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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年02月21日

山本七平『日本人の価値観』―「トサフィスト」が活躍していた期間は意外と長くない?


日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
山本 七平

講談社 1978-07-07

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 トサフィストという、みなさんのあまり聞きなれない言葉があるんですが、これは欄外(トサフト)から来た言葉で本の欄外に自分の見解とか注記とかを順々に書き込んでいった人たちのことをいいます。昔の写本は欄外が広いですから、そこにさまざまな注記を書き込んでいった。これをまた一定時期に再編成しまして、それからまた注記を書き込んでいく。これを一千年ぐらい続けていたのが結局ヨーロッパという歴史であろうと思います。

 トサフィストというのはユダヤ教徒にある言葉ですが、同じことをキリスト教徒の側もやっていましたし、中国人もこれをやって来たわけです。自らの文化の歴史的な積み重ね、この過程が記録(ヒストリア)すなわち歴史です。

 文化の中心の、基本的なある一つのものに、永遠に意見を加えていく。その意見に対してまた意見を加えていく。何年たってもそれをやりつづけていく。ただしそのいちばん元になっておりますいわゆる本文ですが、これは絶対手を加えない。同時にこれは消さない。そのまま残しておくわけでありますが、そのまま残しておきながら、これに対する注記を加えていく。これが歴史というものでありまして、これをやっておきますと、時間的に、自分たちが、過去から現在までどういう発想の道をたどってきたのかということが一目でわかるわけです。
 欧米にも中国にも、トサフィストのような人たちがいて、自国の歴史に対して絶えず肉づけを行っている。そうした一本の太い歴史のストーリーから摂理や因果を導き出し、将来を見通すのに役立てているのだという。一方、日本は戦後になって歴史教科書の不都合な部分を黒塗りしてしまうことからも解るように、過去を否定してしまう民族である。だから、歴史から学ぶことができない。昔と同じ過ちを繰り返すし、未来を予測することもできない。欧米人が過去・現在・未来という時間軸を強く意識しているのに対し、日本人にあるのは現在だけである。これが山本七平の主張である。では、このトサフィストとは、一体どのような人々なのだろうか?

 ユダヤ教には「タルムード」と「トーラー」と呼ばれる書物群があり、ユダヤ人の生活規範・精神文化の基盤となっている。タルムードは、4~6世紀に編集されたユダヤ教の口伝律法(ミシュナ)とその注解(ゲマラ)の集大成である。また、トーラーとは、ユダヤ教で律法のことであり、神が祭司・預言者を通じて示した生活と行動の原理を指す(狭義にはモーセ五書を言う)。中世の時代、このタルムードを註解した者、およびその註釈書のことを「トーサーフォート」と言う。フランスにラシ(1040~1105)というタルムード学者、トーサーフォートがおり、彼の学派に属する学者が「トサフィスト」と呼ばれている。

 トサフィストとは、主にフランスやドイツ出身のラビ(宗教的指導者)で、タルムードに様々な註釈を施した。トサフィストは12世紀から15世紀半ばにかけて活躍し、彼らが作成したトーサーフォートは、ラビの質問やそれに対する回答、意見などをまとめたものとして機能した。当時は、タルムードをどのように理解し、解釈するかがユダヤ法の適用に大きな影響を与えたため、トーサーフォートは非常に重要視された。

 ただし、各時代のトサフィストがそれぞれに註釈を加えていたことから、トーサーフォートには様々なバージョンがある。また、トーサーフォートは、必ずしもトサフィストの発言を全て網羅しているわけではない。したがって、重要なトサフィストの発言が無名のトーサーフォードのバージョンから発見されることもしばしばある。

 最終バージョンのトーサーフォートは、「ソンチーノバージョン」(16世紀にイタリア・ソンチーノで印刷)の欄外に書かれていた註釈に基づいて出版された。出版したのはMoshe of Spiresというラビのおいにあたる人物である。Moshe of Spiresはトサフィストの最後の世代に属しており、トーサーフォートの最終バージョンを作成するプロジェクトを立ち上げた。彼は、トサフィストが学んでいたフランス中の学校を回り、最終バージョン用の様々な原稿をかき集めて出版にこぎつけた。それ以来、タルムードに関する出版物は、本文にラシの解説を含み、欄外にトーサーフォートが掲載される形で出版され、タルムード研究にとって不可欠なものとなった。

 ところが、トサフィストが活躍した時代、教会が「タルムードを所有した場合は死刑」とする法律を施行したことがあった。タルムードに関する巻物がフランス中から集められ、パリの中心地で焼却処分された。タルムードに関する研究は忘れ去られるべきであり、いったん忘れられれば、もはや誰もタルムードについて教えられなくなるはずだ、というのが教会の意図であった。そのため、トサフィストは、文章がなくてもタルムードについて研究できる仕組みを開発した。

 トサフィストは教授たちに対し、タルムードの1巻ごとに専門家となるよう指示し、心でそれを理解するよう命じた。こうした教授たちの力を借りれば、トサフィストはタルムードの全巻に渡って専門家となれる、というわけだ。ある巻の特定の文章を研究している者は、別の巻の専門家である教授の力を借りて、解釈の誤りを正していく。トサフィスト学派の重要な特徴は、ある特定の解釈が間違っていた場合、その誤りを示すために、異なる地域のタルムードの文章を用いることであり、それによってタルムードの正しい理解の方法を決める点にある。

 以上はWikipediaの"List of Tosafists"の説明を私が意訳したものである(何分意訳なので、誤りがあったらご指摘願いたい)。これによると、どうやらトサフィストの活動時期は12世紀から15世紀半ばの約350年間に限られており、しかも教会からタルムードの焼却処分を食らっている。山本が指摘するように、トサフィストが歴史の発展的解釈に貢献していたかどうかは、やや疑問が残る。また、山本はキリスト教圏や中国でもトサフィストに該当する人たちの存在を認めているが、実際のところどうだったのか興味があるところだ。

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