プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年05月12日

【ベンチャー失敗の教訓(第17回)】投資対効果を無視して続けられた様々な投資


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 X社には「ROI(投資対効果)」という言葉がないのかと疑いたくなるぐらい、上層部は自分たちが好きなこと、やりたいことに次々とお金を出していた。前回の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第16回)】かえって逆効果だった「豊富な資金源」」でも述べたように、なまじ資金は豊富であったから、この傾向には歯止めがきかなかった。

 X社の教育研修サービスは、診断とセットになっているものが多かった。その目的は、研修で学習するスキルやマインドのレベルを可視化し、受講者に自分の強みと弱みを気づかせるためであった。X社では、ほとんどの診断を外部の診断サービス専門会社に頼っていた。こうした診断サービス専門会社では、その会社独自のメソッドやアルゴリズムに基づいて設問や診断結果レポートが定式化されているため、必ずしもX社が研修内容に合わせて測定したいスキルやマインドと完全に一致しているわけではない。そこで、設問やレポートのカスタマイズを依頼することになるのだが、それだけで100万円、多ければ数百万円かかるというのが通常であった。

 X社は売上高が1億円~2億円程度であるから、数百万円の出費となれば普通はそれなりの根拠が必要だろう。診断のカスタマイズにより研修サービスの品質が上がるので、見込み顧客に対する説得力が増し、現在の受注率が○○ポイント改善する、あるいは既存顧客についても受講者の満足度が上がるから、リピート率が○○ポイント改善する。その結果として、全体では△△円の売上増が見込める。よって、□□か月後までには投資が回収できる、という見込みを立てなければならない。だが、マネジャー層も経営層もそのような検討をした形跡が全く見られない。

 他にもこのような例を挙げればキリがない。診断サービス専門会社の中には、その会社の診断を使う場合には、その会社の専門トレーニングを受けることが条件となっているところもある(この有償トレーニングは、その会社の重要な収益源だ)。例えば、「心の知能指数」として知られる「EQ(Emotionally Intelligence Quotient)」については、シックスセカンズジャパンが診断サービスを提供しているが、同社の診断を組み込んだ研修を実施するためには、同社が主催するEQ関連の専門トレーニングを受講して、同社から国際認定資格を取得する必要がある。

 ある時、マネジャーがとある診断サービス専門会社の診断を研修に組み込みたいので、社内の講師に専門トレーニングを受けさせたいと言い出した。3人の講師に数日間のトレーニングを受けさせるだけで、200万円もかかるという。しかも、診断を組み込みたいと言っていた研修サービスは、長年にわたってずっと赤字を垂れ流していたものであった。ところがここでも、その専門トレーニングが本当に投資に値するものなのかどうかが十分に検討されず、A社長は3人の講師を専門トレーニングに送り込んでしまった。

 またある時は、マネジャーが「組織開発(OD:organization development)について勉強したい」と言うので、その分野で有名な海外の教授の下に、会社のお金で短期留学することになった。だが、そのマネジャーが帰国後に組織開発に関するサービスをどのように開発するのか?どういう企業をターゲットに、どうやって提案していくのか?サービスの提供スタッフはどうやって育成するのか?などを全く検討しないまま、マネジャーの個人的な願望だけが先走りしてしまったため、結局サービスは形にならず、単なるマネジャーの自己満足で終わってしまった。

 X社は、マーケティング力と営業力があまりに弱いので、HPの運営と新規顧客開拓を一時期アウトソーシングしていた。その額は何と毎月300万円であった。だが、この投資によって目指すべき成果、具体的にはHPのページビュー、ユニークユーザ数、HPからの問い合わせ件数、HP経由での自社セミナー申込件数、新規の商談数、受注率などに関する目標が、アウトソーシング先ときちんと共有されていなかった。アウトソーシングで得られた新規顧客はゼロ、HPに至っては、「本当にプロが作ったのか?」と疑いたくなるような、情報がごちゃごちゃでどこをクリックすれば必要な情報が得られるのか解らない、アダルトサイトまがいのページが残っただけであった(その後、私がマーケティングを兼務するようになってから、HPをリニューアルした)。

 最もひどかったのは「展示会」だった。年に1回、X社のような教育研修会社やeラーニングの会社などが一堂に会して、人事担当者向けに人材育成関連のセミナーや自社サービスの紹介を行う展示会が開かれるのだが、X社は毎年この展示会にブースを出していた。だが、この展示会には、今まで述べてきたものとは比較にならないぐらいお金がかかる。まず、出展料だけで500万円ほど必要である。これに、出展に必要な備品のコスト、出展準備に関わる社員の人件費などを加えていくと、展示会1回あたり2,000万円ほどの投資がかかる計算であった。

 展示会に出展する目的は、言うまでもなくリード顧客をたくさん獲得し、そこから商談を発掘することである。しかし、私が入社してから3年間、毎年展示会の責任者がころころと変わりながらも、この展示会は全くと言っていいほど成果を上げていなかった。4年目になって、マーケティングを兼務していた私のところに、展示会の主催会社から「今年も出展しますか?」という連絡が入ったが、私は過去3年間の散々な結果を見て、投資を控えるべきだと考えていた。数千万円単位の出費をするぐらいなら、Googleにリスティング広告でも出した方がよっぽど効果的だと思っていたからだ。だが、営業部長が強硬に私を展示会の責任者に任命して主催会社に出展申し込みをしてしまったため、渋々展示会の準備を行うことになった。

 しかし、3年やってダメなものはやはりどうやってもダメである。展示会後に商談につながったのは、私の知り合いでブースに来ることを事前に約束してくれた方1人だけであった(その商談も、最終的には失注してしまった)。展示会終了後、主催会社から送られてきたレポートを見ると、来場者向けに来場の目的を尋ねたアンケート結果が載っていた。それによれば、7割ぐらいの来場者はセミナー聴講が目的であり、ブースに立ち寄って情報収集したり、いい教育研修会社を見つけようとしたりしている人はごく少数派であった。毎年このレポートはX社に送られていたはずだから、1年目の段階で、展示会には効果がないと見切りをつけるべきだっただろう。

 後日、私は営業部長に、「なぜ今年も出展することに決めたのか?」と尋ねてみた。すると営業部長からは、「実はA社長の知り合いが出展会社の上層部にいて、その人の顔を立てるためだよ」という、何とも情けない回答が返ってきた。出展会社との間で何かしらバーター取引が成立しているならともかく、A社長の個人的な人脈のために何千万円ものお金と何か月もの私の労力がムダにされたかと思うと、腹立たしさを通り越して呆れるしかなかった。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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