プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年04月16日

『最高のキャリアを目指す(DHBR2013年5月号)』―組織の戦略は人間のキャリア形成から何を学べるか?


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 05月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 05月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2013-04-10

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 以前の記事「リチャード・モリタ『これだっ!という「目標」を見つける本』―キャリアデザインと戦略立案のアナロジー」で書いたように、企業の戦略立案とビジネスパーソンのキャリアデザインには共通点がある。端的に言えば、どちらも外部環境と内部環境の考察を通じて、将来の方向性を導き出すというものである(キャリアデザインの場合、外部環境とは個人が所属する部署や企業、およびその企業が属する業界を、内部環境とはその人自身の経験や性格、価値観を指す)。戦略立案をキャリアデザインのアナロジーとして考えることができるならば、戦略立案はキャリアデザインのアプローチからもっと学ぶことがあるのではないだろうか?DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2013年5月号を読みながら、そんなことを考えてみたりした。

 (1)過去から学ぶ
 キャリアデザインでは、過去の振り返りを重視する。単にこれまでの職務経験を分析して強み・弱みを整理するだけでなく、時には幼少時の記憶まで遡りながら、性格や価値観をも掘り下げる。こうした振り返りを通じて、自分は何が得意なのか?どういうタイプの人間なのか?どんなことを人生の中で大切にしているのか?を明らかにしていく。簡単に言えば、アイデンティティの明確化である。こうした作業が重視されるのは、結局のところ、本人のアイデンティティと一致した仕事こそがその人に最もフィットした仕事であり、アイデンティティから外れた仕事は、本人がどれほど望んだとしても、十分な成果や満足が得られない、と考えられているからである。

 翻って企業の戦略立案を見てみると、内部環境分析で自社の強み・弱みは分析するが、自社の価値観まで踏み込むことはめったにない。自社の価値観とは、社員が日常業務の中で様々な意思決定を下す際に拠り所としている判断基準や優先順位、行動規範であり、長年の事業の中で培われ、企業文化の中核となっているものである。ある企業はスピードや効率を重視するのに対し、別の企業は品質や手厚いサービスを重視するのは、価値観の違いの表れの一例である。ここで重要なのは、アイデンティティから大きく外れた仕事では成果が出せないのと同様、企業文化から大きく外れた戦略も成功の確率は低いのではないか?ということである。

 この点で、本号の「未来は『過去からの学び』でつくられる 組織の歴史は変革リーダーの武器になる」(ジョン・T・シーマン, Jr、ジョージ・デイビッド・スミス)という論文は興味深い。この論文は組織のリーダーに対し、自社の歴史ともっと向かい合うことを勧めている。
 歴史感覚を持ったリーダーになることは、歴史の奴隷になることではなく、歴史が持つ力を認識することである。進化を続ける文化や能力、多様な環境で競争を重ねながらの成長、政府や他の勢力とのやりとりなど、企業が蓄積してきた経験は、経営幹部の選択や、従業員の未来に対する考え方に影響を与える。(中略)

 彼らは、変化がどのような形を取りうるのか、また、取る必要があるのかをよりよく見極めるために、自社の集合的な経験を自分の思考の一部として明確に取り入れている。そこには、どんなに困難な時でも変化を受け入れようと人々に思わせるようなストーリーが豊富に見つかる。
 
(2)大まかな方向性を決めてドリフトする

 キャリアデザインでは、将来の目標を細かく設定し、目標に至るアプローチやスケジュールを緻密に策定することをあまりよしとしない。どんなに用意周到にプランを練っても、予期せぬ出来事が起きるのが人生というものであり、時には偶然がよい結果をもたらしてくれることを我々は知っている。だから、大まかな方向性だけを定めて、後は時の流れに身をゆだねてみよう、というのがキャリアデザインの考え方である。キャリア論の研究で知られる金井壽宏教授は、これを「キャリア・ドリフト」と呼んでいる(金井壽宏『働くひとのためのキャリアデザイン』)(※1)。

働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)働くひとのためのキャリア・デザイン (PHP新書)
金井 壽宏

PHP研究所 2002-01

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 ところが、戦略立案ではこれとは正反対のことが行われている。つまり、経営層が明確な業績目標を設定し、それを各部門の目標にブレイクダウンし、さらに各社員の目標へと落とし込む。それぞれの部門や社員は、目標を達成するためのアクションプランを詳細に立案することを強いられる。個々の人間のレベルではドリフトがよしとされるのに、人間が集まる組織になった途端に、ドリフトは望ましくないものとされてしまうのである。

 確かに、様々な思惑を持った社員を同じ方向に向かわせるために、体系化された目標を持つことは重要かもしれない。だが、個人と同様、組織もまた偶然に左右されるものである。ドラッカーは、有名な「イノベーションの7つの機会」のうち、最初に「予期せぬ成功と失敗の利用」を挙げており、これが最もリスクが低いと主張した(ピーター・ドラッカー『イノベーションと企業家精神』。旧ブログの記事「ドラッカーによるイノベーションの「7つの機会」」を参照)。

