プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年01月05日

【ベンチャー失敗の教訓(第46回)】上から下まで生産性を上げる努力をしない会社


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 ホワイトカラーの仕事はブルーカラーの仕事とは違って、いちいち誰かが指図してくれたり、明確な指示書があったりするわけではない。だから、自分で作業手順を組み立て、それぞれのタスクのやり方を工夫して、生産性を高める努力を積み重ねなければならない。ましてそれがベンチャー企業ともなれば、先行する競合他社に追いつき、これを追い越すために、非常に高い生産性を実現する必要がある。ところが、3社の社員の多くは自分の生産性に関して無頓着だった。

 Z社では、見かねた経営陣が社員のタイムマネジメントに乗り出した。エクセルのフォーマットを用意し、毎週月曜日になると、1週間で予定されているタスクと、それぞれのタスクに費やす予定の時間を記入させた。そして、毎日仕事の実績を記録させ、予定と実績の乖離を見える化した。しかし、Z社の社員に話を聞くと、エクセルの報告書を提出しても、経営陣から何かフィードバックがあるわけではなかったという。どうやら、経営陣は各社員のエクセルを管理部門の社員に集計させ、それで満足してしまっていたらしい。

 私は、この話には2つの問題点があると思う。1つは、Z社は社員数が10名程度の小さい企業であるにもかかわらず、エクセルに頼っていたという点である。10名程度であれば、経営陣が直接それぞれの社員に仕事の進捗度合いを確認し、その場で生産性向上のための助言をすれば事足りる。そういう対面のコミュニケーションは、経営陣と現場の距離感を縮めるうえで非常に重要である。Z社の経営陣は、エクセルを使うことで、コミュニケーションの機会を放棄してしまった。

 もう1つは、経営陣自身がタイムマネジメントの対象となっていなかったことである。Z社の経営陣は「社員が仕事をしていない」と思ってタイムマネジメントを始めたのだが、現場社員は「経営陣が仕事をしていない」という不満を抱いていた。経営陣はいつもオフィスにいて、クライアントのところにはたまにしか行かないし、コンサルサービスの開発にもあまり協力してくれない、というのが現場社員の目に映る経営陣の姿であった。現場社員からすれば、「経営陣は、自分の生産性のことは棚に上げて、我々のことばかり管理しようとしている」というのが本音であった。

 もし経営陣がこうした現場の意見を聞いたら、「自分の仕事は部下を管理することであるから、自分の仕事のことは公開する必要はない」と反論しただろう。だが、そんなことを言えば、部下のさらなる心理的離反を招くだけである。経営陣は、「我が社は今まで生産性を軽視しすぎていた。これからは生産性を上げるために、お互いの仕事の内容をオープンにしよう。もちろん、私も自分の仕事を可視化するから、社員の皆さんも仕事の透明化に協力してほしい。そして、生産性向上のために、忌憚なく意見を言い合ってほしい」と言うべきだった。部下に何か負担になる作業をお願いする時には、上に立つ者が率先垂範してその負担を受け入れなければならない。

 一方のX社は、Z社に比べれば多少はましであった。エクセルのようなツールを使わず、毎週月曜日に経営陣と開発・講師チームが集まって、各個人のその週のタスクと予定工数を確認する会議を開いていた。その会議では、経営陣のタスクも公にされた。

 ところが、営業チームはこの会議の参加メンバーから外れていた。もともとこの会議は、「開発・講師チームは仕事が遅いから何とかしてほしい」という営業チームの要請で開かれたものであった。しかし、私はマーケティング担当という立場で、両方のチームと接点があった経験から言えば、数字が目標通りに上がっていない営業チームも生産性に何らかの問題があるはずであり、会議に加わるべきであった。実際、提案書の作成に何時間もかけている担当者や、自分とは関係のない会議に入り込んで時間をつぶしている担当者を何度か見かけた。

 営業チームの生産性に具体的にどのような問題があるのかは、結局のところ突き止めることができなかった。だが、開発・講師チームに関しては、上記の会議に出席すると愕然とする事実が次々と明らかになった。端的に言えば、作業時間を非常に過大に見積もっているのである。

