プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年04月04日

「必ず解がある数学は、解のない実世界には役立たない」という意見へのちょっとした反論(2)


 (前回の続き)

(3)手始めにいくつかケースを試してみると、道筋が見えてくる
 全く法則が見つからない場合でも、いくつかのケースを試してみると、規則性が見えてくることがある。高校数学では、数列や場合の数、確率などの問題でこうした手法が有効だ。ここでもまた、今年の京都大学の入試問題を見てみよう。

2013年京都大学数学(理系)第2問

2013年京都大学数学(理系)第2問_解答

 数列の定義が入り組んでおり、普通のやり方では一般項を導くことができない。そこで、n=1、2、3、4・・・の場合を実際に計算してみる。すると、n≧3の時は、一般項は「2N-n+1-1」(つまり、全て奇数)だと予測できる。ただ、「2N-n+1-1」は徐々に減少していく整数であり、最後は「20-1=0」、すなわち偶数となる点に注意が必要だ。一般項が上記の式で表されるのは、n=Nの時までである。よって、3≦n≦Nの時は一般項が「2N-n+1-1」となると予測して、数学的帰納法を用いてこれを証明している。

 では、n≧N+1ではどうなるかというと、n=N+1の時は先ほど述べたように0(偶数)となり、ここで奇数と偶数が入れ替わる。与件に従えば、n=N+2の時も0であり、実はこれ以降全ての項が0となる。従って、n=1からn=Mまでの和を求めると、Mがどんな数であれ、和が最大となるのはn=1からn=Nまでの和であるから、これを求めて与えられた不等式を証明すればよい。

 ビジネスにおいても、実験は重要だ。アマゾンはサイト訪問者のユーザビリティを高め、購買意思決定を手助けするために、幾度となくサイトデザインを変え、何千回も実験をしていることで有名だ。また、P&Gも新製品を発売する前には、自社が持つ仮想店舗で競合他社の製品と一緒に新製品を陳列し、どこに製品を置けば、どんなパッケージにすれば、どんな店頭プロモーションを打てば、価格はいくらに設定すれば、顧客が競合他社ではなく自社の製品を選択してくれるのか?という問いに答えるべく実験を行っている。

 流行に左右されやすく、顧客のニーズを読みづらいファッション業界で高い競争力を持つ企業は、実験を得意としている。GAPは新製品の発表後数週間で売れ筋を見極め、死に筋の生産をストップして売れ筋のみに特化する。乱暴な言い方をすれば、顧客ニーズを予測して製品開発をするのではなく、「出たとこ勝負」で売れたものだけを作るというスタイルを確立している。

 日本企業でGAPの実験的手法と似ているのが、子供服の西松屋だ。西松屋は新製品を発売する際、夏物は2月ごろに沖縄の店舗で、冬物は9月ごろに北海道で先行販売する。そして、沖縄や北海道で売れたものだけを全国で販売する。日本中で最初に暑くなる沖縄で売れたものが今年の夏の流行に、日本中で最初に寒くなる北海道で売れたものが今年の冬の流行になる、というのが西松屋の考え方なのだ。このように、前例や効果的な原理・原則がなくお手上げだという状況でも、少しずつ実験を行って事実を集めていけば、一定の法則が発見できるものである。

(4)与えられた条件を自分に有利なものに変えることで、状況を打開する
 幾何学の問題で、図形に補助線を引いたら解決の方向性が見えた、という経験をした人は多いだろう。高校数学では、座標平面の図形の問題をベクトルで解いたり、複素数平面で解いたりすると、案外すんなりといく場合がある。さらに、ベクトルと複素数も相互に行ったり来たりすることが比較的容易であり、ベクトルの問題を複素数平面で、複素数平面の問題をベクトルで解いたりすることもある。このように、所与の条件を変えることで、問題を解きやすくする発想力が数学ではモノを言う。例えば、次の問題を考えてみよう。
A(2, 1)、B(4, 3)とするとき、△ABCが正三角形となるように頂点Cの座標を求めよ。
(「複素数の割り算のちょっとした小手技」より)

座標平面と複素数平面

 これを座標平面のまま解く場合は、C(x, y)とおいて、x と y の2次方程式に持ち込む。だが、計算が少々面倒だ。そんなことをしなくても、複素数平面に置き換えてしまえば、別解のように簡単に計算することができる(なお、リンク先では解答がC(3-√3, 2+√3)のみとなっているが、Cが直線ABより下にある場合も考えられるので、(3+√3, 2-√3)も解に含めなければならない)。

 経営においては、自社を取り巻く経営環境を、自社の力が及ばないものととらえると、環境変化に対して受動的な戦略しか取れなくなる。そうではなく、先進的な企業は、事業環境を自らの力で変える、換言すれば、ゲームのルールを変えてしまうことで、活路を見出している。そのような取り組みは、業界地図をがらりと書き換えてしまうイノベーションとなる。

