プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

 好きなもの=Mr.Childrenサザンオールスターズoasis阪神タイガース水曜どうでしょう、数学(30歳を過ぎてから数学ⅢCをやり出した)。

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2014年01月17日

『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』レビュー記事の補足


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 昨日書いた「『人を動かす力(DHBR2014年1月号)』―動機づけ理論と影響力の研究が交錯することを望む」の内容が抽象的すぎて自分の中で納得がいかず、このままでは悔しいので(苦笑)もうちょっと文章を続けることにする。

 (1)昨日の記事を書き終わる頃に思ったことだが、人を動かすのは結局のところ「与える力」に集約されるように思える。つまり、"Give and Take"であり、「先憂後楽」であり、「損して得を取れ」というわけだ。上司は部下に対して、やりがいのある仕事を与え、職場の同僚と一体感を味わえる環境を与える。そして、仕事の結果に対して公正な評価を与える。

 社内で上層部の人たちを動かす場合には、組織の重要な目的やビジョンを再認識する機会を与える。言い換えれば、彼らの目を覚まさせる。短期的かつ部分最適的な行動に走るよりも、中長期的な視点に立ち、本質的な目的に向かって変革を推進することが、組織に大きな利益をもたらすことを彼らに自覚させる。上層部の利益は、組織の利益と密接にリンクしている。したがって、変革が成功した暁には、彼らは現状維持のままでは手にすることがなかった名誉や報酬を得ることができる。変革を推進する者は、上層部に対してその可能性を与えるのである。

 社外の利害関係者との交渉は、まさに”与え合い”である。通常、交渉担当者は、最初は相手の利益のことを考えず、自分の利益を極大化する条件を提示する。言い換えれば、まずは”ふっかける”(アメリカ人の交渉はこの典型だと思う)。自分の利益を少なくするような条件提示をする交渉担当者など、まずいないだろう。だが、相手も自分と同じように、相手の利益を極大化する条件を提示するので、利害対立が生じる。そこからお互いに自分の利益を少しずつ切り崩し、相手にそれを与えながら、双方が納得のいくポイントを探り当てることになる。

 人は、自分に何かを与えてくれた人に対しては、お返しをしたいと思う傾向がある。心理学の世界では、これを「返報性の法則」と呼ぶ。人を動かすことが上手な人は、この法則をうまく活用していると思う。人を動かす力の本質は、「与える」という行為にある。まず先に相手に与えることで、相手から望ましい行動を引き出すわけである。

 (2)中小企業診断士の仕事を本格的にするようになってから約1年になるが、診断士はチームで仕事をしたがる傾向が強いことが解った。だが、私はどうもこの風潮が好きになれない。というのも、チームを構成する診断士がそれぞれ個人事業主であったり、自分の会社を持っていたりして、必ずしも一枚岩にはならないからである。昨日述べた分類に従えば、「動かす相手が社外」で「相手との関係は、自分と対等か相手の方が上」というケースに該当する。

 チームのメンバー間で利害調整の対象となるのは、主に「仕事の量・範囲」と「報酬」である。それぞれの診断士が異なる事業を営んでいるがゆえに、同じ仕事であっても、ある診断士にとっては優先度が高く、別の診断士にとっては優先度が低い、ということが往々にしてある。また、お互いの事業構造が異なるから、それぞれが思い描いている適正報酬のラインもバラバラだ。メンバーは仕事内容とフィーの調整に時間を取られてしまい、肝心の顧客企業が置き去りになりやすい。本来、コンサルタントは顧客企業にとっての価値を最優先すべきなのに、この構造だと「最小限の仕事で最大限のフィーをもらおう」と自己中心的に考える診断士が増えてしまうのである。

 この問題を解決する手段は、チームなどという生ぬるい組織化の代わりに、診断士を社員とする中小企業特化型のコンサルティングファームを作ることであろう。そうすれば、中小企業の価値創造に貢献するという組織の目的に全てのメンバーが合意し、顧客視点に立ってもっとスムーズに仕事を進められるに違いない。もっとも、私自身も現在は1人で事業を営んでいるから、こんな綺麗ごとを言う資格などないのだが・・・。

 余談だが、診断士同士のチームでも苦労するのに、診断士以外の専門家が集まると、なお厄介な問題が起きる。例えば、事業再生の現場では、会計士、弁護士、不動産鑑定士など、様々な専門家とチームを組まなければならない。

