プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年07月20日

『起業に学ぶ(DHBR2013年8月号)』―起業家精神は必要条件だが十分条件ではない


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 08月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 08月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2013-07-10

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 本号では、『世界の経営学者はいま何を考えているのか』の著者である入山章栄氏が、「起業家精神は分析できる 世界の起業研究はいまなにを語るのか」というタイトルの論文で、起業に関する海外の研究をまとめている。アメリカの起業論では、起業家の「精神」を研究することが盛んであり、この分野で最も確立されたコンセプトは「アントレプレナーシップ・オリエンテーション」(EO:Entrepreneurial Orientation)だという。
 (ジェフリー・コービンとデニス・スリーバンの)両教授は、小規模企業が成功するために経営幹部に必要な「姿勢」(posture)に注目し、とくに革新性(innovative)・積極性(proactive)・リスク志向性(risk-taking)の3つが重要だと主張した。「革新性」とは新しいアイデアを積極的に取り入れる姿勢であり、「積極性」は前向きに事業を開拓する姿勢、そして「リスク志向性」は不確実性の高い事業に好んで投資する姿勢のことである。
 両教授はこの3要素を定量化する調査を開発し、「経営幹部の姿勢」指数と企業業績の関係を統計的に検証した。その結果、「事業環境が不安定な時には、経営幹部がこの3つの条件を満たしている企業ほど業績がよくなる」傾向が見られたという。

 だが、両者の関係はあくまでも相関関係であって因果関係ではない点に注意が必要だろう。この3要素で小規模企業の成功が決まるのならば、私の前職の会社は大成功していなければおかしい。「ベンチャー失敗の教訓」シリーズの記事「【第4回】何にでも手を出して、結局何もモノにできない社長」で述べたように、前職の経営陣は積極的に新しい事業を開拓しようとしていたし、「【第16回】かえって逆効果だった「豊富な資金源」」で述べたように、自らの私財をなげうってまでして事業を継続させようとしていた。彼らに「経営幹部の姿勢」アセスメントを受診させたら、満点に近いスコアが出たに違いない。にもかかわらず、会社の業績はボロボロであった。

 起業家精神だけでは、ベンチャー企業を軌道に乗せることができない。ウェブブラウザ「ネットスケープ」の開発者で、現在はベンチャーキャピタルを経営しているマーク・アンドリーセンは、本号のインタビュー「伝説のネット企業創業者が語る スタートアップ企業が目指すべきこと」の中で、一緒に仕事をしたい起業家の理想像を次のように語る。
 3つの要素を合わせ持つ起業家を支援することを目指しています。私たちが探しているのはプロダクト・イノベーターであり、同時に会社を興したいという起業家精神を持ち、さらにCEOになる度量と自制心も持つ人です。そのような人が本当に実力を発揮して10年間懸命に働けば、素晴らしい成果が出ます。その3つのうち1つでも欠けていると、不幸な結果となるのが普通です。
 こちらの主張の方がはるかに納得感がある。アンドリーセンの主張に従えば、起業家精神はスタートアップ企業の成功要因の1つでしかない。

 それに加えて、ベンチャー企業の経営陣はプロダクト・リーダーでなければならない。これは、自らが先頭に立って製品を開発するか、製品を販売することだと解釈している。経営陣自身が惚れ込んでいない製品を社員が愛することなどできないし、まして顧客に受け入れてもらうことは不可能だ。この観点からすると、「【第2回】営業活動をしない社長」や「【第3回】製品開発・生産をしない社長」で述べたように、前職の経営陣は失格だったと思う。

 「CEOになる度量と自制心」については、インタビューの中で詳しく述べられていないのが残念だ。私は、経営ビジョンを明確にし、それを粘り強く組織全体に浸透させていくことが「度量と自制心」に該当するのではないかと考える。経営ビジョンは、組織が様々な意思決定を下す際に常に立ち戻るべき原点であり、社員に業務の方向性を示す指針である。一言でいえば、その企業の「基軸」、「アイデンティティ」だ。我々は何者でありたいのか?というイメージを膨らますと同時に、我々は何者であってはならないのか?という、一線を越えないための歯止めとしても作用する。

 たかが経営ビジョンと侮るなかれ。先日の記事「会社の危機的な状況を救う意思決定の拠り所は「企業理念」である」でも紹介したように、経営ビジョンは企業の経営危機を救うこともある。ある中小企業の社長は、「経営ビジョンは憲法である」とおっしゃったが、まさにその通りだと思う。憲法が全ての国内法の上に立つ存在であるのと同様に、経営ビジョンは組織のあらゆる行動を規定する「組織の法」である。

 私はこれに加えて、スタートアップ企業の経営陣には、あと2つの能力が必要だと考える。1つは、「人を動かす力」である。ここで言う「人」には、顧客、社員、取引先やパートナー、株主や金融機関など、企業を取り巻く様々なステークホルダーが含まれる。もちろん、通常の企業の経営者であっても人を動かす力は不可欠だ。しかし、ベンチャー企業の場合は、実態がよく解らず、どう転ぶかもわからないような企業に周りの人々を巻き込むわけだから、自社に関わることのメリットを強力に訴求しなければならない。

 我が社の製品はどこが素晴らしいのか?我が社で働くとどのような働きがいが感じられるのか?我が社と取引するとどのようなメリットがあるのか?我が社に投資するとどのくらいのリターンが期待できるのか?といったことについて、論理的かつ魅力的なストーリーで語る力が、熱心な協力者を惹きつける上で重要な要素となる。

 もう1つは「営業や製造の生産性を上げるよう仕組み化する力」である。ベンチャー企業は体制が整っておらず、どうしても人海戦術的に日常業務をこなそうとしてしまう。だが、それではいつまで経っても企業を大きく成長させることができない。マンパワーに頼らなくとも、レバレッジを効かせることで高い生産性が上がるよう、様々な仕組みを導入することも、経営陣には欠かせない。

 具体的には、設備を導入してラインを自動化することかもしれないし、業務マニュアルを策定して業務品質を担保することかもしれない。あるいはシステム構築によって情報の流れを効率化したり、ナレッジ共有の仕組みを作って人材育成の時間を短縮したりすることかもしれない。このような取り組みによって、生業的な企業から、組織としての企業へと脱皮を図ることが求められる。そして、その取り組みをリードできるのは経営陣しかいない。

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