プロフィール
谷藤友彦(やとうともひこ)

谷藤友彦

 東京都城北エリア(板橋・練馬・荒川・台東・北)を中心に活動する中小企業診断士(経営コンサルタント、研修・セミナー講師)。2007年8月中小企業診断士登録。主な実績はこちら

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2014年04月02日

長谷川幸洋『官僚との死闘700日』―抵抗勢力の常套手段10(その4~7)


官僚との死闘七〇〇日官僚との死闘七〇〇日
長谷川 幸洋

講談社 2008-07-31

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 (前回の続き)

(4)改革チームに反対派を送り込む
 改革チームを反対派で固めてしまえば、改革チームは身動きが取れなくなる。前回の記事「長谷川幸洋『官僚との死闘700日』―抵抗勢力の常套手段10(その1~3)」で「特命官僚」について触れたが、結局集まった10人の官僚のうち、真に政権のこと、日本のことを考えている「日の丸官僚」は高橋氏1人だけであった。残りの9人は、各省庁ご推薦の官僚であり、出身省庁の利益を最優先し、改革に抵抗する人たちであった。高橋氏は慌てていた。

 「いま、官邸の大幹部がうちの部屋に挨拶に来た。で、ボスと親しげに話しているんだ。『これから、必要なことは何でも私に言ってください。全部、整えますから。また一緒にやっていきましょう』ってね。それから、『ここにいる高橋君は仕事はできるけど、参事官で年齢も総理秘書官より上です。ちょっと使いにくいでしょう。先生のお役に立つように、部下を連れてきましたので、どうぞ使ってください。私たちが面倒を見ますから、ご心配なく』なんて言っているんだ。こりゃ、とてもだめだ。この部屋で仕事をするのは難しい」特命官僚たちは、全て各省庁のスパイも同然だった。

 公務員制度改革の推進は、渡辺行革相の下に置かれた行政改革推進本部の役割であった。しかし、行政改革推進本部事務局(行革事務局)も、抵抗勢力で固められていた。高橋氏が経済財政諮問会議の民間議員に対する説明ペーパーを作っていた時のことである。高橋氏は、反対している役所の言い分を集めた上で、どう反論していくか、想定問答集を整理していた。各省庁からの質問は織り込み済みだったが、驚くべきことに、行革事務局も質問を投げつけてきた。行革事務局は改革に対して全く後ろ向きで、最初から行革「抵抗」事務局になっていたのである。

(5)改革チームに必要な人材を渡さない
 改革チームに反対派が来てくれれば、一応彼らと議論することができるから、翻意させられる可能性がある。経営改革の現場でも、改革チームに敢えて反対派を入れよ、反対派の意見にじっくりと耳を傾けよ、というのが定石となっている。ところが、反対派が来てもくれないとなると、改革チームとしては手の施しようがない。

 公務員改革制度法案は何とか国会で成立したが、霞が関の抵抗はその後も執拗に続いた。新たな戦法は「兵糧攻め」だった。公務員制度改革を推進した渡辺行革相のスタッフは、大臣室に詰める補佐官ら6人にすぎなかった。そのうち、財務省と経産省から出向していた課長補佐クラス2人が夏の人事で異動になった。だが、両省は後任の補充に応じなかったのである。つまり、両省は渡辺行革相に「人を出さない」ことで、改革つぶしに出た。

 霞が関用語で、他省庁に出す出向者の定員と予算の枠を「ざぶとん」と言う。ざぶとんを与えなければ、もらう側は仕事に必要な人材を確保できず、干上がってしまう。渡辺行革相は霞が関の「ざぶとん召し上げ作戦」に対して「スタッフ公募制」の導入で対応しようとしたが、役所の定員管理という壁にぶつかった。行革相が行革の壁に当たる苦しい展開だった。

(6)時間稼ぎをして時間切れを狙う
 国会には会期があるため、反対する法案を潰すには会期中の成立を不可能にしてしまえばよい。そのために抵抗勢力は、意思決定プロセスを敢えて長く引き伸ばしたり、次から次へと新たな論点を提示して議論を複雑にしたりする。民間企業の場合は、国会の会期のように強制的に議論が打ち切られることはないけれども、それでも抵抗勢力に時間稼ぎをされると、だんだんと改革の熱が冷めて、議論がうやむやになってしまう。

 安倍官邸の最強官僚と呼ばれたのが、坂篤郎官房副長官補である。財務省出身の坂氏は、公務員制度改革に反対だった。2007年、坂氏は政府与党協議会が始まったことを受けて、引き伸ばし作戦を本格化させた。坂氏は、「4月中旬に改革案をとりまとめ、政府与党協議を経て閣議決定。その後、再び各省協議を経て、法案を閣議決定」という二段構えのスケジュール案を根回しした。法案提出をできるだけ先送りして、通常国会での成立を難しくさせる目的だった。しかし、この作戦は、幸いにも安倍総理の強いリーダーシップによって失敗に終わった。

 公務員制度改革と並んで、安倍政権で国民の高い関心を集めたのが、社会保険庁解体の問題である。消えた年金問題で揺れる社保庁は、最後の抵抗を見せた。それは、自らの暗部を進んで見せびらかすという作戦であった。中川秀直幹事長は講演で、「社保庁職員は次から次へと内部情報を提供し、不祥事を明るみに出すことで、『もっと議論を』と唱えて、社保庁解体を阻止しようとしている。すなわち、組織温存のための自爆テロだ」と指摘した。

(7)ウソの情報をばらまいて混乱させる
 坂氏は親しい記者たちとの懇談で、「総理は公務員の天下り規制問題なんて、大して重要視していないんだよ。一部の人間が騒いでいるだけだ」と語った。この言葉を耳にした中川幹事長は激怒した。もちろん、安倍総理は公務員制度改革に前向きである。ところが、坂氏の言葉を受けて、翌日の新聞では「首相を支える立場の政府高官は、渡辺氏案を『政府案ではない』とあっさり否定した」(朝日)、「首相周辺ですら『行革相案を首相が了承してやっているとは思っていない』との慎重論が聞かれる」(日経)などと報じられた。

 坂氏としては、これで十分であった。首相が改革に慎重だという雰囲気さえできれば、自民党内では、「政府の中でも公務員制度改革の意見はまとまっていない。党に話を持ってくる前に、まず政府内で案をまとめてこい」といった論法の反対論が強まる。それこそが、坂氏の狙いであった。

 決まった事項であっても油断してはならない。抵抗勢力は、決定済みの情報を意図的に操作することがある。安倍政権が動き始めた頃、経済財政諮問会議で前代未聞の事態が発生した。霞が関官僚の誰かが、太田弘子経済相の作った政策ペーパーをこっそり修正してしまう、という姑息な妨害工作を行ったのである。

 問題となったのは、「グローバル化の観点からの税制の構築が必要である」という一文である。これは、財務省にとっては、法人税の引き下げを意味していた。その財源を生み出すために、財務省には歳出削減圧力がかかる。財務省が使える金が少なくなることは、財務省がそれだけ権限を失うことを意味する。当然のことながら、財務省は抵抗した。政策ペーパーが会議で決定された翌日、インターネットに公開された会議資料を見た政府関係者は仰天した。「グローバル化の観点からの税制の構築が必要である」という一文が消えていたのである。内閣府は「作業ミス」ということにしてこっそりと修正したが、犯人が誰かは明白であった。

 (続く)

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