジャー育成研修が存在しなかった。また、商談の中でしばしば新入社員研修のことが話題に上ったものの、A社長は新入社員研修を断固としてやろうとしなかった。

 X社のポジショニングが中途半端であったため、顧客企業に対して「X社はこの分野に強い」という印象を植えつけることも、「X社に相談すれば何とかなる」という安心感を持たせることもできなかった。前回の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第12回)】独り歩きした戦略的目標に全くついて行けなかった組織能力」と合わせてまとめると、結局のところX社はマーケティングの基本である「セグメンテーション⇒ターゲティング⇒ポジショニング」という一連の流れを全く検討していなかった。その経営者がコンサルファーム出身者だというのだから、コンサルファームで一体何を学んできたのかと首をかしげたくなる。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
 >>シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】記事一覧へ

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like