プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年09月22日

【ベンチャー失敗の教訓(第36回)】「この人とは馬が合いそうだ」という直観的な理由で採用⇒そして失敗


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 前回の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第35回)】人材育成がテーマの企業なのに人材育成の仕組みがない」では、人事考課や教育研修などの育成の仕組みが整っていないことに触れたが、3社は採用に関しても一貫した方針がなかった(その方針の下で採用された私がとやかく非難する資格はないのかもしれないが・・・)。そのため、「なぜこの人が採用されたのだろうか?」と社員が疑問に思うことも少なくなかった。特にZ社のC社長は、場当たり的な採用をする傾向が強く、直観的に人員を増やしている節があった。

 ある時、C社長が社員の親睦を深めるために、「日本酒同好会」を主催した。同好会には、社外の知り合いを連れてきてもよいことになっていた。その中に、Z社のシニアマネジャーの知り合いで、JRで雑誌『WEDGE』の編集に携わっていた人がいた。当時、Z社の本業とは別に、京都の町家を改装した旅館に個人的に出資していたC社長は、日本文化に造詣が深かったその彼と妙に馬が合ったようだ。C社長は「是非我が社に来てほしい」と彼を口説き落とし、十分な選考プロセスも踏まないままに、Z社に入社させてしまった。

 Z社は戦略コンサルティングの会社である。Z社に入社した彼が最初に任された案件は、ある情報通信業のM&Aに関するコンサルティングプロジェクトであった。しかし、JR出身の彼には、当然のことながらコンサルティングの経験などないし、雑誌の編集に求められるスキルとコンサルティングに求められるスキルには共通項も少ない。せいぜい、情報を収集する能力が共通する程度で、アウトプットを創出する思考プロセスも異なれば、アウトプットの表現方法も全く違う。プロジェクトマネジャー(その人はマッキンゼーの出身であった)は、彼の能力が十分でないと見るや、結局彼の仕事を全部巻き取って、自分でやるハメになってしまった。

 そのプロジェクトが終了してしばらく経った頃、C社長は副業で京都の町家風旅館に投資するだけでなく、Z社の本業のビジネスとして、日本の伝統文化をテーマとした新規事業を立ち上げようと考えた。そこで、日本文化に詳しいJR出身の彼に白羽の矢が立った。C社長はZ社の子会社という形で新会社を立ち上げ、資本金を提供した。ところが、事業経営と雑誌の編集は、コンサルティングと雑誌の編集以上に共通項がない。それに、日本文化に造詣が深いことと、日本文化をテーマとした事業をマネジメントできることは全くの別物である。

 事業経営の重責に耐えられなくなったのか、彼はいつの間にか会社に顔を出さなくなった。Z社では一応自宅勤務が認められていたため、しばらくはC社長も様子を見守っていた。しかし、いつまで経っても進捗の報告が上がってこないことにC社長も業を煮やし、一体今どうなっているのかと彼を問い詰めた。すると彼は、C社長の知らない間に転職活動をして、別の企業から内定をもらっていた。ポケットマネーで新会社の出資金を出していたC社長は怒り狂った。C社長は「あいつを詐欺罪で訴えてやる!」と息巻いていたが、詐欺罪の要件を満たさないし、元を正せば、1回会っただけで採用を決めてしまったC社長自身の軽率さに原因があった。

 C社長は他にも採用で失敗を繰り返している。ある時は、医学部出身で脳科学に詳しく、社会人になってからも時々脳科学の実験に携わっているという人を、「これは面白い人だ」ということで採用してしまった。彼に任せたのは、C社長がZ社の本業の傍らでやっていた投資ファンド事業であった。脳科学における科学的な研究方法と、投資ファンド事業に求められる数理処理能力の間には何らかの共通項があるのかもしれないが、少なくともC社長はそのような能力の関連性を検証することなしに、単に馬が合うという理由で彼を採用した。案の定、スキルの不適合が明らかになって、1年ほどしてから彼は退職に追い込まれた。

 またある時は、Z社で採用コンサルティングの事業を立ち上げることになり(自社の採用すらまともにできていない企業がコンサルティングを行うというのもおかしな話だが・・・)、外部から採用コンサルティングに詳しい人を探すことになった。候補者の中には、国会議員の秘書を務め、全国規模でボランティア事業を展開したこともあるという異色の経歴を持つ人がいた。C社長と彼の波長がたまたま合ったようで、またしても「これは面白い人だ」という理由で採用してしまった。

 ただし、この時は厳密は雇用契約を結ばず、個人事業主として独立していた彼の意向を尊重して、Z社と彼との間で業務委託契約を締結することになった。しかし、彼はC社長から事細かく指揮命令を受けていたため、事実上は雇用契約にあたると言っても過言ではなかった。彼の能力をよく調べずに契約を結んでしまったことが災いし、彼はC社長が求める水準の成果を上げることができなかった。さらに悪いことに、彼は秘書時代に公職選挙法違反で連座制を適用されていた、簡単に言えば前科持ちであることが後から解った。C社長は業務委託契約の破棄を言い渡したが、彼は今回の契約は事実上の雇用契約であり、契約の破棄は不当解雇にあたるとしてZ社を訴えた。その後、泥沼の裁判が続き、C社の業務が裁判対応で少なからぬ影響を受けた。

 ヒト、モノ、カネ、情報、知識という主たる5つの経営資源のうち、ヒトを除く4つの経営資源は、間違って調達してしまったとしても、使わなければ済む。機械装置や原材料を誤って買ってしまったならば売却すればよいし、最悪の場合全部廃棄すればよい。不要な情報を量産する情報システムを導入してしまったならば、社員にそのシステムを使わないよう告げればよい。知的財産のライセンスを購入したが使い道がなかった場合には、他社にそのライセンスを販売すればよい。カネを間違って調達したというのは、あまり問題にならない。カネは、ありすぎるとそれはそれで問題になるものの(以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第16回)】かえって逆効果だった「豊富な資金源」」を参照)、通常はないよりもあるに越したことはない。

 ただし、ヒトだけは間違って調達すると取り返しがつかない。仕事ができないからといって、簡単に首を切ることはできない。とはいえ何もさせずに放置しておくと、「なんであいつはろくに仕事もしていないのに給料をもらっているのだ?」と社員の間に不信感が広ガリ始める。そしてその間も、年間何百万というお金がコストとして出ていってしまう。だから、採用に関する意思決定は、慎重に慎重を重ねて下さなければならない。GEの元CEOであるジャック・ウェルチは、「経営には時に直観が必要だが、人事だけは直観で決めてはならない」と述べている(※清水勝彦『経営の神は細部に宿る』〔PHP研究所、2009年〕)。この言葉を3社の経営陣にも教えてやりたかった。

経営の神は細部に宿る経営の神は細部に宿る
清水 勝彦

PHP研究所 2009-05-21

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(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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