プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年06月05日

シーナ・アイエンガー『選択の科学』―選択をめぐる4つの矛盾(後半)


選択の科学選択の科学
シーナ・アイエンガー 櫻井 祐子

文藝春秋 2010-11-12

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 (前回の続き)

 (3)人間は選択をする際に様々な情報を参照し、その意味を解釈する。その過程において、人間は全く異なる2つの反応を示す。1つは「認知的不協和の解消」である。人間は、相矛盾する2つの情報の板挟みになると、不安、罪悪感、困惑を覚える。これが、認知的不協和と呼ばれる心理状態である。我々は、正常な心の働きを取り戻すために、その矛盾を自分にとって都合のいいように解釈し、つじつまが合うように仕立て上げてしまう。

 これとは正反対の反応が、「確証バイアス」である(※本書では「確認バイアス」という言葉が使われているが、心理学の一般的な用法では「確証バイアス」が正しい)。我々は、自分の考えを裏づける情報を、そうでない情報よりも積極的に受け入れる傾向がある。何と言っても、自分の考えを疑うより、その正しさを証明する方が気分がいい。だから、賛成意見だけをじっくり考慮し、反対意見は頭の片隅に追いやってしまう。

 「認知的不協和の解消」に関する研究としては、ベニントン・カレッジに関する研究が取り上げられている。ベニントン・カレッジは、ラルフ・ワルド・エマーソンの自己信頼の思想に重きを置いた、実験的な教育哲学に基づいて創立された大学である。大学のコミュニティは自給自足を目指し、固い結束を誇っていた。教授陣は若く(50歳を超える教授はいなかった)、一様にリベラルで、学生とは上下関係ではなく、温かい気の置けない関係で結ばれていた。

 ベニントン・カレッジに在籍していた400人弱の女性を対象に聞き取り調査を行ったところ、彼女らは一般に裕福で保守的な家庭の出身であったにもかかわらず、その多くが在籍中に政治的思想の転換を経験していた。しかも、在学中に身につけた新しい政治的アイデンティティは、その後の生涯にわたって揺るがなかったことが、25年後と50年後の追跡調査で明らかになった。

 一方、「確証バイアス」の一例としては、次のエピソードが紹介されている。一部の専門家は、ソ連がいわゆる「悪の帝国」だというスタンスをとっていた。ところが、スターリンが共産党穏健派によって地位を追われそうになっていたことを示唆する史料をソ連の文書館が新たに開示した時、彼らは史料を分析してあら探しをした。つまり、「ソ連は『悪の帝国』である」という自分の主張にとって不利となる情報を拒否し、自説を固持したわけだ。

 (4)人間には、選択に関わる2つのシステムが備わっている。1つは「自動システム」と呼ばれるもので、素早く、たやすく、無意識のうちに作用する。このシステムは感覚情報を分析し、それに迅速に対応して感情や行動を引き起こすことから、常時作動している”隠れた”プログラムと言ってよい。これに対し、「熟慮システム」と呼ばれるもう1つのシステムを動かしているのは、未加工の感覚情報ではなく、論理や理性である。熟慮システムが扱う対象は直接的な経験にとどまらないからこそ、我々は選択を行う時、中長期的な視点に立って判断を下すことができる。

 「自動システム」に振り回されると、将来の利益を犠牲にして目の前の短期的な利益に走ってしまいがちになる。1960年代に心理学者ウォルター・ミッシェルが行った「マシュマロテスト」(※説明すると長くなるので、詳細はリンク先を参照)では、子どもは今すぐに1個のマシュマロを食べるか、15分待って2個のマシュマロを食べるかという選択を迫られた。しかし、大半の子どもは我慢できずに1個のマシュマロに甘んじてしまった。

 子どもだから「自動システム」の誘惑に負けたというのではない。大人も「自動システム」の虜になってしまうことがある。次の2つの質問を考えてみよう。

 (A)1か月後に100ドルもらうのと、2か月後に120ドルもらうのとでは、どちらを選ぶか?
 (B)今100ドルもらうのと、1か月後に120ドルもらうのとでは、どちらを選ぶか?

 著者がこのテストを実際にやってみたところ、(A)では、ほとんどの人が20ドル余分にもらうために待つ方を選んだ。だが(B)では、1か月間待つよりも、少ない金額を今もらう方を選んだ人がほとんどだった。論理的に考えれば、どちらの問いも、1か月待てば取り分が20ドル増えるという点で同じだ。しかし、”今”お金が手に入るとなると、すかさず自動システムが作動するのである。

 とはいえ、熟慮システムが優れていて、反対に自動システムが劣っているという簡単な話ではない。幸せの問題が持ち上がる時は、自動システムにもっと注意を払うべきなのかもしれない。ある実験では、協力者に5種類のポスターの中から自宅に飾るポスターを1枚選んでもらった。ポスターはモネ、ゴッホの作品、そしてたわいない動物の絵が3種類であった。ほとんどの人が直感的にモネなどの芸術作品のポスターを選択した。

 次に、選択の理由を説明してもらったところ、被験者は動物の絵を好む理由の方が説明しやすいことに気がついた(印象派の絵のよさを説明するより、微笑む牛の絵のよさを説明する方が通常は簡単である)。その結果、被験者は動物の絵を好むようになり、印象派の絵をやめて動物の絵を選ぶ人が増えた。だが、数か月経つと、もともとの好みが頭をもたげた。自宅の壁に動物の絵を飾った人の4人に3人が、毎日その絵を見なければならないことを後悔したのに対し、最初の直感に忠実に従ってモネかゴッホを選んだ人たちは、誰も選択を後悔しなかった。

 別の実験では、カップルに相手への満足度に関するアンケートに回答してもらった。この時、一部の協力者には、2人の現在の関係を作ったと思われる要因をじっくり考えて、できるだけ多く書き出してもらった。残りの協力者には、心に浮かんだ要因をそのまま記入してもらった。

 7か月から9か月後、カップルがまだつき合っているかを追跡調査したところ、直感的な評価が2人の関係が長続きするかどうかを正確に予測していたのに対し、理性的な分析による評価はほとんど無関係だった。つまり、2人の関係を徹底的に分析して、非常にうまくいっていると結論づけた人たちは、重大な問題があると判断した人たちと同程度の確率で破局していた。

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