プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2013年11月24日

【ベンチャー失敗の教訓(第45回)】取引先から大事にされたかったら、取引先にとって大事な顧客になれ


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 どんな企業でも、自社の製品やサービスを1から10まで自ら製造・提供することは不可能に近いから、どこかの部分は外部企業に頼らざるを得ない。その際、たとえ取引先にお願いする仕事がノンコア業務であったとしても、取引先を大切にしなければ、QCD(品質・コスト・納期)に問題が生じて、結果的に自社の本業に支障をきたすようになる。トヨタには「前工程は神様、後工程はお客様」という言葉がある。前段の部分は、神様である前工程が困るような発注をしてはならない、という意味で使われる。これは社内に限らず、部品メーカーとの関係においてもあてはまる。

 X社の研修サービスの中には、付随サービスとして受講者のスキルレベルやマインドセットを測定する診断(アセスメント)がついているものがあった。そしてこの診断は、外部の診断サービス専門会社に依存していた。以前の記事「【ベンチャーの教訓(第23回)】サービスのコアな部分を外部企業に頼らなければならないという構造」で述べたように、この構造自体が重大な問題であったのだが、仮に外部企業がX社と同じベンチャー企業で、スピード感があり、小回りが利く企業だったとしても、問題は解決しなかったと思う。というのも、外部の診断サービス専門会社に支払っているフィーが少なすぎたからだ。

 診断サービス専門会社に支払っていた正確な金額は解らないが、ある程度推測することはできる。診断サービスがついていたのは、主に「若手社員向けキャリア開発研修」であった。この研修のある年の売上高は、約1,600万円であった(そもそも、これが少なすぎるのだが・・・)。

 この研修は2日間コースであり、1日あたりの平均単価が40万円だとすると、年間で1,600万円÷(40万円×2日)=約20回開催されたことになる。1回あたりの平均受講者数が約20名、1人あたりの診断料が5,000円とすると、診断サービスにかかる費用は20回×20人×5,000円=約200万円となる。ただし、全ての顧客企業が診断サービスを利用したわけではない。そこで、診断サービスを使った企業が70%~80%とすると、診断サービス専門会社に支払ったフィーは、200万円×70%~80%=150万円前後という計算になる。

 この金額は実に微妙である。取引先が大企業ならば、X社は間違いなく小口顧客として扱われるだろう。売上高が数十億円規模の中堅企業でも、X社をあまり重要視しないに違いない。売上高が数億円程度のベンチャー企業ならば、中には必死で150万円の売上高を取りに来るところもあるかもしれない。だが、売上高が2億円弱のX社は、150万円程度の売上しかない顧客企業、すなわち、年間に研修を3日程度しかやってくれない顧客企業の対応は後回しにしていた。このことを踏まえると、ベンチャー企業であっても、X社を大切に扱ってくれるかどうか疑わしい。

 そのくせX社は、診断サービス専門会社に対して、診断結果レポートを早く出してくれだの、診断項目を追加してくれだの、レポートの体裁を変えてくれだのと、あれこれ注文をつけていた。診断専門サービス会社が診断やレポートのカスタマイズ費を要求してくると、X社の営業担当者は、そんな高い金額は払えない、もっと安くしろと価格交渉を繰り返していた。

 診断サービス専門会社にとっては、お金にならない上に要求だけはやたらと多い顧客などは利益にならないのだから、相手にしたくないのが本音だろう。診断専門サービス会社がカスタマイズ費を高めに設定したのは、もうX社と取引したくないから、価格交渉をこじらせて、あわよくばX社との取引を中止に持ち込みたかったためかもしれない。X社が診断サービス専門会社と良好な関係を築くための方法はただ1つ、「若手社員向けキャリア開発研修」をたくさん売ることである。

 取引先にとって重要な顧客にならなかったがために、取引先から大切に扱われなかったことを象徴する出来事がある。Y社がグループ企業から離脱してしばらく経った頃、高すぎる家賃の負担に耐えられなくなったX社とZ社は、オフィスを移転することに決定した。X社とZ社は、今後も事業シナジーが見込めないとの理由で、別々のオフィスに引っ越した。この時、私がいたX社は、社員数がわずか10名弱にまで減っていた。X社の新しいオフィスは、10名分の作業スペースと、2つの会議室だけになった。人事担当者向けのセミナーを開催する時には、会議室の仕切りを取り払い、部屋をつなげて使うことになっていた。

 入口付近には、自動販売機が1台あった。社員が使うことはもちろんだが、セミナーを実施した際に、参加した人事担当者が飲み物を購入できるようにするのが目的であった。当時の顧客企業の中に自動販売機のベンダーがおり、その企業にお願いして自動販売機を設置してもらった。

 ある秋のことである。通常の自動販売機であれば、製品ラインナップが変更されて、一部の冷たい飲み物が温かい飲み物に置き換わる。ところが、X社の自動販売機には、いつまで経っても冷たい飲み物しか並んでいなかった。温かい飲み物がほしい社員は、わざわざオフィスビルを出て近くのコンビニまで行かなければならなかった。

 しかし、よく考えれば、ベンダーの対応もむべなるかなである。社員数が10人弱だから、自動販売機の売上も少ない。しかも、この頃になると、実はセミナーも開催されなくなっていたため、追加の売上も見込めなかった。そのため、ベンダーの担当者が製品の補充にやって来なかったのだ。おそらく、ベンダーの中では自動販売機を設置している企業のランクづけがされていて、X社はほとんど訪問する必要がない最下層のランクに位置づけられていたことだろう。

 ある日、自動販売機に、誰が書いたのか解らないが、「担当者の方へ、そろそろ温かい飲み物を入れてください。お願いします」と貼り紙がされていた。それを見た時には、さすがに失笑を禁じ得なかった。そもそもベンダーの担当者がX社のオフィスに来ないのだから、こんな貼り紙をしてもムダである。ベンダーから”大切に”とまではいかなくとも、せめて”まとも”に扱われたいのならば、一定量の製品を買って、ベンダーの売上を立ててあげなければならない。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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