プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年05月26日

【ベンチャー失敗の教訓(第19回)】真綿で首を絞めるように繰り返されるリストラ


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 私が在籍していた5年半の間に、3社では3回のリストラが行われた。自主退職やY社のグループ離脱(以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第4回)】何にでも手を出して、結局何もモノにできない社長」を参照)も重なり、3社合計で最大で50人ほどいた社員は、私の退職時にはわずか10人あまりになっていた(そして最近、X社で4回目のリストラが実行され、X社の社員数がとうとう4人になったという話を耳にした)。1回目のリストラは2008年の夏であった。慢性的な赤字体質が改善されず、累積損失も億単位に上っていたことから、経理担当者がリストラを主張し、3社の経営陣がしぶしぶそれに応じるという形で行われた。

 ただ、この時はリストラというよりも、組織改編と人員再配置がメインであり、リストラの対象社員は全体の1割にも満たなかった。後に経理担当者が話していたことだが、このリストラによって削減された固定費は微々たるものであった。もっと削減すべき固定費がたくさんあるのに、経営陣はそこには手をつけなかった。業績改善が見込めない社員や、毎月500万円近くも支払っていた家賃(以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第5回)】とにかく形から入ろうとする社長」を参照)、社内設備のリース代や業務委託費など、メスを入れるべきところはいくらでもあった。

 それを放置したツケは早くも翌年(2009年)に回ってきた。まず夏に、3社の管理部門の社員4人が、高すぎる人件費を理由にリストラされた。A社長は前年にリストラを行った後、X社の全社員の前で「もうこれ以上のリストラはしない」と宣言していたにもかかわらず、その約束はあっさり反故にされた。そして、3回目のリストラは2009年の年末に行われた。前回の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第18回)】積み上げ式ではなく願望だけで行われる売上」で私がA社長にリストラを促した話を紹介したが、これが3回目のリストラである。この時はX社の社員15人のうち、半数近くにあたる6人をリストラし、1人が自主退職した。

 この時、社員の削減は最大限に行ったつもりだが、人件費以外の固定費で手つかずの領域が残ってしまった。営業代行を依頼していた人や外部講師に対する業務委託費が毎月数十万ずつかかっていたが、実質的にはほとんど機能していなかったので、契約を打ち切るべきであった。だが、業務委託先の人がA社長と懇意な間柄であったことが理由で、業務委託費を少し下げただけで、契約は継続されることになってしまった。

 固定費を削減したつもりなのに、実際には固定費の削減になっていなかった領域もある。3社は2009年いっぱいで毎月約500万円もかかっていたオフィスを離れ、各社がそれぞれ別々のオフィスに移転することになった。X社が移転したオフィスの家賃は月約100万円であった。確かに、月約500万円のオフィスに入っていたころは、X社には300万円近い家賃が配賦されていたため、引越しによって200万円ほどコストが下がったことになる。しかし、社員数が8人に減ったわけだから、1人あたりの家賃は依然として10万円を超えていることになる。

 X社の人数からすれば、月20~30万円ぐらいの家賃が適正基準だ。こういう安い物件は、交通の便がやや悪く、都心から少し外れたところにしかない。だが、X社の規模や財政状況を考えれば、そのぐらいの物件が妥当である。引越し先を探していた経理担当者もそういう物件をあたっていたものの、A社長はどの物件を見せても首を縦に振らなかった。その理由は、「都心に住んでいる自分が通うには遠い」という、社員にとってはどうでもいいA社長の個人的な事情であった。このブルジョア的な発言によって、結局は都心の月約100万円のオフィスに移転することになってしまった(A社長は、昨年末頃に早くも、「どこか安いオフィスはないか?」と探していたという話をX社の経理担当者から聞いて、本当に学習能力のない人だと感じた)。

 度重なるリストラを見てきて、リストラは一発で決めなければならないとつくづく思い知らされた。野心的な経営改革プログラムの場合は、試行錯誤を繰り返しながら、改革案を次から次へと打ち出すことも許されるだろう。だが、痛みを伴うリストラだけは、絶対に一発で結果を残さなければならない。小規模のリストラが繰り返されると、社員が「次は自分の番ではないか?」と疑心暗鬼になり、モチベーションが低下してしまうのは容易に想像できる。

 リストラを一発で決めるためには、第一に人件費以外の不要なコストを徹底的に削ることが大切である。そして第二に、「削る計画」と合わせて、「売上を増やす計画」を立案しなければならない。リストラされた社員がどんなに業績に貢献していない社員であっても、その社員の業務は残った社員の肩に重くのしかかることになる。そこで、残った社員が過剰業務でパンクしないよう、不要な業務を全て捨て去らなければならない。こうした業務の精査を行った上で、残った社員をどの業務に集中させ、どのように売上を伸ばし、どうやって安定的に利益が出せる体質に変えていくのか、そのプランを練る必要がある。3社のリストラは、表面的なコスト削減ばかりにフォーカスが当たってしまい、こうした視点が全く欠けていた。

 ある不動産会社の役員からうかがった話だが、その会社はかつて成長戦略の一環として別の不動産会社を買収した。ところが、ふたを開けてみたら買収先企業が粉飾決算をしており、債務超過に陥っていた。その影響で、あやうくその役員の会社まで傾くところであった。そこで役員は当初の成長戦略を諦め、思い切って社員数を10分の1まで減らして、全社員を東京に集中させた。そして、東京以外の地域に営業することを禁止し、また、1顧客あたりの商談回数に上限を設けて、受注見込みが高い東京の顧客に全資源を投入した。その結果、業績が好転したという。リストラとは、こうやって行うべきものなのだろう。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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