 精緻な戦略を練り上げるのに血眼になるよりも、大まかな戦略的方向性だけを定めて、環境が変化するままにふらふらと進路を変えてみることを許してみてはどうだろうか?ターゲットとしていなかった顧客に首尾よく製品が売れた、研究所で当初の計画とは違う発見があった、全く異なる業界から提携の話を持ち込まれた、思わぬ業界から新規参入があった、そんな偶然から、当初は予想もしなかった事業機会が見つかるかもしれない。

イノベーションと企業家精神 (ドラッカー名著集)イノベーションと企業家精神 (ドラッカー名著集)
P.F.ドラッカー 上田 淳生

ダイヤモンド社 2007-03-09

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 (3)意図的に周辺視野を広げて多面的になる
 (2)と似ているが、(3)は「わざと脇道へ逸れる」ことを表している。心理学者パトリシア・W・リンビルが構築した「自己複雑性の理論」というものがある。簡単に言うと、「自分を単純にとらえている人は挫折に弱いが、自分を多面的にとらえている人は挫折に強い」というものである。例えば、自分は強い人間だ、自分はいつも努力を怠ってはならないなどと単純化してとらえる人は、自己否定しがちになる。なぜならば、誰でも泣きたい時はあるし、怠けたい時もあるからだ。

 これに対して、自分はいい加減な時もあるし、几帳面なところもあると多面的にとらえられる人は、「ああ、またやっちゃったな」と自分を許すことができる。「○○だけど△△な部分もある」。これを矛盾ととらえるのではなく、そのまま自分だと受け入れることが大切である(※2)。

 この理論をもう少し拡張すると、自分はあれもこれもできる人間だという具合に、アイデンティティが多面化している人の方が挫折に強いということになる。この乱気流の時代、自分の今の仕事が、企業の業績悪化によって一瞬のうちに無に帰すことも珍しくない。アイデンティティが単一の人は、そこで人生が終わったかのような恐怖に襲われるだろう。しかし、アイデンティティが複雑な人は、その一部が失われたにすぎず、今度は別の一面に光を当てて、新たな道を歩みだすことができるに違いない。もちろん、あまりにもたくさんのことに手をつけると、全てが中途半端に終わるリスクはある。だが、「自己複雑性の理論」に従えば、ある程度、具体的には3つか4つぐらい、自分を表現できる仕事を持つことがキャリア上は望ましいと言える。

 一方、企業戦略では「選択と集中」がよしとされる。元々はGEのジャック・ウェルチが打ち出した方針であり、ウェルチは「全ての事業でナンバー1か2を目指す。それができない事業からは撤退する」と宣言した。だが、忘れてはならないのは、GEは世界で最大級の多角化企業だということである。GEは選択と集中を掲げながらも、実際にはナンバー1か2を目指せそうな事業なら、GEのコア・コンピタンスであるM&Aとマネジメントの能力を活かして何でもやっているのである。

 日本でもGEに倣って、NEC、ソニー、シャープ、パナソニックが1990年代後半から2000年代にかけて選択と集中を行った。しかし、いずれの企業も現在、巨額の赤字を計上するなど不振に陥っている。だが、同じ家電業界の中でも、日立だけは2013年度3月期の営業利益が4,200億円に上る見通しである。日立は常々「総合力」という言葉を使って自社の戦略を説明してきた。ある事業が振るわなくても、他の事業でカバーできるポートフォリオが成立しているということだ。企業も過度の「選択と集中」に頼るのではなく、むしろ「自己複雑性の理論」に従って、意図的に周辺分野に進出することが、実は有効なのではないだろうか?


 (※1)この点で、本号の「政治的な駆け引きには理がある キャリア・アップと選挙運動の意外な共通点」(ドリー・クラーク)という論文にはやや違和感を覚えた。この論文では、選挙運動が”当選”というゴールから逆算して運動のスケジュールを細かく計画することに、キャリアプランも倣うべきだとされている。計画が全く不要だとは思わないが、計画ばかりに縛られるのではなく、今という瞬間を楽しみ、そこに意味を見出すドリフトも重要であると感じる。
 2012年の大統領選に出馬したバラク・オバマとミット・ロムニーについて考えてみよう。2人にとって最優先の目標は、11月6日の大統領選の勝利であった。そのためにこの日を最終ゴールとして、日程を遡ってなすべきことを詰めていった。2008年の大統領選挙が終わるか終わらないかのうちから、オバマとロムニーのキャンペーン・チームは2012年に向けた行動を起こしている。まずは予想投票率を計算し、勝つためには何票が必要かを推定したのである。

 両チームとも、各地域で何人のボランティアを募集すべきなのか、選挙資金をいくら集めればよいのか、何軒の家を訪ねるべきか、といった目標到達に向けた具体的な活動について、月次ベースでなるべく詳細な計画を立てた。

 自分のキャリア目標をこのように設定し、達成しようとすることには、ためらいを覚える人が多いかもしれない。(中略)しかし、このような疑問を抱くことは、「有権者は私のよさをよくわかっているのだから、キャンペーン戦略など必要ない」と主張する現職の政治家のようなものである。

 (※2)古川武士『マイナス思考からすぐに抜け出す 9つの習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2012年)

マイナス思考から すぐに抜け出す9つの習慣マイナス思考から すぐに抜け出す9つの習慣
古川 武士

ディスカヴァー・トゥエンティワン 2012-11-14

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