プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年04月13日

ジョセフ・ジャウォースキー『源泉』―集団は本当に未来を変えることができるのか?


源泉――知を創造するリーダーシップ源泉――知を創造するリーダーシップ
ジョセフ ジャウォースキー Joseph Jaworski 金井 壽宏

英治出版 2013-02-22

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 前著『シンクロニシティ』と同様、著者の考え方の下地になっているのは、物理学者デイビッド・ボームの「内蔵秩序」である。内蔵秩序とは、平たく言えば「宇宙」、「全体」であり、我々が普段目にする世界=「顕前秩序」を生み出す「源泉」である。内蔵秩序は精神と物質の区別すらない「統合」された世界であるのに対し、顕前秩序は近代的・デカルト的な「分析」が支配する世界であり、精神と物質は分離され、さらに社会は人間の諸活動によって細分化されている。

シンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップシンクロニシティ[増補改訂版]――未来をつくるリーダーシップ
ジョセフ・ジャウォースキー Joseph Jaworski 金井 壽宏

英治出版 2013-02-22

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 ボームは、人間は誰でもこの内蔵秩序につながることができると主張する。我々が意識のレベルを上げて内蔵秩序へアクセスする時、自分と他者という境界が崩れ、「我々は皆一体である」という感覚が得られる。すると、顕前秩序で起きている様々な問題を解決へと導く革新的な方向性を、内蔵秩序が「教えてくれる」。内蔵秩序は、人間の「大いなる意思」(哲学者マルティン・ブーバーの言葉)を包摂する世界であり、「世界が望む通りに世界を実現させることができる」。そのための一連のアプローチを、ボームは「ダイアローグ(対話)」というコンセプトでまとめた。

 前著は全体的に哲学的で、「何となく感覚的に解った」気にしかなれなかった。しかし本書では、「人間は他者と意識のレベルでつながることができる」、「人間は未来を予知できる」ということについて、いくつかの科学的根拠が示されている点が興味深い。例えば、芝居や科学会議、アメリカ先住民の儀式、日本の祭り、スポーツの試合、テレビ中継など、人々の高い集中力が求められる場に精密な乱数発生器を持っていくと、異常な数値を示すことが数多くの実験から明らかになっている(最も異常な値を示したのは、9.11のテロの時だったという)。これは、結束した人々の意識には、物理的な力が宿っていることを示している。

 また、スタンフォード研究所(SRI)で行われた「遠隔透視」の実験も紹介されている。この実験では、「映像の送り手(エージェント)」となる人が、任意に選ばれた遠隔地へ行く。一方、もう一人の人(遠隔透視者)はラボにとどまり、エージェントの行き先を知る人とは一切接触できないようになっている。そして所定の時間になると、ラボにいる遠隔透視者は、エージェントが今どこにいて何を見ているのかを述べる。

 実験の結果、人間には距離に関係なく、どんな場所でも見通す潜在的な力があることが示されたという。つまり、遠隔透視者とエージェントは意識レベルでつながり、エージェントが見たものを遠隔透視者も見ていたことになる。SRIの研究には、あのユリ・ゲラーも協力していたそうだ。著者は、幸運なことにユリ・ゲラーの遠隔透視を体験する機会を得ることができた。すると、著者が描いた絵とユリ・ゲラーが描いた絵は、寸分違わず一致したそうだ。

 「遠隔透視」の実験にはまだ続きがある。実は、エージェントが特定のものを見るよりも前に、遠隔透視者はエージェントが見るものを「予知」することが可能だ。例えば、エージェントがドナウ川を見てその映像を遠隔透視者に送る場合、遠隔透視者はドナウ川のそばのエージェントから約9,000キロメートル離れたところにいながらにして、その場所を正確に、しかもエージェントが実際にドナウ川のほとりに行く23時間以上も前に認識することができた。研究者はこれを「予知的遠隔透視」と呼んでいる。

 人間が未来の予知能力に関するもう1つの実験として、研究者が「予見的感覚」と呼ぶものに関する実験がある。実験では、感情を刺激する写真と穏やかにする写真をコンピュータがランダムに被験者に見せ、被験者の情緒的反応を測定する。情緒的反応を示す数値の1つに皮膚コンダクタンス水準(SCL:skin conductance level)というものがあるそうだが、SCLの反応を見ると、感情を穏やかにする写真よりも刺激する写真を見るおよそ5秒前の方が、皮膚電位において著しい変化が見られたという。つまり、被験者は、自分の未来の感情に対して、感情を刺激する写真を見るより前に、そしてコンピュータが写真を選ぶより前に、事前に反応したのである。

 こうした研究結果には賛否両論があるだろうが、ひとまず「人間は他者と意識のレベルでつながることができる」、「人間は未来を予知できる」としよう。だが、ここに本書の限界があるような気がする。「『集団は』未来を予知することができるのか?」、「集団は未来を『変える』ことができるのか?」という点に関しては、科学的な証拠を十分に提示できていない。

 ボームの理論の核心は、「人々は『ダイアローグ』を通じて意識レベルで内蔵秩序とつながり、世界を望ましい方向へと変革することができる」という点にある。だが、ボームが集団の力学を信じる一方で、効果的なダイアローグを行うには、鍛錬された規律ある個人の存在が欠かせないとし、そのような個人が不足していることを晩年は嘆いていたという。著者はボームのこうした問題意識を受けて、源泉にアクセスするためのセルフマネジメントに本書のかなりのページを割いている。それがかえって、集団の力学に関する考察を薄める結果になってしまったように感じる。

 「集団は未来を予知することができるのか?」という問いに対しては、個人に備わっている未来の予知能力の延長線上で答えを出せるかもしれない。だが、集団が未来を「予知する」ことと、集団が未来を「変える」こととの間には大きな隔たりがある。集団が未来を変えるためには、未来の予知以上のことが求められる。前述の乱数発生器の実験で言えば、9.11のあの瞬間、世界の人々の意識は確かに1つになったかもしれない。しかし、結局は悲劇を防ぐことができなかった。内蔵秩序とつながった集団の意識は、テロをも防ぎうるパワーを持つことが可能だろうか?

 先進的な企業は、業績を上げるための抜本的な改革を狙って、ダイアローグを取り入れつつある。本書でも、石油会社であるロサンゼルス・リファイナリー・コーポレーション(LARC)の事例が登場し、業績が下位25%に入っていた製油所が飛躍的に利益を伸ばしたエピソードが紹介されている。また、分析的な企業風土で有名なインテルにダイアローグを導入し、設備投資の投資回収期間を大幅に短縮した事例も載っている。

 いずれも、自社は上手くやれば順調に業績を伸ばせるはずだという前提に基づいている。しかし、仮に世界中の企業が業績向上を狙ってダイアローグを導入したら、一体どうなるだろうか?内蔵秩序は、全ての企業が自社にとって都合のいい未来を描くことを許しはしないだろう。未来の予知に従えば、今後も事業を成長させる見込みがあるが、社会的責任などの観点から望ましい未来を描くと、むしろ事業を縮小すべきだ、あるいは存続すべきですらないと、内蔵秩序が断罪する可能性も否定できない。そのような結論に、果たして企業はたどり着くことができるだろうか?公正や正義のために自らは道を譲るという決断を下す企業は現れるのだろうか?

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