プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

◆旧ブログ◆
マネジメント・フロンティア
~終わりなき旅~


◆別館◆
こぼれ落ちたピース
シャイン経営研究所HP
シャイン経営研究所
 (私の個人事務所)

※2019年にWordpressに移行しました。
>>>シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)

Next:
next 【数学ⅠA】2014年センター試験を3年連続で解いてみた
Prev:
prev 『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』レビュー記事の補足
2014年01月19日

【ベンチャー失敗の教訓(第48回)】Webで公開されている失敗事例通りに失敗した産学連携プロジェクト


 >>シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】記事一覧へ

 総務省の「科学技術研究調査」によれば、R&Dを実施している中小企業の売上高は、実施していない企業に比べて約3~5倍になるそうだ。、また、R&Dを実施している中小企業と実施していない企業で、2002年から2007年までの営業利益を平均したところ、約5.6倍の差があったという。この数値は、大企業の差と比較すると非常に高いものであり、R&D実施の有無が経営に与える影響は、中小企業の方が大きいと言える。だが、人材や資金が限られている中小企業が、自前でR&Dを行うのは容易ではない。そこで注目されるのが、大学の「知」である。産学連携は、中小企業が経営資源を節約しながら、効率的にR&Dを進める有効な手段である。

 とはいえ、大学と企業とでは組織の目的が異なるから、足並みが揃わないと失敗しやすい。九州経済産業局は、産学連携の成功要因と失敗要因に関する調査をまとめている。レポートでは、産学連携が失敗する理由として、以下の3つが指摘されている。

 (1)大学と企業との研究活動に対する事前協議・調整が不十分で、大学、企業の役割分担を含む適正な目標設定ができていない。
 (2)事業化までを見据えた対応や研究体制ができていない。
 (3)大学と企業とのコミュニケーションが不十分、推進体制の構築が不十分。

 以前の記事「【ベンチャー失敗の教訓(第24回)】行き当たりばったりでシナリオのないサービス開発」で、X社が大学と共同で、「携帯電話を利用した研修後の学習支援サービス」を開発しようとしたことを述べた。しかし、この共同研究は結局のところ実を結ばなかった。上記の3つの失敗要因を読むと、首が痛くなるほどうなずきたくなる。

 (1)大学と企業との研究活動に対する事前協議・調整が不十分で、大学、企業の役割分担を含む適正な目標設定ができていない。
 私が最初にこの共同研究プロジェクトにアサインされた時は、新サービスを開発するという話は全くなかった。成人学習(アダルト・ラーニング)に関する洋書を大学教授と一緒に翻訳して、出版実績を作るのが当面のゴールであった(もっとも、その翻訳作業も目的が曖昧だったが)。プロジェクトにアサインされたマネジャーは、翻訳予定の洋書の版権を持っている海外の出版社と交渉をして、翻訳権の獲得に動いていた。メンバーはキックオフミーティングまでにその洋書を読み込み、ミーティング当日は翻訳のスケジュールと役割分担を決める予定であった。

 ところが、キックオフミーティングで顔を合わせた教授は、開口一番「翻訳だけでこのプロジェクトを終わらせるのはもったいないですよ」と言ってきた。そして、自分の研究内容を紹介し、それをX社の事業に活用できないかと提案してきた。

 その教授は、小中高校生を対象に、携帯電話を活用して家庭学習をサポートする仕組みを研究しているという。授業の直後や、定期テストの前になると、生徒が間違えやすい問題が携帯電話に送られてくる(教授によれば、間違えやすい箇所は科目ごとに大体決まっているらしい)。生徒はその問題を使って復習をする。さらに、回答履歴や正答率などの情報は、親の携帯電話にもフィードバックされる。教授は、生徒による携帯電話の利用率や、フィードバックを受けた親と子どもとの間のコミュニケーションが、テストの成績にどのように影響するのかを調査していた。

 言うまでもなく、携帯電話を活用していた生徒の方が成績はよかったし、親子のコミュニケーションが密なほど生徒の成績はよかった。親は子どもが解いている問題の内容が解らなくても、「この前の問題、どうだった?」などと子どもに話しかけるだけで、生徒の成績に正の影響を及ぼすという。この研究結果に興味を持ったA社長は、その仕組みを自社の研修サービスに取り込むことを簡単に決めてしまった。プロジェクトの方針は180度転換されてしまった。

