プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>@tomohikoyato谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士

Next:
next 『集合知を活かす技術(DHBR2013年9月号)』―社内のリアルコミュニケーションが機能不全では社外とのバーチャル協業は不可能
Prev:
prev 会議に出席するだけで解る企業文化の7つの特徴(その4~7)
2013年10月13日

【ベンチャー失敗の教訓(第39回)】「何をなすべきか」よりも「誰と働きたいか(働きたくないか)」で決まる組織構造


 >>シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】記事一覧へ

 組織とは、ミッションを達成するための複数の人々による協働体である。同じ組織に属する人々は、「我々の組織は何をなすべきか?」というその一点に集中しなければならない。ところが、情に流されやすい人間は、組織設計の論理ではなく、「私は誰と一緒に働きたいか?(働きたくないか?)」という情理に負けることがある。一緒にいたいかどうかは友人レベルの話であり、企業レベルの話とは言えない。だが、3社ではしばしば友人レベルの話で組織改編が行われた。

 X社の営業チームは、何かともめごとが絶えないチームであった。特に、営業部長とあるマネジャーの折り合いが悪かった。営業部長はキャリア研修やリーダーシップ研修を中心に、マネジャーは営業研修を中心に販売していたのだが、営業部長は「あのマネジャーの売っている営業研修は、内容がプアーで自分の顧客企業に紹介できない」と言い、マネジャーは「キャリア研修などの中身をちゃんと教えてくれないので、自分の顧客企業に提案できない」と言うありさまであった。

 見かねたA社長は、当時5人いた営業チームを分解して、営業部長が率いるチームとマネジャーが率いるチームの2つに分けた。そして、前者はキャリア研修やリーダーシップ研修に専念し、後者は営業研修に専念するように命じた。さらに、前者は「営業チーム」、後者は「事業開発チーム」と、名前まで使い分けることになった。

 この組織改編で思いもよらぬ被害を受けたのは、事業開発チームに配属されたもう1人のマネジャーであった。このマネジャーは、事業開発チームを率いるマネジャーの下で働くならば、そのマネジャーと同じ給与ではおかしいということになって、同じマネジャーであるにもかかわらず、給与を下げられてしまった。営業部長とマネジャーの個人的な対立のあおりを受けて減給処分を食らうというのは、何とも理不尽な話である。私ならば発狂していただろう。

 そもそも、営業チームを2つに分けるのは対処療法でしかなかった。営業研修の内容をもっと高度化し、競合他社との差別化ポイントを明確にして、X社として自信を持って提供できるものにする、キャリア研修やリーダーシップ研修の中身を解りやすくして、どの営業担当者でもスムーズに提案できるようにする、といったことが根本的な課題だったはずだ。ところが、営業チームの分割は、何の解決にもならなかった。むしろ、営業チームと事業開発チームの間に溝ができて、営業部長とマネジャーの対立が深まっただけである。

 相性に過剰に配慮した結果、組織改編が捻じ曲げられたことは他にもある。私がX社に入社してから3年ほど経った頃、3社を束ねる形で、持ち株会社を作ることになった(これも、無用な事務を増やすだけの無用な組織変更なのだが・・・)。Z社のC社長が持ち株会社のトップとなり、Z社の別の取締役がZ社の代表取締役に昇格してコンサルティング事業を牽引する予定であった。

 ところが、この取締役のマネジメント能力に疑問を持っていたあるシニアマネジャーは、「この取締役と一緒に仕事をしたくない。持ち株会社の中でC社長の下で仕事をさせてほしい」と全員の前で放言したのである。結局、新たにできた持ち株会社は、持ち株会社であるにもかかわらず、Z社の事業とは別にコンサルティング事業を行うという、何とも不可思議な構造になってしまった。

 C社長とこのシニアマネジャーは、Z社のコンサルティングに手を貸そうとしなかったし、顧客情報も渡さなかった。そして、逆もまたしかりであった。その後、このシニアマネジャーの退職に伴って、持ち株会社はなくなり、組織の歪みは解消された。C社長がZ社の代表取締役に復帰し、代表取締役に昇格していた取締役は元の取締役に戻った。だが、一連のごたごたのせいで、C社長とこの取締役を含むその他の社員たちとの間には、今まで以上に溝が広がってしまった。

 どんな人であっても人の好き嫌いはあるものだし、それをゼロにせよという無理な注文をするつもりはない。問題は、組織内に対立があった時に、対立を避けるようにして組織を細分化してしまうことである。これによって、短期的には対立を消すことができるだろう。しかし、長期的に見れば、細分化した組織がそれぞれ内部で結束力を高め、潜在的により大きな対立を生む火種となってしまう。つまり、「あいつは○○だからダメだ、嫌いだ」という意見がそれぞれの組織の中で増幅されてしまい、組織間で和解する機会と意欲を失ってしまうのである。

 逆説的だが、組織内で対立がある場合は、むしろ人員を増やして組織を大きくした方がいいのかもしれない。もちろん、対立の解消を目的として人員を増やすのではなく、あくまでも業績伸張に向けた取り組みの1つとして増員を実施するべきである。人員が増えると、コミュニケーションのパスが増えるので、対立を抱えたパスが全体のパスに占める割合は低くなる。そうすると、多少の対立があっても、組織内であまり目立たなくなる。それに、人員が増えて組織目標が大きくなれば、取り組むべき仕事も増えて、個人間の対立にかかわる時間もなくなる。

 3回のリストラで人員が激減した3社のうち、特にX社では、対立を避けるために細分化した組織が再び1つにまとまったことによって、くすぶっていた火種が一気に爆発してしまった。社員間の対立は以前よりも深刻化し、業績改善に向けた建設的な議論は、もはや不可能であった。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
 >>シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】記事一覧へ

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like