プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年07月05日

補助金目当ての計画⇒×、「事業計画を真剣に考えていたら、たまたま補助金があった」⇒○


 「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」(通称「ものづくり補助金」)とは、その名の通り、中小企業が実施する新規性のある試作品の開発や設備投資などを支援する補助金である。対象となる事業は、

 (1)顧客ニーズにきめ細かく対応した競争力強化を行うものであり、
 (2)中小企業経営力強化支援法の認定経営革新等支援機関(認定支援機関)によって事業計画の実効性などが確認されていて、
 (3)「中小ものづくり高度化法」22分野の技術を活用した事業

である。試作品開発や設備投資にかかる原材料費、機械装置費、直接人件費、技術導入費、外注加工費、運搬費、知的財産関連費などの諸経費が補助金の対象となっており、事業に要する経費の3分の2(上限1,000万円)が助成される。

 ものづくり補助金は、第1次募集が今年の3月15日からスタートし、5月31日までに採択事業者が決定された。現在は第2次募集が行われており、7月10日が締切となっている。第1次募集の応募事業者数のデータは公開されていないが、事業計画書の審査を行った方の話によると、東京都では約1,000件の応募があり、そのうち採択されたのは400ほどらしい。

 私は今、中小企業診断士の先生から紹介で、事業計画が採択されたいくつかの中小企業の計画実行を支援させていただいている。採択された中小企業に共通して言えるのは、初めから補助金狙いだったわけではない、ということだ。

 事業計画書の審査官の話を聞くと、中にはとんでもない計画書もあるという。計画書には、過去2年分の財務諸表と、向こう5年間の予想売上高を記入しなければならないのだが、過去2年間ほとんど売上がゼロ、あるいはほとんど債務超過状態であるにもかかわらず、いきなり3年後には「売上高10億円になります!」と放言しているような計画書もあるという(そういうトンデモ計画書の大半は、IT系らしい)。こういう計画書は、明らかに補助金目当てであり、補助金で何とか会社を延命させようという意図が丸見えである(最高1,000万円というのは、補助金としては大規模の部類に入り、補助金目当ての企業の餌食になりやすい)。

 採択された中小企業は、これとは全く対照的だ。経営者が事業計画を苦心しながら練り上げていたところに、たまたま補助金の話がいいタイミングで舞い込んできたのである。私が支援にあたっているある企業は、子供向けに販売していた既存製品を高齢者市場に展開しようと画策し、経営ビジョンの見直しまで行っていた。また別の企業では、自社の工場の生産性を上げるために工場の設備を見直し、新しい設備を自社開発していた。それが他の業界向けにも外販できそうだったので、その製品の販売計画を立案していたところだった。いずれも、社長が考えていた計画が、偶然にも補助金の要件に当てはまっていたので、補助金に応募した、というわけである。

 ものづくり補助金は採択された後が結構大変であり、原材料や機械装置などを購入する前には、ものづくり補助金事業の窓口となっている中小企業団体中央会に全ての見積書を提出し、承認をもらわなければならない。また、実際にかかった経費を算出するために、請求書や領収書などの証憑類を保管しておくことはもちろんのこと、架空取引でないことを証明する資料として原材料や機械装置などの現物の写真を撮影する、必要以上に大量の原材料を購入していないことを示すために原材料品の受払簿を作成する、社員が実際に試作品開発に関与したことの証拠として社員の日報をつけるなど、事務手続き上の要件が細かく定められている。

 補助金の財源は税金であるから、全ては税金が無駄遣いされていないかをチェックするためだと言ってしまえばそれまでなのだが、中小企業にとっては結構な負担だ。補助金目当ての企業ならば、エビデンスを残すことができずここでお手上げ状態になるだろう。補助金を上手に活用する企業は、必要なエビデンスをきちんと保管していることはもちろんのことだが、先駆的な企業は、自社の製品開発のスピードが補助金対応で遅れることがないよう、さらに上を行っている。

 例えば先ほど紹介した2社のうち、後者の企業では、中小企業団体中央会の承認をもらうよりも前に原材料を発注して試作品開発に着手している。補助金の対象となっている原材料の発注書と、承認前に試作品開発にあてた原材料の発注書を分けることで、試作品の先行開発が可能となっている。先行発注により”試作の試作”を行い、補助金を活用して”本試作”を行っているというわけだ。こうした段階的な開発ができるのも、社長の頭の中に、事業計画の実行スケジュールがきちんと描かれているからに他ならない。

 ものづくり補助金に限らず、どんな補助金や助成金でもそうだが、補助金はあくまでも事業を補完する手段であって、補助金の獲得自体が目的となってはならない。経営ビジョンや事業戦略、ビジネスモデルこそが原点であり、その構想を実現するのに必要な資金の調達源の1つが補助金であるにすぎない。この点は、中小企業に対して様々な支援策を提案する我々中小企業診断士も心得ておかなければならない。なぜならば、ややもすると我々診断士は、補助金の要件に合致するように、中小企業の事業戦略を”捻じ曲げたくなる”誘惑にかられるからだ。

 一例を挙げると、「創業補助金」というものがあり、対象事業の中に「海外展開」が入っている。ただし、この海外展開は、国内の既存事業とは差別化された事業として実施することが要件となっており、単に国内向けの製品を海外展開するケースは対象外となっている。海外進出を考えている中小企業にこの補助金を紹介する際には、その企業がどのような海外戦略を描いているのかを十分に理解する必要がある。国内製品の海外展開を目指しているだけの企業に、補助金ほしさで(たいていは、補助金の一部が診断士の報酬となる)創業補助金を勧めると、企業が望まない新製品の開発を強いることになり、せっかくの戦略が壊れてしまう。

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