プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年06月23日

【ベンチャー失敗の教訓(第23回)】サービスのコアな部分を外部企業に頼らなければならないという構造


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 製品やサービスのコアな部分は自社で製造・開発し、ノンコアの部分をアウトソーシングする。これはビジネスの鉄則であろう。ところが、X社は鉄則とは正反対のことを行っていた。

 X社の研修サービスは、診断とセットになっているものが多かった。受講者は研修前に診断を受けて自分のスキルやマインドセットのレベルを可視化する。そして、研修では自分の強みを伸ばし、弱みを克服するための方法を学習する。さらに、場合によっては、研修から一定期間が経過した後にもう一度診断を受診して、スキルやマインドセットのレベルがどのくらい向上したのかを確認することもあった。つまり、顧客(人事部および受講者)への提供価値のうち、診断が大きなウェイトを占めていたわけだ。

 だが、X社は大半の研修において、診断を自社開発せずに、外部の診断サービス専門会社を利用していた。例えば、「キャリア開発研修」では、コンピテンシー(ハイパフォーマーの行動特性)の診断サービスを使っていたし、「コミュニケーション研修」では、EQ(心の知能指数)の診断サービスを使っていた。診断サービス専門会社は、その企業独自のメソッドやアルゴリズムに基づいて設問や診断結果レポートを定式化している。よって、必ずしもX社が研修内容に合わせて測定したいスキルやマインドと完全に一致しているわけではない。そこで、設問やレポートのカスタマイズを依頼することになるのだが、それだけで百万単位の追加コストが発生していた。

 外部の診断サービスを利用することは、以前の記事「【第17回】投資対効果を無視して続けられた様々な投資」で述べたような投資対効果に関する問題をはらんでいたのと同時に、もう1つの深刻な問題を生み出していた。外部の診断サービス企業は、設立から何十年も経過している老舗の企業がほとんどであった。彼らの企業体質を批判するわけではないが、ベンチャー企業で求められるスピード感に彼らのスピードがついて行けていなかった。

 カスタマイズの可否を診断サービス会社の社内で検討してもらうのにも、カスタマイズフィーの見積を出してもらうのにも、我々の想定以上の時間がかかった。メールのやり取り1つをとってみても、総じてレスポンスが鈍い印象があった。営業担当者は早く顧客企業に診断サービスの中身を紹介し、研修の見積書を出したいのに、診断サービス企業からの連絡が遅いがために、作業が滞っているのを私は何度も目にした。X社が自前で診断を開発していれば、診断サービス会社とのやり取りに翻弄されるような事態は発生しなかったであろう。

 X社が外部の診断サービスを利用していたのは、長年にわたるデータの蓄積があり、診断結果に信頼性があると判断したからであった。逆に、X社が独自に診断を開発しても、ベンチャー企業であるがゆえに実績が少なく、顧客企業からの信頼が得られないと決めつけていた。

 だが、私が思うに、診断の信頼性を決めるのは、これまでに蓄積されたデータの量ではなく、診断結果を導くロジックである。この診断は何を測定しているのか?それはどのようなアルゴリズムによって計算されているのか?という点がはっきりしており、顧客にとって納得感があるものであれば、研修用の診断としては合格である。我々は科学的で厳密な実験をしようとしているのではない。あくまでも、受講者に自分の強みと弱みについての気づきを与えるのが目的である。その目的にかなった精度を目指せば十分であった。

 手前味噌な話で恐縮だが、私が開発に携わった「コンサルティング営業育成研修」では、コンサルタントに必要なマインドセットのレベルを測定する診断も合わせて自社開発した。Z社にいたコンサルタントとの議論を参考に、コンサルタントに求められるマインドを10個定義した。そして、各因子を的確に測定する設問を設定し、Z社内でのトライアルを経て設問を微調整した。社外での実績が全くないままスタートしたこの診断は、私の在籍中に約200人の受講者に受けてもらったが、受講者からは「診断結果には納得感がある」、「自分の課題がよく解った」という声が聞かれ、「この診断結果には納得がいかない」と言われたことは一度もなかった。

 「キャリア開発研修」で使っていたコンピテンシー診断に関しても、外部の診断サービス企業が用意したコンピテンシーの体系ではなく、ビジネスパーソンが長いキャリアを通じて開発すべきコンピテンシーについてX社としての体系を持ち、その体系に沿った診断を自社開発すべきだった。同様に、「コミュニケーション研修」においても、外部のEQ診断を単に有名で完成度の高い診断だからという理由で使うのではなく、X社が考えるコミュニケーション能力とは何かを整理し、能力を構成する各要素のレベルを測定できる診断を自社で作ればよかった。

 X社は、外部企業から何度も要求される数百万円のカスタマイズフィーは支払えないということで、ある時からはカスタマイズを途中で止めたまま診断サービスを提供していた。しかし、中途半端にカスタマイズされた診断は、その診断結果と研修での学習内容が相矛盾する箇所があった。実績と信頼度が高いという理由で外部企業を採用したのに、かえって受講者を混乱させ、満足度を下げる結果に陥っていたというのは何とも皮肉である。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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