 今でこそHPに押され気味で経営難に陥っているデルだが、マイケル・デルが会社を立ち上げた時には、パソコン業界のルールが一変した。それまでパソコンは、部品製造から最終組立まで全ての工程が垂直統合されているのが当たり前だった。ところが、マイケル・デルが自宅のガレージで市販のパソコンを分解したところ、売価に対して原価が非常に低いことが解った。

 そこで、「メーカーから必要な部品をかき集めて自分で組み立てれば、今までよりもはるかに安い価格でパソコンを提供できるのではないか?」と考えた。こうしてでき上がったのが、BTO(build to order)のビジネスモデルである。デルの登場によって、パソコン業界ではアンバンドリング(デカップリングとも言う)が加速した。パソコン製造のバリューチェーンはバラバラになり、それぞれの部品に特化した専門企業が登場した。

 イノベーションと言えば真っ先に名前が挙がるアップルも、業界のルールを変えるのが得意である。iPod/iTunesが登場する前までは、「音楽はアルバム単位で買うもの」という認識がレコード会社にもユーザにも根づいていた。アップルはこのルールに対して挑戦状を叩きつけ、「アルバムの中の曲を1曲ずつ買いたいユーザが実は多いのではないか?」という仮説を立てた。そして、スティーブ・ジョブズがレコード会社を直々に説得して、アルバムの”分解”を認めさせたのである。iPodの成功は、iTunesの成功なしには語れない。アップルの仮説は当たっていたわけだ。

 ゲームのルールを変える企業は、次の問いについて絶えず考えている。「この業界を長年に渡って支配しているルールは何か?」、「そのルールを自社の力で変えることは可能か?」、「ルールの変更は顧客にどのような付加価値をもたらすか?」、「ルールの変更によって我が社はどのくらいの便益を受けられるか?」イノベーションを起こすためには、常識を疑う力が必要だ。

(5)鮮やかな別解で、一気に時間を節約する(競争相手を大きくリードする)
 (4)と似ているが、(5)はもっとドラスティックな手法である。数学の問題の中には、一般的な解き方でも十分対応できるものの、時に別の分野の公式や定理を使うと、驚くほど簡単かつ鮮やかに解にたどり着けることがある。例えば、以下のベクトルの問題がそうだ。

 通常この問題は、ベクトルOPを2通りで表して、係数を比較するという方法を取る。だが、ページ最下部にあるように、幾何学における「メネラウスの定理」を知っていると、ベクトルを使わなくても、ベクトルを使うよりはるかに早く解答することが可能だ。「メネラウスの定理」は、高校数学の中ではあまりメジャーな定理とは言えないが(下図で書かれているように、教科書の編者が取り上げたがらない)、これを知っているのとそうでないのとでは、テストで大きな差が出る。

ベクトルとメネラウスの定理

 (※)岡部恒治、数研出版編集部『もういちど読む数研の高校数学 第1巻』(数研出版、2011年)より。

もういちど読む数研の高校数学 第1巻もういちど読む数研の高校数学 第1巻
岡部恒治 数研出版編集部

数研出版 2011-04-26

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 経営においても、「自社しか知らない独自の法則」を使って、競合他社が思いつかないような利益創出ストーリーが描けると非常に有利である。今はスピードが命の時代だから、利益創出のタイミングを早められる独自の原則は、強力な競争優位をもたらす。

 先日、日本電産の永守社長の下で働いたことがある元役員の方からお話をうかがう機会があったのだが、M&Aで急成長を遂げた日本電産は、買収企業の企業価値算定を絶対に公認会計士に丸投げしないそうだ。永守社長自らが数字を1つ1つチェックして、適正な買収価格を設定する。そこには、永守社長なりの「企業価値算定の方程式」が働いている。だから、高値づかみをすることがなく、投資回収を早めることができるという。

 また、日本電産が買収した企業では、まず5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)を徹底する。日本電産は現場の5Sを採点する独自の評価体系を持っており、「5Sの得点が60点を超えれば黒字を出せる」というのが永守社長の持論である(買収したての企業は、10点、20点という低い得点になることが大半らしい)。ここにも、永守社長しか知らない独自の公式が存在する。

 以上、数学と経営の共通点を私なりに5つまとめてみた。ビジネスの世界では論理的思考が流行ったり廃れたりを繰り返しているが、数学は論理的思考力を鍛えるのに優れた学問だと思う。だから、安易な「数学不要論」に流されてほしくないし、また今の子どもたちには、「どうせ数学なんて将来使わないから」という理由で数学嫌いにならないでほしいと願っている。

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