プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年05月14日

中小企業診断士が断ち切るべき5つの因習


私は基本的に、中小企業診断士の先生方は仕事の経験も人生経験も豊富で、お話をさせていただいても学ぶべきところが多く尊敬している。だが、私は新卒入社した会社が大手コンサルファーム傘下にあるシステムエンジニア部隊の会社であり、前職も大手コンサルファームの元パートナーが設立した会社なので、大手コンサルファームの考え方や心構えの影響を強く受けている。もちろん、大手コンサルファームの価値観にもよしあしはあるのは承知の上だが、そうした価値観に診断士の文化を照らし合わせてみると、「あれ?」と思うことが時々ある。今日はその中でも、「これは止めたほうがいい」と思う診断士の風習を5つ挙げてみたいと思う。

 (1)「社長を騙くらかす口達者になれ」という助言
 以前、診断士の勉強会で、各グループがグループ討議の結果を全員の前でプレゼンした後、ある先生がこう言った。「さすが診断士の先生、普段から口が達者で中小企業の社長を騙くらかしているだけあって、プレゼンがお上手ですね」最初は我が耳を疑ったのだが、別の勉強会では違う先生から、「診断士のスキルは、要するに社長をうまく騙せるかどうかにかかっているのだよ」とアドバイスを受けたことがあった。私が観察したところ、どうやら年配の先生方にはこういう考え方をされている方が少なからずいらっしゃるようである。

 「社長をうまく説得して、診断士が提案する改善策を実行してもらう」ことを「騙くらかす」と表現しているのだろうけれども、やはりこういう心構えには問題がある。私は言葉には言霊が宿ると信じている。普段から「社長を騙くらかせばいい」と思っていたり、実際に発言したりしていると、肝心な場面で社長に本当にウソをついてしまうと思う。これではプロして失格である。

 東京都中小企業診断士協会には、プロの独立コンサルタント=プロコンを養成するコースがいくつか用意されている。しかし、中にはコンサルタントとしての技術を磨くことよりも、「しゃべりがうまくなる」ことを目的としているものがある。私はそれは違うのではないかと思う。しゃべりが上手であることにこしたことはないが、診断士の本当の価値は、「中小企業の経営を改善する具体策を、きちんと紙に落とす」ことにあると考えている。しゃべりは1回限りの価値しかない。それに対して、紙の成果物は社長が何度も読み返し、時には社員とも共有して理解を深めることができる。私は、話す力よりも書く力の方が何倍も重要だと思っている(もっとも、紙重視が時に紙”偏重”になってしまうことがある点については後述する)。

 (2)有名なフレームワークの安易な混合
 診断士の先生の中には、必ずしもフレームワークの使い方が上手とは言えない方がいらっしゃる。その中でも一番多いのは、戦略やマーケティングなどの有名なフレームワークを混ぜ合わせてしまう、というパターンである。以前、マーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)を横軸に、3C分析の3C(Company、Competitor、Customer)を縦軸にとった表を見かけたことがある。しかし、よく考えてほしい。CompanyとCompetitorの列は埋められるかもしれないが、Place×Customerなどのマスには一体何を書けばいいのだろうか?どうしても表で分析したいのであれば、縦軸にはCompanyとCompetitorのみをとって、自社と競合他社のマーケティング・ミックスの違いを整理し、差別化戦略を導出する、というのが筋であろう。

 別の報告書では、SWOT分析を行った後に、マイケル・ポーターのファイブ・フォーシズ・モデルとバリューチェン分析を行っていた。だが、SWOT分析がすでに外部環境と内部環境の分析になっているのだから、ファイブ・フォーシズ・モデルで改めて外部環境を、バリューチェーン分析で改めて内部環境を分析する必然性は低い。フレームワークを多用すると、フレームワークから導かれる示唆が分散してしまい、論理的整合性を取るのが難しくなる。これはフレームワークを「使っている」のではなく、フレームワークに「使われている」状態である。

 (3)自分にさえ解ればよいというロジックの組み立て
 私は、コンサルタントとしての本当の価値は、書籍で出回っているようなフレームワークを使うことではなく、オリジナルのフレームワークを創造することにあると考えている。有名なフレームワークしか使えないコンサルタントは、クライアントがそのフレームワークに精通して使いこなせるようになったら無価値となる。クライアントに高い価値を提供できるコンサルタントは、クライアントが思いつかないようなフレームワークを構想する。

