プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年06月12日

『破壊的イノベーション(DHBR2013年6月号)』―イノベーションの組織は必ずしも独立運営が望ましいわけではない


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 (前回の続き)

 (2)本号には、クレイトン・クリステンセンが1995年にハーバード・ビジネス・レビュー上で発表し、破壊的イノベーションのコンセプトを世に広めた論文「大企業が陥る『破壊的技術』の罠 イノベーションのジレンマ」が、「記念碑的論文」(編集部曰く)として再録されている。ところが、その論文の直後には、「破壊的イノベーションはもう古い。これからは『ビッグバン型破壊』だ」と主張する論文が収録されている。
 私たちが慣れ親しんだこの破壊的イノベーションの戦略モデルにも死角がある。「破壊を仕掛ける側の企業は、最初は品質や性能で劣る低価格の代替品を提供して、最も利幅の薄いセグメントを攻めてくるため、既存企業にはスカンクワーク・チームを立ち上げて次世代製品を開発する時間的余裕がある」という前提を置いているのである。(中略)

 この種の(「ビッグバン型破壊」の)イノベーションは競争のルールを変えてしまう。私たちは、成熟製品が新技術によって駆逐される様子にも、製品ライフサイクルが短縮の一途をたどることにも慣れている。ところがいまや、製品ライン全体、つまり市場全体が一夜にして創造されたり、破壊されたりしている。破壊者は彗星のように現れて、瞬く間に至るところへ勢力を広げる。この破壊的な動きがいったん始まると、対抗するのは容易ではない。
(ラリー・ダウンズ、ポール・F・ヌネシュ「常識を超えたスピードで市場に浸透する 破壊的イノベーションを超えるビッグバン型破壊」)
 個人的には、この2つは著者が言うような相互に排他的なイノベーションではなく、タイプが異なるイノベーションだと考える。破壊的イノベーションは、市場に出回っている製品の性能が進歩しすぎて、そこまでの性能を求めていない顧客層が生まれた時、彼らに対して利便性重視の技術で勝負をかけるイノベーションである。つまり、市場をじっくりと観察していれば、破壊的イノベーションが現れそうなスイートスポットを特定することができる。そこに、クリステンセンが重視する「理論」―「何をすれば、どうなるか?」という因果関係の説明―としての価値がある。

 これに対して、著者が「ビッグバン型破壊」と呼ぶイノベーションは、論文をよく読むと、ターゲット顧客も決まっておらず、製品用途もはっきりしない状況で、多数の試作品を世界中にばらまき、それに反応しそうな顧客を見つける、というアプローチをとっている。そして製品用途は、潜在顧客が試作品をあれこれと使ううちにはっきりしてくるのである。こうしたイノベーションは、製品の全世界展開と製品の逐次バージョンアップが容易なインターネットサービスにおいてよく見られる。要するに、ビッグバン型破壊は、言葉は悪いが、「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」という言葉がぴったりの、先が読めない世界なのである。

 (3)ピーター・ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の中で、イノベーションを実施する組織は、既存事業の組織から独立させて運営すべきだと主張した。クリステンセンもドラッカーの考えを受け継いでおり、本郷に再録された論文「大企業が陥る『破壊的技術』の罠 イノベーションのジレンマ」や著書『イノベーションのジレンマ』などで同様の主張を行っている。

 破壊的イノベーションは最初から利益が出ることが少ない。にもかかわらず、破壊的イノベーションを既存事業と同じような利益目標で評価・管理してしまうと、破壊的イノベーションはその芽を摘まれてしまう。そこで、組織を分け、異なる業績評価指標を用いることで、破壊的イノベーションを既存事業から守ろうというのがクリステンセンの意図するところである。

