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谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年03月15日

高橋洋一『霞が関をぶっ壊せ!』―政治家の能力を国民が評価する仕組みを作れないか?


霞が関をぶっ壊せ!霞が関をぶっ壊せ!
高橋 洋一

東洋経済新報社 2008-09-11

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 (前回の続き)

 (2)本書が出た後の公務員制度改革の動きについて見てみたい。公務員制度改革は、2008年6月6日に成立した「国家公務員制度改革基本法」(以下、基本法)を設置根拠とする「国家公務員制度改革推進本部」が旗振り役となっていた。同本部は2013年7月10日をもって設置期限を迎えたが、その直前に発表された「今後の公務員制度改革について」という資料を読むと、改革があまり進んでいない印象を受ける。
 今後の国家公務員制度改革は、第一次安倍内閣において始めた国家公務員制度改革の延長線上に位置付けられるべきものである。 平成19年第一次安倍内閣時の国家公務員法の改正により、退職管理の適正化と能力・実績主義の徹底が措置された。平成20年福田内閣時に基本法が成立し、改革の内容と工程が決められた。そして、平成21年麻生内閣では、「国家公務員法等の一部を改正する法律案」(以下「法律案」という。)が閣議決定された。今後の国家公務員制度改革に当たっては、この法律案を基本とし、基本法の条文に即し、以下の各項目に関して機動的な運用が可能な制度設計を行う。
 (1)幹部人事の一元管理
 (2)幹部候補育成課程
 (3)内閣人事局の設置等
 (4)国家戦略スタッフ、政務スタッフ
 (5)その他の法制上の措置の取扱い
 改革の目玉であった「内閣人事局」の設置に関しては、基本法の施行後1年以内に措置を講ずることになっていたのに、この時点ではまだ実現していない。内閣人事局が立ち上がらなければ、(1)幹部人事の一元管理、(2)幹部候補育成課程の整備に着手できない。また、(4)は政官接触を制限し、官僚内閣制から真の議院内閣制へと転換するための施策だが、これもまだ議論の途中だという。短命な政権が続き、また途中で自民党と民主党の与野党交代もあったことが、改革の遅れの原因となっているようだ。

 2013年7月11日以降、公務員制度改革は「行政改革推進本部」の下部組織である「国家公務員制度改革事務局」に引き継がれた。公務員制度改革はもともと第1次安倍政権の肝煎りであったが、その当時に比べると随分トーンダウンしてしまったように感じる。もっとも、デフレ脱却という短期的な政治課題に集中していた安倍総理は、公務員制度改革の優先度を落としていたのかもしれない。2013年12月になってようやく、内閣人事局の設置などを定めた関連法案の修正で自民公が大筋合意に達し、2014年通常国会での成立を目指すこととなった。

 ところが、今回の修正法案は様々な”骨抜き”がされているという。本書の著者である高橋洋一氏をはじめ、古賀茂明氏、原英史氏、岸博幸氏ら公務員制度改革に関わった”脱藩官僚”は、2013年10月30日に「国家公務員制度改革に関する緊急提言」を出している。また、結いの党代表である江田憲司氏は、2つの問題を指摘する(「ああ、公務員制度改革、お前もか!・・・安倍政権の安全運転|BLOGOS」〔2013年11月11日〕)。
 今回の公務員制度改革の最大の問題は、「天下り禁止」の骨抜きだろう。前安倍政権で「天下りのあっせんは禁止」となり、民主党への政権交代で、それをかいくぐる「現役出向の拡大」が行われたが、今回は、その「現役出向」をさらに拡大させるものとなった。「天下り」は、役所を辞めてからいくから問題なのであって、そうなら辞める前、現役のままでいくなら問題なかろうと霞が関が悪知恵を出して民主党政権がそれに乗った。
 内閣人事局を新設し、600人程度の幹部公務員の人事を、官邸(内閣)が握るというのは良いが、「人事権の一元化」は図られず、相変わらず人事院と財務省の人事部門(給与査定)は別に残る。特に、人事院が口をはさめる余地を多分に残したという意味では、前回の「甘利法案」(麻生政権時の公務員制度改革では内閣人事院を人事局に統合)よりも後退し、屋上屋を重ねる過ちを犯している。
 (3)公務員制度改革を通じて公務員の適材適所を実現するといっても、その公務員を使って政策を立案する国会議員の適材適所がおろそかになっていては話にならない。ところが、公務員の人事制度が民間の常識から見て複雑怪奇である以上に、国会議員の人事制度は奇怪である。というか、そもそも人事制度という考え方自体が存在しないのではないか?

