プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年07月15日

会社の危機的な状況を救う意思決定の拠り所は「企業理念」である


 今日は、ある中小企業の社長との会食でうかがった話を紹介したい。

 生活用品を製造していたそのメーカーは、順調に業績を伸ばしているところだった。会社設立から2年、同社の主力製品が全国的なヒットとなり、注文は百万個単位まで増加していた。ところが、そんな同社をある日、予期せぬ出来事が襲う。

 夜遅く、社長の携帯電話に、大口の取引先である大阪の卸業者から電話が入った。「こんな時間に電話が入るなんて、きっといい話ではないな・・・」社長はすぐさまピンときた。そして、その直観は正しかった。ただ、事態は社長が想定していたよりもずっと深刻だった。

 「おたくの製品ね、重量がかかると折れるらしいんよ」

 同様のクレームは、創業時から何度か受けたことがあった。だが、その時は出荷量が少なかったため、壊れる製品は例外中の例外として、十分な対策を講じていなかった。しかし、今やその製品の販売量は百万個単位に達している。卸業者が続けた言葉に社長は困惑した。

 「これでは売れへんから、全部返品したいんやけど」

 どんなにその製品が売れていると言っても、設立してまだ2年しか経っていない零細企業である。ここで返品を受けつけたら、大量の不良在庫を抱えてしまう。そんな在庫に耐えられるだけの体力はない。「倒産」―この2文字が社長の頭をよぎった。

 「いや、お気持ちは解ります。ただ、今返品されると、うちはつぶれてしまいます。そうすると、うちはその製品を作ることができなくなってしまいます」

 社長は精一杯の釈明をした。ところが、卸業者は追い打ちをかけるようにこう問いただした。

 「おたくの会社の理念は何や?『お客様の安全な暮らしをサポートする』っていうことやなかったんかいな?あんた、今ここで返品を受けつけへんと言うのやったら、危ない製品をお客様に売ることになるで。あんた、そうしたら嘘ついていることにならへんか?」

 全くの正論だった。言葉を続けることができなかった社長は、「5分だけ時間をください」とだけ告げて携帯電話を切った。5分だけ待ってくれと言っても、他の社員に相談することもできない。なぜならば、社長は帰宅途中であったからだ。夜の道で社長は一人立ち尽くした。どうするべきか?―約束した通り、社長は5分後に卸業者のもとに電話を入れた。

 「解りました。返品を全部受けつけます。あなたのご指摘通り、我が社の理念は『お客様の安全な暮らしをサポートする』ということです。今回、安全性が保証されていない製品をお届けしてしまった以上、責任を持って返品に応じます」

 「その言葉を待っとったんや!」卸業者は即答した。卸業者が納得して手を叩く音が聞こえるかのようだった。卸業者は続けた。「今回の製品ではお客様に売れへん。その代わり、今の製品よりも安全なやつをすぐに作ってくれ。そうしたら、それをお客様のところに売ってあげるわ」

 社長は、翌日からすぐに製品改良に取り組んだ。強度を上げるため、材料を変えた。設計も工法も変えた。その結果、原価は従来の3倍に膨れ上がった。しかし、売価は変えなかった。新しい製品に大阪の卸業者も大いに納得してくれた。

 ところで、不良品の返品の話があってから新しい製品ができるまでの間、このメーカーはどうやって資金難を乗り越えたのだろうか?実は、ここに何とも大阪人らしい人情話が隠れていた。製品改良に取り組んでいた社長に対して、卸業者はこんな提案をしてくれた。

 「おたくの会社も返品の件で大変やろ。うちはこれを正規の製品としてお客様に売ることはできへん。だから、代わりに、今回は別の製品にくっつける”景品”という形で使ったるわ」

 景品であるから、本来の半分以下の値段でしか売れなかった。それでも同社は、不良在庫を抱えることなく、多少のキャッシュも回収することができた。卸業者の機転のおかげで、同社は倒産の危機を乗り越えることができたのだ。

 それ以来、社長と卸業者とは20年来の長いつき合いになるという。「その卸業者の方と、来週から中国に1週間出張に行くんですよ。中国で新しいビジネスの種を見つけるためにね」 この話を私に教えてくださった社長は笑顔でそうおっしゃって、会食を切り上げた。

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