 だが、ここに落とし穴がある。診断士の先生が作る独自フレームワークの中には、第三者の目から見て疑問を差し挟みたくなるようなものがある。著作権の問題で具体例を挙げることができないものの、フレームワークを構成する要素がMECEになっていなかったり、フレームワークの各要素に書き込んだ内容とフレームワークから導かれる示唆との間にズレがあったりする。コンサルファームであれば、変なフレームワークを作るとプロジェクトチームの他のメンバーから滅多打ちにあう。しかし、診断士は1人で活動することが多く、他者からフィードバックをもらう機会が少ない。それが、独り善がりのフレームワークを生み出す一因なのかもしれない。

 ある先生は、「他の人には理解できなくても、自分の中で納得できていればそれでよい」と話していた。しかし、相手に理解されないロジックなどに価値はあるのだろうか?別の先生は、「100の知識はあるが0しか伝えられない人と、60の知識しかないけれど40は伝えられる人がいたら、後者の人の方が優秀である」とおっしゃっていたが、私もこの先生の見解に賛成である。

 (4)報告書に大量の紙を使う風習
 これは診断士だけではなく大手コンサルファームとも共通する問題なのだが、診断士もコンサルタントも、とかく分厚い報告書を作りがちである。クライアントから高いフィーをもらっているのだから、それに見合った成果物を作成しなければならないとの思いが、報告書の枚数を増やしているのかもしれない。とはいえ、クライアントにとっての価値は、報告書の量ではなく質である。

 診断士の世界では、どうやらワードで100枚程度の報告書を作成するのが普通になっているようだ(ちなみに、コンサルファームでもパワーポイントで100枚程度の報告書を作成する)。しかし、ある先生が苦労して作った報告書の大作を持って社長に会いに行ったところ、「私が知りたいのはどうすれば売上が伸びるかであって、こんな分厚い報告書ではない」とお叱りを受けたという話を聞いた。私は、他の多くの社長も、口には出さないが内心はそう思っているのではないかと感じる。中小企業の社長は忙しい。ヒアリングの時間を確保するのにも一苦労する。飲食店やスーパーなどの小売業だと、営業時間中にはまず会わせてくれない。そんな社長に、100ページの報告書をじっくりと読む時間などないことは容易に想像できる。

 私も、昔は100枚を超える報告書をよく作っていた。だが、あるクライアントから、「経営幹部向けの資料はA3で1枚にまとめてほしい」と言われた時から、報告書のスタイルを変えることにした。すなわち、メインの成果物はA3で1~2枚とし、具体的なロジックやデータなどはサブの成果物としてA4で100枚程度の資料にまとめることにしたのである。

 昔、ある人が「うちの部長がコンサルタントの作った1枚の紙を見て嬉しそうにしているんだよ。コンサルタントにいくら払ったのか聞いたら、1,000万円だという。1,000万円でたった1枚なのか?」とこぼしているのを聞いたことがある。しかし、その1枚に1,000万円をはるかに超える利益をもたらしてくれるアイデアが書かれていたら、それでよいのではないかと私は思う。

 (5)自分の専門外の仕事は他の診断士に丸投げすればよいという風潮
 診断士は東京都だけで約4,000人いる。この人的ネットワークは強力である。何か解らないことがあっても、ネットワークをたどっていけば、ほぼ間違いなくその道の専門家を探し出すことができる。しかし、この豊富なネットワークが、かえって個々の診断士の能力の伸長に制限を加えることがある。つまり、クライアントから自分の専門外の仕事が来たら、それに詳しい誰かに任せてしまえばよいという妙な安心感を与えてしまうのである。

 実際、「流通業には詳しいが製造業はさっぱり解らない」、「マーケティングには強いが財務には弱い」と公言して、自分の強み以外の仕事に消極的な先生がいらっしゃる。だが、ある分野の知識は別の分野にも応用が利くことが多い。工場診断を得意とする先生が、ある時スーパーの診断をすることになった。その先生にとってスーパーは全くの畑違いだったけれども、工場の業務改善の視点でスーパーの業務を観察してみると、様々な改善点が見つかったという。

 診断士は、いろんな業界からいろんな相談が飛んでくる。経営に関することだけでなく、同族経営で親族同士がもめているとか、事業継承にあたって税金を少なくしたいといった相談まで来る。特定の分野で高い専門性を持つことはもちろん重要ではあるものの、同時に常に広い視野も持っておき、他の専門家につなぐまでの間に論点を整理し、他の先生に引き継ぐにあたって議論の頭出し程度のことはする必要があると思う。

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