 人事制度の定石に従うならば、主権者である国民の責任によって、

 ・短期的・長期的の両方から見て、日本が着手しなければならない政治課題を列挙する。
 ・それぞれの政治課題を解決するために実行しなければならない政治的タスクを具体化する。
 ・上記タスクの実行に必要な人的リソースを質(能力)・量(人数)の両面から明らかにする。
 ・必要な能力を持った国会議員を、必要な人数だけ確保する。
 ・それぞれの国会議員の強みを伸ばし、弱みを克服する訓練を実施する。あるいは、強みを伸ばし、弱みを克服するのに最適なタスクに従事させる。
 ・定期的に国会議員の能力・業績を評価し、適宜役割を変更(最悪の場合は解雇)する。

というプロセスを踏むことになる。このプロセスを厳格に適用した場合、現行の選挙制度は根底からひっくり返り、民主主義そのものが変質するに違いない。

 その時々の政治課題によって、必要な国会議員の数は変わるため、現在のように衆参両院の定数が固定されることはない。また、国会が首相を選び、首相が大臣を選ぶのではなく、首相も大臣も国民によって直接選出される。国会内に多数設置されている委員会のメンバーも、国民の評価によって決定される。さらに、現行制度では、議員は任期間中に国民の審判を受けることはないが、新しいプロセスでは民間企業と同様、半期に1度(もっと厳格にやるならば四半期に一度)評価を受ける。能力に欠ける国会議員に対しては、国民が罷免権を行使することもある。

 こうなってくると、小選挙区制と比例代表制のバランスをどうするかとか、1票の格差を是正するために定数をどうするかといった選挙制度の微調整レベルにとどまらず、憲法改正を含む大がかりな改革を実行しなければならない。だが、公務員制度改革ですら、10年以上経ってめぼしい進展が見られないことから、残念ながらこの理想像は到底実現しないだろう。

 実現可能性が高いところだけでも改革を進めるとすれば、それは「国会議員の能力・業績の可視化と評価の仕組みを構築すること」ではないだろうか?現在、Web上には国会議員を評価するページが存在するものの、情報が断片的だったり、評価の切り口がバラバラだったりする。そこで、全ての国会議員の能力を同じ土俵で評価・比較できるように、統一の能力体系を導入することを提案したい。例えば、「国会議員のコンピテンシー体系」である。コンピテンシーとは、 高いレベルの業務成果を生み出す人に特徴的な行動特性のことを指す。民間企業では、職種・役職の違いを超えた人材評価を行うために、コンピテンシー体系を導入しているところがある。

 国会が運営する「国会議員評価サイト」があって、国民がログインすると、それぞれの国会議員のページにアクセスできる。そのページには、国民の評価に基づき、各コンピテンシーの平均値や分散(ばらつき)が表示される。また、国会議員としてのこれまでの実績や国会・メディアなどでの発言内容、さらには国会議員になる前の職業における業績といった定性的な情報も載っている。国民はこれらの情報を参考に、国会議員に対する評価をつけ足していく。

 もっとも、国民が持っている情報には限りがあるから、評価が偏る可能性もある。そこで、他の国会議員による評価もできるようにする。民間企業で言うところの360度評価だ。国民による評価と国会議員による評価の違いなど、興味深い結果が得られるかもしれない。

 選挙の際には、国民は「国会議員評価サイト」の情報に基づいて投票する。そうすれば、人気や知名度、好き嫌いに左右される現在の選挙よりはましな選挙ができるのではないか?さらに、組閣の際には、内閣総理大臣が同サイトの情報を頼りにして、能力主義・実力主義的な人事を行うことも期待できるのではないだろうか?

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