プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年11月17日

【ベンチャー失敗の教訓(第44回)】仕事に人を割り当てるのではなく、人に仕事を割り当ててしまう


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 組織デザインの論理的な順番を簡単に述べるならば、まずは経営ビジョンを基軸として、経営ビジョンと整合性の取れた戦略を構想するところからスタートする。次に、その戦略に基づいて戦略目標(売上高○○円、市場シェア○○%など)を設定し、目標の達成に向けたビジネスモデルをデザインする。ビジネスモデルが描けたら、モデルの中身を具体化し、その中で自社が担当すべき業務の内容を詳細に洗い出す。その上で、業務を円滑に運営するための組織構造や、業務に投入する経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・知識)を決定する。業務と人材の関係で言えば、業務が決まってから人材が決まる、つまり仕事に人が割り当てられるのであって、その逆ではない。

 ところが、X社ではその逆のことがしばしば発生していた。売上高が芳しくなく、比較的手が空いている社員が多かったことも、事態の悪化に拍車をかけていた。手持ち商談が少ない営業担当者は、研修の内容を勉強するという名目で、必要もないのに頻繁に研修に同席していた。外出していれば、自分が仕事をしていないことを多少はごまかせるからである。また、研修運営をサポートするオペレーションチームの仕事に対して、オペレーションチームが特に忙しいわけでもないのに、稼働日数の少ない講師が手を出していることもあった。彼らは、研修で使用している診断(アセスメント)の集計や、研修テキストの印刷といった事務的な仕事を”横取り”していた。

 年俸1,000万円(!)ももらっていた営業チームのシニアマネジャーがせっせと研修テキストの印刷をやっている時には、さすがに注意する気が失せた。シニアマネジャーは、「今回の研修のテキストはいつもと違って複雑だから、オペレーションチームに任せておけない」という謎の言い訳をしてきた。だが、印刷に何らかの高等テクニック(?)が必要なほど複雑なテキストは、X社のどこを見渡してもあるわけがない。そのシニアマネジャーは、本来の重要ミッションである新規顧客の開拓をなおざりにしていたために、手持ち無沙汰になっていただけだ。それなのに、研修テキストの印刷を口実にして、自分がやるべき業務から逃れていた。

 オペレーションチームは4人いて、前述した診断の集計やテキストの印刷の他に、自社セミナーへの申込者の管理、研修テキストの簡単なカスタマイズや修正、研修で使用する模造紙やマーカーといった備品の手配、研修運営のマニュアルの整備などを行っていた。4人はいつも、全員が揃って夜遅くまで仕事をしていた。確かにオペレーションチームの仕事の内容は多岐にわたるものの、X社の売上高の現状を考えると、毎日残業をしなければならないほど仕事の量が多いのかどうか、私には疑問であった。

 X社の売上高が振るわず、2009年の秋に2度目のリストラを行った際、オペレーションチームを解体することが決定された。オペレーションチームの仕事は、講師、コンテンツ開発担当者、営業担当者で協力しながらカバーすることになった。オペレーションチームの4人は、リストラされることが決まると、今までの長時間労働が嘘であったかのように、一斉に定時に帰るようになった。リストラされたショックにより、手を抜いて仕事をするようになった点を差し引いたとしても、結局のところ、オペレーションチームにはそのぐらいの仕事量しかなかった、ということだろう。

 オペレーションチームが解体されてしまったため、稼働率の低い講師は、仕事を横取りするターゲットを失った。すると今度は、講師チームの内部に目をつけるようになった。すなわち、稼働予定がある講師の仕事に寄りついて、本来その講師がやるべき研修テキストのカスタマイズなどに首を突っ込むようになったのである。

 ある時、大手企業から約4,000万円という大型案件を受注することができた。1回約80万円のシニア社員向けキャリア開発研修を1年間で50回開催し、50代の社員全員を参加させるというものであった。この研修の担当講師がX社には1人しかいなかったため、臨時で外部講師を1人使うことに決まった。この案件は、講師2人と営業担当者の3人で回すことになった。

 ところが、稼働率が低い他の講師が、まるで密に群がる蟻のように、この案件に近づくようになった。そして、グループワークの設計や診断ツールの開発、研修マニュアルの作成など、必要以上に仕事を作り出しては、皆で忙しい”フリ”をするようになった。結局、3人で回すはずの案件に講師が2人加わり、さらには営業活動もサービス開発もせずに時間を持て余していたA社長までもが加わって、全部で6人がこの案件にほぼつきっきりになるという状態が1年近く続いた。

 これでは利益を自ら手放すようなものだ。そもそも、同じ顧客企業に同じ研修を提供するのだから、そんなに付加的な仕事が頻繁に発生するはずがない。私はある顧客企業に研修とコンサルティングの両方を提供して、年間で2,500万円ほどの売上を上げていたことがあるが、その仕事は私と外部講師の2人で回していたし、私はそれ以外にも案件を担当していた。シニア社員向けキャリア開発研修の案件は私の仕事の1.6倍の規模があるとはいえ、6人はさすがに多すぎである。しかも、その6人は私よりも年俸が高い人ばかりである。

 人には「易きに流れる」という性質と、「暇を嫌い、暇を仕事で埋めたがる」という性質がある。この2つの性質のために、組織の中にはどうでもいい仕事が増えていく。人は少し暇な時間ができると、周囲の人に何か手伝えそうなことはないかと聞く。聞かれた人は、申し出をむげに断ることもできず、相手の好意に応えるために、何かしら簡単な仕事をひねり出す。こうして、それほど価値のない仕事が組織を侵食し始める。

 だが、本当に本来業務に集中していれば、暇などあり得ないのではないだろうか?自分のミッションにフォーカスしていると、やってもやっても課題が出てくる。目標は高く、全身全霊を捧げなければ達成できそうにない。それが本来業務というものではないだろうか?自分が暇だから他人の仕事を手伝いたいなどと安易に言い出すのは、ミッションに集中できていない証拠である。それを「チームワークの発揮」などとというきれいごとで許してはならない。

 社員がそうならないように、本来業務へと引き戻すのがマネジャーの役割である。加えて、マネジャーは自らの仕事についても、なすべき仕事ではなく、やりたい仕事へと安易に流れていないかどうかを厳しくチェックしなければならない。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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