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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年02月04日

『日本企業は新興国市場で勝てるか(DHBR2014年2月号)』―実はラマダーン月に食品・飲料メーカーの売上が増える、など


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 新興国ビジネスに関しては私は素人なので、今回の特集記事についてまとまった文章を書く自信がない。代わりに、雑感をつらつらと書いていきたいと思う。

 (1)今月号の特集論文の中では、ビジャイ・マハジャン「イスラム『五行』に見出すビジネスチャンス アラブの消費者を理解せよ」が興味深かった。

 ・アラブ連盟を1つの国として考えると、2011年のGDPは2兆3,000億ドルを超え、世界8位となる。これはインドやロシアより大きい。また、1人あたり国民所得は約6,700ドルであり、中国やインドよりも高い。

 ・イスラム教では、自分の財産の2.5%を毎年寄付することを信者に義務づけている。これをザカート(喜捨)と呼ぶ。アラブ諸国で集まるザカートの額を計算することは不可能に近いが、ごく控えめに見積もったところ、年間約33億ドルに達する。現地の事情通によれば、優に250億ドルに達するという。これは、2010年におけるこの地域のGDPの約1.3%に相当する。

 ・ラマダーン月(ヒジュラ暦の第9月)の間、イスラム教徒は日の出から日没まで断食(サウム)を行う。逆説的だが、中東の食品・飲料メーカーの売上高は、この断食の期間に大幅に上昇する。アラブ人は家族や友人と集まり、特別なごちそうを食べてその日の断食を終え、レストランはビュッフェ形式で日没後から日の出まで食事を出しているためらしい。

 (2)新興国ビジネスで成功する秘訣に関しては、C・K・プラハラードが提唱した「BOPビジネス」や、GEが積極的に取り組んでいる「リバース・イノベーション」などがあるが、結局のところ、現地の政治家や規制当局、その他の有力者にうまく取り入る「政治力」がカギを握るのではないだろうか?彼らの懐に飛び込んで、自社にとって(もちろんその国にとっても)メリットがある競争ルールを作り上げてしまう方が手っ取り早い気がする。

 中国で飲食店を開こうとしたある経営者の話である。現地で店舗の工事を行っていたが、水道管整備の許可がいつまで経っても当局から下りず、工事が中断していた。その店舗から通り一本隔てたところでは、自分の店舗よりも後から工事が始まったのに、もう店がオープンされている。その対応の差について当局にクレームをつけても、一向に取り合ってくれる様子がない。困り果てたその経営者は、半ばお金で解決しようとして、当局の担当者を招き豪華な食事をごちそうしたところ、すんなり許可が下りたという。これに近い話は新興国にはごまんとあるように思える。

 政治力は人間力に支えられている。乱暴な印象論だが、ITが世界に浸透して以降、アメリカ企業はITを活用して”スマートに”製品を販売してきたのに対し、日本企業は依然として人間力に頼った”泥臭い”方法で販売を行っている気がする。アメリカの強みは、新興国で政治力を発揮するのには役立たない。むしろ、日本企業の泥臭さの方が、政治力を発揮する上では強みとなる。泥臭さの方向を顧客ではなく、現地の政治家や規制当局、その他の有力者に向けるのである。

 (3)とはいえ、政治力頼みのビジネスはやはりリスクが伴う。政治の風向きが変われば、一転してビジネスが窮地に立たされることは容易に想像できる。また、そのような政治的な立ち居振る舞いは、現在の日本企業の倫理観と相容れないだろう。かつて日本では、官公庁・自治体から仕事を受注するために、公務員を接待することが暗黙的に許されていたと聞く。交際費に比例して受注率が上がるのが普通であり、接待を一生懸命やる人が出世していったという。しかし、今では公務員の接待に世間から厳しい目が向けられており、企業もこれを厳格に禁じている。

 新興国でビジネスを展開するには、先進国で成功した製品を持ち込むだけでは不十分である。ライフスタイルも可処分所得も価値観も異なる新興国の潜在顧客は、先進国の顧客とは全く違うニーズを抱えている。そうした潜在ニーズ発掘して、それに合わせた製品・サービスを新たに開発しなければならない。一言で言えば、イノベーションが要求される。

