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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2013年12月11日

平成26年度経済産業省概算要求 中小企業関連政策についての雑感


 「平成26年度経済産業省概算要求 中小企業関連政策のポイント」の続き。経産省が挙げている政策についての雑感をつらつらと書いてみたいと思う。割と条件反射的に書いているので、論理的に整合性が取れていない箇所がある点はご容赦ください。

 (1)2013年に中小企業診断士の間で何かと話題になった補助金が、「ものづくり補助金(ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金)」(平成24年度補正予算1,007億円)、「創業補助金(地域需要創造型等起業・創業促進事業)」(平成24年度補正予算200億円)、「小規模事業者活性化補助金」(平成25年度予算30億円)の3つである。

 ものづくり補助金は、国がここまで大規模な補助金事業をやったことがないということで話題になった。また、創業補助金は、国が創業支援に前向きになったことを示す象徴的な補助金であった。そして、小規模事業者活性化補助金は、中小企業の中でもさらに小規模の企業が手軽に利用できる補助金として、利用者からは比較的好評であったと聞いている。

 ものづくり補助金と創業補助金は、規模が約10分の1になってしまうが、来年度も実施されるようである。小規模事業者活性化補助金は、今年度とほぼ同額の予算が要求されている。

《2014年1月17日追記》
 取り消し線部は私の勘違いであった。ものづくり補助金は、平成25年度補正予算において「新ものづくり補助金」と名前を変え、規模も対象業種も拡大して実施される(詳細は「目玉は「新ものづくり補助金」―平成25年度補正予算のポイント」を参照)。平成26年度の本予算で実施されるのは、「ものづくり中小企業・小規模事業者等”連携事業”創造促進事業」である。

 また、創業補助金に関しては、平成25年度補正予算において44億円の予算が計上されている(規模は5分の1といったところか?)。平成26年度本予算で実施される「地域創業促進支援事業」は、創業を希望する人に補助金を交付するのではなく、創業希望者に対しビジネスプラン作成などのアドバイスを行う認定支援機関(300程度)が対象となっている。


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 (2)ものづくり補助金の本来の趣旨は、「ものづくり高度化法(中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律)」に基づく「特定ものづくり基盤技術高度化指針」に定められた22分野(ものづくり22分野)を強化することにある。この22分野は、鋳造、プレス加工、めっきなどの川上産業が中心であり、その競争力の強化が川下産業の発展に幅広く波及するものである。例えば、溶接技術の高度化は、自動車、建設機械、発電・工業用プラント、鉄道・船舶・鉄鋼構造物・橋梁などの大型構造物、電子機器産業の成長への貢献が期待されている。

 ところが、採択された案件の一覧を見ると、必ずしも22分野に定められた川上産業ばかりではなく、ニッチ分野における最終製品の開発を目標としており、他産業への波及効果が不明なものが散見される。もちろん、そういうニッチリーダーを育成することは、それはそれで必要だと思うのだが、補助金事業の本来のコンセプトが揺らがないようにしてもらいたいものだ。

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 (3)創業補助金など、国が創業を活性化させようとしている点は非常によいと思う。世界各国の起業活動を研究している「グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)」の研究によると、先進国では起業活動が活発であるほど、1人あたりGDPが高いという相関関係が見られる(レポートp49参照)。

 このようなマクロ的なデータを取り出さなくても、需要面に目を向けると、本格的な高齢社会に突入する日本では、今まで考えられなかったような産業(特にサービス産業)が次々と求められることになる。また、労働力の供給面に着目すると、以前の記事「【ドラッカー書評(再)】『現代の経営(下)』―「雇用の維持」は企業の社会的責任か?」でも述べたように、高い成長が見込めなくなった大企業では、ミドル層を中心に正社員の解雇が加速する可能性が高い(記事中の試算でも解るように、既に大企業は昇進の見込みが低い社員であふれかえっていた。今後、さらなる低成長時代に入ると、いよいよ大企業も雇用を継続することができなくなると推測される)。