 しかし、本号には、既存事業の組織とイノベーションの組織がもっと連携すべき、言い換えれば、既存事業の組織は、イノベーションの成長を加速させるために、自らが持つ経営資源を積極的に差し出すべきだ、という論文が掲載されている。
 危機に瀕した既存事業内で新規事業を立ち上げて成功させるためには、独創性と大胆さが欠かせない。しかし、新規事業の規模を拡大して企業の成長エンジンとしていくには、もっと大切なことがある。それは、2つの組織が共存し、それぞれの強みを共有できるようにする構造である。それを担うのがケイパビリティ(組織能力)の交換であり、2つの変革(「既存事業のリポジショニング」と「破壊的な新規事業の立ち上げ」という2つの変革)の取り組みを調整し、それぞれが必要とするものを得ながら、他方の侵害から身を守れるようにするものである。
(クラーク・ギルバート、マシュー・アイリング、リチャード・N・フォスター「既存事業のテコ入れと将来の糧づくり 相反する2つの変革を同時に進める法」)
 本論文には登場しないが、例えばP&Gはイノベーションを既存事業の組織の中で育てる傾向が強い。P&Gは、社内のあらゆる場所でイノベーションのアイデアが生まれる仕組みを作っているが、どんなアイデアであれ事業化の可能性が見えてくると、そのアイデアは必ず既存事業のどこかの部門に引き継がれ、その部門がイノベーションの推進に対して責任を負うことになっている。つまり、イノベーションと既存事業は共存する(旧ブログの記事「イノベーションを既存事業部門から敢えて切り離さないP&G―『ゲームの変革者』」を参照)。

 全く新しい顧客に対し、全く新しい技術を使ってイノベーションを行うのであれば、既存事業との関連性が薄く、シナジーが見込めないため、ドラッカーやクリステンセンの言うように、イノベーションを別組織で運営するのが適切かもしれない。だが、そのようなイノベーションは非常に稀である上にリスクが大きい。また、組織を分けると、異なる組織風土が醸成されやすく、同じ企業体なのにまるで別企業のようになってしまう危険性もある。

 大半のイノベーションは、既存の顧客に対し新しい技術を用いた製品・サービスを提供するか、既存の技術を応用して新しい顧客を開拓しようとするものである(前者の例としては、セコムが有人のセキュリティサービスを提供していた法人顧客に対し、コンピュータによる自動セキュリティシステムを提供したこと、後者の例としては、富士フィルムがフィルム事業の衰退を受けて、フィルム事業で培った技術を化粧品に応用し女性の顧客を開拓したことが挙げられる)。すなわち、顧客または技術に関しては、既存事業のものを利用するわけだ。それならば、敢えて既存事業とイノベーションを完全な別組織にするよりも、むしろ有機的連携を目指した方がよい。

 具体的には、既存事業部門はイノベーションの組織に対して顧客リストを提供したり、マーケティング施策を共有したりする。あるいは、既存事業部門はイノベーションの組織と共同で技術開発を行ったり、イノベーションが抱える技術的な問題の解決を支援したりする。P&Gは既存事業部門のこうした活動に十分な意義を見出しているからこそ、既存事業部門の中でイノベーションを育成し、展開しようとしているに違いない。

 既存事業の製品とイノベーションが補完関係にある、またはイノベーションが既存事業の存続を脅かすことがない場合には、両者の連携は比較的スムーズに進むかもしれない。イノベーションに対する既存事業部門の貢献を評価する業績評価や人事考課の制度が整っていれば、両者の協力はより一層緊密になるだろう。問題は、イノベーションが既存事業の存続を脅かす場合である。破壊的イノベーションはまさにその一例であるし、イノベーションが既存事業の製品・サービスの代替品にあたる場合(例えば、固定電話にとっての携帯電話)にも問題が起きる。

 この場合に、双方の組織の摩擦を恐れてイノベーションを独立させると、実はイノベーションのスピードが減速してしまうのではないだろうか?イノベーションの組織は、既存事業部門が顧客リストを持っているにもかかわらず、一から顧客リストを作成してアプローチを行わなければならない。また、既存事業部門がせっかく築き上げてきたブランド資産も利用できず、市場におけるプレゼンスを確立するのに時間がかかってしまう。

 たとえイノベーションが既存事業の存在を脅かす場合であっても、両者を積極的に連携させる必要があると私は考える。そして、両者の調整を行うのは経営陣の役割だ。経営陣は、既存事業に代わってイノベーションがこれからの自社の主軸となること、既存事業からイノベーションへと徐々に人的リソースや資金を移行させることを、全社に対して明言しなければならない。両者の対立を避けるために別組織にして時間を稼ごうとしようものなら、かえって競合他社につけ入るスキを与えることになってしまうように思える。

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