プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年04月11日

フィリップ・コトラー他『コトラーのイノベーション・マーケティング』―マーケティングの4Pに代わる「イノベーションの6I」


コトラーのイノベーション・マーケティングコトラーのイノベーション・マーケティング
フィリップ・コトラー フェルナンド・トリアス・デ・ペス 櫻井 祐子

翔泳社 2011-09-16

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 マーケティングの大家フィリップ・コトラーがイノベーションの体系化に挑んだ1冊。イノベーションを直線的なプロセスとして定式化するのではなく、A~Fまでの6つの役割を持った人々による相互作用としてとらえている点が特徴である。
[A]アクティベータ(Activators)
 段階や局面にとらわれずに、イノベーション・プロセスを始動させる人たち。のちに(必ずではないが)イノベーション・チームの構成(だれがどの役割を担うか)に影響を与える場合もある。平たくいえば、アクティベータの役割は、プロセスを開始(Initiate)することだ。

[B]ブラウザ(Browsers)
 情報収集を専門とする人たち。新しいものを生み出すのではなく、グループに情報を提供する。任務は、プロセス全体を通じて調査(Investigate)を行い、プロセスを開始するために必要な情報や、新しいアイデアの適用に役立つ情報を収集することだ。

[C]クリエータ(Creators)
 グループのためにアイデアを生み出す人たち。新しい概念や可能性を着想(Ideate)し、プロセスを通じて、新しい解決策を探し求める。

[D]デベロッパ(Developers)
 アイデアを製品・サービスに落としこむ人たち。アイデアを有形化し、コンセプトに形を与え、大まかなマーケティング計画を策定する。クリエータはアイデアを生み出すが、デベロッパは新しい物事を考案する。任務はアイデアを解決策に変えること、つまり考案(Invent)だ。

[E]エグゼキュータ(Executors)
 導入と実行にまつわるすべてを引き受ける。任務は実行(Implement)、つまり、開発中のイノベーションを組織や市場に導入することだ。

[F]ファシリテータ(Facilitators)
 イノベーション・プロセスの進捗に応じて、新しい支出や必要な投資に承認を与える。またプロセスが行きづまらないよう取り計らう。任務はイノベーション・プロセスの後押し(Instrumentation)だ。
 イノベーション・プロセスは、A⇒B⇒C⇒D⇒E⇒Fのような典型的な線形プロセスをとることもあれば、A⇒B⇒C⇒A⇒F⇒D⇒B⇒D⇒E⇒F⇒C⇒Eのように行きつ戻りつを繰り返しすこともある。逆に、A⇒D⇒Eのように、非常にシンプルな形で進む場合もあるという。コトラーは、それぞれの役割の任務(Initiate、Investigate、Ideate、Invent、Implement、Instrumentation)の頭文字をとって、「イノベーションの6I」と呼んでいる。約半世紀前にエドモンド・ジェローム・マッカーシーが「マーケティングの4P(マーケティング・ミックス)」を提唱したが、これからは「イノベーションの6I」が重要視されるだろうとコトラーは予測している。

 コトラーは、本書の中では明確には述べていないが、イノベーションを推進するにあたって模倣や類推(アナロジー)を多用しているようだ。そのために欠かせない役割を担うのがブラウザである。ブラウザは、他の役割の人たちが模倣や類推を行うための情報源を提供する。例えば、「イノベーション・レビュー」というものを作成して、自社が属する業界でこれまでに起こったイノベーションを整理し、新製品・サービスのヒントにつなげようとしている。
 イノベーション・レビューとは、イノベーションを導入しようとする市場または製品・サービス分野で、これまでに行われたイノベーションをできる限り総合的に評価したものである。(中略)例として、コーヒー市場に新製品を投入しようとするイノベーション・プロセスを考えてみよう。このためのイノベーション・レビューでは、過去のすべての新製品やイノベーション、つまり画期的なものから(ネスレのエスプレッソマシン「ネスプレッソ」など)、販促活動やライン拡張(再利用可能な容器に入れたコーヒーなど)といった、最も些細なものに至る、すべてのイノベーションを取り上げる。
 もう少しアイデアを広げるには、「隣接カテゴリー」の分析がおすすめだとコトラーは言う。
 隣接カテゴリーとは、自社の製品・サービスと直接競合しないか、自社がイノベーションの導入を予定している市場には属さないが、市場を定義する次元(顧客、ニーズ、状況)のいくつかを、自社製品と共有する製品・サービスのカテゴリーである。言い換えれば、同じ顧客をターゲットとして違うニーズを満たすか、顧客は違うが似たようなニーズを満たすか、自社の製品・サービスと似たような状況で消費されるものだ。

 たとえばコーヒーというカテゴリーにとって、栄養ドリンクは隣接カテゴリーにあたる。コーヒーが満たしているニーズの一つ(元気が出る、または目が覚める)を満たしているからだ。(中略)この分析の有用性は、イノベーションを予定している市場と隣接カテゴリーの類似性を特定するだけで、さまざまなイノベーションの機会が何もしなくても自然に明らかになることにある。
 イノベーションレビューや隣接カテゴリーの分析結果は、ブラウザからクリエータへと渡り、クリエータのアイデア源となる。さらに、ブラウザは、最新の技術やデザインの情報をデベロッパに、最近のマーケティング戦略の成功例や失敗例の情報をエグゼキュータに与えることで、デベロッパやエグゼキュータの仕事を促進することが求められている。

 ただ、本書に関して1つ問題点を挙げるとすれば、模倣や類推の対象が「近すぎる」ということである。近い分野からの模倣や類推は、比較的容易に行うことができる反面、競合他社にすぐに真似される危険性をはらんでいる。イノベーションで重要なのは、「遠い」対象からの模倣や類推ではないだろうか?『模倣の経営学』の著者である井上達彦氏は、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2012年8月号の中で次のように述べている。
 価値の新奇性という面でも、業種を超える結びつきという面でも、「遠さ」が一つのカギとなる。遠い世界からの模倣こそが仕組みのイノベーションを引き起こす。遠さにもいくつかのタイプがあって、(1)地理的な遠さ、(2)業種としての遠さ、(3)時間的な遠さの3つに分けられる(ここでいう、時間的な遠さというのは、過去から倣うということを意味する)。遠ければ遠いほど新しい結合を見出し、業界を超えたイノベーションを引き起こすチャンスも高まる。
(井上達彦「ニトリ、ワールド、ポイントの事例に学ぶ 模倣からイノベーションが生まれる」)
模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―
井上達彦

日経BP社 2012-03-08

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 08月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 08月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-07-10

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 井上達彦氏の論文では、家具製造・販売のニトリがアメリカのチェーンストアから店舗運営のノウハウを学び、ホンダから品質管理責任者を引き抜いて低価格製品の品質管理を学んだことが紹介されている。また、ワールドやポイントといったアパレル・メーカーは、GAPからSPAの仕組みを学ぶだけでなく、異業種のセブン・イレブンから商品管理のことを学んだという。

 競合他社が(時には自社の他の社員も)、「えっ?そんな業界や製品のことを参考にするのか??」とビックリするような模倣や類推こそが、競合他社を出し抜く画期的なイノベーションの源泉になるというものである。コトラーの代表作である『マーケティング・マネジメント』は、約40年前に出版されてから10回以上も改訂を重ねて現在に至るが、本書についても今後さらに研究が進み、内容が厚みを増していくことを期待したい。

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