 こうした背景からも、国が数多くの起業家を輩出しようとすることは理に適っている。ただし、(a)現在の創業補助金は女性・若者の創業を有利に扱っているが、将来的にはミドル層・シニア層の起業を積極的に後押しする必要がある。また、(b)単に補助金という形で資金を提供するだけではなく、起業家が産業構造の転換に対応できるよう、新しい能力や技能の獲得をサポートすることも重要になると考えられる。そもそも、戦前は自営業が多数派であった。21世紀は戦前のような状態に戻るだけである。ただ、戦前と違うのは、戦前の自営業は製造業が多かったのに対し、21世紀の起業はサービス業が主流を占めるだろうということである。

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 (4)来年度の中小企業施策で一番の目玉は、「2.小規模事業者に焦点を当てる」というものだ。従業員20人以下などの小規模企業の底上げ・活性化に向けて、今年度の国会に「小規模企業基本法(仮称)」が提出される予定である。日本には約420万社の中小企業があるが、そのうち約360万社が小規模企業であるとされる。

 中小企業施策の歴史を振り返ってみると、戦後長らくは中小企業を弱い存在と位置づけ、大企業との格差是正を目的に、弱者救済を行うための施策が展開されてきた。それが平成に入ってからは、成長する中小企業を後押しするという積極的な施策に転じた。しかし、その対象は、中小企業の中でも比較的規模が大きい企業であり、小規模事業者は置き去りにされてきた。そこで、その小規模事業者に目を向けようというのが、今回の動きである。

 私は、中小企業施策の目的は、「競争力のある技術やノウハウを持っているのに、資金などの経営資源が不足しているために、成長が阻害されている中小企業を支援する」ことだと考えている。経産省の今回の動きは、戦後政策への逆戻りであり、形を変えた生活保護になる可能性があるのではないかと危惧している。

 中小企業には、大きく分けて2種類ある。家族経営で、家族が食べていければ十分という生業的中小企業と、成長志向が強い起業家的中小企業の2つである。小規模事業者の中にもこの2タイプがあるわけだが、生業的な小規模事業者は国の支援など仰がず、自力で何とかすべきである。まして、慢性的な赤字に陥っている生業的な小規模事業者に国の予算が流れるとしたら、これはもはや生活保護である(生活保護なら厚労省の管轄である)。経産省が支援すべきは、起業家的な小規模事業者であり、その見極めをしっかりと行う必要がある。

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 (5)中小企業向けの補助金は、どうしても製造業がメインターゲットとなりやすい。というのも、国が補助金を出した場合、その補助金が適正に使われたかどうかを後からチェックする必要があるのだが、チェックが簡単なのは、原材料を買った、設備を導入したなど、有形のものを購入した場合に限られるからである。逆に、社員の人件費などに対する補助金の場合、本当にその社員が仕事をしたかどうかを事後的に確認するのは非常に難しい(補助金事業に携わる人々の間でも、「人件費は不正の温床になりやすい」と言われている)。

 だが、中小企業を業種別にみると、建設業が12%、製造業が11%、小売業、飲食店、宿泊業、その他サービス業などが70%を占めており、製造業はむしろ少数派である。しかも、日本のサービス業は諸外国に比べて生産性が低いと言われる。中小企業の7割を占めるサービス業の経営が改善されれば、日本経済に与えるインパクトは非常に大きいだろう。よって、経産省も製造業だけでなく、サービス業を後押しする施策をそろそろ真面目に検討してはどうだろうか?

 ただし、サービス業の支援には難しさも伴う。サービス業は製造業に比べて労働集約性が高く、補助金を出すと社員の人件費に使われる可能性が高くなる。ところが、前述の通り、人件費は不正の温床になりやすい。経産省がサービス業の支援にあまり乗り気ではない理由の1つがここにあるだろう。とはいえ、サービス業であっても、サービス・オペレーション用に機械設備や情報システムなどを導入するものだ。そういったハードに対する補助金を提供し、サービス業の生産性向上を支援することは可能ではないだろうか?

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