 ところが、日本企業はそもそもイノベーションが苦手である。潜在ニーズをつかまえるのが歴史的に得意ではない。それよりも、ニーズが顕在化しており、ある程度製品・サービスが出揃っている市場において、既存の製品・サービスを改善し、高いコストパフォーマンスを実現することに長けている。日本企業はそうやって欧米市場に参入し、欧米企業のシェアを切り崩していった。

 今、新興国市場に参入するならば、政治力を発揮し、イノベーションを起こさなければならない。だが、日本企業は政治力を封じられており、イノベーションに弱い。それならば、焦って新興国の市場に参入するよりも、新興国の市場がもっと成熟化し、欧米のグローバル企業や現地の有力企業が一定の製品・サービスを揃えるのを待った方が得策なのかもしれない。

 彼らの製品・サービスをよく研究し、コストパフォーマンスで圧倒する製品・サービスを投入する。その頃にはきっと新興国の政治も成熟しており、グレーな政治力を発揮しなければビジネスができない状況は、少なくとも今よりは改善されているだろう。よって、日本企業も王道的な経営で勝負できる。新興国が成熟化するまでは、日本企業は「冬の時代」を過ごすだろう。しかし、その後はかつての成功パターンを繰り返すことができる、と考えるのは甘すぎるであろうか?

 (4)新興国ビジネスに関するコンサルティングができる会社は、一体どのくらいあるのだろうか?5年ほど前、私が前職の会社にいた時の話であるが、ある多角化企業が、医療、通信、物流、エネルギー、食品それぞれの分野で新規事業を検討しており、戦略立案のコンサルティングを依頼してきたことがあった。食品以外の4分野は国内市場をメインとしていたが、食品だけはBRICsを含む海外を含めて戦略を構築してほしいとのことだった。

 商談の結果、5分野それぞれに1社ずつコンサル会社がつくことになったが、当初、海外を含む食品分野はボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が行う予定であった。ところが、BCGにはBRICsに詳しいコンサルタントが不足しているとの理由で、BCGは自社が得意とする医療分野を担当することになった。クライアントは、食品分野の優先度は他に比べて低いため、失敗してもいいやという気持ちになったようで、資本関係がある関連会社にコンサルティングを依頼することにした。私の前職の会社は、そのコンサル会社の下請けとしてそのプロジェクトに入った。

 私もこのプロジェクトに入っていたのだが、BCGにできないものは私どもでもできない(と言ってはただの言い訳だが・・・)。海外の市場データをあれこれとあさって報告書をまとめたものの、消化不良に終わってしまった。私にとって苦い過去の経験である。それはさておき、当時はBRICsという言葉が出てから既に5年ほど経過していた。BCGクラスのコンサル会社でもBRICsに通じたコンサルタントが不足しているというのだから、他の会社にはもっと人がいなかったと思われる。

 同じようなことが現在起きているのではないだろうか?新興国ビジネスと言うと、最近では東南アジア、中東、イスラム圏、アフリカが注目を浴びている。だが、これらの地域に精通したコンサルタントは数が限られるだろう。一般的なコンサルタントは、データがないと仕事ができない。ところが、それらの地域は公的なデータであっても信用度が低く、また現地の調査会社も未発達であるから、データが取得できない。したがって、普通のコンサルタントでは太刀打ちできないのである。本当にコンサルティングができるのは、現地のビジネス経験があるごく一部の人に限られる。

 だから、仮に(3)の話を無視して今すぐ新興国に進出したいと考えている日本企業があるならば、あまりコンサル会社をあてにしない方がよいだろう。「新興国ビジネスのコンサルをします」と安易に声をかけてくるコンサル会社にも要注意である。手っ取り早く情報を得ようとしてコンサル会社を使っても、上辺だけのデータを使った浅い分析しか出てこないに違いない。それよりも、経営陣が自ら現地に赴いて情報を収集した方が収穫は多いはずだ。

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