プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年06月11日

『破壊的イノベーション(DHBR2013年6月号)』―イノベーション偏重に対する楠木建教授の警告


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 06月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 06月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2013-05-10

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 遅ればせながら先月号のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの感想。DHBRは時々相矛盾するような内容の論文を同時に載せて、読者の思考を試そうとすることがあるのだが、今月号は相反する内容が多く軸がブレまくっている印象を受けた。今回と次回の記事では、その矛盾を私なりに3点にまとめてみたいと思う。

 (1)近年のビジネス界は、「イノベーションは企業の重要な成長源である」という点で見解が一致していると思われる。イノベーションに一番躍起になっているのがアメリカで、21世紀に入ってからは国家を挙げてイノベーション人材の育成に注力している。2004年12月に公開された『パルサミーノ・レポート』(※パルサミーノとは、この報告書の取りまとめ役であったIBM会長サミュエル・パルサミーノのことである)のテーマは、「イノベーションによる競争力強化」であった。

 新興国の企業がアメリカ企業に対して、コスト優位性で勝負を仕掛けてくるようになると、アメリカは技術ではなく、製造プロセスの上流にあたる「イノベーティブな製品コンセプトの開発」にシフトした。そして、既存市場のパイの奪い合い(=レッドオーシャン)の代わりに、自らの手による市場の創出(=ブルーオーシャン)を目指すことにした。

 本号も基本的にはこのような背景を前提としている。ところが、『ストーリーとしての競争戦略』で知られる一橋大学大学院の楠木建教授は、イノベーションばかりを追求する昨今の企業の姿勢について、次のように疑問を呈している。
 (イノベーションの)非連続性といいう定義からして、イノベーションはめったに起きない現象である。「イノベーションを連発して・・・」というような言葉を安易に連発する人は、イノベーションを誤解しているとしか言いようがない。(中略)

 技術進歩であれば、「できるか・できないか」の問題なので、「できる」ようになるためのさまざまな方法論はありうる。しかし、話がイノベーションとなると、それが稀にしか起きない例外的な事象であるだけに、「こうやったらイノベーションを起こせる」というストレートな処方箋はなかなか出てこない。
(楠木建「イノベーションは技術進歩ではない クリステンセンが再発見したイノベーションの本質」)
 クリステンセンが言う破壊的イノベーションを起こすために求められるマインドセットを一言で言えば「がんばるな」である。イノベーションは「がんばればできる」というようなものではない。むしろ「イノベーションを起こそう!さあ、がんばろう!」という企業の努力そのものがイノベーションの阻害要因となってしまう。(中略)

 その視点から見れば、サムソンのスタンスは非常に明快だ。口では「イノベーション!」と言いながらも、彼らは口ほどにはイノベーションを信じていないように見える。価値次元を変える、非連続性などという概念は迷惑だと言わんばかりに技術進歩に徹し、既存の価値次元で他社よりも先を行くことで存在価値を出している。
(同上)
 イノベーションは成長源であると同時に劇薬でもある。ブルーオーシャン戦略の代表例としてかつて称賛された任天堂のWiiは、ソーシャルゲームという破壊的イノベーションの攻撃を受けて苦境に陥っている。後継機のWii Uは、ソーシャルゲームにはないゲーム体験を提供することを謳っているものの、巻き返しは十分と言えない。

 また、21世紀に入ってからiPod/iTunes、iPhone、iPadという3つのイノベーションで時価総額世界一の企業となったアップルも、天才的イノベーターであるスティーブ・ジョブズを失ってからは次の一手がなかなか出てこず、2013年1月~3月期の決算では10年ぶりの減益となった。アップルはiPad miniを出してみたり、iPhoneの廉価版を検討したりと模索を続けているようだが、これらの動きは既存のイノベーションを何とか延命させようとしているにすぎない。

 イノベーションはめったに起こらないからこそ、イノベーションによる売上高や利益が大半を占めるようになったら、それは成功というよりも危険信号と捉えた方がよいのかもしれない。どんなに魅力的なブルーオーシャンを発見しても、グローバル規模で競争が進む現在では、あっという間にレッドオーシャンへと転じてしまう。

 イノベーションによる売上高や利益が多い企業は、ブルーオーシャンでシェアを失うと、すぐに大ダメージを受ける。しかも、ブルーオーシャンを発見した企業に対しては、市場関係者が「これからも華々しいイノベーションを起こして業績を拡大するに違いない」という(あまり根拠のない)期待を寄せているから、その期待が裏切られた時の反動が株価の急落となって表れる。

 我々は任天堂とアップルの例から何を学べるだろうか?それは、企業はイノベーションに頼り切るのではなく、レッドオーシャンで戦えるだけの基礎体力をつけておく必要がある、ということだと考える。具体的に言えば、任天堂はWiiだけでなく、従来通りのゲームマニアをターゲットとしたプラットフォームの開発も同時に行うべきだったし、アップルはiPhoneやiPadで新市場を切り開くだけでなく、おおもとの事業であるPC事業にもっと注力するべきであった。

 楠木教授は日本企業に対して「イノベーションを起こそうとしてがんばるな」とエール(?)を送ったが、逆にレッドオーシャンにおける戦いでは、企業は頑張らなければならない。企業の努力をイノベーションばかりに傾けるのではなく、もっと本業を大切にしなければならないというのが、楠木教授の”裏のメッセージ”であるように思える。

 (続く)

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