 (2)事業化までを見据えた対応や研究体制ができていない。
 教授の関心は、自分の研究がうまく行くかどうか、つまり、成人学習の場合であっても、携帯電話を活用した学習支援のデータが取得できるかどうかだけであって、そのサービスが儲かるかどうかは眼中にない。事業の妥当性を検証するのはX社の役割であるが、こういう行き当たりばったりの経緯で始まった新サービス開発であるから、事業計画など十分に検討されなかった。

 研修後の学習支援にニーズがあるとしても、それを実現する手段として、携帯電話が果たして有効なのか?研修で学習する内容は、仕事で求められる知識やスキルであるから、それを実践するのは当然現場となる。だとすれば、利用者が情報を入力するのは仕事中になるはずだ。利用シーンを考えれば、携帯電話ではなく、PC向けのシステムにしなければならないのではないか?そういう初歩的なことも議論されなかった。

 また、この手のサービスは、あくまでも研修本体の補完ツールであり、顧客企業からそれほどお金をいただくことは期待できない。となると、利用者数を稼がなければならない。では、利用者数がどのくらいになれば、このWebシステムはペイするのか?その利用客数を獲得するためには、何社にどのくらいの研修を販売しなければならないのか?こういった議論も放置されていた。教授が研究結果をまとめるのに必要なデータ数と、X社がこのサービスをビジネスとして成立させるのに必要な利用者数を比べたら、おそらく後者の方が圧倒的に大きかっただろう。だからこそ、事業化のプランを熟考すべきであった。

 (3)大学と企業とのコミュニケーションが不十分、推進体制の構築が不十分。
 このプロジェクトのアキレス腱は、プロジェクトリーダーであるディレクターにあった。このディレクターは開発・講師チームのメンバーであったが、実はX社の社員ではなく、自分で個人の会社を立ち上げて、X社と業務委託契約を締結している人であった。私は、そんなディレクターを責任者にしたところで、自分の会社の都合を最優先するだけであり、X社のためを思ってこのプロジェクトに強くコミットメントしてくれないと不安を抱えていた。

 そして、その懸念通り、このディレクターは次第にプロジェクトとの関わりが薄くなっていった。ディレクターは、教授との定例ミーティングに顔を出すだけで、肝心の携帯電話のシステム開発には一切首を突っ込んでこなかった。プロジェクトの中身に疎くなったディレクターは、ほとんど教授の言いなり状態で、自らの意見やX社としての見解を教授にぶつけることがなくなってしまった。

 このプロジェクトは開発・講師チームのメンバーが中心となって結成されていたが、将来的なサービス販売を視野に入れれば、営業チームやオペレーションチームとも適宜情報を共有すべきであった。そして、両チームからサービスに関する意見を吸い上げることも必要であった。ところが、プロジェクトリーダーがこんな具合なので、社内の情報共有が進まなかった。おまけに、プロジェクトが半年ほどずっと成果を出せなかったこともあり、営業チームやオペレーションチームからは、「あのプロジェクトはいつも密室で何をしているのだ?」と不満が出るようになった。

 不満を募らせた両チームは、ある時、プロジェクトの定例ミーティングに一斉に乗り込んできた。いきなり参加者が増えたことに教授は困惑していた。しかも、両チームのメンバーは、この教授やプロジェクトに対して疑いの目を向けている。両チームは、定例ミーティングを通じて、プロジェクトの状況やゴールを確認しようとした。しかし、半年かかってプロジェクトが蓄積してきた情報を、ミーティングに1回や2回出席したぐらいで理解できるはずがなかった。消化不良に終わった両チームは、以前にも増して不信感を強めたまま、現場の業務に戻っていった。
(※注)
 X社(A社長)・・・企業向け集合研修・診断サービス、組織・人材開発コンサルティング
 Y社(B社長)・・・人材紹介、ヘッドハンティング事業
 Z社(C社長)・・・戦略コンサルティング
 >>シリーズ【ベンチャー失敗の教訓】記事一覧へ

  • ライブドアブログ
©2012-2017 free to write WHATEVER I like