 開発・講師チームでは、研修のカスタマイズに2日かけるとか、研修の実施報告書の作成に1日かけるといったことが常態化していた。以前の記事「【ベンチャーの教訓(第21回)】何年経ってもまともな管理会計の仕組みが整わない」で指摘したように、研修のカスタマイズに2日かけると、その案件は赤字になる。しかも、似たようなカスタマイズを何度も繰り返しているはずなのに、一向に作業時間が減らない、つまり生産性が上がっていないのである。また、研修の実施報告書といっても、研修終了後の受講者アンケートを集計するだけであり、エクセルの雛形さえしっかりしていれば、2時間程度で終わる作業である。

 以前の記事「【ベンチャーの教訓(第32回)】メディア露出が中途半端すぎてティッピングポイントを超えられない」でも書いたが、私はマーケティング担当として、各講師に対し、HPに掲載するコラムの執筆をお願いしていた。ところが、マネジャーの中には、そのコラム作成に1日かけるという、とんでもない見積もりをしてくる人もいた。コラムは2,000字程度である。1,000字で1時間とすれば、2時間で終わる作業だ(ちなみに、今日の記事は3,500字ぐらいだが、2.5時間で書き上げている)。コラムは、講師が自分の専門分野について意見を表明する場であった。そのコラムに時間がかかるということは、自分の専門性が浅いということであり、恥ずべきことである。

 私は、マネジャーたちの過剰な見積もりにいつも驚かされていた。私自身、マネジャーに対して改善ポイントを十分に指摘しなかったことは反省すべき点である。だが、そのような改善点の指摘は、会議の主催者である経営陣が進んで行うべきであっただろう。経営陣は、いつもメンバーの作業見積もりを漫然と聞いているだけで、生産性を上げよとハッパをかけることもなかった。

 経営陣は経営陣で、見込み顧客に対する表敬訪問を週に2~3件やっているだけで、残りは提案書を作成しているという、何とも曖昧な弁明が多かった。提案書作成は、表敬訪問の少なさを覆い隠す口実に感じられた。経営陣が営業活動にもっと注力すれば、表敬訪問は週に10件、20件とできたはずである。もっと言えば、ベンチャー企業の経営者なのだから、表敬訪問などという形式的な活動で満足せずに、トップセールスでクロージングまで持っていくぐらいの仕事をしてほしかった。経営陣が社員に対して生産性を上げるように強く言えなかったのは、問題を指摘するとブーメランのように自分に跳ね返ってくることを恐れていたからなのかもしれない。

 余談だが、3社の社員は職種に限らずパワーポイントを使う機会が非常に多かった。コンサルタントは報告書のために、営業担当者は提案書のために、開発・講師チームのメンバーは研修テキストのためにパワーポイントを使用していた。コンサルタントは比較的パワーポイントに慣れていたのに対し、それ以外の人はパワーポイントを使うのがあまり上手ではなかった。

 パワーポイントは、ショートカットを覚えれば、生産性を大幅に上げることができる。特に重宝するのが、オブジェクトの整列のショートカットである。また、同じファイルを複数人が扱うため、加工しやすいようにいくつかのルールを設けておくことも重要である。例えば、四角形などの図形は「塗りつぶしなし」にせず、白く塗りつぶしておくとよい。そうすると、その図形を移動させる時に、図形のどこをクリックしてもその図形が選択されるので楽である。これが「塗りつぶしなし」になっていると、図形を移動させる時に枠線を慎重に選択しなければならず、操作を誤りやすい。

 X社の全社会議で、X社にしては珍しく、予定よりも早くアジェンダが消化できたため、残り時間を使って私がパワーポイントの簡単な講習を行ったことがあった。その時には、先ほど述べたショートカットや共通ルールの話をした。私は普段やっていることをそのまま話しただけだが、X社の社員にとっては新鮮だったようで、会議が終了すると、ある営業担当者から冗談半分で、「今までの全社会議の中で一番有意義だったよ」などと言われた。裏を返せば、そういう細かいところで生産性を上げる努力がなおざりにされていたということだろう。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
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