 診断士同士なら、知識的な背景は同じだからまだ話も通じやすい。だが、異なる士業が混じると、会計士は損益計算書や貸借対照表を綺麗にすることに、弁護士は債務や労使関係に関する法的問題を解決することに、不動産鑑定士は顧客企業の不動産価値を適正に算出することに関心が集中してしまい、話が通じにくくなる。しかも、診断士がそれぞれ個別で活動しているように、公認会計士たちも自分の事務所を持っており、事務所の利害を優先させがちだ。こうなると、診断士同士のチーム以上に、チーム内の利害関係の調整に労力を割かなければならなくなる。

 最近、中小企業の支援を強化する目的で、「地域プラットフォーム」なるものが形成されている。地域プラットフォームは、金融機関(主に信用金庫・信用組合)を中心に、商工会議所や商工会、各種中小企業支援団体(この中に診断士の団体が含まれる)などを構成メンバーとして、中小企業の経営革新を一体となって促進するものとされている。

 ところが、構成メンバーがそれぞれ違う利害を持っているから、地域プラットフォームの仕組みは非常に解りにくくなっている。商工会や商工会議所は会員企業を増やしたい、金融機関は融資先を開拓したいと思っている。だから、支援を依頼したい中小企業は、まず商工会や商工会議所の窓口に相談し、それから金融機関の窓口に行き、その後でないと診断士を始めとする専門家を紹介してもらえない。本来は、コンサルティングをお願いしたい中小企業が、専門家に直接支援をお願いすれば済むだけの話である。それが、構成メンバーの利害を満たすために、顧客本位でない仕組みになっているのは非常に残念だ。

 もっとも、こんな状態になっているのは、診断士の認知度が低く、能力が社会的に評価されていないのも一因だろう。診断士が力を持っていれば、こんな仕組みは生まれなかった。中企庁は、診断士が頼りにならないので、金融機関をメインとする仕組みを考えたのかもしれない。

 (3)一般的には、「影響力を発揮するには、スピーチやプレゼンテーションが上手でなければならない」と考えられている気がする。確かに、世界中に強い影響力を及ぼすアメリカ大統領には、スピーチのコンサルタントがついているし、画期的なイノベーションでアップルを再建したスティーブ・ジョブズは、プレゼンテーションの天才と呼ばれた。彼らの力強く、淀みない、簡潔で明快なメッセージは、多くの人の心を動かす。彼らに憧れる人々は、彼らの演説やプレゼンが収められたDVDを購入し、スピーチの上達法に関する書籍を読んで、少しでも彼らに近づこうと努力する。

 だが、私は敢えて逆のことを主張してみたい。つまり、人の心を動かすのに、必ずしも話し上手である必要はない。むしろ、話し上手は胡散臭い印象を与えることがある。確かに、非常に重要なプレゼンテーションで、入念に準備する時間があり、話し手が聞き手に一方的に話しかけるような局面では、話し上手の方が有利だ。しかし、人を動かさなければならない場面では、話し手に圧倒的な主導権が与えられているとは限らない。いやむしろ、そういうケースの方が稀である。

 部下に難しい仕事を依頼する、顧客に高度な製品を提案する、上司に新しい企画を提案する、仕入先と新しい取引条件について交渉する、緊急の仕様変更を製造部門にお願いする、従来とは異なる販促活動を営業部門に展開させる、金融機関に追加の借入を申し込む、工場の近隣住民からのクレームに対応する・・・このような日常業務の大半の場面では、ジョブズのプレゼンほど準備の時間もなく、相手からの予期せぬ質問に真摯な態度で対応し、手厳しい意見や批判に対しても即座に回答しなければならない。

 私の個人的な印象だが、そういう局面においてなお、力強く、淀みない、簡潔で明快なメッセージがすらすら出てくる人というのは、どうも心の底から信用できない。私は、そういう人には心を動かされない。なぜならば、あらかじめ用意されたメッセージをただ機械的に発しているだけで、自分の頭で考えた言葉になっていないと感じるからだ。相手が若ければなおさらであり、上司が教え込んだ言葉か、マニュアルにある言葉をそのまま使っているのだろうと勘ぐってしまう。

 このような場面で相手の心を動かすのに、話し上手である必要はない。相手の言葉をしっかりと受け止め、自分の頭で考えた言葉を少しずつ絞り出せばよい。それでも相手が納得しないならば、別の言葉を探し出す。必然的に、その人が発する言葉はどこかたどたどしく、冗長になる。文法的には多少の誤りを含んでいるかもしれない。それでも、そのようなごつごつとした発話の裏には、「あなたのために一生懸命言葉を紡ぎ出している」という熱意が感じられる。私は、きっとその熱意に心を動かされるだろう。本当の話し上手とは、自分らしい言葉で語れる人のことである。

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