プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年10月15日

『集合知を活かす技術(DHBR2013年9月号)』―社内のリアルコミュニケーションが機能不全では社外とのバーチャル協業は不可能


Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 09月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2013年 09月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2013-08-10

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 本号の内容をものすごく簡単にまとめると、「新製品開発や新事業の立ち上げ、イノベーションの推進にあたって、社内外の多様な知を活用しましょう。遠く離れた社員や外部組織の人々を巻き込むために、IT(特にクラウドサービス)を上手に使いましょう」といった感じだろうか?

 昔、ある中小企業診断士からこんな話を聞いた。「アメリカ企業では、自社の社員を使おうが外部のコンサルタントを使おうが、最終的に成功すれば何でもよしとされる。一方、日本企業では自前主義が中心であり、外部のコンサルタントを使おうとすると、『なぜ自社の社員でそれができないのか?』と上層部から問い詰められる」 この話のオチは、日米でこういう文化の違いがあるので、日本企業にはなかなかコンサルティングサービスが浸透しないという点にあるのだが、社内外のどちらのリソースを使っても、結果的に上手くいけばOKとされるアメリカの文化は興味深かった。社内外の集合知を活用しようという動きも、こうした文化の延長線上にあるように思える。

 自前主義の日本企業でも、最近は外部組織との協業が不可欠になっている。そして、アメリカ企業に倣って、ITを活用した協業を模索している企業が増えていると感じる。だが、ITという非対面チャネルを利用して、社外の人たちと効果的に協業を進めるためには、まずは社内の対面コミュニケーションをしっかりと固める必要があるのではないだろうか?

 第一に、社内の対面コミュニケーションが機能していないと、社内の非対面コミュニケーションが円滑に進まない。社内の非対面コミュニケーションが十分でないのに、社外の人たちと非対面で意思疎通を図れるはずがない。数年前、社内のコミュニケーションの活性化を目的とした社内SNSや社内ブログの導入が流行った時期があった。ところが、グループウェアなどに詳しい情報システム会社の人の話によれば、「社内SNSなどが成功している企業は、もとから社員間のコミュニケーションが活発だった企業である。リアルのコミュニケーションが不十分な企業に社内SNSなどを導入しても、書き込む人が少なくて尻すぼみになっていく」とのことだった。

 これには私も思い当たる節がある。私の前職の会社も、コミュニケーションが機能不全に陥っている典型例であった。状況の打開を図ったあるシニアマネジャーの発案で、社内ブログが導入され、毎週社員が持ち回りで記事を書くこととなった。しかし、社員が記事を書いてもコメントがつかない。ブログを介したコミュニケーションが生まれないため、社員からは記事を書くインセンティブが薄れていった。そしてほどなく、社内ブログは使われなくなった。

 この社内ブログとは別に、若いスタッフの間で非公式の社内ブログを立ち上げたことがある。スタッフ同士は年齢も業務内容も近いとあって、はるかに対面コミュニケーションの密度が高かった。若手スタッフ向けのブログには活発に記事が投稿され、たくさんのコメントがついた。この若手スタッフ向けブログは、スタッフ間の対面コミュニケーションを補完して、追加的な情報共有を行うツールとして機能した。ITを導入すればコミュニケーションが活発になるというのは幻想である。ITは、リアルのコミュニケーションをバックアップするものでしかない。

 第二に、社内の対面コミュニケーションが機能していないと、社外の人たちとの対面コミュニケーションが円滑に進まない。社外の人たちとの対面コミュニケーションが十分でないのに、社外の人たちと非対面で意思疎通を図れるはずがない。社内の人たちは、同じ組織に属している以上、価値観がある程度共通している仲間である。言い換えれば、同じコンテクストを共有している。だから、多少言葉に至らないところがあっても、いわゆる阿吽の呼吸で言いたいことが通じる。

 これに対して、社外の人たちは、仕事に対する価値観も、仕事のやり方も、思考パターンも社員とは異なる。先ほどの言葉を使えば、コンテクストが異なる。コンテクストが異なる人たちに仕事をお願いするには、どんな内容の仕事を、いつまでに、どういう手段でやってほしいのか?なぜその仕事をやってもらいたいのか?といったことを正確に伝えなければならない。相手は自分の言いたいことを解ってくれるだろうと、勝手に期待してはいけない。

 社内の対面コミュニケーションが機能していない、つまり阿吽の呼吸ですら意思疎通ができていない状態では、伝えるべき情報が欠落している。この状態で、社外の人たちといくら対面でコミュニケーションを取っても、話が通じるわけがない。これにも私は思い当たる節がある。

 前職の会社では、経営陣の1人が社外からいろんな専門家を連れてきて、社員と協業させようとしていた。ところが、その経営陣と社員とのコミュニケーションが不十分で、仕事の進め方をめぐって認識の齟齬が頻繁に発生していた。経営陣が社員に期待する仕事の内容が不明確なのだから、外部の専門家に対する仕事の依頼も中途半端になっていた。専門家たちは、自分が何をすべきか解らず、フィーに見合った成果を上げられないという理由で、会社を去って行った。

 外部の組織との非対面コミュニケーションを活性化させるためには、下図で示すような2つのシナリオがあると考える。1つは、社内の対面コミュニケーションからまずは社外との対面コミュニケーションへと拡張し、社内外の対面コミュニケーションが確立された段階で社内の非対面コミュニケーション、さらに社外との非対面コミュニケーションへと進むパターンである。

 もう1つは、社内の対面コミュニケーションから社内の非対面コミュニケーションへと進み、社内のコミュニケーションが十分になった段階で社外との対面コミュニケーション、さらに社外との非対面コミュニケーションへと移行するパターンである。いずれにしても重要なのは、社内の対面コミュニケーション強化が出発点となることだ。これなくして、社外の集合知の活用はありえない。

社内外コミュニケーション

《追記》
 本号の最後の方に収録されている「課題の見極め方がカギになる クラウドから知恵を引き出す「正しい問い」のつくり方」(ドウェイン・スプラドリン)という論文は、タイトルの通り、クラウドを活用して外部から有益なノウハウを獲得する方法について論じたものであるが、実はよく読むとソリューション営業に関する優れた論文でもある。相手が真に抱えている問題を深掘りする、相手にとって利益となり、かつ自社の戦略にもかなったソリューションを構想する、ソリューションを提供する上での社内外の様々な障害を取り除くなど、提案営業の原理原則を確認することができる。

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